Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

最近読んだ本の紹介 − 『諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで』(保坂三四郎 著, 中公新書)

 お久しぶりです。昼休みに生存報告も兼ねてブログを更新します。身バレするので詳細は書けませんが、自分のキャリアや, 今の勤務先での仕事, 肉親との軋轢(?)の間で色々と悩んでおり、そのせいか最近診療業務の中で、なんと言えば良いんでしょうか、キレが切れがなくなって来ているような気がしています。

 まあそんな現実から目を背ける為に(?)、YouTubeを見たり, 読書したりしている訳ですが、今回は最近読んだ本で特に印象に残った一冊を紹介しようと思います。

 『諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンFSB体制まで』(保坂三四郎 著, 中公新書

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 ロシア軍のウクライナ本格軍事侵攻以降、報道でロシアのプーチン政権についての言及が増えているのでご存知の方も多いと思いますが、現ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは元々KGBの職員でした。また彼の政権の要職にはKGB時代のツテなどで就任した者も多いのですが、この本は、KGBの成立からソ連崩壊, 更にはソ連崩壊後から現在に至るまでのロシアの情報機関の歴史を詳説し、今日の国際情勢やロシア社会に与えている影響についても解説するものです。

 正直なところ、この本の内容はまさに目から鱗でした。

 ソビエト連邦成立直後から、ソ連共産党指導部は秘密警察組織を結成して自分らに抵抗する勢力を弾圧するのみならず、共産党内や軍部, 官僚機構等々社会の至る所に監視の目を光らせ、芸術活動・スポーツ・科学技術の研究・経済活動までコントロールしようとしてきました。

 また、自分達の統治体制に懐疑的な人たちが「諸外国(特に米国などの西側)の影響を受けている」・「彼ら・彼女らを扇動している外国のエージェントが居るに違いない」との発想のもと、特にソ連時代は海外との交流を制限するはおろか、ソ連を訪問ないし滞在中の外国人を監視し, 時にその外国人を自分たちのエージェントに取り込もうと工作すらしていました。実際にこうしてKGBに取り込まれて、ソ連に機密情報を流した旧西側諸国の政府機関職員も居たようです。また、ソ連・ロシアに留学する等してソ連・ロシア当局の影響を受けた研究者, ジャーナリスト, 政治家らの中には、ソ連・ロシア当局の思惑通り、米国などの旧西側諸国の政策を批判する一方で、ソ連・ロシアの抑圧的・権威主義的な政治体制, 周辺諸国への軍事侵攻等にはダンマリを決め込む(か、やたらめったら擁護する)論調を展開する者が居ました(そして今日もそうゆう人間が散見される)。

 

 今日のロシアの問題は、ソ連崩壊前後にKGBの影響を十分排除できていないことに由来しているとしか思えません。プーチンが大統領になる前のエリツィン政権時代には、政府に批判的な新聞社やテレビ局が活動していましたし、政権の汚職を追求しようとする者が官憲の中にも居ました。しかしプーチンKGB時代のツテやらノウハウやらを利用してこうした人間を次から次に抑圧し、時に殺害し、彼が政権を取った後は益々そういった秘密警察的な政策をエスカレートさせました(そしてプーチンらは、彼らなりの大義を振り翳してそれを正当化した)。そして今日に至ってしまったのです。

 今、我々の目はウクライナ国内におけるウクライナ軍とロシア軍のせめぎ合いや, ウクライナ人の被っている被害に向きがちでありますが、そもそもこうしてウクライナの人々の生命や財産・尊厳などが危険に晒されるに至った遠因は、ロシアの政治体制です。こうした背景を理解するのに最適な書籍であると私は思いました。

【久々の更新】心房細動&脳梗塞の患者への抗凝固薬開始時期 − New England Journal of Medicineより −

 メチャクチャお久しぶりです。色々と忙しくて、気が付いたらブログ更新が止まっていました。生存報告と, 自分の勉強も兼ねてブログをぼちぼち再開します。(YouTubeに関しては、動画編集の手間もあるのでできる時にやります)

 以前からこのブログでは脳卒中関連の論文を時折紹介してきました。実際に救急医療の現場でも脳出血脳梗塞くも膜下出血等の患者さんを診察し、脳外科医・脳神経内科医との共同作業を求められる機会も少なくありません。今回もそれに関連した文献(Fischer U, Koga M. et al. Early versus later anticoagulation for stroke with atrial fibrillation N Engl J Med 388;26:2411-21)を紹介してみます。

 

(1) Introduction

 心房細動患者では、DOACs(Anticoagulation with Direct Oral Anticoagulants: 直接的抗凝固因子経口投与による抗凝固療法)が脳梗塞や全身性塞栓症のリスクを減少させることが分かっている。しかしながら、脳梗塞急性期において、DOAC開始時期が脳梗塞再発及び出血のリスクに影響するかどうかは不明である。

 脳梗塞急性期では、最初の数日間が脳梗塞再発及び頭蓋内出血のリスクが最も高いことが知られている。いくつかの研究や小規模ランダム化試験でDOACs早期開始が安全である可能性が示唆されているも、これらの研究では選択バイアス, ないし sample size(被験者の数)が少ないといった問題がある。こうしたエヴィデンスの不足もあり、各ガイドラインの推奨内容は多岐にわたる。あるガイドライン(注:欧州のもの)では,「一過性虚血発作(TIA: Transient Ischemic Attack)では1日後, 軽症脳梗塞では3日後, 中等症脳梗塞では6日後, 重症脳梗塞では12日後にDOACsを開始する」ことを推奨している。この推奨は、梗塞のサイズと関連した出血性変化リスクに関する観察研究に基づくものであり, 多くの国で採用されている。

 今回、筆者(注:この論文の著者ら)は"ELAN(Early versus Late Initiation of Direct Oral Anticoagulants in Post-ischemic Stroke Patients with Atrial Fibrillation)"ランダム化試験と呼ばれる、DOACs早期開始の安全性と有効性を推計するために, ガイドラインに従ったDOACs開始延期と比較する臨床試験を行った。

 

(2) Method

①被験者について

 欧州, 中東, アジアの103施設で実施した。以下の全てに該当する患者が参加登録可能であった。

  • MRI or CTで急性期脳梗塞巣があると確認された, 或いは 24時間以上持続する症状によって脳梗塞と臨床的に診断された上に, CT or MRIによって脳梗塞以外の原因が除外された
  • 永続性, 持続性 or 発作性の非弁膜症性心房細動がある, 或いは 脳梗塞による入院期間中に心房細動と診断された

また脳梗塞巣のサイズは以下のように定義・分類された。

  • 軽症:梗塞巣サイズ≦1.5 cm
  • 中等症:中大脳動脈, 前大脳動脈 or 後大脳動脈の皮質表面枝の領域にある梗塞巣
  • 重症:上記の血管領域 or 脳幹にあるより大きな梗塞巣, 或いは 梗塞巣サイズ1.5 cm<

 ランダム化前の血栓溶解薬静注や機械的血栓回収術, 静脈血栓塞栓症予防目的の低分子量ヘパリン予防的投与は可能であったが、脳梗塞発症時における治療目的の抗凝固療法は許可されなかったまた、以下に該当する患者はELAN trialから除外された。

  • 脳梗塞巣と合流する脳実質血腫
  • 脳梗塞巣とは離れている頭蓋内出血

なお脳梗塞巣内の点状出血は除外対象ではなかった

②介入群と対照群の治療内容

 被験者は1:1の比率でDOACs早期開始とDOACS開始延期へランダムに割り付けられた。年齢(70歳> or 70歳≦), 梗塞巣のサイズ, NIHSS(10点> or 10点≦), 施設といった背景因子による不均衡を最小化するような方法が用いられた。

 介入群(DOACs早期開始)では、軽症 or 中等症脳梗塞患者で発症後48時間以内に, 重症脳梗塞患者で発症後6 or 7日後にDOACsを開始した。他方、対照群(DOACs開始延期)では、軽症脳梗塞患者で発症後3 or 4日後に, 中等症脳梗塞患者で6 or 7日後に, 重症脳梗塞患者では12, 13, or 14日後にDOACsを開始した。

転帰について

 主要転帰は、30日以内に生じた脳梗塞再発, 全身性塞栓症, 重大な頭蓋外出血, 症候性頭蓋内出血, or 血管死の複合であった。

 副次的転帰は、30日及び90日後における以下の項目であった。

  • 脳梗塞再発
  • 全身性塞栓症
  • 重大な頭蓋外出血
  • 症候性頭蓋内出血
  • 血管死
  • 重大ではない出血
  • あらゆる原因による死亡
  • modified Rankin scale(mRS)が0~2 vs 3~6の2値転帰
  • 2群間のmRSスコア分布のordinal shift

統計学的解析

 ELAN trialの主な目的は、対照群と比較した介入群の有効性を推計し, かつ この推計の正確性を推計することであった。そのため、優位性, 劣性 ないし 非劣性を目的とした統計学的仮説は試験されなかった。サンプルサイズは、期待する信頼区間(CI: confidence interval)に基づいて計算した。1,802名の被験者がいれば対照群では被験者の5%で, 介入群では被験者の4.5%で主要転帰が発生し、また両群間の差の95%CIの期待される幅は2 percentage pointsになると推定された。このintervalは計画のahchorとして用いられたが、非劣性の境界としては使用されなかった。

 主要解析は、除外されずに参加登録された被験者全員を対象とする'modified intention-to-treat principle'に基づいて行われた。有害事象に関する解析は実際に受けた治療によって被験者を分けて解析しており、介入群の安全性を対照群と比較・評価した。全ての解析モデルで、施設以外の因子を共変量に含めていた。

 主要転帰は個別化ロジスティック回帰分析モデルという方法で解析した。リスク差と95%CIは、推定odds比とそのstandard errorから求めた。

 副次的転帰の2値転帰は、主要転帰と同じ方法で解析された。mRSのordinal scoreは序列ロジスティック回帰分析という方法を用いて解析した。Subgroup解析は主要転帰のみに対して行った。有害事象は治療群ごとに計算され、こうした事象を来した参加者の頻度及び発生率として表された。

 

(3)結果

①被験者と治療内容

 2017/11/6〜2022/9/12の期間に、15カ国103施設で36,643名の被験者がscreeningを受け、うち2,032名が参加登録された。この被験者のうち19名が除外され、2,013名がmodified intention-to-treat populationとなった介入群: 1,006名, 対照群: 1,007名)。プロトコルに従って治療が開始されたのは、介入群: 949名, 対照群: 935名だった

 Baselineの人口統計学的・臨床的特性は類似していた。

  • 年齢中央値・・・77歳
  • 女性・・・被験者全体の45%(915名)
  • NIHSS中央値・・・入院時: 5点, ランダム化時: 3点
  • 軽症脳梗塞・・・介入群: 38%, 対照群: 37%
  • 中等症脳梗塞・・・介入群: 40%, 対照群: 39%
  • 重症脳梗塞・・・介入群: 23%, 対照群: 23%

②主要転帰について

 主要転帰が判明したのは2013名中1975名(98%)だった。主要転帰が発生したのは介入群: 29名(2.9%), 対照群: 41名(4.1%)であり、対照群と比較した介入群における主要転帰の推定odds比は0.70(95%CI: 0.44~1.14)で, リスク差は-1.18 percentage point(95%CI: -2.84~0.47)だった。30日前の血管死は介入群の13名, 対照群の11名で発生した。

30日後, 90日後の主要転帰に関する両群間のリスク差の点推計と95%CI

③副次的転帰について

 30日後の頭蓋外出血の発生は介入群: 3名(0.3%), 対照群: 5名(0.5%)だった(odds比: 0.63; 95%CI: 0.15~2.38)。30日後の症候性頭蓋内出血は両群ともに2名(0.2%)だった(odds比: 1.02; 95%CI: 0.16~6.59)30日後の脳梗塞再発は介入群: 14名(1.4%), 対照群: 25名(2.5%)だった(odds比: 0.57: 95%CI: 0.29~1.07)。

※1: その他の30日後副次的転帰は以下の通り。

  • 全身性塞栓症・・・介入群: 4名(0.4%), 対照群: 0.9%; odds比: 0.48(95%CI: 0.14~1.42)
  • 血管死・・・介入群: 1.1%, 対照群: 1.0%; odds比: 1.12(95%CI: 0.47~2.65)
  • 重大ではない出血・・・介入群: 3.0%, 対照群: 2.7%; odds比: 1.13(95%CI: 0.67~1.92)
  • mRS≦2・・・介入群: 62.6%, 対照群: 62.6%; odds比: 0.93(95%CI: 0.79~1.09)

 90日後の複合的転帰脳梗塞再発, 全身性塞栓症, 重大な頭蓋外出血, 症候性頭蓋内出血 or 血管死)発生は介入群: 3.7%, 対照群: 5.6%だった(odds比: 0.65; 95%CI: 0.42~0.99)。90日後の累積脳梗塞再発率は、介入群: 1.9%, 対照群: 3.1%だった(odds比: 0.60; 95%CI: 0.33~1.06)症候性頭蓋内出血の発症率は両群で0.2%だった(odds比: 1.00; 95%CI: 0.15~6.45)。

※2: その他の90日後の副次的転帰は以下の通り。

  • 重大な頭蓋外出血・・・介入群: 0.3%, 対照群: 0.8%; odds比: 0.40(95%CI: 0.10~1.31)
  • 全身性塞栓症・・・介入群: 0.4%, 対照群: 1.0%; odds比: 0.42(95%CI: 0.12~1.21)
  • 血管死・・・介入群: 1.8%, 対照群: 1.7%; odds比: 1.04(95%CI: 0.52~2.08)
  • あらゆる原因による死亡・・・介入群: 4.5%, 対照群: 4.8%; odds比: 0.93(95%CI: 0.61~1.43)
  • 重大ではない出血・・・介入群: 4.0%, 対照群: 4.2%; odds比: 0.94(95%CI: 0.59~1.47)
  • mRS≦2・・・介入群: 66.6%, 対照群: 65.8%; odds比: 0.93(95%CI: 0.79~1.09)

④安全性について

 あらゆる重篤な有害事象(90日後)は介入群で132名(13.9%), 対照群で157名(15.8%)で発生した。

⑤Per-protocolプロトコルに従って治療された被験者だけでの)解析とsubgroup解析

 プロトコルに従って治療された被験者では、主要転帰と副次的転帰の結果は主要解析と類似していた。Subgroup解析ではsubgroup間での効果の不均質性は明らかでなかったが、ELAN trialはsubgroupを解析できるだけの力はなく, 複数比較の為のCIの広さに対する修正は行われなかった。

 

(4)考察

 ELAN trialの統計学的仮説では優位性ないし非劣性は検証されず, また結果は質的なデータを提供することを意図されていた。この試験の主要転帰は、おそらく臨床医が最も関心を寄せているであろう脳梗塞再発, 全身性塞栓症, 症候性頭蓋内出血であった。30日後において、脳梗塞が再発したのは介入群: 1.4%, 対照群: 2.5%であり, 全身性塞栓症は介入群: 0.4%, 対照群: 0.9%, 症候性頭蓋内出血は両群で約0.2%であった。95%CIの幅をもとにすると、このデータは主要転帰イベントリスクの約2.8 percentage point減少から0.5 percentage point増加という範囲を有する治療効果と一致する。従って、適応がある, ないし 望ましい場合において、DOACsの早期開始は支持されうる90日後の転帰発生率は、30日後のそれよりも僅かに増加しただけであり、この知見は、この期間(脳梗塞発症後90日間)におけるDOACs早期開始に関連した過剰リスクは無いことを示唆している。

 NIHSSスコアは脳梗塞の位置とサイズに依存するため、画像に基づく重症度を使用した。複数の研究において、梗塞巣サイズは出血性変化リスクと関連していた。ELAN trialでも、画像による分類を用いると、早期のDOACs開始した場合でも症候性頭蓋内出血の発症率が低いことが示唆された。NIHSSによる重症度分類を用いる判断も有用なのか否か, 及び 心房細動と重症脳梗塞がある患者が発症後6日より前の時期に抗凝固療法開始が可能なのかどうかを決定する更なる研究が必要である。

 なおELAN trialの欠点には以下のようなものが挙げられる。

  • Baselineで既に治療目的の抗凝固薬を投与中であったり, ランダム化時にNIHSSスコアが低かった患者を除外している。
  • Subgroupを検証する統計学的な力が限定的であり、その為subgroupの結果から結論を出すことができない。
  • 被験者の多くは欧州の施設に入院していた患者で、白人の割合が高い。他の集団に適用することが難しいかもしれない。
  • 脳梗塞重症度の分類を中枢で行わなかった。
  • 脳梗塞巣内, 或いは 脳梗塞内とその外に跨る出血性変化(Heidelberg分類における実質内出血 type 1 or 2)がランダム化にある患者は除外されたので、こうした患者集団での早期DOACs開始について助言はできない。

広島G7サミット・ウクライナ情勢について思ったこと

 皆様こんばんは。現役救急医です。相変わらずメチャクソ忙しくて、正直なところ悠長にブログを更新している余裕なんてないんですが、ここ数日、TVやネット等で国内外の情勢が目まぐるしく?動くので、更新せずにはいられません。

 

 まず、広島のG7サミットについて。色々な意見が見られますが、私は少なくとも、これについてはポジティヴな評価を与えても良いと思います。G7首脳が広島の平和記念公園に一緒に献花して黙祷を捧げ, 資料館を見学し, 日韓首脳が原爆で犠牲になった韓国人慰霊碑前で一緒に献花して黙祷を捧げ, そしてウクライナのゼレンスキー大統領が電撃来日して、岸田首相と一緒に慰霊碑や資料館を訪問して黙祷を捧げる。

 目下ウクライナへの侵略を続け, 『西側の脅威・謀略, ナチズムの根絶etc.』という言いがかりを根拠に侵略行為を正当化し, その上で核戦力によってウクライナのみならず侵略に異を唱える各国を恫喝し, 数々の戦争犯罪行為を否認ないし正当化するプーチンに対し、改めて"NO"を突きつける象徴的な機会になったと思います。ロシアだけではありません。近年、中国の海軍の動向や台湾への姿勢, アジア太平洋やその他諸国への影響力行使などがしばしば話題となりますが、中国のこうした強気な姿勢の背景に、広大な国土面積, 膨大な人口, 圧倒的な経済力のみならず、これら資源により益々増強されている軍事力 −当然ながら核戦力もこれに含まれます− が背景にあることは間違いありません(国内における言論抑圧や, チベットウイグル・モンゴル等各民族の自治権否定や存在抹消を図る数々の政策については、論外というほか無いでしょう)。また、金日成以来、正日・正恩と世襲制で維持してきた独裁体制を維持するために、北朝鮮核兵器を開発しつつも, その運搬手段(ミサイルなど)の開発に勤しみ, その影では言論抑圧や経済政策の失陥などで自国民の権利や生命を犠牲にし続けています。

 広島G7サミットにおける首脳らの行動は、こうした独裁者らに対して改めて明確に"NO"という意思表示を突きつけるとともに、国際社会に賛同を求める為には必要なことであったと思います。

 私は「核兵器は廃絶されねばならない」と考えていますが、現状では多くの障壁があり、時間をかけてできることからやるしかないと思っています。まず、「核兵器が実際に使用されないこと」を確実にせねばなりません。また、核拡散防止条約という国際的枠組みが存在していたにも関わらず、イスラエル・インド・パキスタン北朝鮮といった国々が核兵器保有するに至っている(イランも依然疑惑が存在する)という現実も鑑みると、「これ以上核保有国が増えないようにする」という努力も必要だと思います。核兵器があれば相手からの核攻撃を抑止できるし, 通常戦力による侵攻もストップをかけられる」という概念が、この70年余りで世界中に浸透してしまいました。そしてこうした概念は、強権的な指導者が意のままに軍や行政機構, メディアまでをも操り、己の妄信等に基づいて軍や警察・諜報機関などを操って近隣諸国などに圧力を加えることができるような国家(中国・ロシア・北朝鮮などのこと)が核兵器保有し続けていることによって、皮肉ではありますが強化されてしまっているのです。これらの矛盾を孕んだ国際政治・国際社会を是正しないと、おそらく核軍縮核兵器廃絶は進まないとも思います。

voiceofer.hatenablog.com

 

 あと、G7サミットが終了した後に、Twitterなどで気になる情報が流れてきました。ロシアによるウクライナ本格進攻開始後、プーチン政権に反発してウクライナ側に加わってロシア軍と戦ってきたロシア人義勇兵(?)らの部隊が国境を越えてロシア領で戦闘を開始したというのです。

ロシア領内で戦闘、反政権ロシア人部隊が侵入か ウクライナは否定 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル

「ウクライナとの国境付近侵入の工作員39人殺害」ロシア側報道 | NHK | ウクライナ情勢

https://twitter.com/visegrad24/status/1660617001046343681?s=20

https://twitter.com/jpg2t785/status/1660580951905402881?s=20

https://twitter.com/hiranotakasi/status/1660563473040809985?s=20

https://twitter.com/hiranotakasi/status/1660624869078204416?s=20

ロシアとの衝突拡大を恐れるNATO加盟国等は、ウクライナ側に兵器を供与するにあたり、「ロシア領内に届かないこと・使用しないこと」を意識していたことは、これまで報道されていた通りです。上記のような出来事は、NATO加盟国等にとっては少々ナーヴァスになるような事態であったと思う反面、ウクライナ側には切実なニーズがあるのです。以前もこのブログで触れていますが、2014年以降、ウクライナはロシアによりクリミア半島やドンバス地方の一部を不当に占領され, 2023年2月以降は更に国土を武力で侵食されてしまったのです。その過程で、ウクライナ市民へ虐殺や児童連れ去りなどの、人道上極めて不当な扱いが行われていたことは既知の通りです。ウクライナ側(政府や軍首脳部のみならず、国民の総意)として、「どんな手を使ってでも(但し敵軍の真似をして、国際法や人道を蹂躙したくない)ロシア政府首脳部や軍の意思決定・指揮系統を撹乱し、領土奪還のための反転攻勢を少しでも優位に進めたい」という意志が存在することはほぼ間違いないでしょう。

 ウクライナ軍/政府管轄下のロシア人部隊の作戦行動については、早速SNS上などで物議を醸しているようですが、そもそもロシアの侵攻がなければここまでやる必要は無かったのです。おそらくウクライナ側としては、こうした突発的な行動によってロシア世論だけでなく軍や政府を動揺させ, 政府・軍中枢の意思決定なども混乱させることで、どこか別のところで反転攻勢に出るつもりなのかもしれません。ましてや、敵が核戦力や世界第2位の軍事力を誇る国なのですから、これまで通りの作戦でいつまでも押し切れるとは限らないでしょう。ウクライナ側とて聖人君子ばかりではないので、一定の掣肘は必要と思いますが、今必要な議論は、「ウクライナという国家の存続や領土奪還を支援するには何が必要か」・「ロシアの侵攻にブレーキを掛けると共に、ロシアが2度と侵略をしないようにするにはどうすべきか」といったことだと思います。そしてこうした議論は、日本周辺など他地域にも応用(?)可能な議論でもあると思います。

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【久々の更新】SNS上で話題になっている医療系漫画のことについて。

 メチャクチャお久しぶりです。現役救急医のカ医ロ・レンです。一応Twitterには顔を出していましたが、仕事がクソ忙しくてYouTubeもブログも更新できていませんでした。(そして今後も更新が停滞しまくると思います)

 今日久々に記事を書いている理由は、最近Twitter上で非常に気になる話題を見かけたからです。曰く、「某外科系診療科のある医師が関与した患者が次々と死亡したり、重篤な合併症を生じてしまい、同僚らも対処に困った」という概要の漫画がネット上に無料で公開されているというのです。私も当初目を通し、「え?これフィクションだよね?」と思っていましたが、SNS上に流れている『情報』を見る限り、違うようです。

 なお今回私は、「問題の漫画が事実に基づくものなのか」とか, 「事実に依拠していた場合、どのような『事件』がモデルになっているのか」等について言及することは敢えて避けようと思います。その理由は以下の通りです。

  • 既にネット上では『当事者であったとされる』医師や施設に関する情報が流布しているが、万が一別の医師や事案をネタにしていた場合、虚偽の情報の流布に関与することになるから
  • 医療従事者には法律的にも倫理的にも、学会発表等の例外を除けば、「診療の中で知り得た患者に関する情報を漏洩してはならない(大意)」といった旨の『守秘義務』が課されており、それに抵触するか否かすら微妙な本案件を流布することに抵抗を感じるから
  • 当該事案の中で合併症を持つに至ったり, 亡くなられたりした患者やその家族が、このような形で情報がネット上に流布されることに賛同ないし同意しているか不明であるから(同意・賛同していない場合、患者や家族に苦痛を生じてしまい、人権侵害になってしまう懸念がある)

 とはいえ、初期研修医から現在(卒後約10年経過)に至るまで私は様々な医療従事者に接してきた訳ですが、その中には上記の漫画の人物ほどでないにせよ、首を傾げたくなるような人たちが居たことも事実です。

【初期研修医向け】ヤバい指導医の見分け方と対処法【暫定版】 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

医学生・研修医を「アンプロ」と言う前に - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

職場で頭に来ていること - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

専門的な診断や加療が必要なので他科から患者を紹介受診されたのに直接患者本人へ問診・身体診察等をすることなく、検査値や画像だけチェックして、まるで版を押したようなカルテ記載や紹介状の返事を書く医師や, たかの医師から転科した上での専門的治療を依頼され、尚且つどう見てもその方が妥当であるにも関わらず、色々理由を付けて転科を拒む医師も居ます。

 他にも、外来・入院を問わず、患者の直近の状態等をロクに確認せず、前回の内服・点滴薬をそのまんまコピーして処方し続ける医師がやはり多いと思われます。そうゆう患者さんの中には、薬剤の副作用で腎機能が低下し, 何らかの急性疾患によって状態が悪化して入院した後に薬剤の整理が必要になったり(私は「外来通院加療中に気付けよ」と内心毒づいたものです)するような人も居ました。また、COVID-19パンデミック以前からですが、ロクに炎症・発熱の原因精査や培養検査もせずに抗菌薬を出し, それを漫然と継続するような医師も珍しくありません。

 要は、上記の漫画の事例は公となり, 且つ 稀な事例ではあると思われるものの、医療従事者としての基本的な心構えを忘れ, 日々の診療業務がやっつけ仕事に堕し, 知識のアップデートを怠っている医師はそこまで珍しくないということです。もし特定の地域や医療機関内でそうゆう医師の占める割合が増えたり, 決定権や発言力を持つに至った場合、看護師ら他の職種に良い影響を与えるとはとても思えませんし, その医療機関・地域の診療態勢や診療の質にも負の影響を与えかねません。

 問題意識や当事者意識, 向上心などを持つ人間による行動が周囲の環境や世間に一定の影響を与えることも事実です。しかしそれだけでいいのでしょうか?自分の地位(専門的な資格や年功序列など)に胡座をかき, 過去の事例(失敗例を含む)や最新の知見等を踏まえた上での行動や思考の変容が出来ない人間に漫然と権限を与え続けることが本当に妥当なのかについての議論も必要だと思います。