Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【COVID-19】日本のリーダーシップ欠如を危惧する

 連日、COVID-19の話題で持ち切りですが、日本国内でも色々と不穏な話題が出て来ていますね。経済対策ということで、和牛や魚のクーポン券を配布するという案が出て来る一方で、東京都を封鎖する可能性も取り沙汰されています。そうゆう国内外の情勢を見て、思った事を今回は綴っていきたいと思います。

 

(1) 日本政府/安倍内閣のリーダーシップは?

 先日も本ブログで言及しましたが、今回のCOVID-19の影響は社会の至る所に影を落としており、経済も決して例外ではありません。そんな中、自民党内では訪日客や外出の減少により、和牛や高級魚介類の消費が減少していることを受けて、商品券を配布する案が出ました(下記、朝日新聞とhuffingtonpostのリンク参照)案の定、Twitterなど各所では「休業補償が先だ」, 「現金を給付すべき」等の批判が噴出しています。

 ここで、米国に目を向けてみましょう3/25に議会上院は新型コロナウイルス対策に、2兆ドルの大型経済対策を全会一致で可決。下院で26日に可決されれば成立する見込みです。(下記、日本経済新聞のリンク参照)

その使い道は、

「家計支援として、大人1人に最大1200ドル、子供には500ドルを支給する。労働者は一時帰休や無給休暇などで手元資金が薄くなる可能性があり、4月をメドに現金を直接支給する。失業給付の拡大なども盛り込んだ」

「企業支援には8500億ドルを充てる。中小企業向けに3500億ドルを用意し、雇用を維持して従業員に給与を支払えば、返済を不要とする」

「飲食や宿泊など新型コロナが直撃する産業にも5000億ドルの資金枠を用意し、航空会社への融資に580億ドルを充てる。「国家安全保障の保持」に関わる企業には170億ドルを確保するが、航空機大手ボーイングの救済枠となる可能性がある。借り手企業は従業員の給与水準を一定以上保つなどの条件を課す」

と、企業支援のみならず、家計支援も込みです。

 損害を補填する経済的支援策も無く, しかも法的拘束力を欠く『自粛要請』のみを発行する一方で、あたかも思い付きのような経済支援策しか示せない日本と、早くも経済対策を決定した米国。この意思決定の差を見て、私は「太平洋戦争中の日米を見ているのか?」と錯覚しました。日独伊三国同盟締結以降、対米関係悪化に伴い石油等の禁輸を食らった日本では、海軍が仏領インドシナ, 英領マレー等への南方進出による資源獲得(と、それに伴う対米戦争も辞さないと)主張する一方で、陸軍は独自の試算で「対米戦争は無理だ」と判断し、むしろ対ソ連戦争という形でのドイツとの連携を企図して北方進出を主張。最後まで互いをけん制しあっていました。対米開戦後も陸海軍両者の連携は進まず(大本営内で両者がすれ違った結果、目標が曖昧な折衷案が出来上がったり, 結論が出るまで時間がかかった。そのギャップは前線の指揮官の努力で埋められていた)、特にガダルカナル島攻防戦以降、陸海空の戦力統合が完成し, ホワイトハウスの強力なリーダーシップの下で迅速な意思決定が可能な米軍が巻き返し、日本軍は一方的に壊滅的な打撃を受け敗退を重ねる結果となりました。

 現状の日本は確かに、米国や中国, イタリア, スペイン等と比較するとCOVID-19による死者・感染者数は抑えられており、その一因には現場の医療関係者, 国立感染症研究所厚労省の対策チーム・国立国際医療センター等の専門家チームの努力も考えられます。しかし、肝心の政府 ー 特に首相官邸・行政府 ー は遅々として決定的な対策を打ち出せておらず、恐らく特定の業界団体と利害の一致する政治家の思いついた「商品券配布」という『奇策』を何のためらいもなく掲げているのです。危機的状況なのに、感染対策は現場・専門家集団に任せ切りで、各々の政治家や省庁が好き勝手に思いついた『対策』を提示する様が、戦前・戦時中の日本政府と大本営/陸海軍の動向にそっくりだと思うのは私だけでしょうか?

 

(2) 感染拡大防止のため、政府がすべきことを考えてみる。

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/tokyo-lockdown

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-5

 そうした中、東京都では3/25にSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)感染者数が過去最高の41名に達し、今週末(3/28, 29)の外出自粛が呼びかけられています(上記、Buzzfeed Japanの2リンク参照)。せっかく死者・感染者数を(比較的)抑え込めていたのに、ここで感染者数が増えてしまっては、医療機関がパンクして尚更死者数の増加に繋がりかねません。そこで今回は、拙いながらCOVID19-19感染拡大防止の為に私が考えた腹案を提示して本記事を締めたいと思います。

1. 生活必需品(食料品, 衣類など)を販売する量販店, 電気・ガス・水道といったインフラ, 公共放送, 医療機関, 食料品生産, 医薬品・医療機器製造以外の事業所の営業を停止

2. JR, 私鉄, 路線バス等の公共交通機関を営業停止

3. 主要道路に検問を敷設し、人の往来を制限

4. 消費税・所得税・住民税等の減免や、営業制限を受けた企業への補償, 失業対策

 

せっかくなんで新型コロナウイルスに関する論文を読んでみた。 Part 8

 世間の話題がほぼCOVID-19で占有されていますが、私も最近入手したCOVID-19関連の論文を紹介します。今回紹介するのは今年3月13日にオンライン発表された論文"Critical Care Utilization for the COVID-19 Outbreak in Lombardy, Italy"(JAMA; Grasselli G, Pesenti A. et al.)です。

 

 2020年2月20日イタリアLombardy州のCodogno HospitalのICUに、30歳台の患者がCOVID-19の診断で入院した("Patient 1")。この患者は当初、COVID-19を疑われていなかった。その後の24時間で、COVID-19陽性患者の報告は36件まで増加。これは深刻な事態の悪化と思われた。その理由は、

1. Patient 1は若く健康

2. Patient 1の感染源が特定できなかった

3. 36名はPatient 1やその他イタリア国内の陽性症例と関連が無い

4. Patient 1はICUにおり, 2日目にして既に36名の患者がいたことから、未知の大きさ(magnitude)を持つclusterがおり, 更なる拡散が起こる可能性があった

の4点であった。これを受け、Lombardy州政府と地元保健当局は2月21日、緊急task forceを結成した。

 なおこのアウトブレイクの前、Lombardy州のICUは720床(74病院全床の2.9 %)であり、冬期は常にこの85〜90 %が埋まっている。そこでCOVID-19 Lombardy ICU Networkは二つの優先事項を設定した。1. 急増したICU capacityを増やすこと, 及び 2. 封じ込め措置の実行, である。

 既に二次的感染が発生しているという予測に基づき、新たなCOVID-19症例がおそらく数百〜数千件発生することが予想された。COVID-19症例の5 %がICUに入ると想定すると、一ヶ所のICUへ全ての重症患者を入れるのは不可能だった。そこで、COVID-19の重症患者は、感染症専門医がいる, もしくは VV-ECMO Respiratory Failure Networkに参加している 15ヵ所のfirst-responder hub hospitalへ集めることになった。なおこれらhub hospitalの条件は以下の通りである。

1. 他のICUから隔離されたCOVD-19患者集団専用のICUがある

2. 必要な患者が機械的換気を装着でき, 尚且つCOVID-19確定診断が出るまでの間に滞在するトリアージエリアがある

3. 呼吸器症状のある患者をトリアージし, 迅速に検査し, 適切な集団へ割り振るprotocolを作る

4. スタッフが適切なpersonal protective equipment (PPE) を確実に入手できる

5. 重症なCOVID-19陽性 or 疑い患者全てを、その地域の調整センターへ報告する

その上で、急を要さない処置(手術)はキャンセルされ, その後10日間で新たに200床のICUが利用可能になった。合計すると、最初の18日間でICU networkは482床を準備した。

 地元保健当局は最初のclusterに対して、複数の町を隔離することで強力な封じ込め措置を確立した。その後ICU networkは政府に対し、ウイルス封じ込めのためにあらゆる措置を講じるように助言していたが、2週間後には新たなclusterが出現した。

 1日目から18日目にかけて、ICU入院の急激な増加が見られた。公式なデータによるとCOVID-19陽性患者(3,420名)のうち12 %(556名)がICU入っており、3月7日時点で入院しているCOVID-19患者(2,217名)中16 %(359名)がICUに入っていた。また同日までに、COVID-19患者集団専用ICUの総数は、55病院の482床(アウトブレイク前のICU収容能力の約60 %)となった。なお3月8日時点で、(当初)COVID-19陰性であった患者は地域外のICUへ転院となった。

 2月22日から始まるアウトブレイクの最初の3日間で、Lombardy ICU NetworkにおけるICU入床は11名, 15名, 20名であった。最初の2週間でICU入床は持続的かつ指数関数的に増加した。3月7日(その前の15日間でICUに556名のCOVID-19患者が入床していた)のデータを基にして、将来的なICU需要を推計する指数関数モデル, 及び 線形モデルが作成された。

  • 線形モデル:  3月20日までに約869床が必要になる
  • 指数関数モデル:  3月20日までに14,542床が必要になる

これらは仮説に過ぎず, また複数の憶測を含んでいるものの、重症患者の増加は、たとえ外傷, 脳卒中等、他の疾患の患者の入床を考慮に入れなくても全体のICU capacityを超えると思われた。

 現実的には、医療システムは制御の利かないアウトブレイクを制御できず、ICUシステムの崩壊を防ぐためにはより強力な封じ込め措置のみが現実的な選択肢である。こうした理由のため、直近の2週間を通して医師は当局へ封じ込め措置を強化するよう継続的に助言した。地域のICU networkや保健当局, 政府が最初のclusterを封じ込めようと迅速に対応したにも関わらず、ICU入床が必要な患者の急増は圧倒的だった。COVID-19陽性患者の12 %, COVID-19で入院している患者の16 %がICUへ入床し、これはCOVID-19陽性患者の5 %がICUに入床した中国を上回った。この理由としては、1. (可能性は低いが)イタリアと中国ではICUの入床基準が異なる, 2. 中国とイタリアでは人種, 年齢, 並存疾患といった因子が異なる, の2つが考えられる。

 3月8日と9日ICU capacityの更なる増加, 共同体におけるより強力な封鎖措置を強化する 等の措置を含む次の計画の立案を開始するとともに、他に何ができたのか検討を行った。その結果、以下のような反省点が浮上した。

  • SARS-CoV-2の検査能力を直ちに増やしておくべきであった。事実、ごく早期に検査能力は飽和してしまった。
  • ICU capacity急増への対応に並行して、より迅速にCOVID-19専用施設への変換ができたはずである。

 3月10日の時点で、イタリア全体が隔離されており、政府は厳格な自己隔離措置(self-isolation measures)を含むより強力な封じ込め措置を開始した。地域のresourceが限界に達しているのに対し、イタリア中央政府は重症患者の他地域への転院搬送, 緊急の資金, 人材派遣等の追加のresourceを提供している。目標は、必要な患者全員にICU病床を確保することである。イタリアでの経験は、必要な患者全員にICU病床を供するために、初期の迅速な患者急増に対する対応が可能なのはICU networkのみであることを示唆している。共同作業の緊急ネットワークへ組織化されていない医療システムは、今一つの目標に向けて動くべきである。

K-1開催『強行』に関して思ったことを綴ります。

 さて、昨日からTwitterで、医師を含めたインテリ層が熱い議論を繰り広げていました。どうゆう話題かというと、COVID-19アウトブレイクに伴う大規模・大人数イベント自粛要請にも関わらず、格闘技イベント"K-1"が開催されたのです。

 では、医師を含めインテリ層がどんな意見を戦わせていたのか。私が興味を持ったツイートを幾つか紹介します。

純粋に医学的に考えれば、6,500人もの人間をアリーナに詰め込んで、大歓声を上げさせる大イベントはSARS-CoV-2(新型コロナウイルス )に新たな宿主をバンバン提供する場を与えているようなものです。但し、その裏ではギャラや会場使用料, その他警備要員等のスタッフの人件費の帳尻を合わせるべく苦渋の決断を迫られた主催者・従業員(とその家族)が居るのです。また上記のツイートにあるように「『自粛要請』という法的拘束力がない、曖昧な指示でお茶を濁した政府に問題がある」という意見もあります。

更に、上記の一連のツイートにもあるように、「『自粛せよ』と言う割に、休業で損失を被った企業・法人とその従業員の損失を補填する策がロクに示されていないではないか」と言う批判も多く見られていました。

 私としては、どっちの意見も間違っていない(至極真っ当だ)と思うのです。COVID-19が猖獗を極めた昨年12月末~今年2月上旬の中国(3/23現在 死者3,000名超)や, 死者が増加し続けている現在のイタリア(3/23現在 死者5,000名超)などと比べると、現状の日本はなんとか感染拡大を抑え込めているのです。そんな中で、SARS-CoV-2の蔓延を加速させるような行為を制限するのは必要不可欠な措置です。但し、その制限によって既に世界的に経済的な損失(航空機の減便, 宿泊施設の減収, 劇場閉鎖, 従業員の解雇etc.)が生じています。たとえCOVID-19に罹患しなくても、減給や解雇で食っていけなくなった人が餓死, ないし自殺してしまっては元も子もないと思うのは私だけでしょうか。

新型コロナウイルス感染 世界マップ:日本経済新聞

 まず、私は言いたい。K-1を主宰した会社を責めるべきでないと。難しい判断を迫られたことに対して共感を示すとともに、今後も同様の事象が高確率で起こりうると考えるべきですそして、「イベント開催自粛」をあくまで要求するのであれば、主催者側が一方的に出血を強いられる現状を直ちに是正すべきです。もしそういった埋め合わせもなく、『自粛要請』, ないしそれより強い規制(罰金や禁固・懲役を伴うもの)を行った場合、政府に対する国民の反発・不信感が強まり、近い将来、再びアウトブレイクパンデミックが生じた時に「ロクに補償しない政府の言うことなんか聞けるか」といった感情が生じ、それに科学的裏付けのない陰謀論(e.g. 反ワクチン運動, 人工ウイルス説)が便乗することで、感染者・死者の増大を招く懸念すらあると私は考えています。

【COVID-19関連】EU報告「Disinformationの背後にロシアあり」 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

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 最後に、今後とるべき日本の経済政策を(ド素人ながら)提案して今日の記事を締めたいと思います。

  • COVID-19パンデミックが終息するまで、一般市民の税負担(消費税, 所得税, 住民税とか)を軽減
  • 「自粛」で損害を強いられている業界(e.g. コンサート等イベント運営会社, 宿泊施設, 旅行会社, スポーツチーム etc.)の法人税を減税
  • COVID-19の対応に当たった医療スタッフや公務員(e.g. DMAT隊員, 国立感染症研究所職員, 厚労省の対策チームメンバー, 自衛隊員 etc.)の免税
  • 病院 ー 特にCOVID-19患者の診療に当たった医療機関 ー の免税

せっかくなんで新型コロナウイルスに関する論文を読んでみた。 Part 7

 NEJMでSARS-CoV-2/COVID-19に関する新しい論文が出たので紹介します。今年3月18日に公開された論文"A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19"(Cao B, Wang D. et al.)です。

 

(1) Introduction

 2003年にSARSが流行した後、lopinavir(HIV type 1 aspartate protease inhibitor)が試験管内でSARSコロナウイルス (SARS-CoV)を抑制することが判明した。またritonavirをlopinavirと組み合わせると、cytochrome P450の抑制を介して血清中の半減期を延長する。2004年に発表されたopen-label studyは、ribavirinのみを投与したcontrol群と比較して、lopinavir-ritonavir(それぞれ400mgと100mg)とribavirin併用群は、悪化した臨床転機(ARDSもしくは死亡)のriskとウイルス量を減少させた。しかし、ランダム化の不足や, ribavirin・グルココルチコイドとの併用は、lopinavir-ritonavirの効果を評価するのは難しい。同様にして、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)に対してlopinavirが試験管内・動物モデルで活性があり, lopinavir-ritonavirをribavirin・interferon αの併用によりウイルスの排除と生存に繋がったとする症例報告がある。しかしながら、ヒトにおける本治療法の効果に関する説得力あるデータが乏しく、MERSに対するrecombinant interferon β-1bの臨床試験が現在進行途上である。

 今回、本研究ではSARS-CoV-2感染に対するlopinavir-ritonavirの経口投与の効果と安全性を評価するため、ランダム化コントロールopen-label trialを行った("LOTUS China"[Lopinavir Trial for Suppression of SARS-CoV-2 in China])。

 

(2) Method

① Patient Selection

 2020年1月18日から2月3日の間の中国の湖北省武漢市Jin Yin-Tan Hospitalにおいて、以下のような基準を満たす患者がtrialへ登録された。

  • 呼吸器検体へのRT-PCR assayで陽性
  • 胸部画像で肺炎の所見
  • 室内空気(ambient air)にてSaO2≦94 %, もしくは PaO2/FiO2 ratio≦300mmHg

他方、以下に該当する患者は除外された。

  • Trialに含めるのは患者の利益とならないと医師が判断した
  • 患者がprotocolに安全に従えない全身状態である
  • Lopinavir-ritonavirへのアレルギーor過敏症の既往
  • 重症肝疾患(e.g. ALT>[正常値上限の5倍] or AST>[正常値上限の5倍]の肝硬変)
  • Lopinavir-ritonavirとの併用が禁忌の薬剤を服用しており、置換・中止ができない
  • 妊娠 or 授乳中
  • 既知のHIV感染(他の抗ウイルス薬との併用がなければ、lopinavir-titonavirへの耐性を生じる可能性があるので)

これらの患者を、1:1の比でランダムに治療介入群とcontrol群へ振り分けた。また2群間での酸素療法の分布のバランスを取るため、trialへの登録時にランダム化を呼吸補助の方法(e.g. 酸素療法なし, マスクやnasal duct, 高流量酸素, 非侵襲的換気 or ECMOを含む侵襲的換気)に基づき階層化した。

② Intervention:  標準的治療に並行してlopinavir-ritonavir(400mg・100mg経口, 1日2回)を14日間継続した群

③ Comparison:  標準治療のみ14日間継続した群。なおこのtiralは非常時に行われたので、placeboは用意されていない

④ Outcome

 以下のような項目を評価した。なお以下の"seven-category ordinal scale"や安全性, 死亡に関するデータは、訓練を受けた看護師による連日の記録から取得した。また、退院, もしくは死亡するまでの間の第1日(lopinavir-ritonavir投与前)と第5, 10, 14, 21, 28日に口咽頭ぬぐい液を採取し、その検体へ定量的real-time RT-PCRを行った。

1. Primary end point; 臨床的改善が得られるまでの時間(Primary Outcome)

  • ランダム化から"seven-category ordinal scale"が2点改善するまで
  • ランダム化から生存退院するまで

2. その他臨床的なoutcome (Secondary Outcome)

  • 第7, 14日におけるseven-category ordinal scale
  • 第28日における死亡率
  • 機械的換気の期間
  • 治療開始〜死亡までの期間

3. ウイルス学的な評価

  • 経過中のウイルスRNA検出の割合
  • ウイルスRNA力価のarea-under-the-curve(AUC)

4. Safety outcome

  • 治療中に発生した有害事象
  • 重篤な有害事象
  • 治療の中断

 

(3) Results

① Patients

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 199名の患者がランダム化され、うち99名はlopinavir-ritonvir群, 100名が標準的治療のみの群へ加えられた。Lopinavir-ritonavir群のうち94名(94.9 %)が薬剤投与を受けた(Figure 1)一方で、5名は受けなかった(3名; ランダム化後24時間以内に死亡, 2名; 別の理由)

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 なお患者年齢中央値は58歳(interquartile range[IQR] 49~68)で患者の60.3 %は男性であった(Table 1)。また発症〜ランダム化までの期間の中央値は13日(IQR 11~16日)だった(Table 2)。またグループ間で人口統計学, baselineの検査データ等の重要な項目に関する差異はなかった。またtrial期間中、lopinavir-ritonavir群の33.0 %, 標準治療群の35.7 %でグルココルチコイド療法が行われた。

② Primary Outcome

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 Intention-to-treat分析(以下、ITT分析; 両群でランダム化後に脱落した人も含めて分析すること。本trialの場合、lopinavir-rotpnavir群で抗ウイルス薬投与を受けなかった5名を含めた)では、lopinavir-ritonavir群と標準治療群間で改善までの期間は差がなかった(中央値; 16日 vs 16日; 臨床的改善のhazard ratio 1.31; 95%CI 0.95~1.85, P=0.09)(Figure 2)。また途中で抜けた人を除外した分析(modified ITT分析)では、lopinavir-ritonavir群での臨床的改善までの期間の中央値が15日だったのに対し、標準治療群では16日だった(hazard ratio 1.39; 95%CI 1.00~1.91)。

 他に、ITT分析において、発症後12日以内におけるlopinavir-ritonavir治療は臨床的改善までの期間短縮に関連していた(hazard ratio 1.25; 95%CI 0.77~2.05)が、より遅い治療は関連していなかった(hazard ratio 1.30; 95%CI 0.84~1.99)。加えて、2群間で臨床的悪化("seven-category scale"における1 categoryの増加)を比較したが、差は見られなかった(hazard ratio 1.01; 95%CI 0.76~1.34)。

③ Secondary Outcome

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 ITT分析とmodified ITT分析のいずれにおいても、28日目の死亡率は標準治療群と比較してlopinavir-ritonavir群で数値上低かった(ITT分析: 19.2 % vs 25.0 %; difference -5.8 percentage points; 95%CI -17.3~5.7, modified ITT分析: 16.7 % vs 25.0 %; differece -8.3 percentage points; 95%CI -19.6~3.0) (Table 3)。

 他にlopinavir-ritonavir群では以下のような結果が見られた。

  • 標準治療群と比較してICU滞在期間が短い(中央値 6日 vs 11日; difference -5日; 95%CI -9~0)
  • ランダム化〜退院までの期間が数値上短い(中央値 12日 vs 14日; difference 1日; 95%CI 0~3)。
  • 第14日に臨床的改善があった患者の割合が多い(45.5 % vs 30.0 %; difference 15.5 percentage points; 95%CI 2.2~28.8)

なお他の評価項目(酸素療法の期間, 入院期間, ランダム化~死亡までの期間)は有意差が見られなかった。

④ ウイルス学的評価

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 呼吸器サンプルへのRT-PCRで陽性だった患者のうち69名(35 %)が、trial参加への同意取得後に採取した咽頭ぬぐい液へのRT-PCR結果陰性だった。同意後に採取した咽頭ぬぐい液のbaselineのウイルスRNA量の中央値(±SD)は、標準治療群と比べてlopinavir-ritonavir群でわずかに高かった(4.4±2.0 log10 copies per milliliter vs 3.7±2.1) (Table 2)。但し、経過中のウイルスRNA量は両群間にて差はなかった(Figure 3)。

 また、SARS-CoV-2のRNAを検出できた患者の割合は、どのサンプル採取日においても両群間で類似していた(lopinavir-ritonavir群 vs 標準治療群; 第5日 34.5 % vs 32.9 %, 第10日 50.0 % vs 48.6 %, 第14日 55.2 % vs 57.1 %, 第21日 58.6 % vs 58.6 %, 第28日 60.3 % vs 58.6 %)。

⑤ 安全性

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 Lopinavir-ritonavir群の46名(48.4 %), 標準治療群の49名(49.5 %)にて、ランダム化〜第28日の間における有害事象が報告された(Table 4)。消化管系の有害事象(吐き気, 嘔吐, 下痢)が標準治療群よりlopinavir-ritonavir群で多く見られた。また重篤な有害事象は51名(lopinavir-ritonavir群; 19, 標準治療群; 32)で見られた。また呼吸不全, 急性腎傷害, 2次感染は標準治療群でより多く見られた。

 

(4) Disucussion

 本trialでは以下の知見が得られた。

  • 重症COVID-19患者における標準治療 + lopinavir-ritonavirの治療は臨床的改善, もしくは 死亡率と関連性が無かった
  • しかしmodified ITT分析(lopinavir-ritonavir群の死亡した3名を除外)では、臨床的改善までの期間の中央値にわずかながら有意差を認めた(15日 vs 16日)。

なお本trial全体の死亡率(22.1 %)は、COVID-19で入院した患者に対する初期の記述的研究において報告された死亡率11~14.5 %より高いため、重症患者を登録したことが示唆される。

 本trialのstudy populationは、登録時の発症からの時間と重症度を考慮すると不均質である。発症後12日以内に治療を受けたsubgroupにおいて臨床的改善の加速(lopinavir-ritonavir群 vs 標準治療群; 16.0日 vs 17.0日)と死亡率の低下(19.0 % vs 27.1 %)が見られたものの、それより遅く開始された場合はそれが見られなかった。「COVID-19における早期のlopinavir-ritonavir治療開始には臨床的な利益があるか」という疑問には、更なる研究が必要である。また本研究の知見は、1. SARS-CoV-2による肺炎患者において、発症後2週間に病勢の進行があったと示した研究, 2. 過去のSARS, 重症インフルエンザへの抗ウイルス薬投与を行ったstudyで時間・治療効果(time-to-treatment effect; 「治療が早めに始まるほど改善があった」ということ)を認めた研究, と一致する。加えて、lopinavir-ritonavir治療群は、標準治療群と比較すると重症合併症がある患者, もしくは 非侵襲的or侵襲的機械的換気を要する呼吸不全の患者が少なかった。これらの観察結果からは仮説を導き出すことができ、特定の病期においてlopinavir-ritonavirを投与することでCOVID-19の合併症を減らすことが可能かどうかを判定する追加の研究が必要である。

 標準治療群と比較して、lopinavir-ritonavirを追加した群でウイルスRNA量, もしくは ウイルスRNAを検出できる期間が減少したという知見は得られなかった。Lopinavor-ritonavir治療群の40.7 %では、trialの最後(第28日)でもSARS-CoV-2 RNAが検出され続けていた。最近の研究では、重症のCOVID-19患者ではウイルス放散期間の中央値が20日であり、最長で37日にもなり得た本trialと過去の研究ではいずれも、lopinavir-ritonavirが有意な抗ウイルス作用を発現させていたという証拠は示されなかった。これの明確な原因は不明確だが、本trialにおけるサンプル採取法が適当で無かったことによる可能性が大きい。例えば本trialではサンプル採取が間欠的(第1, 5, 10, 14, 21, 28日に採取)であり, 最初の5日間でより頻繁にサンプル採取を行えば、急性期における両群のウイルス量のkineticsのより詳細な特徴が判明する可能性があった。更に、重要なことだが、本trialでは下気道検体を採取できていない試験管内のSARS-CoVに対するlopinavirの50 % effective concentrations (EC50)は4.0~10.7 μg/mLである(他の研究ではlopinavirは無効, ないし 25 μg/mL必要であった, と報告)ことは記憶に値する。またMERS-CoVの場合、EC50は5~約7 μg/mLであった。成人におけるlopinavirの血清濃度のピーク値(9.6 μg/mL)とトラフ値(5.5 μg/mL)はいずれも、これらの値に到達している。EC50が妥当な閾値なのか, ヒト血清中の非結合lopinavir濃度がSARS-CoV-2の抑制に有効かどうか, は疑わしい。

 14 %近くのlopinavir-ritonavir群患者が、14日間のコースを終えられなかった。これは主に、消化器系有害事象(食欲低下, 吐き気, 腹痛, 下痢, 急性胃炎)によるものである。また2名に自然治癒型の皮疹(self-limited skin eruptions)が見られた。Lopinavir-ritonavirでは、肝傷害・膵炎・より重症な皮疹・QT延長のriskを含む副作用や, CYP3A抑制による薬剤相互作用の可能性が報告されている。本trialで見られた副作用は、予後改善のためのより高用量の使用, もしくは より長期間の使用に対する懸念を生じさせた。

 なお本trialでは複数のlimitationがある。

  • ブラインド化がされていない。
  • 両群間で患者のcharacteristicsはバランスが取られてるが、lopinavir-ritonavir群での多少高い咽頭ウイルス量は、この群でのウイルス複製が多かった可能性を提示している。
  • グルココルチコイドのような薬物療法の併用は、両群間で差が見られなかったものの、これも交絡因子だったかもしれない。
  • Lopinavir-ritonavir群の患者のうち、咽頭ぬぐい液でRNA陽性であった患者の割合は第14日に約45 %, 第28日に約40 %であったものの、ウイルスの分離を試みたり, もしくは lopinavirに対する感受性が減少したSARS-CoV-2変異型出現の可能性を評価しなかったため、感染性のあるウイルスが存在するかどうかは不明であった。
  • 重症患者におけるlopinavir曝露濃度に関するデータを持っていない。

 「抗HIV薬がいけるんじゃね?」的な『噂話』は私も職場で聞いていましたが、今回こうゆう形で論文が出ました。結論としては、「標準的な治療(低酸素に対する酸素療法, 呼吸不全に対するNPPV・人工呼吸器・ECMO, 腎傷害に対する腎代替療法etc.)をやった場合と大して変わらない。但しもう少し研究が必要だ」ということなのでしょう。