Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

本の紹介;(15) 『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』

 実は私、本ブログでこれまで紹介したもの以上に本を相当数読んでいるのですが、仕事が忙しいこと, 他に紹介したいネタがあるので後回しにしていたんです。ってことで、今日は比較的最近読んだ本『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(著者; 小泉悠, 東京堂出版)を紹介します。

この本は、ソ連崩壊後のロシア ー 特にプーチン ー がどのようなビジョンの下で外交政策を展開しているのかを、ロシア政府の声明, 政策や軍事行動, ソ連との比較等を通じて分析しています。

 ロシア連邦には194の民族が存在するとされており、多数派はロシア人(78%)ですが、他にもタタール人, ウクライナ人etc.と多用な民族構成になっています(カザフスタン, ラトビア, ジョージア等も含まれていた旧ソ連時代については言うまでもないでしょう)。ソ連時代、こうした多民族をロシア人を中心にしてまとめる概念として「共産主義」があったのです。しかしソ連が崩壊した以上、共産主義に替わる何かを探さねばなりません。そこで、ロシア人 及び『ロシア人に近い』とされる民族 ウクライナ人, ベラルーシ人を『ロシアの民』と一括りにした ー つまり、「共産主義」の替わりに「民族主義」を採用したのです。

 更にロシア(プーチン)は、① 大国の周辺に存在する中小国, ② NATOといった大国中心の軍事同盟に所属する国, ③ 核兵器を持たない国 などについて、『主権が限られている』という考えを持っていると思われます。冷戦期のブレジネフ政権時代、ソ連は「社会主義体制を守る為には、一国の主権が制限される」としてチェコスロバキアへの介入を正当化していますが、現在のロシアも似たような論理を持っています。上記『ロシアの民』がいる地域において、彼ら・彼女らに対し「保護する責任 (responsibility to protect; R2P)」を負っており、R2P履行の為に(旧ソ連圏の)半主権国家への介入は正当化されるということなのです。

 1999年以降、旧ワルシャワ条約機構に所属していた東欧諸国やバルト3国が続々とEU, NATOへ加盟。また旧ソ連諸国のウクライナ, ジョージア, キルギスで2003年から2005年にかけて、強権的かつ親露であった政権がいわゆる『カラー革命』で崩壊していったことで、ロシアは西側諸国, 特に米国に対する不信感を強めていきました(ロシア政府は、旧ソ連諸国での親露政権崩壊を「米国側の陰謀」と信じているフシがある)特に2008年のコソボ独立宣言(ロシアはセルビアと友好関係にあり、尚且つセルビアからのコソボ独立が自国内へ波及するのが嫌だった), NATO首脳会議におけるグルジアウクライナNATO加盟の提案はロシアを強く刺激してしまいました。

 そこでロシアは、EUNATOへ接近していたジョージア, ウクライナを食い止める為に強硬な手段に打って出ます。ジョージアにおいては2008年8月、以前から同国より独立を主張していた南オセチア民兵ジョージア軍が交戦しますが、「現地のロシア軍平和維持部隊を守る」との口実を以ってロシア軍は全面的に介入してジョージア軍を追い込み、戦闘開始後5日目にはフランスの仲介でロシア・南オセチアジョージア両者は停戦に漕ぎ着けました。そしてその後も、ロシアはジョージア国内にある『独立国』南オセチアと, もう1つのアブハジアに軍を駐留させ続けています。

 他方、ウクライナでは2010年に親露政権(ヤヌコヴィッチ政権)が復活していましたが、その政権は2013年になるとEUとの経済連携を模索。ロシア側が『飴と鞭』を用いた圧力で翻意させたところ、反発したリベラル派が同年11月から抗議行動を開始。ヤヌコヴィッチ政権が機動隊を用いてデモ隊を弾圧し多数の負傷者が出ると、ネオナチ・極右政党による暴力的な抗戦も開始され抗議行動は過激化しました。そうした混乱が持続する中、翌年(2014年)の2月末にはヤヌコヴィッチは政権の座を投げ出しロシアへ逃亡しました。

 すると時をほぼ同じくして、クリミア半島に覆面を着けて記章等も一切付けない部隊が展開し現地を無血で制圧(後にロシア軍特殊部隊と判明)。その後クリミア半島一体は独立を宣言後、住民投票を経てロシア連邦への併合を決定します。更に、同年3月には、ウクライナ東部でロシア系住民が独立を主張し武装蜂起。『ドネツク民共和国』, 『ルガンスク人民共和国』の独立を宣言します。この時には既にウクライナ政府は政権交代の混乱から立ち直っており、政府軍を投入し夏にはウクライナ政府軍が独立派を圧倒していました。しかし8月になるとロシア軍が介入して、ウクライナ政府軍を押し返してしまったのです。

 このジョージア, ウクライナ両国に対するロシアの真意は「NATO加盟阻止」だと考えられます。NATO加盟国はロシアとの全面戦争を回避したいので、ロシアとの武力紛争が現在進行形である両国のNATO新規加盟を進められないのです。

 他にも、ロシアのシリア介入の意図・戦略や、北方領土を含む東アジアに対する外交政策についても解説してあるので、非常に面白い内容となっています。