Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【海外メディアより】ロシア軍の虐殺の証拠

 最初に注意事項を提示します。

 この記事で紹介する海外メディアのリンク先には、流血を含んだ実際の映像もあります。外傷や熱傷によって重症に陥った, ないし 亡くなられた患者さんの診療を経験している医療従事者である私でもショックを受けました。どうかご注意下さい。

 

 こんばんは。現役救急医です。今日は前々回前回同様、ロシアのウクライナ侵攻に関する海外メディアの記事を紹介してみます。今回参照した記事は、'New York Times'が昨年(2022年)12/22に公表(そして23日に更新)した記事"Caught on Camera, Traced by the Phone: The Russian Military Unit That Killed Dozens in Bucha"を紹介します。

www.nytimes.com

 昨年中に日本でも大きく報道されていたのでご存知の方も多いと思いますが、2022年2/24からロシア軍は、既に占領していたウクライナクリミア半島・ドンバス地方(東部)や, ベラルーシの領内等からウクライナへの侵攻を開始しました。ベラルーシから侵攻した軍団は、既にこのブログで触れたように、キーウを制圧を試みて頓挫し, 引き上げました。しかしこの軍団が引き上げた後、キーウ近郊の街ブチャなどでロシア軍によるウクライナ市民虐殺が明るみに出てロシアに対する国際的な非難が益々強まり、ウクライナ側も徹底抗戦・領土奪還の方針を固めることとなりました。

 

 ここから、肝心の上記の記事(というより動画)の内容をざっと紹介します。ブチャ市内にあるメインストリートは『ヤブロンスカ通り』と呼ばれていますが、そこへロシア軍部隊が展開し、虐殺を繰り広げていました(ブチャ市内の他の場所でもやっていた)。この記事では、通り沿いに設置されていた監視カメラの映像, 殺戮を逃れた住民の証言や, 彼ら・彼女らが自らのスマホで記録した写真・映像等を組み合わせて、いつ・どこで・誰が・どのようにして殺害されたのかを記述しています。

 更に、監視カメラが記録した映像・音声や, ロシア軍が撤退時に残していった書類等により、加害者がロシア軍空挺部隊『第234連隊』であることが判明しています。ロシア軍は2022年2/27時点で、ブチャを通過してキーウに向かおうとしていましたが、ウクライナ軍の反撃により失敗しました。その後、同年3/3に件の第234連隊がブチャに進駐してヤブロンスカ通り沿いに拠点を構築。それ以降、生活物資調達や仕事・避難のために通りを歩いている, ないし 自家用車で移動しているだけの一般市民を無差別に銃撃して殺傷したり、民家に押し入り, 徴兵可能年齢の民間人男性を片っ端から連行して処刑したり と、暴虐の限りを尽くしました。そして、ヤブロンスカ通りに居た民間人を攻撃している現場には第234連隊の司令官が同席していたことも映像・音声から確認できていますが、司令官がこの殺戮を止める様子は見られませんでした。

 なおロシア兵の中には、殺害した民間人から盗んだスマホで故郷にいる知人らに電話を掛けていた者が何名も居ました。通話相手の番号を使ってSNSで検索を掛けることで加害者の兵士の知人を特定し, 知人が投稿した画像によってその兵士を絞り込み, 最後はその知人本人へ直接電話することで、加害者兵士の氏名や所属等を断定しています。記事の中には、第234連隊の司令官の氏名・顔のみならず, この方法で特定された兵士らの名前と顔も表示されています。

 

 戦争が無くなることは、誰しもが望むことでしょう。しかしながら、対話を以てしても紛争を解決できずに武力を用いてしまったり, 偶発的な交戦がそのまま戦争に発展したり, そして今回のように、一国の指導層の勝手な盲信により侵略戦争が開始されることは古来からずっと続いています。「戦争を0にする」のは困難を極めます。

 そんな中でも、「戦争にもルールを作ろう」ということで、『ジュネーブ条約』等の国際法が存在しているのです。「捕虜を虐待してはならない」・「無抵抗の民間人を殺傷してはいけない」・「医療機関, 発電所や学校等を攻撃してはならない」等、種々の規定があるのは過去にこのブログでざっと触れた通りですが、これまでのロシア軍の振る舞いは、これら全てを無視しています。ロシア・プーチンの暴虐を阻止し, ウクライナ国民を戦火から救う手立ては、ウクライナ国民が日常生活・健康・経済活動を維持できるように, 且つ ウクライナ軍がロシア軍を駆逐して領土を奪還できるように支援を続けること以外にありません。その為には、医薬品・生活支援物資等だけでなく、兵器を提供し続ける(そして、より強力な兵器も供給する)ことが必要です。