Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

自由診療トラブルの話題

 こんにちは。現役救急医です。久々の更新です。ブログ更新も、忙しい・ネタがない・面倒とかでついついサボりがちです。申し訳ありません。

 実は昨晩(2025/3/29)にNHK Gで夜10時に気になる番組をやっていました。

追跡 自由診療“ビジネス”トラブル続出の美容医療 そして - NHKスペシャル - NHK

厚労省により処置・手術・処方内容等について価格が設定され, 文字通り公的保険によるカバー対象になる『保険診療』には含まれない、『自由診療』で近年多発する合併症等のトラブルを追跡する特集でした。当該番組でも説明していましたが、『自由診療』はクリニック・医療法人側が好きなように各々の処置・手術等の価格を設定できます。今回、この番組で取り扱われていた『自由診療』は①美容医療 と②再生医療 の2つでした。

 ①の美容医療で実際に発生したトラブルとして、番組内では 鼻の形を整える手術を受けた後、鼻の穴が変形して呼吸がしづらくなった, 豊胸術を受け、乳房の中に人工物を注入されたが、海外で有害事象が報告され使用しないよう勧告が出た物質であり、後になって慢性的な乳房の痛みに悩まされるようになった, 瞼を二重にする手術を受けたが、施術を繰り返された上に瘢痕ができた, といった事例が挙げられていました。

 これらの治療を患者に勧めて受けさせたクリニックも、「担当医が辞めてしまったので対応できない」と対応しなかったり, 苦情申し入れに対してまともに取り合ってもらえなかったのでGoogle等の口コミに体験談を書いた患者さんに対して、担当弁護士を介して「口コミを削除しないと訴える」と脅迫したり, という対応をしており、私は我が目を疑いました。こうした合併症に苦しむ患者さんを救うために専門外来を開設し、異物の除去や変形した皮膚・組織の修復をする手術を行う専門医もこの特集に出ており、合併症事例を診ながら「なんでこんなことをするんだ」・「言い方が悪いが、自分がやっていることは尻拭いだ」的なことも述べておられました。他に、20~30年間くらい美容外科診療に従事している専門医もこうした事例を見て、「近年ビジネスライクな診療に偏り、患者側の安全を軽視する医師やクリニックが増えてきて困惑している。真面目にやっている自分たちまで同じ括りで見られてしまう」と述べておられました。

 なお、こうした美容形成手術は自由診療であるので、合併症の治療も自由診療(公的保険が効かないので患者の自己負担)です。中には「そうゆう治療を受けると決めた患者本人の自己責任じゃね?」という方もいらっしゃるかもしれませんが、こうしたトラブルを起こした美容医療クリニック/法人は大抵、医師ではないカウンセラーがまず患者さんの要望を聞き、治療方針を提示して患者に選択させます(注: 治療方針を患者に説明・提示して、患者の同意を得るのは本来医師のみに許された業務です)。患者さんはカウンセラーに勧められるがままに治療法を選択し、その治療法を医師が施行して行くわけですが、多くの場合、美容医療クリニック側は、より多くの利益を得るために必要以上に高額なプラン(手術回数が多い etc.)を提示します。要するに、患者側の要望を聞いたフリをして、より安全な(そして確実な)治療計画ではなく, より多く料金を巻き上げられる治療計画を敢えて提示して(i.e., 他の選択肢を提示しない, 合併症のリスクについての説明をしないorテキトーである)、巧妙に(場合によっては強引に)患者を納得させているのです。

 こんな状況で術後に合併症が起こり, それを相談しても対処してもらえない…美容医療以外の診療科・医療機関でこうゆう対応が全くない訳ではないのですが、医療倫理的にもあり得ない対応です。正直なところ、他の医療機関も、こうした患者さんが駆け込んできても「元々施術したところで対応してくれよ…」と思うところが正直多いと思います。患者さんの利益を第一に考えて、そうした事例を積極的に受け入れようとしている専門医の先生方には、(医療者として当然の心構えかもしれませんが)尊敬の念を表したいと思います。とはいえ、こうした後遺症の治療費すら全額負担を強いられ二重の支出を強いられる患者さんが一番理不尽な思いをしていると思います。今後、元々施術を行ったクリニック・法人に、資産を差し押さえてでも全額負担させる制度が必要だと個人的には思いました。

 他にも、自由診療で再生医療(上記②)のクリニックを受診し治療を受けたが、高額の支出の割に期待通りの効果が得られなかった患者さんの事例も番組では取り扱っていました。「そうしたクリニックを選んだ患者側の自己責任だ!」と言う方もいるでしょうが、そもそも治療法の選択肢を提示する際に、患者側に誤解を与えるような説明を故意に行っている医療従事者側にこそ問題があるとしか言いようがありません。緊急時には事前の同意取得ができない(迅速に対処しないと、患者さんが死亡してしまう, 或いは 身体機能が不可逆的に損なわれかねない)場合が多いとはいえ、基本的に我々は患者さんに治療方針を説明する際、その目的と根拠, 治療の内容, 予想される合併症・副作用(稀なものも含めて)を示して理解を得るようにしていますし, 「この治療法以外も選択できますよ(e.g., セカンドオピニオンや, 敢えて経過観察する etc.)」, 「治療しないという選択肢をした場合、こういったことが予想されます」等の内容も併せて説明しています。こうした基本的なことをしないで、医療提供側の利益や自己満足だけのために患者へ説明を行い同意を得る、というのは単なる逸脱行為です。

 いずれにせよ、自由診療業界に対しては、自浄作用を強化して欲しいと思うとともに, 国に対しては、合併症・トラブルに遭った当事者に対する有効かつ公正な救済策と, これ以上の被害が広がらないための政策を早急に立てて欲しいと思っています。

医師偏在・直美の背景に何があるのか

 こんにちは。現役救急医です。転職して居住地もガラッと変わり、もうすぐ1年が経とうとしています。この節目に、これまでの私の経験を元に、現在日本で問題になっている地域や診療科ごとの医師の偏在や, 直美(初期研修終了後ほどなくして美容外科分野に進むこと)の原因について自分なりに考えてみようと思いました。ひとまず、以下に要因やその根拠(私の経験談や憶測など)を列記していきます。

 

①医学部入学者の選抜過程の課題

 医学部医学科に入学する人間は、私のように中学校など早い段階で医師になることを熱望していた少なからずいます。その反面、中には「成績が優秀」というだけで高校・塾・予備校の教員や保護者から医学部医学科受験を勧められて(教員が勧めるのは、自校ないし自塾の進学実績をよく見せるためなのは明らか)受験した者もいます。加えて、医学部入学前〜在学中にかけて「自分は医師になった後、何をしたいのか」という目標が不明瞭なまま(在学中や卒後に変遷することは少なからずありますが)卒業し医師になってしまう場合もあります。

 私が医学部に入った2000年代から医学部医学科定員は増やされ、その後地域枠も導入されています。このような政策で医学部医学科に入る人間が増えたことで、上記に挙げたような「将来医師になって、成し遂げたい明確な目標が無い/曖昧である」という人間が医学生や医師の中で増えてしまった可能性があると私は思います。保護者や教員は、単なる進学実績の水増しや, 我が子への過剰な期待だけを理由に、子供の医学部進学を安易に勧めるべきではありません。

②各診療科における労働環境の差や給与体系などの課題

 診療科や部署によって、医師を含めた医療スタッフにかかる負荷や, 労働時間などは大きな開きがあります。重症患者を担当すればするほど、必要な処置や, 症状・症候を監視する時間や回数, 担当スタッフの負担は増えていきます。外科系診療科の中でも、手術の難易度や手術時間, 術後管理の難易度などの差が大きいですし、内科系診療科でも、循環器内科のようにカテーテル検査・治療(緊急を含む)が多かったり, 消化器内科のように内視鏡などによる検査・処置が多かったりする診療科がある反面、そうした手技がほとんどない内科(糖尿病内分泌内科, 膠原病内科など)もあります。

 最近のコンプライアンスを求める風潮もあり、当直手当, 残業代やオンコール待機料などをちゃんと支払う病院も出てきていると思われますが、手術件数ないしその難易度・手術時間がどうであれ, 病棟や入院患者数が何人いようが, あるいは 重症患者を何人担当したか・どれくらい時間を取られたか等に関わらず、医師や看護師に対し手当の上乗せはされないのが一般的です(医療法人あるいは病院により対応が異なるかもしれませんが)。

 このような有様では、外科系でも難易度の高い手術が多い・手術時間が多い・術後管理も難しい診療科(心臓血管外科, 脳神経外科, 消化管や肝胆膵外科)や, 特に侵襲度の高い処置・検査の機会が多く、重症患者を担当する頻度が高いであろう内科(循環器, 消化器, あと見方によっては脳神経内科)などが敬遠されることは不可避でしょう。精神論だけで乗り切るのは限度があります。医療スタッフの給与体系を抜本的に見直すべきです。

③医療政策上の課題

 これまでこのブログやYouTubeチャンネルで度々指摘してきたように、依然日本各地では急性期医療機関が1地域内に複数点在しているものの, 各病院では必要最小限あるいはそれを下回る人員で診療を継続している場合が多いのです。その上に、加齢や燃え尽き, 家族の看病・介護, 家族の進学や転勤などをきっかけに医療スタッフが離職すると、すぐに病棟ないし診療科のキャパシティが低下し、診療継続が難しくなります。

 これまで何度か私が主張してきたように、急性期病院の集約化が必要です。患者側/一般市民側にしてみれば、自宅近くに病院があるという『安心感』は譲れないところかもしれません。しかしその病院の内部事情は、上記のようにギリギリの状態でかろうじて診療を継続しているような状態です(中には破綻寸前のところも)。そんな状況で、患者へ提供する診断や治療の質が最善のレベルに維持できるでしょうか?メディアや一般市民は、見せかけの安心感よりも、疾病に罹患, あるいは 大きな怪我をした際に医療機関で受ける診療の『質』や『安全性』の維持についてもっと注意を払うべきです。

 なお、有権者の代表として機能するのは都道府県や市町村, 国の行政機構・立法府です。情報公開, 普通選挙, 国民に選出された議員による議論と立法などは、今や我が国に欠かせない民主主義の根幹の一つです。国民の理解と同意がなければどんな政策も本来は実行ができません。民主主義に懐疑的な風潮もありますが、情報の改ざん・隠蔽や、議論・意思表示の機会の制限, 報道の制限などは権力の腐敗を放置することになり、遅かれ早かれ市民の生活を圧迫し, 国家機能すら障害しかねません(ウクライナ侵略をいっこうにやめないロシアや, 長年の独裁体制において麻薬製造密輸ビジネス等で私服を肥やし、その反面、抑圧的な統治や汚職の蔓延に抗議する市民を虐殺した挙げ句の果てに、反体制派の蜂起で瞬く間に崩壊したシリアのアサド政権, そして昨今の北朝鮮やミャンマーの情勢などを見れば、日を見るよりも明らかですよね)。その反面、各地の首長や内閣の閣僚・総理大臣は、自身の支持率等を気にして、国民の反感を買いそうな「医療機関を集約化します」とは言えません。要するに、必要な政策と, それに際し必要な国民的議論をポピュリズムが妨げているのです。

④各地域・医療機関の卒後教育体制の課題

 これもまた私がブログやYouTubeで指摘してきたところですが、病院や地域によって、指導医・上級医の診療の質 或いは 後輩への指導・教育の質の開きが激しく, 組織や地域によって初期研修医・専攻医への指導・教育体制の質も差が著しいのです。奨学金・地域枠の規定のため, 「なんとなく」, 或いは「地域に貢献したい」という意思があって医学部卒業後ないし初期研修後に地方に残る医師もいる反面、自分の能力を伸ばすために教育・指導の質に評判のある大都市部の病院や有名研修病院へ就職し、そのまま同地で働き続ける医師もいます。特に後者には向上心が高い人間が多い印象を受けます。

 病院や地域を問わず、初期研修医・専攻医への教育・指導の質を可能な限り高く維持し, 格差を縮める努力が必要です。その為には、厚労省だけでなく各学会や医師会, 各大学などによる、組織の縦割りにとらわれない取り組みが不可欠でしょう。指導能力のない施設や医師から、改善されるまで指導医や教育施設の資格を停止するなどの政策も今後必要となるかもしれません。

⑤医療スタッフの人事評価上の課題

 衆人環視で部下や他職種・他科スタッフなどを怒鳴りつける, 相手の失敗を指摘する際に人格否定まで行う, 他人の身体を殴ったり、蹴ったり、同意なく掴んだりするハラスメントは、それを受けた相手に重大な精神的負荷をかけます。これが恒常的に繰り返されることで、診療を進める上で必要な報告・連絡・相談を躊躇するスタッフが出てきてしまい、その結果患者の合併症や重症化が見逃されたり, 耐えきれなくなったスタッフが離職して診療継続が困難となったりするリスクがあります。

 最近は徐々にハラスメントへの対応が社会全体として厳しくなってきているようですが、こうした人間は、地位や性別, 年齢に関係なく、懲戒免職や職場での行動範囲・業務内容の制限などの処分を行い、かつ民事訴訟並びに刑事訴訟の対象にすべきでしょう。加えて、こうした人間は、現行の大学入試制度などで十分フィルタリングできていないと思われます。こうした人間は大抵、教師や保護者などの見ていないところで同級生や後輩, 女性などに加害している反面、教師や保護者の前では模範的に振る舞い好印象を与えているのです。義務教育課程や高校教育課程での生徒の素行評価のやり方を見直すとともに, いじめ事例に対しては例外なく警察を介入させ、加害生徒にいわゆる少年法を適応することにより「他者の尊厳・身体・財産を蹂躙した者は法に則り罰せられる」ということを青少年期から学習させるべきです。

 

 地域或いは診療科によって医師などの数が偏在している、という課題は何年も指摘されていますが、未だ改善の兆しすらありません。その背景には、私が挙げたような上記の課題以外にも色々なものがあると思いますし、国や都道府県・市町村の政策が見当違いであることも否めません。しかし一番大きいのは、メディアによる問題提起が不十分であること, 国民の関心が低いこと(自身の給与や保険料・税金などの支出, 電気・ガス・ガソリン等の料金, 物価などの目の前の生活や経済が最優先)であると思います。

超久しぶりに更新します

 長らく更新の間隔が空いてしまいました。現役救急医です。読者の皆様にはご心配をかけてしまい申し訳ありません。ちゃんと生きていますし、仕事もしています。実のところ、このブログを更新する原動力に、日々の診療の中で感じる不満があったことは否めないのですが、大都市部に移住して働きやすい環境になったせいか、ここに書くような不満や批判がだいぶ減っていたと思うのです。

 久々の更新ですので、医療界のことについてだらだらと私見を綴っていこうと思います。昨年から、医療従事者の間で『直美』というフレーズが頻繁に聞かれるようになり、程なく新聞やTV番組等を通じて一般市民にもその存在が知られるようになりました。既に周知のフレーズなのでここでの説明は軽く流しますが、医学部医学科卒業後2年間の初期研修が終わって直ぐに, ないし 数ヶ月程度で専門医課程を離脱して, 美容外科に所属してしまうという現象のことです(言うまでもないかと思われますが、美容外科は保険診療ではないです)。

 通常であれば、初期研修終了後は内科系・外科系(ここでは消化管・肝胆膵, 心臓・血管外科, 脳外科, 小児外科以外に、整形外科や産婦人科も含む)・小児科・その他の麻酔科, 耳鼻咽喉科, 精神科, 放射線科, 眼科, 病理診断科等の診療科の専門医課程に進み、各診療科の専門医資格取得を目指します。その過程で各大学病院医局に所属する必要がありますが、その医局の人事により関連病院へ一定期間(数ヶ月〜数年程度と様々)派遣となることもあります。

 そうした『従来の/通常の』進路が益々敬遠されるようになっているのです。彼ら・彼女らの動機は各々異なると推察されますが、

  • 大学病院・市中病院, 或いは国公立病院・民間病院を問わず、外来や入院の患者数, 重症患者を担当した回数, 勤務時間, 手術や検査・処置の回数が増えても、必ずしも医師や看護師の給与が増える訳ではない
  • 医師の働き方改革が始まっているとはいえ、中央省庁の官僚の机上の空論であるため現場の医療従事者がその効果を感じるに至っていない(過重労働が解消されていない)
  • 急性期医療機関の集約化が進んでいない(1地域内に急性期医療機関が複数散在しており、それぞれの医療機関で必要最小限ないしそれ以下のキャパシティで診療をなんとか回しているような状況が持続している)
  • 大学医局や地域, 病院によっては、若手医師への監督・教育態勢が機能しておらず、指導医の診療能力が劣っている場合もある
  • 大学医局や地域によっては、自分のステータス(卒業年数や地位, 性別など)を利用して後輩や他職種・他診療科へのハラスメントが横行している場合がある

といった要因があると私は思っています。美容医療の場合、グループ・施設によってはハラスメントが横行している可能性もありますし, 報道にもあるように手術後の合併症への対応が杜撰で患者に不利益が及ぶ事例も現実に見られていますが、基本的に入院施設が無いので当直・オンコールは無し, 給与体系も(おそらく)症例数が多いほど報酬が増えるような体制でしょうから、そちらへ足が向いてしまうのは無理も無いでしょう。

 逆に言うと、上記に挙げたような課題を是正しない限り、仮に『直美』を出来ないように規制しても、また別の業界(例えば、効果や安全性について十分な検証を経ていない治療法をあたかも「効果があり安全だ」と宣伝して勧める自由診療。抗癌剤・手術・放射線療法等を否定する癌治療や, ワクチンの効果を全否定し有害性を前面に出す主張などが典型例)に流れてしまうのがオチではないでしょうか。

 厚労省や政治家, メディアはもう少し、こうした背景をしっかり吟味して、国会や省庁での議論を行い、かつ国民間の議論も促すべきなのです。また一般市民もメディアも、政治家も、感情論に至らず, 事実関係・相関関係を正確に把握した上で議論を深めルべきです。

最近読んだ本の紹介:『工作・謀略の国際政治 世界の情報機関とインテリジェンス戦』(黒井文太郎 著, ワニブックス)

 久しぶりの更新です。色々忙しくて、また更新が止まってしまいました。相変わらず暑いですね。今回は、最近購入して読んだ本を紹介しようと思います。

『工作・謀略の国際政治 世界の情報機関とインテリジェンス戦』 黒井文太郎 著, ワニブックス

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 この本の著者である黒井文太郎氏はXにアカウントを持たれており、時々ロシアのウクライナ侵略等がテーマのTV番組へ情報機関に関するコメントをするため出演されている方です。この本は題名が示すように、目まぐるしく変わる国際情勢 − 特に戦争・武力紛争や軍事的緊張など − の背景で、情報機関がどのような役割を果たしているのかについて、これまで判明している情報(主に国内外メディアの報道や, 各国政府の報告書など)を基に分析するものです。

https://x.com/BUNKUROI

 この本ではまず、昨年(2023年)10月のハマスによる大規模攻撃とイスラエルによる報復攻撃を受け、最初の章でイスラエルの対テロ・諜報を担当する省庁・部隊などを紹介するとともに、イスラエル側が何故こうした大規模攻撃を事前に予知できなかったのか・攻撃拡大を阻止できなかったのかについても分析しています。その次の章では、2014年のロシアによるクリミア半島『併合』・ウクライナ東部での戦争誘発, 及び 2022年からの本格侵攻に関連し、ウクライナ側の情報機関やその麾下の部隊, それらが果たしてきた役割や、米国等の情報機関との連携について紹介・分析しています。

 他にも、中国や北朝鮮の対外情報戦や国内で自国民を監視・抑圧するための仕組みや, 上記のガザ侵攻を契機に再び注目を集めているイランとハマス・ヒズボラ等中東各地の武装組織との関係性, インド・ベネズエラ・サウジアラビア等、近年ニュースのヘッドラインで話題になった国々の情報機関の活動のほか、日本の情報機関の現状や今後日本が行うべき対策等についても述べられています。

 実は私はこの本を全部読み終わっていないのですが、新聞やニュース, ネットニュースを読むだけでは知り得ない、色々な豆知識(?)が載っていて大変勉強になりました。また、私が個人的に最も衝撃を受けたのは、中国の新疆ウイグル自治区でウイグル人を対象に行なっている監視・行動制限です。ウイグル人全員のスマートフォンに監視用のアプリのインストールを義務付けてメッセンジャーアプリや電話での通話・交信の内容や連絡先などを監視したり, 監視カメラやAI・顔認証システムを使用して行動を追跡したりして、単に「信仰心が厚い」とか、「国外に親戚や知人が居て、その人と連絡を取っていた」だけで要注意対象となって警告を受けたり, 収監されたりしているようです。

 この方の最近の著書には他にも、主にプーチン政権下でのロシアにおける情報機関の活動や国内での検閲・監視体制などについて記した著書『プーチンの正体』(宝島社新書)がありますので、そちらも是非チェックしてみてください。