Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ここ1年間くらいに読んだ本の紹介

 こんにちは。現役救急医です。今日は医療からちょっと脱線した話題で記事を書こうと思います。私の興味の範囲は当然ながら医学・医療だけでなく、歴史とか世界情勢とか自然科学も含まれます。そんな私がこの約1年の間に読んだ様々な分野の本を雑に(笑)紹介してみようと思います。

 

(1) 医療関連の本

 「興味の範囲は医学・医療だけじゃない」と言っときながら何だ!と突っ込まれそうですが、まず看護師の木村映里さんの著書『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社, 2020年)を紹介します。

 医療現場に居ると様々な患者さんに出くわします。アルコール依存症で酒が止められない, 実家とほぼ絶縁状態にあり収入も乏しい, 精神疾患を持っている, 感情のコントロールができず暴言や暴力に及ぶetc.といった感じで、こういっちゃなんですが少なからぬ医療従事者が煙たがる背景をもつ方も中にはいます。木村さんは、そういった社会的・経済的・精神的な背景が脆弱な患者さんとの背景にある事情や向き合い方などを、ご自身の経験談を踏まえつつも述べておられ、恥ずかしながら私にとっては「目から鱗」でした。特に医療従事者の皆様に一読頂けるよう勧めたい一冊です。

 

(2) 歴史関連の本

 まずは日本の中世〜近世史から。これらの本は以前も当ブログで紹介していると思いますが、

① 『武士の起源を解きあかす − 混血する古代、創発される中世』(桃崎有一郎 著, 筑摩書房, 2018年)

② 『室町の覇者 足利義満 – 朝廷と幕府はいかに統一されたか』(桃崎有一郎 著, 筑摩書房, 2020年)

③ 『戦国の忍び』(平山優 著, 角川新書, 2020年)

 ①, ③は世界的にも有名な日本の『サムライ』や『ニンジャ』の起源について、歴史的な文献や史実を参考に一般向けへ記述(ないし考察)しており、日本史の裏側について多くが学べて面白かったです。②については、金閣寺の建設や遣明船や『日本国王』の称号で知られる足利義満の統治体制等について詳しく書いており、本当に勉強になります。

 また近現代史 − というより第一次・第二次世界大戦についての本も何冊か読んでいます。

④ 『戦車将軍グデーリアン 「電撃戦」を演出した男』(大木毅 著, 角川新書, 2020年)

 これは第二次世界大戦の枢軸国であるドイツで『活躍』した将軍ハインツ・グデーリアンの『実績』や戦時中の『汚点』− 例えば、ホロコーストへの関与など− について史料を基に記述したものです。

⑤ 『後期日中戦争 太平洋戦争下の日中戦争』(広中一成 著, 角川新書, 2021年)

 この本は、太平洋戦争開戦後(=真珠湾攻撃マレー半島上陸作戦開始後)における日中戦争について、主に旧陸軍の名古屋第三師団の動き(≒日中双方の戦闘記録や証言など)を通して記述したものです。日本軍による細菌兵器・化学兵器の使用や, 中国国民党軍(中華民国軍)や中国共産党軍の対日作戦などについても記述があり、非常に興味深い内容となっています。

⑥ 『辻政信の真実 失踪60年 − 伝説の作戦参謀の謎を追う』(前田啓介 著, 小学館, 2021年)

 この本は以前も当ブログで紹介していたかもしれません。ノモンハン事件で色々と問題を起こした一方で、太平洋戦争開始後のマレー半島攻略を『成功』させるなど、毀誉褒貶の著しい旧陸軍の参謀 辻政信に関する伝記です。

⑦ 『指揮官たちの第二次世界大戦 素顔の将帥列伝』(大木毅 著, 新潮社, 2022年)

 この本は第二次世界大戦の枢軸国・連合国双方で活躍(?)した, 或いは 有名な指揮官を紹介・分析し、指揮官の資質について論述するものです。過去に当ブログで紹介していた『知略の本質』や『失敗の本質』同様、戦争のような危機時におけるリーダーシップ等について、多少は参考になるのではないでしょうか。

 

(3) 国際情勢について

 最後に、今まさに世界を騒がせている大国、中国とロシアについて専門家やジャーナリストが一般向けに著した本を紹介します。

① 『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(安田峰俊 著, 中公新書, 2021年)

 題名からお分かりになると思われますが、中国で清朝末期くらいから近年に至るまで発生した色々な秘密結社を紹介し、それらの結社と中国国民党中華民国中国共産党中華人民共和国の関係性などを解説してくれる非常に興味深い本です。

② 『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(廣瀬陽子 著, 講談社, 2021年)

 この書籍の発行年月日は2021年3/1であり、ロシアのウクライナ侵攻の約1年前です。この本ではロシアの意図について「ロシアはウクライナ東部の併合を望んでいるわけでなく、影響力を維持した上で連邦などの形でウクライナに残すのではないか」という考察が述べられていますが、実際のところ、2022年2月末にロシアはウクライナの完全併合を目指して大規模侵攻作戦に踏み切ってしまいました。そしてその後、首都キーウの制圧が失陥したためウクライナ東部と南部(クリミア半島含む)の維持に方針を切り替えたような感じになっています。

 それでもなお、ロシアの対米・対日政策や, その為に使用する手段, アフリカや南米への影響力行使や中国との関係性についても詳細な解説がなされており、本当に勉強になりました。

③ 『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(小泉悠 著, PHP研究所, 2022年)

 これは最近TVに良く出ておられる軍事評論家 小泉悠さんの著書です。軍事的な側面から離れて、自身のロシア滞在経験談を交えながら、ロシアという国の国民性や生活などを一般向けに綴っています。

 近年はCOVID-19のせいで海外旅行の機会もだいぶ遠のいた感じがありますが、私の医学部同期の海外の卒業旅行先は、タイ・韓国・台湾等のアジア圏やスペイン・フランス等のヨーロッパ, グアムといった所謂『有名どころ』ばかりで、「ロシアに行ってきた!」という人に会ったことがありません。そんな近くて遠い(?)国ロシアの内情について多少とも学ぶことができる面白い本です。

 

 今日の記事はだいぶ長文になってしまいましたが、興味をそそられた本があったら、是非上記リンクをクリックしてご購入をご検討下さい(私にもちょっと紹介料が入りますし笑)。