Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

最近読んだ本の紹介 − 『諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで』(保坂三四郎 著, 中公新書)

 お久しぶりです。昼休みに生存報告も兼ねてブログを更新します。身バレするので詳細は書けませんが、自分のキャリアや, 今の勤務先での仕事, 肉親との軋轢(?)の間で色々と悩んでおり、そのせいか最近診療業務の中で、なんと言えば良いんでしょうか、キレが切れがなくなって来ているような気がしています。

 まあそんな現実から目を背ける為に(?)、YouTubeを見たり, 読書したりしている訳ですが、今回は最近読んだ本で特に印象に残った一冊を紹介しようと思います。

 『諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンFSB体制まで』(保坂三四郎 著, 中公新書

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 ロシア軍のウクライナ本格軍事侵攻以降、報道でロシアのプーチン政権についての言及が増えているのでご存知の方も多いと思いますが、現ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは元々KGBの職員でした。また彼の政権の要職にはKGB時代のツテなどで就任した者も多いのですが、この本は、KGBの成立からソ連崩壊, 更にはソ連崩壊後から現在に至るまでのロシアの情報機関の歴史を詳説し、今日の国際情勢やロシア社会に与えている影響についても解説するものです。

 正直なところ、この本の内容はまさに目から鱗でした。

 ソビエト連邦成立直後から、ソ連共産党指導部は秘密警察組織を結成して自分らに抵抗する勢力を弾圧するのみならず、共産党内や軍部, 官僚機構等々社会の至る所に監視の目を光らせ、芸術活動・スポーツ・科学技術の研究・経済活動までコントロールしようとしてきました。

 また、自分達の統治体制に懐疑的な人たちが「諸外国(特に米国などの西側)の影響を受けている」・「彼ら・彼女らを扇動している外国のエージェントが居るに違いない」との発想のもと、特にソ連時代は海外との交流を制限するはおろか、ソ連を訪問ないし滞在中の外国人を監視し, 時にその外国人を自分たちのエージェントに取り込もうと工作すらしていました。実際にこうしてKGBに取り込まれて、ソ連に機密情報を流した旧西側諸国の政府機関職員も居たようです。また、ソ連・ロシアに留学する等してソ連・ロシア当局の影響を受けた研究者, ジャーナリスト, 政治家らの中には、ソ連・ロシア当局の思惑通り、米国などの旧西側諸国の政策を批判する一方で、ソ連・ロシアの抑圧的・権威主義的な政治体制, 周辺諸国への軍事侵攻等にはダンマリを決め込む(か、やたらめったら擁護する)論調を展開する者が居ました(そして今日もそうゆう人間が散見される)。

 

 今日のロシアの問題は、ソ連崩壊前後にKGBの影響を十分排除できていないことに由来しているとしか思えません。プーチンが大統領になる前のエリツィン政権時代には、政府に批判的な新聞社やテレビ局が活動していましたし、政権の汚職を追求しようとする者が官憲の中にも居ました。しかしプーチンKGB時代のツテやらノウハウやらを利用してこうした人間を次から次に抑圧し、時に殺害し、彼が政権を取った後は益々そういった秘密警察的な政策をエスカレートさせました(そしてプーチンらは、彼らなりの大義を振り翳してそれを正当化した)。そして今日に至ってしまったのです。

 今、我々の目はウクライナ国内におけるウクライナ軍とロシア軍のせめぎ合いや, ウクライナ人の被っている被害に向きがちでありますが、そもそもこうしてウクライナの人々の生命や財産・尊厳などが危険に晒されるに至った遠因は、ロシアの政治体制です。こうした背景を理解するのに最適な書籍であると私は思いました。