Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

名古屋の10代患者死亡事案に関して色々思った。

 こんばんは。現役救急医です。早速ですが、またもや気が滅入るような、医療関連のニュースが飛び込んできました。日本赤十字愛知医療センター名古屋第二病院(以下、日赤第二病院と呼称)で、昨年5月、10代の患者さんが救急外来を受診後、症状が持続するため翌日に他院を再受診し、そこから日赤第二病院へ紹介され入院となりましたが、その後死亡するという出来事がありました。その事案についてこの度、メディアなどへ公表がなされたということだそうです。

日赤名古屋第二病院(八事日赤)で医療過誤 適切な治療行わず高校生死亡 | NHK | 医療・健康

https://www.nagoya2.jrc.or.jp/patient/iryouanzen/Publication_case/

 メディアの記事・報道の中には、「(救急外来で初診を担当した)研修医が上級医に報告しなかった/誤診した」というふうに解釈されるようなタイトルや文面になっているものがありますが、上記リンクのうち後者(日赤第二病院の公式HPに掲示された報告書)と照らし合わせると、メディアの報道から抜け落ちた時系列があるとしか考えられません。以下、私なりに大まかに時系列を書きます。

 ①-1 患者さんが腹痛・嘔吐を主訴に救急搬送され、2年目初期研修医が初療を担当。CTで胃の過拡張を認めたものの, 採血所見が「正常範囲(※実際は脱水を示唆する所見あり)」と判断され、「胃腸炎」の診断で帰宅となった。

 なおその際、研修医から上級医へ「帰宅可能」の判断に関する相談・報告は行われていない。

 ↓

 ①-2 その後、嘔吐症状が持続したため救急外来再受診と, 電話相談2回が患者により行われた。いずれも研修医が対応し、翌日に近医受診の方針となった。

 ↓

 ②-1 翌日患者が近医を受診し、その結果入院加療が必要と判断され、日赤第二病院の外科に紹介受診となった。

 ↓

 ②-2 同院外科は上腸間膜動脈症候群と診断した上で消化器内科に紹介し、同科で入院開始となった。

 ↓

 ③-1 消化器内科では絶食と補液のみで対応・改善が無い場合に追加検査の方針となった。

 ↓

 ③-2 入院3時間後、冷汗・脈拍微弱・嘔吐のほか、点滴事故抜去・医療スタッフへの危険行為等の症状が出現した。

 ↓

 ④-1 患者家族に来院してもらうことに加え、鎮静薬を投与した。なお鎮静薬投与により患者の興奮等が治まって入眠した後、心電図モニター等の装着はされなかった

 ↓

 ④-2 同日深夜に患者が心停止に陥った。16日後に死亡。

注:私が気になった経緯へ下線を引いておきました。

 こうしてみると、①の段階こそ気になりますが、翌日には近医を受診し、そこから同日中に名古屋日赤第二病院へ紹介受診され入院となっていることが分かります。そして何より私が気になったのは、②〜④の入院後の経緯です。以下、私なりに疑問点などを列挙します。

  1. 上腸間膜動脈症候群と診断されてから入院診療科が決まるまでの経緯:開腹手術や血管内治療, 血栓溶解療法などの適応は無かったのだろうか?
  2. 冷汗・脈拍微弱・興奮などの症状が出現したこと, 及び 興奮等の症状に対して鎮静薬を投与したことについて:「冷汗・脈拍微弱・興奮」といった症状は、循環不全によって引き起こされる症状である。本当は鎮静薬投与よりも、(細胞外液大量点滴に加えて)患者の身体で起こっている病態の再評価, 及びそれに基づく治療方針の再検討が迅速に行われるべきではなかったのか?
  3. 鎮静薬投与後の対応:鎮静薬の副作用として、(種類や投与量によるが)呼吸抑制や血圧低下といったものがある。こうした症状を緊密に確認する必要があり、その観点では「モニターを装着しない」という判断は悪手としか考えられない。

 参考までに、『救急診療指針 改訂第6版』日本救急医学会監修, へるす出版, 2024年; 以下、Amazonのリンクあり)には、上腸間膜動脈(SMA: superior mesenteric artery)閉塞症に関して次のような記載がありました。

https://amzn.to/4cv39QX

https://amzn.to/45yy3Wq

  • 症状:「初期には激烈な腹痛や下痢が出現し、進行すると腸管壊死から汎発性腹膜炎を来してショック状態に陥る」, 「腹痛と比較して筋性防御や反跳痛などの腹膜刺激症状に乏しく、診断が遅れる場合がある」
  • 検査・診断:「血液検査では炎症所見の上昇、腸管壊死に至るとCK, LDH, 乳酸の上昇やアシドーシスをきたす」, 「本疾患を疑った場合には腹部造影CT検査を行う。SMA塞栓症は、(中略)塞栓部位は中結腸動脈分枝直後もMSAが典型とされ、側副血行路の発達は見られない。一方、SMA血栓症は(中略)閉塞部位はSMA起始部2cm以内に認められる場合が多く、長い既往歴を持つ患者では側副血行路の発達が見られることがある」
  • 治療:「腸管壊死が疑われる場合は早急に外科的治療を行う。腸管壊死が疑われなければIVR*による血栓溶解療法を中心とした保存的治療を行うが、加療中に腸管壊死が疑われた場合には機を逸さず手術を行う」

*IVR: interventional radiologyの略。要するに血管内治療のこと。

 あくまで外野に過ぎない私の個人的見解ではあるのですが、『救急外来初診時に研修医が診察し、帰宅の判断を下した』等の経過は、幾重も存在するエラーのうちの1つに過ぎず, 寧ろSMA症候群(或いは閉塞症)と診断された後の治療方針の決定プロセスや, 入院後の患者の状態の評価 にも疑問点が残るように思います。また上述のように、メディアの見出し等もこうした時系列・文脈を十分に読解・反映したものとは言い難く、多くの国民に誤った印象を与えかねないと危惧します

 また、今回の事案は名古屋という大都会の病院で発生したものではありますが、同様の事案は他の地域 − それには地方/田舎も当然含まれる − や他の病院で起こってもおかしくないと思います。今年3月末に大都市部に移住するまで、私は10年近く地方で勤務してきました(初期研修医時代を含めて)。これまでの私のブログ記事やYouTube動画からも分かるように、地方の医療インフラや各病院の診療態勢は到底万全とは言えません。臨床研修病院では、初期研修医が救急外来当直を上級医と行いますが、その上級医が救急診療に対して非協力的だったり, 研修医にロクに助言等を出来なかったり, 上級医も救急診療の能力や知識が不足していたりすることが、残念ながら珍しくありません。また、大学病院の各医局/診療科においても、専攻医ら若手医師への上級医へのフォローが十分行き届いていなかったり, 若手医師が上級医へ相談しない・他科から診察依頼と転科・介入依頼を受けても非協力的な態度を示したり, 上級医も他科からの相談や転科・介入依頼に対して消極的であったりetc.という有様でした。

 また、私が勤務していた市中二次医療機関では、40~50代と経験年数も十分ある筈の看護師が医師への相談・連絡が余りにも拙劣で内容が理解できなかったり, 不正確であったりといったことが珍しくありませんでした。それに輪をかけて、医師も知識のアップデートや医療倫理という概念をどこか遠いところ・遠い昔に置き去りにしてきたような人が少なからず見受けられました。更に、病院上層部(事務長など)は、「『病院の収益アップのために入院患者を増やしてください』と医局会で周知した2~3週間後くらいに『病院の空床が無くなってきているので退院を強化してください』と同じ医局会で述べる」行為を無限ループの如く繰り返している有様。こうして見ると、本当に無様で目も当てられない状況でした。

 ちなみに現在私が勤務している病院では、上述のような医師や看護師は今のところ見当たりません。また、医局会の議題も、「先日救急隊と医師の間でこんなトラブルがありました。地域医療を維持する上で救急隊との良好な関係も重要ですから、今後二度とこうゆうことがないよう注意して下さい」と事務長や院長が通知したり, 医療安全管理部の担当医師が院内で生じた診療上のトラブルについて注意喚起を行ったりといった内容です。即ち、『目先の収益』云々よりも、「地域と当院の診療の質をみんなで向上させよう!」という方向性が見えてくる極めて創造的・建設的な医局会です。

 結局のところ、今回のような不幸な事故の背景には、当該病院の院内診療態勢や, 医療スタッフの心理的・精神的な状況, 医療スタッフの知識・能力や, 医療スタッフに対する卒後教育等々、様々な要素があることが推測されます。そして、これらの要素を左右するものとして、病院の運営方針や, その地域の医療インフラの状態 といったものが考えられるのです。

 加えて、今回の事故に関するメディアの報道の影響により、研修医などの特定の職種に対する社会一般の目線が険しくなり、彼ら・彼女らが診療行為に従事しにくくなったり, 救急診療への従事に対して研修医らが消極的になったり, 研修医に限らず医療スタッフが急性期医療機関から離脱していったり, そもそも医療従事者になろうという若者が少なくなったりする傾向が強化されることが懸念されます。目下、日本国内では少子高齢化による働き手不足, 医療・介護需要の更なる増大, 医療・介護従事者の負担増加や, 医療・介護保険制度の持続が困難になることが懸念されています。これに、現場の医療従事者の離脱や, 医療従事者の新規就職低下などが重なると、日本の医療が文字通り崩壊しかねません。日本が明治〜昭和以前の『自力救済』本位の社会に逆戻りするという最悪のシナリオすら見えてきてしまいます。現場の医療従事者の努力に依存したまま・国会議員, 永田町・霞ヶ関の官僚や, 地方公務員, 地方の首長や議員に全部任せきりでは、こうした『最悪のシナリオ』は回避できません。有権者たる国民が事実関係などを冷静に見極めて思考して議論した上で、明確に意思表示することが必須です。

【医学生の皆様へ】同期・先輩の「臨床 or ◯◯科は向いていないよ」は本当なのか

 皆様こんにちは。現役救急医です。前回の更新からまただいぶ時間が空いてしまいました。新職場には慣れてきたんですが、色々忙しくて更新する余裕がありませんでした。

 実のところ、ブログで色々述べたいことはあったんですが(TVやネットを見ても、喜ばしいニュースよりもイライラするようなニュースがやたらと多いので)、一度くらいは後輩の皆様に役に立ちそうな助言を書いた方がいいかな〜?と思い、今回ブログを更新することにしました。

 

 医学生の皆様は(昔医学生だった医師の皆様でも良いのですが)、これまで同期や部活等の先輩から、ご自分の将来の進路などについて語り合った際に、「お前は◯◯に向いてないよ」と言われたことはありませんか?私自身、ものすごく心当たりがあります。早くて医学部2-3年生の頃に、大して仲が良いわけでもない, たまたま同じ実習班になっただけの同期から、「臨床向いていないんじゃね?研究にでもしなよ」的なことを言われた覚えがあります。その後も、他の同期や部活の先輩から、何かのきっかけに「外科系はやめといた方がよくね?」とか「患者に接する機会の少ない放射線科や病理がいいかもよ」という『お節介』を頂いています。

 さて、そう言われ続けた医学部医学科を卒業し、もう10年以上は経過しました。私のブログ(やTwitter / X)をフォロー中の皆様は既にお気づきでしょうが、私は卒後の初期研修2年間をなんだかんだで修了し, 今も救急専門医として臨床現場で働き続けております。特に初期研修医時代や, 救急科に進んだ当初は、多少の勘違い等々ありましたが、例えば患者さんが死亡する, 重大な後遺症をきたすといったトラブルは遭遇していません。学生時代に私が散々言われてきた「臨床向いてない」・「◯◯科はやめとけ」という同期や先輩の『ご助言』は一体何だったのでしょうか?

 

 結論から言うと、まだ座学(講義, 実験室での実習と試験メイン)と, 病院実習(とはいえ全部見学で、治療方針決定や治療手技に全く関わっていない)しか経験していない医学生に、人様の臨床能力や適性などを判断できる訳がないのです(厳密に言うと、まだ臨床現場に出て日が浅い臨床研修医や, 専門課程に入って日の浅い専攻医にも難しいと思います)。

 

 そもそもの話、私はこれまで何度も臨床現場で、「この人やる気あるのか?」とか, 「研修医など若手の風上に置けないような奴だなあ」とか思った医療従事者と少なからず遭遇してきました(具体例に関しては、以下の過去記事リンクをご参照ください。あくまで氷山の一角ですが)。

大都市部に移住しました - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

職場で頭に来ていること - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

救急医から他科の先生方へのお願い的な何か。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

医学生・研修医を「アンプロ」と言う前に - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

【初期研修医向け】ヤバい指導医の見分け方と対処法【暫定版】 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局は監督者として適格なのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

そうゆう人間が『行くところまで行ってしまった』極端な事例が、近年ネット上で度々話題になっている、件の『脳外科医の竹田くん』です。要するに、先輩ら指導者の助言や各種の教科書・ガイドライン・論文等で収集できる知見を受け入れ、その上で自分の思考や行動のアップデートに繋げるという一連の流れを実践できず, 且つ 患者とその家族とのコミュニケーションや、同科ならびに他科の医師, 看護師や技師などの他職種とのコミュニケーションが機能していないような人間が臨床現場で問題を起こすのです。

 言い換えると、仮に学生時代に何らかの課題や欠陥を抱えていたとしても、1) 指導者の助言や各種の教材・講義などを通じて得た知識を吸収し、かつそれを自分で実践できる, 2) 患者とその家族や職場の同僚とのコミュニケーションが円滑かつ正確に出来る という2条件を初期研修の2年間や, 専攻医課程の初期で十分習得できればそれで良いのです。また、特に1)に関しては、組織内で指導者(≒先輩や上司ら)が、若手の監督を満足にできる態勢が完成されているか, 監督者の言動や人格などに問題が無いか, といった点も重要であると思います。前回の『竹田くん』関連の記事でも指摘していますが、問題を抱えたスタッフの行動が患者や周囲のスタッフへ与える負の影響を打ち消したり, 最小限に抑えたり, そうした行動に対して再教育(あるいは懲戒解雇を含む制裁)を行うことは、その組織の上層部や監督者の重要な役割です。

 『竹田くん』はあくまで極端な事例でありますが、それでも私はこれまで大学病院・医局や市中病院内での卒後教育・監督態勢について色々な問題を感じてきました。また、私の知っている範囲での話ですが、米国では医学部在学中に受験する国家試験(USMLEのSTEP1)の成績によって卒後に選択できる診療科が左右されます(それに対して日本は、基本的に本人の希望を医局側がほぼ全例受け入れるような形で事が進みますし, 診療科別・地域別に明確に人数の枠が指定されている訳でもありません)。加えて、所謂『進学校』や予備校の中には、「理系で成績が優秀」というだけで医学部医学科への進学(一般入試や推薦入試, 地域枠など)を勧めて、本人や保護者をその気にさせてしまう側面もあると思います。まだ18歳以下の高校生に成人後の社会経験などあるはずも無く、学校や予備校の教師・講師とて医療現場の経験などある筈がありません。また教師・教員側が、「医学部に行きなよ!」と応援したくなる生徒の『選択基準』に何らかのバイアス(e.g., 体育祭・部活動・生徒会などでの『活躍』が目立つ方に注意が向くなど)が掛かっていることも十分考えられます。卒後の指導・教育態勢だけでなく、医学部入学前から医学部入学後の進路指導や教育のあり方にもそろそろメスを入れてもいいのではないでしょうか

医局肯定派の皆様へ提案。米国式メディカルスクールはどうですか? - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

また例の医師が話題になっているけど

  いつもお世話になっております。現役救急医です。諸事情によりめちゃくちゃ忙しく、ブログ更新が停止(YouTubeなんて完全放置)していましたが、数日前、気になる話題がネット上に浮上していたので、私なりの思いの丈?を綴ろうと思います(正直、ブログを更新する時間・労力も勿体無いくらいの一大イベントを控えているんですが…)。

 以前、私は具体的な固有名詞の言及を避けた上で、ある『事件』についてこのブログで持論を展開していました。何故固有名詞を出さなかったかというと、当該事件について暴露(?)した漫画について色々な懸念を抱いていたからです。

【久々の更新】SNS上で話題になっている医療系漫画のことについて。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

しかしこの事件、所謂『続報』が出てきているのです。こうして周知の事実(?)となった以上、曖昧な言及だけに留める必要性が薄いと思うに至った次第です。

 とりあえず、その『続報』についてできる限り簡潔に紹介します。まず今年2月頃、大阪府内の病院へCOVID-19治療のため転院した患者が、慢性腎疾患のため透析が必要なのに転院後透析を受けていなかったため死亡した事案について、患者家族により訴訟が起こされたという報道がなされました(以下の『赤穂民報』の記事)。その後、今月に入り、別の医療機関へ転職した同じ医師が、その医療機関でも問題を起こしているという記事がネット上に掲載されました(以下の『現代ビジネス』の記事2件)。

赤穂民報|元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か

「指に針を突き刺して…」決死の内部告発!『脳外科医 竹田くん』のモデル医師が吹田徳洲会病院で「デタラメ診療」連発、院内は大混乱(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

「人として最低限のルールさえ…」なぜ『脳外科医 竹田くん』モデルは医師を続けられるのか? 吹田徳洲会病院の院長が語った「驚愕の言い分」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

 特に現代ビジネスの記事は、週刊誌によるもの(私見ですが、大手新聞紙よりも芸能人らの私生活暴露云々といったしょーもないネタや, 健康・医療に関連したdisinformationが大好きな媒体であるように思います)ですから、私は疑いの目を持って目を通しました。それでも、「これはどう考えてもダメでしょ」と感じるような内容が列記されていました。曰く、「患者本人を直接診察せず, かつ 画像・検査データすら確認せずに入院させている」とか, 「院内で喫煙や飲酒をしていることが強く疑われる」とか, 「遅刻常習犯だ」とか。誇張の可能性を完全に否定することは正直難しいとは思います。しかし、「直接の診察などによって患者の状態をロクに確認せず、指示を出す」という医師を私は実際に何度も見てきておりますので、『現代ビジネス』の記事の内容についてある程度、信憑性があると思わずにはいられません。

 そして私が愕然としつつ、「まあそうゆう人間も居るよねえ」と思ってしまったのが、問題の医師を擁護しようとする上司の存在です。実際、これまで私はこのブログ(やYouTubeチャンネル)で、医局制度等、日本の医師の教育や人事に関わる機構が欠陥を抱えるが故の様々な事件や, 実際に直面したトラブルを紹介し、欠陥の修正を自分なりに提言してきました。

東京女子医大の混乱から日本の現状を憂う - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

私は不思議でなりません。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本の医療の人材育成が抱える課題 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局は監督者として適格なのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 大前提として、人間は誰であれ大小のミスを犯すものです。医療の場合、それが他者の身体・健康・生命に影響を及ぼしかねないので問題になるのです(その点では、自動車の運転や船舶・航空機・電車等の運行なども同じだと思いますが)。本来人間は、犯したミスについて学習し、それにより自分の思考や行動を修正することで、それ以降、同じようなミスを犯さないようにします(或いは、する筈です)。そして、そのようなプロセスは個人レベルに留まらず、集団(例:部署, 会社, 病院, 官庁など)レベルで機能することが理想的です。

 しかし、上記の事件はどうでしょうか。問題の医師の言動は、自身の過去のミス等について真摯に向き合って行動・思考を修正した結果とは思えません。彼の上司や病院上層部も、彼を「育てる」等々言いながら、実際にどのような介入をしているのか全く見えてきません(かといって彼の上司らが週刊誌の記者にペラペラ喋るとも思えませんが)。これまで起きた様々な診療上のエラー/ミスについて、問題の医師が教訓を得ていないのであれば、「何故学習できないのか」を解明する必要もあると思います。患者の身体診察や検査結果等をそもそも確認すらせずに治療等をやる(そしてそれを繰り返す)医師について、何らかの懲罰, ないし 強制的な再教育を執行する制度は必要だと思います。また、アルコール等への依存により診療業務に支障が出ている場合、それこそ専門医による治療が必須ではないでしょうか。

 上記の『事件』は、問題を起こした本人『個人の』レベルのみに着目すると、問題の根幹や, 肝心の再発防止策を見失いかねないと思います。彼を雇用し擁護し続ける病院という『組織/集団』レベル, 及び 日本国の医師免許, ないし 専門医制度という『政府/国家』レベルでの再発防止策こそ真剣に考えるべきです。

大都市部に移住しました

 読者の皆様へ

 お久しぶりです。忙しさにかまけて(?)またブログ更新が止まってしまいました。まあ正確には、現実逃避の手段としてブログに色々書き殴っていたのですけれども、諸事情によりそんな暇が無くなったんで(+飽きも来ていたし、ネタが払底していたから)書かなくなっていただけです。

 過去の記事でも少々言及しましたけど、家庭の事情で地方の医局・病院を離れて転居し、大都市部の病院に転職しました。住居も病院の結構近くが見つかったのでそこに住んでいます。「どのようにして病院を見つけたのですか?」と訝る方もいると思いますが、また機会を改めてお話しさせてください(いつになるか未定ですけど)。

 まだ大都市部の病院に来て3週間程度なのですが、これまで勤務してきた地方の病院との違いに気付き、色々と思うことがあったのでここでシェアさせて下さい。

 

 ①医師について:大学病院と田舎の二次医療機関で共通していたのは、端的に言って「模範的ではない、寧ろ非倫理的とも取れる言動をする医師が散見される」ことです。これまでこのブログで何度か具体例示してきましたが、専門診療科医師による介入や精査が必要なのは明らかなのに渋ったり, かかりつけの患者だからとか、状態的に3次医療機関で対処しないと救命できないから救急搬送を応需したのに、「なんで受けたんだ」といちゃもんを付けてくる医師が珍しくありませんでした。

 今の所、新勤務先ではそうゆう医師が見当たりません。また、些細なことで不機嫌になって怒鳴り散らしたり, ネチネチと罵詈雑言の類を垂れ流す医師も見当たりません。病院医局の空気が一気に綺麗になった感じがします。

大学病院・医局は監督者として適格なのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 

 ②看護師について:これは特に田舎の二次医療機関で顕著だったのですが、40歳代とそこそこの社会人経験(或いは卒後年数)があるはずなのに、医師への報告がメチャクチャで、一体何を相談したいのか理解できなかったり, 報告したい内容が不鮮明だったりしたことが珍しくありませんでした。また、私が病棟や救急外来などでの診療行為や体制などについて「これはこうした方がいいですよ」と助言しても、(上層部を含めて)大半はその意味も理解できず(或いはしようとせず)、従って実践もなかなかできない人間でした。私のフィードバックを常に期待し, 定期的に開催するレクチャーに毎回顔を出して積極的に質問をしてくれて, そうして学んだ内容を実践しようとする、所謂『意識の高い』看護師らが居たのは事実ですが、少数派だったので、なんとなく孤独感や息苦しさを感じていたものです。

 ですが、新しい職場は今のところ、20~30代くらいの若い看護師でも医師への報告や相談は内容が十分理解可能であり, 私ら医師からの指示・助言もちゃんと理解できており、従ってこれらの指示や助言を満足に実践可能である印象を受けます。

voiceofer.hatenablog.com

 

 ③薬剤師について:地方の二次医療機関では、薬剤師の言動に首を傾げることが多かったです。具体的には、新卒2~3年目くらいの薬剤師が、医師には敬語などで疑義紹介をするにも関わらず、看護師に対しては年齢差等お構いなしでタメ口で話し, 場合によっては攻撃的な口調で話す事例が散見されました。他にも、疑義紹介の内容がすぐに理解できないくらいまとまっておらず、「一体何が言いたいのですか?」とキレそうになりながら傾聴することもありました。

 新勤務先では、そうゆうことは一切ありません。薬剤師の提案も、ちょっと表現が難しいのですが、『専門性』を強く感じさせるものが多く, もの凄く助かっています。フットワークが軽く、よく病棟や外来に顔を出しておられます。

 

 ④事務職員について:前もブログなどで愚痴っていたかもしれませんが、地方の二次医療機関などでは、地域連携室や医事課の職員の言動や依頼内容などに苛立ちを禁じ得ないことが少なからずありました。また、書類作成の業務は頻繁に医師へぶん投げられていました。

 新しい職場では、事務職員が我々医師や, 看護師の業務負担軽減を意識しているのか、率先して書類を作ってくれて、後で医師が内容を確認してOKを出すだけで済んでいます。

voiceofer.hatenablog.com

voiceofer.hatenablog.com

 

 こうしてみると、地方と大都市部での格差を感じずにはいられません。大都市部が人口という面において地方より有利であることは否めず, また経済活動や自治体の予算規模なども人口に比例していることは容易に推測できます。才能や, やる気のある人間は、自らの才能を遺憾なく発揮でき, 好きなことを十分にやれる環境を自ずから求めます。その点では、地方よりも大都市部の方が環境が整っていると認めざるを得ません。そうやって地方から有能な人間, 或いは 向上心がある人間が出ていき、後に残るのは、才能も『イマイチ』で, 自身の知識や技能を向上させる意欲があるのかすら怪しい人間ばかりです。このようにして、地域間で格差が生まれているのではないでしょうか。

 少子高齢化と, それが今後の日本経済や社会保障制度などに及ぼす影響, 及び それに対する政策について、今日に至るまで色々な議論がなされておりますが(その癖、ロクな打開策も講じられていないし, 国民間で十分議論が為されているか甚だ疑問)、いずれにせよ大都市部でも、地方で起きているような『(有能な)人材が居ない』という課題が生じるのは時間の問題と思います。先日言及した移民に関する課題(難民の問題もですが)も、「日本はこれまでうまくやってきたから、これからも何とかなる」という思い込みや, 「◯◯人は犯罪者だ, ▽▽人とは到底理解し合えない」等の人種的な思想(或いはstigma)を排除して議論すべきではないのでしょうか。もう日本全体で、人材の払底が始まっていると思わざるを得ません。今は地方で顕著になっているだけであり、全国津々浦々で深刻な障害を来すのは時間の問題ではないでしょうか。