Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

米国ではどうなのか? − ファイザー製ワクチンの有効性低下について

 みなさんこんばんは。現役救急医です。過日、私はこのブログで「カタールの全国規模調査で、ファイザー製コロナワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性が、2回目接種後1ヶ月以降から6ヶ月後にかけて減少し続けている(但し重症化に対する有効性は維持されている)ことが示唆された」という論文を紹介しましたが、今度は同じ話題で書かれた米国の論文も紹介してみます。この論文は今年10/4に、Lancetへonline発表となったものです(Lancet 2021;398: 1407-16. https://doi.org/10.1016/S140-6736(21)02183-8 )。

(1) Introduction

 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2 mRNAワクチンは、アルファ株流行下でも、SARS-CoV-2への感染や, 入院, 死亡を減少させる効果が認められていた。

 今日まで、ファイザー製ワクチンは全ての懸念すべき変異株に対して十分量の中和抗体を産生させることが示されている。また、同ワクチン2回接種は特に、アルファ・ベータ・デルタ株による重症化に対して高い有効性があることが示されている。

 2021年6~7月以降にデルタ株が世界的に流行して以来、ファイザー製を含む各種コロナワクチンの有効性低下の報告が現れている。

 しかしながら、デルタ株の流行が感染への有効性低下・ブレークスルー感染(≒定められた通りの回数のコロナワクチンを接種した後のSARS-CoV-2への感染)率上昇の主たる要因でない可能性がある。イスラエル・米国・カタールでは、優先接種された人たちが2回目接種後6ヶ月に達した時期にデルタ株が拡散していた。つまり、ワクチンが誘導した免疫の減弱は、有効性低下の報告に関して考慮しておくべき重要な要素である。

 デルタ株流行下でのワクチン有効性の研究は、免疫減弱の可能性と, デルタ株の影響を十分に差別化できていない。この差別化は、3回目接種の必要性を周知させ, また将来的にワクチンに使用する抗原をどうするか決定する為に不可欠である。この研究は、ファイザー製ワクチンの感染・COVID-19による入院に対する全体的な有効性と, 変異株別の有効性を、時間経過を追って評価したものである。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は後方視的コホート研究であり、Kaiser Permanente Southern California(KPSC) health-care system(病院グループ?)の電子医療記録を解析することで行った。

 KPSCは470万人を超えるメンバー(契約者?)を抱えており、社会経済的背景, 人種的背景も多様である。

② 参加者について

 12歳以上のKPSC契約者全員が対象となった。この研究の対象期間は、KPSC契約者へのファイザー製ワクチン1回目接種が開始された期日に相当する。1年以上KPSCと契約している契約者であれば、この研究に参加可能であった。臨床研究参加除外を求める記載がある患者は除外された。KPSCの枠外でコロナワクチンを接種した参加者のデータは、カリフォルニア州の接種記録から取得した。

③ ワクチン接種について

 カリフォルニア州では、コロナワクチン接種を行う者は、24時間毎に接種したコロナワクチンの量を報告するように法律上義務付けられている。KPSCはカリフォルニア州の方針に従ってワクチン接種を開始し, まず2020年12月に医療従事者へ接種を開始した。その後ワクチン接種は高齢者, 基礎疾患のある人, essential workerへ対象を拡大した2021年4月までに、16歳以上の全員が接種を受けることが可能となった。5月には12~15歳にも接種可能となった。

 Primary exposure(主要な曝露)は、ファイザー製ワクチン2回目接種から7日以上経過した完全接種済(full vaccination)であった。1回目接種14日以上で2回目は接種, もしくは 2回目接種後から7日以内の場合は部分接種済(partially vaccinated)とみなされた。ファイザー製ワクチン1回目接種をまだ受けていない, もしくは KPSの契約を解除した, 死亡した or 別種のコロナワクチンを接種された人は未接種とみなされた。

④ Outcome

 Outcome(転帰)の評価はSARS-CoV-2感染, 及び COVID-19関連入院で行った。

 2021年3/4~7/21の間に採取されたPCR陽性検体へ全ゲノム配列解析と, ウイルス系統の同定が行われた2021年3/4より前に収集された検体(148個)も含まれた。

統計学的解析

 完全接種済・部分接済集団と未接種集団の間のSARS-CoV-2感染率, 及び COVID-19関連入院率を比較したhazard ratio(HR)(や95%信頼区間[95%CI])を推計した。ファイザー製ワクチン接種状況は、時間経過によって分類された。KPSCとの契約解除, 死亡, 別種のコロナワクチンまたはファイザーワクチン以外の予防薬を投与された, もしくは ファイザー製ワクチンの2回目を超す接種を受けた時点でフォローアップは中止された。効果持続を評価する為に、ワクチン有効性は完全接種済の参加者にて毎月推計された。

 調整後HRと95%CIは、全ての共変量(性別, 年齢, 人種など)を用いて, Cox modelという方法で推計した。ワクチン有効性は、1-HRという公式で算出した。

 

(3) Result

 この研究の対象期間は2020年12/14〜2021年8/8であった。2020年12/14までに、4,920,549名のうち3,436,957名のKPSC契約者(12歳以上・1年以上KPSCと契約)が参加登録基準を満たした。参加者の特徴は以下の通りであった。

  • 年齢中央値:  45歳
  • 性別:  女性: 1,799,395名(52.4%), 男性: 1,637,394名(47.6%)
  • 人種:  ヒスパニック: 1,390,587名(40.5%), 白人: 1,108,456名(32.3%), アジア系・太平洋諸島系: 399,186名(11.6%), 黒人: 276,199名(8.0%)

 研究期間中、3,436,957名中184,041名(5.4%)がSARS-CoV-2に感染し, さらにそのうち12,130名(6.6%)が入院した。SARS-CoV-2感染者では、非感染者よりも若年者, ヒスパニック系, 肥満(BMI>30)の割合が多かった。SARS-CoV-2感染者の中では、入院した人において、高齢者, 男性, 併存疾患あり, 医療機関利用歴が濃厚な人の割合が、入院していない人よりも多かった。

 全配列解析を行われた9,147検体中、236個が解析より除外された。よって、8,911検体が解析対象となり, このうち5,008個(56.2%)で配列が決定された。2021年3/4以降、PCR陽性検体が提出された; しかし提出された検体の合計(8,911個)は、SARS-CoV-2陽性症例(184,041名)の4.8%であった。5,008検体中、1,422個(28.4%)はデルタ株だった。デルタ株が検出される割合は、2021年4月の0.6%から, 7月の86.2%にまで増加した(Figure 1)

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Figure 1

 2021年8/8までに、3,436,957名中1,146,768名(33.4%)がファイザー製ワクチン接種を1回以上受けていた。このうち、

  • ファイザー製ワクチン完全接種済:  1,043,289/1,146,768名(91.0%)
  • ファイザー製ワクチン部分接種済:  76,205/1,146,768名(6.6%)

であった。完全接種済となってからの経過時間の平均値は3.4ヶ月だった; 完全接種済集団1,043,289名のうち、752,562名(72.1%)は少なくとも3ヶ月前には完全接種を完了していた。

 研究対象期間全般を通じて、完全接種済の人においては

  • SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性:  73% (95%CI 72~74)
  • COVID-19関連入院に対する有効性:  90% (95%CI 89~92)

であった。年齢別に階層化すると、完全接種済の人における感染に対するワクチン有効性は

  • 12~15歳の有効性:  91% (95%CI 88~93)
  • 65歳以上の有効性:  61% (95%CI 57~65)

だった。

 完全接種済の人の感染に対する有効性は、接種後時間が経つにつれて減少した。(Figure 2A)

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Figure 2 A and B
  • 完全接種後最初の1ヶ月の有効性:  88% (95%CI 86~89)
  • 5ヶ月後の有効性:  47% (95%CI 43~51)
  • p<0.0001

65歳以上の人では完全接種後1ヶ月以内の有効性80% (95%CI 73~85)だったものが、5ヶ月時点では43% (95%CI 30~54; p<0.001)へ減少していた(Figure 2A)完全接種済の人では全年齢において、

  • 完全接種後1ヶ月以内のCOVID-19関連入院に対する有効性:  87% (95%CI 82~91)
  • 5ヶ月後のCOVID-19関連入院に対する有効性:  88% (95%CI 82~92)

 であり、有意な減少は認めなかった(p=0.80) (Figure 2B)

 完全接種済の人における、デルタ株による感染に対する合計した有効性は75% (95%CI 71~78)だったが、他の変異株に対するそれは91% (95%CI 88~92)だった。完全接種後1ヶ月以内の有効性は、

  • デルタ株:  93% (95%CI 85~97)
  • 他の変異株:  97% (95%CI 95~99)
  • p=0.29

高値だった。4ヶ月後には、

  • デルタ株感染への有効性:  53% (95%CI 39~65)
  • 他の変異株の感染への有効性:  67% (95%CI 45~80)
  • p=0.25

低下した。デルタ株と他の変異株の間のワクチン有効性の低下速度に有意差は無かった(p=0.30)配列が決定できなかった検体に関しては、

  • 完全接種後1ヶ月未満の有効性:  84% (95%CI 78~88)
  • 4ヶ月後の有効性:  47% (95%CI 30~59)

であった(Figure 3)。完全接種済の人における入院に対する有効性は、

  • デルタ株:  93% (95%CI 84~96)
  • 他の変異株:  95% (95%CI 90~98)
  • 配列が決定できなかった検体:  77% (95% 67~85)

であった。

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Figure 3

 

(4) Discussion

 完全接種済の人では、完全接種済になってから平均3.4ヶ月後において、SARS-CoV-2感染に対する合計した有効性は73%で, COVID-19関連入院に対するそれは90%だった。6ヶ月の間において、SARS-CoV-2感染に対する有効性は減少した。全年齢集団において、入院に対する有効性の経時的減少は見られなかったこれらの知見は、イスラエル保健省の報告や, 米国CDCの報告と一致する。但し2021年8月のイスラエルからの報告では、65歳以上で入院に対する有効性が、ファイザー製ワクチン接種から約6ヶ月後において低下いることが示された。つまり、重症outcomeに対する長期の有効性は、継続的にモニタリングされるべきである。

 デルタ株感染に対するファイザー製ワクチンの有効性は、全研究期間を通して75%だった。デルタ株感染に対する有効性は、完全接種後1ヶ月後では93%で, 5ヶ月後の時点で53%へ低下した。他の変異株に対する有効性は、完全接種後1ヶ月以内では97%で, その後5ヶ月までに67%へ低下した。デルタ株による入院に対する有効性は全研究期間を通して高値であり、他の変異株による入院に対する有効性と類似していた。これらの知見は、米国やカタールからの報告と一致する。今回の変異株に特異的な解析により、時間経過によるワクチン有効性低下は、ワクチンの防御効果をデルタ株が回避したというよりも、主にワクチン有効性が減少したことによるものである可能性がある。変異株の間で、有効性減少の格差は認めなかった; しかしながら変異株別の解析では、3~4ヶ月後のイベント発生数は少なかった。そのため、デルタ株とその他変異株の間で有効性減少の程度を評価するための長期フォローアップと, その解析が必要である英国やカナダの研究では、ファイザー製ワクチンの1回目と2回目接種の間隔を2~3ヶ月に伸ばすことで、デルタ株による症候性COVID-19に対する有効性が高くなったと示されている但し1回目しか接種していない場合の有効性は低いので、2回目接種の延期はリスクがないとは言えない。

 今回の結果は、ファイザー製ワクチン接種がCOVID-19予防 − 特にCOVID-19関連入院の予防 − に当たって不可欠な手段であり続けていることを改めて示した。今回の結果は、2回目接種後数ヶ月かけて、感染に対する有効性が徐々に減少することを示唆している。

 

 米国でもカタール同様、2回目接種から数ヶ月をかけてSARS-CoV-2感染に対するファイザー製ワクチンの有効性が低下していき, その一方で、COVID-19重症化(入院や死亡など)に対する有効性は高く保たれるということが判明しました。SARS-CoV-2に感染してしまうこと自体を問題視するなら、3回目接種は必要かもしれません。一方、2回接種をして一定期間(だいたい2週間)経過しさえすれば、SARS-CoV-2感染リスクは残るものの、重症化を避けることは十分可能という事実は念頭に置いておくべきでしょう。思えばSARS-CoV-2が公式にアウトブレイクしたとされてから1年くらいでコロナワクチンが世に出た訳です(天然痘が人類社会でアウトブレイクしてから、種痘開発, そして根絶まで何世紀かかったのでしょうか?)。現代の科学技術の発展速度には凄まじいものがあるので、そのうちSARS-CoV-2に対するより(より強力な)終生免疫を獲得させるようなワクチンが世に出るかもしれません。

安定しているCOVID-19外来患者への抗血栓療法の臨床試験

 こんばんは。現役救急医です。今日は、COVID-19患者への投薬に関する論文の紹介なので、純粋に?医療関係者向けの内容だと思います。今回参照したのは、今年10/11にJAMAへ掲載された論文(DOI: 10.1001/jama.2021.17272)です。

 

(1) Introduction

 今日まで、COVID-19入院患者への抗凝固療法・抗血小板療法の有用性を評価するランダム化臨床試験が複数行われている。しかしながら、安定しているCOVID-19外来患者へ抗血栓薬を処方するかどうかについては議論が別れている。

 米国心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute; NHLBI) ランダム化臨床試験ACTIVプラットフォームの一部であるACTIV-4B COVID-19 Outpatient Thrombosis Prevention Trialは、有症状・診断時は入院が不要なCOVID-19患者には抗血小板薬或いは抗凝固薬が有効かどうかを検証するものである。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究は適応型(adaptive)・ランダム化・二重盲検化・プラセボcontrol試験である。この試験に参加した米国の52施設でprotcolと統計学的解析方法が承認された。

 全参加施設で臨床試験の設定を統一する為に、ランダム化された参加者への連絡は"REDCap"(ビデオチャット?)へのリンクで毎週行うか, もしくは イリノイ大学(シカゴ)の研究連絡センターのコールセンター職員とシカゴ・ピッツバーグの研究薬剤師が電話することで行った。参加者自宅への薬剤配達や, 患者の転帰の判定, 24時間対応の緊急対応・非盲検化作業はボストンのBrigham and Women's Hospitalの研究者が行った。

 この臨床試験は、参加者の隔離を可能とし, 臨床試験のスタッフの曝露を最小限にする為に、対面接触を最小限にするよう設計された参加者のクレアチニンリアランスが30 mL/min/1.73m2<, 血小板数が100,000/mm2<の場合のみ薬剤投与開始と継続が許可された。

 参加者は1:1:1:1の比で、

のいずれかにランダム化され, 45日間薬剤を投与された。その後には、30日間の安全性評価フォローアップ期間も設けられた(Figure 1)

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Figure 1

 薬剤を自宅に配送した後の24~72時間以内に、薬剤受け取り・薬剤内服開始日を確認する為に、参加者へ電話, eメール, REDCapによる連絡が行われた。また、同じ通信手段にて、参加者には45日間の治療期間中, 及び その後の30日間の安全性フォローアップ期間中に毎週連絡が行われた。参加者が何らかのイベントを報告すると、研究薬剤師が電話で連絡を行ってイベントの内容・重症度・治療を行っている医師の連絡先(医療的介入が行われた場合)を確認した。Primary outcomeの一部と思われる, もしくは 安全性に関する懸念を生じさせるイベントは全例に関して、医療記録を収集した。

② 参加者について

 新規の症候性SARS-CoV-2感染症と診断され, 歩行可能な40~80歳の患者が参加登録可能であった(血小板数やクレアチニンリアランスも、上記の値を満たす必要あり)。他方、以下の項目いずれかに該当する患者は除外された。

  • COVID-19による入院歴あり
  • 急性白血病に罹患
  • 直近での大出血既往あり
  • 抗凝固療法禁忌ないし他の抗凝固療法の適応である
  • 抗血小板薬単剤または2剤併用が必要
  • 妊娠中または授乳中

③ Study End Point (Outcome)

 参加者の転帰は、次の2項目で評価した。

1) Primary outcome: 治療開始後45日間における、以下の項目の複合。

2) Principal safety outcome

  • 国際血栓症・止血学会(International Society on Thrombosis and Hemostasis; ISTH)の基準で定義される大出血
  • ISTHの基準で定義される、臨床的に関連性のある重症でない出血(clinically relevant nonmajor bleeding; CRNMB)
  • 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)

これらsafety end pointへの解析は45日間の治療期間, 及び その後30日間の安全性フォローアップ期間の間に行われた

③ サンプルサイズ推計

 パンデミック早期の報告で、直近でCOVID-19に感染し症候性だったが, 緊急入院が不要だった人では、血栓塞栓症イベント発症率・循環呼吸器的原因による入院率が4~8%であることが示唆された。この数値をもとに、7,000名のサンプルサイズは、primary outcomeの各治療薬・プラセボ群における相対的riskの33~50%の減少を検出する為に80~90%のpowerを持つであろうことが推計された。

 

(3) Results

① 参加者について

 2020年9/1〜2021年6/17の間にscreeningを受けて同意した775名のうち、657名が参加登録可能基準に合致し, ランダム化された(Fig. 1)2021年6/18に、NHLBIは独立データ・安全性監視委員会から、臨床試験の早期中止を勧告された(イベント発生率が予想より低かったため)。この為、他の治療薬への評価は行われなかった。臨床試験中断時点で、657名中558名が治療を開始していた。診断からランダム化までの期間の中央値は7日, ランダム化から治療開始までの期間の中央値は3日だった。最終フォローアップが行われたのは2021年8/5だった。

 ランダム化された参加者の特徴は以下の通りだった。

  • 年齢中央値:  54歳
  • 女性:  59.1%
  • 人種:  黒人: 12.7%, ヒスパニック: 28.1%
  • 基礎疾患・生活背景:  BMI中央値: 30.1, 糖尿病: 18.3%, 喫煙歴あり: 19.9%, 高血圧: 35.3%

Primary Outcome

 ランダム化〜治療開始までの期間において、22名(3.3%)が急激に悪化し, 治療開始前に肺炎症状悪化が原因で入院した。このうち2名が45日間の観察期間(=本来ならば、治療薬投与期間)に死亡し, 他に1名が非致死性の深部静脈血栓症を発症した。また45日間の観察期間の後の30日間(=本来ならば、安全性フォローアップ期間)に1名が呼吸不全で死亡した。

 治療を開始された558名のうち、556名(99.6%)が治療開始後45日間, または 臨床試験中断までのフォローアップを完了させており, 544名(97.5%)が45日目までのフォローを受けていた。Primary end pointは5名で発生し, 治療期間中の死亡例は無かった (Table 2)

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Table 2

 全体で3件のprimary trial eventが認められた。Primary end pointの複合に関して、

  • アスピリン群:  risk: 0.0% (95%CI 0.0~2.6%), プラセボ群と比較したrisk差: 0.0% (95%CIは算出不可)
  • 予防投与量のアピキサバン群:  risk: 0.7% (95%CI 0.1~4.1%), プラセボ群と比較したrisk差: 0.7% (95%CI -2.1~4.1%)
  • 治療用量のアピキサバン群:  risk: 1.4% (95%CI 0.4~5.0%), プラセボ群と比較したrisk差: 1.4% (95%CI -1.5~5.0%)
  • プラセボ群:  risk: 0.0% (95%CI 0.0~2.8%)

という結果であった (Table 2)

 45日目におけるprimary end pointの複合の累積発症率推計は、

  • アスピリン群:  0.0% (95%CIは算出不可)
  • 予防投与用量のアピキサバン群:  0.7% (95%CI 0.0~2.2%)
  • 治療用量のアピキサバン群:  1.4% (95%CI 0.0~3.3%)
  • プラセボ群:  0.0%

であり、治療内容によって有意差は無かった(log-rank P=.31) (Figure 2A)

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Figure 2 A, B

 治療開始の有無に関係なくランダム化された全参加者を含めた解析にて、primary end pointのプラセボ群と比較したrisk差は、

  • アスピリン群:  1.2% (95%CI -6.1~3.5%)
  • 予防用量アピキサバン群:  -1.9% (95%CI -6.6~2.7%)
  • 治療用量アピキサバン群:  -1.8% (95%CI -6.6~2.7%)

だった。Primary outcomeの累積発生率は、治療群間で有意差が見られなかった(Figure 3A)

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Figure 3 A, B

③ Secondary Outcome

 Table 2に、治療を開始された参加者におけるprimary endo pointの個別の構成要素のデータを示す。先行する入院を伴う死亡例の報告は無かった。

④ Post Hoc解析

 あらゆる急性発症イベントを評価する為に、45日間のフォローアップ期間において、医療が関与した事例全てを含めることを企図した追加の解析が行われた。治療を開始された参加者においてプラセボと比較したrisk差は、

  • アスピリン群:  -1.0% (95%CI -6.6~4.3%)
  • 予防用量アピキサバン群:  0.8% (95%CI -5.1~6.7%)
  • 治療用量アピキサバン群:  4.0% (95%CI -2.4~10.4%)

だった。累積発症率に関して、治療内容別の有意差は認められなかった(log-rank P=.31) (Figure 2B)ランダム化を受けた参加者全員に関する結果も同様であった(Figure 3B)

⑤ 有害事象

 大出血イベントの報告は無かった治療を開始された参加者において、プラセボと比較したCRNMBの絶対的過剰は、

  • アスピリン群:  2名
  • 予防用量アピキサバン群:  4名
  • 治療用量アピキサバン群:  2名

だった(Table 2)。アピキサバンへランダム化され, 臨床試験中止前に1回以上内服した患者におけるCRNMBの合計発症率は2.2%(278名中6名)だった。臨床試験の治療薬を開始された参加者において、全出血イベントは

  • アスピリン群:  6名
  • 予防用量アピキサバン群:  9名
  • 治療用量アピキサバン群:  13名
  • プラセボ群:  3名

で発生し, プラセボ群と比較したrisk差は

  • アスピリン群:  2.0% (95%CI -2.7~6.8%)
  • 予防用量アピキサバン群:  4.5% (95%CI -0.7~10.2%)
  • 治療用量アピキサバン群:  6.9% (95%CI 1.4~12.9%)

であり, アピキサバンを投与された人全員(278名)で、全出血イベントは22名(7.9%)で発生した。

 ランダム化された全参加者において、プラセボと比較したCRNMBの絶対的過剰は、

  • アスピリン群:  4名
  • 予防用量アピキサバン群:  6名
  • 治療用量アピキサバン群:  4名

だった。

 DICの報告は無かった

 

(4) Discussion

 アスピリンまたはアピキサバンへのランダムな割り付けは、プラセボと比較すると、循環呼吸器系イベントによる入院の発生率を減少させなかったしかしながら、予想よりイベント発生率が低かったので、この臨床試験は中止されている。

 時間経過とともに起こった人口統計学上の2つの変化が、この臨床試験における予想を下回るイベント発生率に繋がった可能性がある。1つ目は、入院適応となる患者がもはや人工呼吸器を必要とする患者だだけに限定されないといった形で、入院適応の閾値パンデミック開始以降著しく低下したことである。2つ目は、パンデミック初期と異なり、最近SARS-CoV-2に感染する人は若年で, 併存疾患が少ない傾向がある。それに加えて、パンデミック早期にはCOVID-19検査が極めて限定されており、予想されたイベント発生率が過大に計算されていた可能性もある。

 今日に至るまで、COVID-19外来患者に使用可能な抗血栓療法を検証するランダム化試験のデータは存在しない。今回の臨床試験における低いイベント発生率によって、COVID-19外来患者に緊密な注意が必要ではないと解釈してはならない上記のように、ランダム化後に悪化して入院した参加者は3.3%であった。これらの入院した参加者は臨床試験の治療を開始されていなかったので、こうした知見は、予防的な抗血栓療法の早期開始がこれらの患者に効果的であったかどうかを明確には示さない。

ファイザー製コロナワクチン有効性に関するカタールのデータ

 みなさんこんばんは。現役救急医です。専門医試験から一応解放されたので、臨床の仕事の時以外は概ね、ネットサーフィン(YouTube視聴含む)・読書・論文解読ばっかやっています。今日は、10/6にNew England Journal of Medicineへ発表された、BNT162b2ワクチン(ファイザー製コロナワクチン)に関するカタールの論文(DOI: 10.1056/NEJMoa2114114)を紹介してみます。

 

(1) Introduction

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Fig. 1 A, B, C

 カタールでのコロナワクチン接種キャンペーンは2020年12/21に開始され, 最初はBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー)を使用し, 3ヶ月後からはmRNA-1273ワクチン(モデルナ製)を採用した。接種率は2020年12月から、この論文執筆時までに増加し続けている(Fig. 1A)。ワクチン接種は医療従事者・重度ないし複数の慢性疾患を持つ人・70歳以上への接種が優先され, その後、次第に対象年齢を順次拡大し, 教師といった専門職に対しても行われた。2021年9/7時点で、12歳以上の少なくとも90%が1回以上の接種を受けており, 少なくとも80%が2回接種を完了していた。

 カタールでは2021年1月〜6月の間に、2回のSARS-CoV-2感染拡大(アルファ株[B.1.1.7]及びベータ株[B.1.351]によるもの)を経験した。デルタ株(B.1.617.2)の地域内感染は2021年3月末にかけて探知された; 2021年夏までに、デルタ株が主要な変異株となった。高いワクチン接種率にも関わらず、同年6月〜8月にかけてSARS-CoV-2感染発生数は緩徐に増加し, 8月末に減少し始めた(Fig. 1B)この研究では、SARS-CoV-2感染と, COVID-19に関連した入院・死亡に対するファイザー製ワクチン2回接種の実際の有効性を評価した。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究はカタールの住民を対象にした。COVID-19の検査結果, ワクチン接種状況, 臨床的なデータ, 関連する人口統計学的なデータを、統合した全国規模のデジタル化保健情報プラットフォームから抽出した。

 コロナワクチンの有効性は、検査陰性症例対照研究デザインを使用して推計した。PCR陽性の参加者(陽性症例)と陰性の参加者(対照例)を1対1で, 性別・年齢層(10歳単位)・国籍・SARS-CoV-2の検査をした理由・PCRを行った日付に合わせてmatchさせた。このmatchingは、既知のSARS-CoV-2感染曝露riskの差異をcontrolすることを目的に行われた。

 有効性は、1) 感染の記録(PCR陽性)に対するもの, 及び 2) 重症("severe"), 危機的("critical"), ないし 致死的("fatal")なCOVID-19症例に対するもの, を推計した。

統計学的解析

 参加者の社会人口統計学的な特徴は、度数分布とcentral tendencyを用いて表記した。Odds比・陽性症例と対照例の間のワクチン接種のoddsの比較・これらの95%信頼区域は、条件付きロジスティック回帰という方法を用いて求めた。異なる時期におけるワクチン有効性とその95%信頼区域は、[ワクチン有効性]=1-[対照例と比較した陽性症例におけるワクチン接種のodds比]という公式で算出した。

 SARS-CoV-2感染既往や, 医療従事者に関して調整を行ったsensitivity analysisを行った。RCR陽性結果と関連した多変量ロジスティック解析を使用したワクチン有効性の推計も行った。

 

(3) Results

① 参加者について

 2020年12/21〜2021年9/5の間に、合計947,035名が少なくとも1回ファイザー製ワクチンを接種され, 907,763名が2回接種を完了させていた(Fig. 1A)。1回目接種時期の期日の中央値は2021年4/21, 2回目接種の期日の中央値は同年5/10であった。1回目接種-2回目接種の間隔の中央値は21日間であり, 97.4%の人が1回目接種後30日以内に2回目接種を受けていた。この期間中、モデルナ製ワクチンを少なくとも1回接種されたのは564,196名で, 494,859名が2回接種を完了した(Fig. 1A)

 参加者の年齢中央値は31歳で, 参加者の約69%が男性であり, また参加者の国籍は多様であった。

 症状があった為にSARS-CoV-2感染の診断を受けた参加者は約35%だけであった。残りは、濃厚接触者追跡, 調査或いはランダム検査, 本人の希望, 医療機関でのルーチン検査("routine health care testing")を含む他の理由でPCR検査を受けていた。

② ワクチン接種後の感染(breakthrough infection)

 ファイザー製ワクチンのbreakthrough infection症例は、

  • 1回目接種後: 8,203名
  • 2回目接種後: 10,504名

で確認された。1日の全breakthrough infection症例の割合は、時間経過とともに徐々に増加し, 2021年9/5には36.4%に達した(Fig. 1C)大半のbreakthrough infection症例がファイザー製ワクチン接種後の人で記録された(77.2%)。

 2021年8/30までに、

  • COVID-19重症例:  ファイザー製ワクチン1回目接種後: 377名, 2回目接種後: 106名
  • 危機的症例:  1回目接種後: 32名, 2回目接種後: 10名
  • 致死的症例:  1回目接種後: 34名, 2回目接種後: 15名

が記録された。

SARS-CoV-2感染全般に対する有効性

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Table 2

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Fig. 2 A, B

 SARS-CoV-2感染全般に対するファイザー製ワクチン有効性の推計は、

  • 1回目接種後最初の2週間:  ごくわずか
  • 1回目接種後3週目:  36.8% (95%CI 33.2~40.2)
  • 2回目接種後最初の1週間:  77.5% (95%CI 76.4~78.6)。ピークに達した。

であった(Table 2 and Fig. 2A)。しかしながら、2回目接種後最初の1ヶ月から有効性は次第に減少し始めた。この減少は4ヶ月後から加速し, 2回目接種後5~7ヶ月では約20%にまで低下した。感染既往や医療従事者について調整したsensitivity analysisも、この結果に一致した(Table 3)

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Table 3

④ 年齢別・変異株別の感染全般に対する有効性

 ファイザー製ワクチンの有効性を年齢別(60歳未満, 及び 60歳以上)に評価し, 有効性の時間経過に伴う減弱が年齢に影響されるかを評価した。両年齢群の結果は、ほぼ同じscaleであり, 特に有効性の減少に関して同一だった。そして結果は、全年齢群の全参加者と類似していた。

 こうした数値は、ベータ株に対するファイザー製ワクチンに対する有効性を大いに反映している。しかし、2021年夏季におけるデルタ株の堅調な増加と, 同時期におけるベータ株発生数の堅調な減少を考慮すると、2回目接種後の有効性の指標はデルタ株に対する有効性をますます反映していた。

 各変異株に対する有効性の推計も、SARS-CoV-2感染全般に対する有効性と類似したパターンを示した。

⑤ 症候性・無症候性感染に対する有効性

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table 4

 症候性感染, 及び 無症候性感染に対する有効性も、1回目接種後の有効性増加・2回目接種接種後最初の1ヶ月における有効性のピーク・その後の有効性の減少という同一のパターンを示した。症候性感染への有効性減少は2回目接種の4ヶ月後に加速し, 無症候性感染への有効性減少は2回目接種の3ヶ月後に加速した(Table 4)。しかしながら、症候性感染への有効性は、無症候性感染へのそれより一貫して高かった。

  • 症候性感染への有効性のピーク:  81.5% (95%CI 79.9~83.0)
  • 無症候性感染への有効性のピーク:  73.1% (95%CI 70.3~75.5)

⑥ COVID-19関連入院・死亡に対する有効性

 重症・危機的・致死的症例に対するファイザー製ワクチンの有効性の推計は、

  • 1回目接種後最初の2週間:  わずか
  • 1回目接種後3週目:  66.1% (95%CI 56.8~73.5)
  • 2回目接種後最初の2ヶ月:  96%以上に到達

であった(Table 2 and Fig. 2B)。感染に対する有効性と異なり、入院と死亡に対する有効性は経時的に減少しなかったが, 7ヶ月後に減少した可能性はあった(しかし感染症例数は少なかった)。感染既往や医療従事者により調整したsensitivity analysisは、主な解析の結果と一致した。

 重症例・危機的症例・致死的症例それぞれに関してもワクチン有効性の推計を行った。重症・危機的・致死的症例それぞれに対する有効性の推計は、これらの複合に対する有効性と類似しており, 2回目接種6ヶ月後における有効性減少の証拠は認められなかった。

⑦ 追加の解析

 これら実際の有効性推計におけるバイアスの可能性を調べる為に、追加のsensitivity analysisが行われた。これらの解析も、2回目接種後の有効性減少を示し, 主たる解析と同じパターンを示した。

 

(4) Discussion

 SARS-CoV-2感染に対するファイザー製ワクチンの有効性は、1回目接種後に急速に形成され, 2回目接種後最初の月にピークに達し, その後数ヶ月かけて次第に減少する。この減少は4ヶ月以降に加速し, 約20%に達する。無症候性感染に対する有効性は、症候性感染に対する有効性よりも急速に減少するものの、入院・死亡に対する有効性の減少を示す証拠は無かった(2回目接種後6ヶ月で90%以上)

 この減少のパターンは、理論上、年齢や併存疾患の影響を受けた可能性もある。しかし、全年齢で同じパターンが示されており、この可能性はない。高齢が併存疾患のかわりを果たした可能性があり, また、若年の現役世代で重症ないし複数の慢性疾患を有する人は少ない。カタール政府のワクチン優先接種者リストには、重症併存疾患を有する人は、全年齢層を通してたったの19,800名しか載っていなかった。

 感染症例の発生は、時期により異なる変異株によって左右された; つまり、異なる時期に異なる変異株へ暴露したことで、有効性が減弱したように見えた可能性もある。しかし、この可能性はなさそうである。

 ワクチン接種済みの人は、未接種の人よりも社会的な接触("social contact")の比率が高いと思われ, また感染対策遵守意識も低いと思われる。こうした行動がワクチン有効性を減らした可能性もある。カタールでも順次規制が緩和されていたが、接種済みの人と未接種者では違った。多くの仕事・旅行・社会的活動では、携帯電話アプリ(任意でなく義務)を通して発行するワクチン接種済証明書の提示が求められている。

 カタールPCR検査は大規模に実施されており, 毎週人口の約5%が検査を受けている。現在、SARS-CoV-2感染症の診断を受けた人の約75%が、症状が理由でなく, ルーチン検査を通して診断されている。

 今回の知見を支持するevidenceは最近になって複数発表されている。1回目-2回目接種の間隔が延長されると免疫原性が増大するという知見と今回の知見は、2回目接種が1回目接種の3週間後である国々(イスラエル, カタール, 米国など)でデルタ株へのワクチン有効性が低下しているというデータを説明可能かもしれない。一方で、1回目-2回目接種間隔が長い国々(カナダ, 英国など)でデルタ株に対するワクチン有効性の増加が観察されている。

mRNAワクチン接種後の心筋炎に関するデータ

 みなさんこんばんは。現役救急医です。最近、コロナワクチン − とりわけモデルナ製やファイザー製のmRNAコロナワクチン − の副作用である心筋炎についてニュース等で話題になっていましたね。

 以前の記事でもとある論文を紹介しmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症するriskと, COVID-19罹患後に心筋炎を発症するriskを比較すると、後者の方が高いという話をしていましたが、今回は、その論文以外の最新のデータをちょっと紹介してみようと思います。

 

 

(1) 米国カリフォルニア州の研究 (DOI: 10.1001/jamainternmed.2021.5511)

 Kaiser Permanente Southern CaliforniaKPSC; 病院グループ或いは医療保険会社の類か?)のメンバーのうち, 18歳以上で, 2020年12/12~2021年7/20の間にファイザー製(BNT162b2)or モデルナ製(mRNA-1273)コロナワクチンを1回以上接種された人が解析の対象であった。医師からの心筋炎の報告, 及び コロナワクチン接種後10日以内に入院し、退院時の診断名が心筋炎である患者を同定することでコロナワクチン接種後の心筋炎発症を特定した。コロナワクチン接種後の心筋炎の発症率を算出した上で、1) 2020年12/14〜2021年/7/20の間の接種者における心筋炎の発症率, 及び 2) コロナワクチンを接種される1年前の10日間における被接種者内の心筋炎発症率と比較した。

 mRNAワクチン接種を受けたKPSCメンバー2,393,924名のうち、50.2%がモデルナ製・50.0%がファイザー製ワクチンを接種された。

 コロナワクチン被接種集団内で心筋炎と診断されたのは15名(1回目接種後: 2名, 2回目接種後: 13名)であり、発症率は1回目接種後: 0.8症例/100万人, 2回目接種後: 5.8/100万人(観察期間は10日間)となった。全員が男性で, 年齢中央値は25歳だった。接種者内内では、研究対象期間中において75例の心筋炎が確認され、男性は39名(52%), 年齢中央値は52歳で, 心筋炎の発症率(観察期間=10日)は2.2/100万人だった。心筋炎のIncident rate ratio(IRR)は、1回目接種後: 0.38(95%CI 0.05~1.40), 2回目接種後: 2.7(95%CI 1.4~4.8)だった。ワクチン被接種者の1年前の状態をcontrolとした解析でも、1回目接種後のIRR: 1.0(95%CI 0.1~13.8), 2回目接種後のIRR: 3.3(95%CI 1.0~13.7)と似たような結果を示した。

 ワクチン接種後心筋炎の患者にて、心疾患の既往がある人はいなかった。15名中8名がファイザー製, 7名がモデルナ製を接種されていた。15名全員が入院し, PCRSARS-CoV-2陰性と確認されている。14名がワクチン接種1~5日後の間に胸痛を自覚した。全例が保存的治療で改善した。

 

 

(2)BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー製)を採用したイスラエルの全国規模データ (DOI: 10.1056/NEJMoa2109730)

① Method

 保健省のデータベースが収集した医療記録から、心筋炎疑い例に関するデータを後方視的に検証した。対象期間は2020年12月〜2021年5月の6ヶ月間とした。

 心筋炎症例の特徴付けを行う為に、記述的な頻度, 割合, 平均値, 標準偏差を使用した。1回目接種後21日間, 及び 2回目接種後30日間において、心筋炎新規発症の発症数を調べる為に、発生率曲線を用いた。データは男女別, 及び 年齢層(16~19歳, 20~24歳, 25~29歳, 30~39歳, 40~49歳, 50歳以上)別に解析した。ワクチン被接種者内の心筋炎発症率を評価する為に、risk差, 観測値/予測値比, 被接種者と未接種者間のrate ratioを算出した。

 Risk差を求める為に、1回目接種後及び2回目接種後の心筋炎riskをper 100,000人にて現し, 年齢層別・男女別に算出この解析には、心筋炎確定診断例("definite"), 或いは 蓋然例("probable")のみが含まれた1回目接種と2回目接種の間のrisk差の計算には、1回目及び2回目接種後21日間の累積発症率を使用した。2回目接種によると思われる心筋炎riskの割合は、1回目と2回目接種の間のrisk差を2回目接種後のriskで割り, 単位はパーセンテージで現した。

 報告された心筋炎症例全例について、標準化発症比を求めることで、心筋炎発症率の観測値と, 2017~2019年(COVID-19パンデミック前)の心筋炎発症率予測値を比較した。この解析を、ワクチン接種と時間的に近接して(≒接種直後に)発症した心筋炎症例全例に対して行った。心筋炎症例の過剰な報告により標準化発症比が過大評価されているかどうか評価する為に、2回目接種後の男性の標準化発症比に有意差が生じるには最小でどれくらいの症例が必要か決定するsensitivity analysisを行った。

 2回目接種後30日経過した参加者における心筋炎発症率と, 2021年1/11〜5/31の間の接種者における心筋炎発症率を比較し、年齢別・男女別に報告した。被接種者と未接種者間のrate ratioや95%信頼区画を、それぞれの階層, 及び集団全体に関して計算したこの解析には心筋炎確定例, もしくは 蓋然例のみが含まれた。

 

② Result

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Table 1

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Table 2

 9,289,765名のイスラエルの住民の中で、1回目接種を受けたのは5,442,696名, 2回目接種を受けたのは5,125,635名だった(Table 1)保健省には合計304例の心筋炎が報告された(Table 2)。2回接種を受けた196名でこうした診断が下された。各症例の経過を見直した後、21名は他の診断が成立したので除外された。つまり、心筋炎の診断が確定したのは283例だった。このうち、

  • 1回目接種後21日以内・2回目接種後30日以内: 142例
  • 心筋炎発症時期が接種直後でない: 40例
  • 接種: 101例(COVID-19の確定診断を受けた人: 29例, 確定診断名なし: 72例)

だった。

 上記の142例中、136例は心筋炎確定例ないし蓋然例の診断を受けており, 1例は心筋炎の可能性あり("possible")と診断され, 5例はデータが不足していた。

 心筋炎確定 or 蓋然例136例のうち、129名では臨床症状がおおむね軽症で, 大半が寛解したしかし1名が劇症型心筋炎で死亡した。大半の患者でejection fractionは正常ないし軽度低下しており, 4名では重度の低下が見られた。

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Fig 1

 ワクチン接種直後心筋炎の症例数のピークは2021年2月と3月に発生した; ワクチン接種状況, 年齢, 性別との関連性をTable 1Figure 1に示す。心筋炎確例 or 蓋然例となった136名のうち、1回目接種後に発症したのは19名, 2回目接種後に発症したのは117名だった。1回目接種後21日間において、19名が入院し, 入院期日の時間的分布はほ等しかった。2回目接種後に発症した117名中95名(81%)が、接種後7日内に入院した。

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Table 3

 同一期間における(1回目, 及び 2回目接種後21日間)riskの男女別・年齢別比較をTable 3に示す。心筋炎症例は2回目接種後の最初の数日間に集中していた(Fig. 1B and 1D)1回目接種と2回目接種間の合計risk差は1.76/100,000名(95%CI 1.33~2.19)だった;

  • 男性における合計risk差: 3.19 (95%CI 2.37~4.02)
  • 女性における合計risk差: 0.39 (95%CI 0.10~0.68)

16~19歳の男性被接種者で最大のrisk差が見られた:  12.73/100,000名(95%CI 8.11~19.46); この年齢層において、2回目接種によると思われる心筋炎の割合は91%だった。女性被接種者において、同一年齢層における1回目と2回目接種間のrisk差は1.00/100,000名(95%CI -0.63~2.72)だった。フォローアップ期間を7日間にしてこうした解析を行っても、16~19歳の男性被接種者におけるrisk差は13.62/100,000名(95%CI 8.31~19.03)と同等の結果であった。これらの知見は、2回目接種後の最初の1週間がriskの高い期間であることを示す。

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Table 4

 パンデミック前の時期における心筋炎発症率と比較した、ワクチン接種時期(1回目か2回目か)・年齢・男女別の心筋炎標準化発症比をTable 4に示す。2回目接種後の心筋炎の標準化発症比は5.34(95%CI 4.48~6.40)であり, これは主に若い男性被接種者における心筋炎の診断によるものである男児と成人男性において、

  • 16~19歳の標準化発症比: 13.60 (95%CI 9.30~19.20)
  • 20~24歳の標準化発症比: 8.53 (95%CI 5.57~12.50)
  • 25~29歳の標準化発症比: 6.96 (95%CI 4.25~10.75)
  • 30歳以上の標準化発症比: 2.90(95%CI 1.98~4.09)

だったこうした顕著な増加は1回目接種後では見られなかった

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table 5

 2回目接種後30日以内の集団全体において、被接種者と未接種者の心筋炎発症率を比較したrate ratioは2.35(95%CI 1.10~5.02)だった。こうした結果は、主に若年男性における知見によるもの (Table 5)

  • 16~19歳のrate ratio: 8.96 (95%CI 4.50~17.83)
  • 20~24歳のrate ratio: 6.13 (95%CI 3.16~11.88)
  • 25~29歳のrate ratio: 3.58 (95%CI 1.82~7.01)

2回目接種後フォローアップを7日にすると、16~19歳の男性被接種者に対する解析結果は、接種後30日以内の知見よりも強かった(rate ratio 31.90; 95%CI 15.88~64.08)。

 

③ Discussion

 ファイザー製ワクチン2回接種後に発症した心筋炎確定例ないし蓋然例は126例が記録され、このriskは未接種者の2倍を上回った2回目接種後21日以内の16~19歳の人における心筋炎症例は、男性で6,637名中1名, 女性で99,853名中1名にて発生した。

 大半の症例は、2回目接種後数日以内に心筋炎の症状を発症した。心筋炎の発症数は、時間経過とともに新規被接種者が増えるに従って減少した。これらの知見は、2回接種と心筋炎riskの間の因果関係を示唆するものである。合計すると、イスラエルでは、2回目接種後の心筋炎発症率は男性: 26,000名中1名, 女性: 218,000名中1名と推定される。

 

 こうした知見をざっくりとまとめると、

  • mRNAワクチン接種後の心筋炎は男性の方で多く発症する
  • 年齢が若いほど、mRNAワクチン接種後の心筋炎riskが上がる
  • 入院が必要な場合もあるが、心筋炎の経過は大半が軽症で済み, 多くが保存的治療で改善する。

ということが言えるでしょう。