Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

思春期における重症COVID-19に対するファイザー製コロナワクチンの効果

 こんばんは。現役救急医です。ファイザー製mRNAワクチンの効果について、興味深い論文を最近発見しました。今年1/12にNew England Jornal of Medicineに掲載された"Effectiveness of BNT162b2 Vaccine against Critical Covid-19 in Adolescent."(Olson S.M., Newhams M.M. et al., DOI: 10.1056/NEJMoa2117995)です。12~18歳における同ワクチンの効果を検証したものです。

 

(1) 背景と研究の目的

 米国では2021年5月に、食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)が12~15歳へBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー製)の緊急使用承認を拡大した。2021年9月初期には、SARS-CoV-2デルタ株により小児の入院が最高レベルに達した。

 'Overcoming Covid-19'の研究は、最近12~18歳の思春期青少年ではCOVID-19による入院に対するファイザー製ワクチンの効果は93%と高度である(16州の19ヶ所に入院した179名に基づくデータ)とする中間報告を行なった。この報告以来、研究グループはサーベイランスを31ヶ所(23州)に拡大し, 更に266名の患者を追加した。

 

 

(2) 方法

① Study Design

 COVID-19による入院, ICU入室 ないし 生命維持装置使用に対するワクチンの有効性を評価する為に、症例-対照・検査陰性デザインを用いた。有効性の評価は、SARS-CoV-2陽性となった症例とCOVID-19でない入院患者対照例の間で, 入院前のワクチン接種のoddsを比較することで行なった。

 人口統計学上のデータ, 病状に関する臨床的なデータ, SARS-CoV-2検査歴に関する情報を収集する為に、保護者への聞き取り, 或いは 患者の電子医療記録の閲覧を行なった。保護者にはコロナワクチン接種歴について質問が行われた。接種歴の裏付けの為に、州のワクチンregistryや電子医療記録, ないし その他の記録を調査した。

 

② 被験者や症例・対照例の定義について

 CDC(Center for Disease Control and Prevention)が出資する'Overcoming Covid-19 Network'に参加している31病院(23州)に入院した12~18歳の患者へのサーベイランスが行われた。

 サーベイランス期間中、各施設にて研究者は参加登録基準に合致する症例全例を収集した。2021年5/30~10/25の期間に研究者らは参加登録可能と思われる患者のscreeningを開始していた。最初に参加登録された症例患者が入院した期日は7/1であり, その時期は米国で2回接種が済んだ思春期青少年が20%を超えていた。従ってこの時期はワクチン有効性評価に適していた。参加登録開始時期は、各地域の感染状況や, 各施設の倫理委員会の承認により違いがある。

 症例患者は、入院した主な原因がCOVID-19である, もしくは 急性期COVID-19と一致する臨床症状を有する 思春期青少年の中から選抜された症例患者は全員、発症から10日内or入院後72時間以内に, RT-PCR(reverse transcriptase-polymerase-chain-reaction) or 抗原検査でSARS-CoV-2陽性となっていた現在進行形の入院でMIC-Cの診断を受けた23名は除外された。

 対照例には、2つのグループが設けられた:  1) COVID-19様症状はあるがSARS-CoV-2陰性だった患者, 及び 2) SARS-CoV-2検査を行なったor行っていない可能性があるCOVID-19様症状がない患者である。各施設で、研究者は各対照群について症例:対照の比が1:1となるように調節した。対照例は、症例患者の入院した病棟の近くへ, その症例患者の入院後3週間以内に入院した患者から選抜された。

 他に、

  • mRNA-1273ワクチン(モデルナ製), Ad26.COV2.Sワクチン(J&JとJanssen製)を接種された人(これらは、研究が開始された時期にまだ思春期青少年に対して承認されていなかったので)
  • 発症前14日以内に1回目接種を受けたばかりの患者

除外された。

 

③ ワクチン接種状況について

 患者のワクチン接種状況を現す用語とその定義は以下の通り。

  • 未接種(unvaccinated):  発症前にファイザー製ワクチンを一切接種されていない
  • 接種済(vaccinated):  発症前の14日以上前に直近の接種(1回目 or 2回目)を受けた
  • 部分接種済(partially vaccinated):  発症前14日以内に2回目接種を受けた
  • 完全接種済(fully vaccinated):  発症前14日以上前に2回目接種を受けた

 

④ Outcome

 この研究では、COVID-19による入院, ICU入室, 生命維持装置使用("the receipt of life-supporting interventions"), または 死亡を主要転帰として事前に設定した。『生命維持装置使用』とはここではNPPV or 人工呼吸器, 血管作動薬点滴, ないし ECMO使用のことを示す。

 

統計学的解析

 両群間の参加者の特徴の違いを評価する為に、まず2変量解析という方法を使用した。続いて、対照例と比較した症例患者におけるワクチン接種のodds比を計算するために、主要転帰に関してロジスティック回帰モデルというものを設計した。

 症例患者と対照例患者において, COVID-19に対する完全接種済のoddを比較することにより、主要転帰に対するワクチン有効性を推計した。公式には(1-調整後odds比)x100を用いた年齢集団ごとの入院に対する有効性, 及び 部分接種済みによる入院に対する有効性というsubgroup解析も行われた。 2つの対照群別々, 及び 2つの対照群の組み合わせでも有効性の評価を行なった。

 

 

(3) 結果

 2021年5/30~10/25の間に、合計1,376名がscreeningを受けた; そのうち154名が除外された。

 主要解析には合計1,222名が含まれた(症例: 455名, 対照例: 777名)。

対照群の特徴は

  • SARS-CoV-2陰性:  383名(49%)
  • 症状が陰性:  394名(51%)
  • 年齢中央値:  15歳
  • 基礎疾患1個以上あり:  70%
  • 対面式の学校に出席:  70%

だった。他方、症例群の特徴は

  • 年齢中央値:  16歳
  • 基礎疾患1個以上あり:  74%
  • 対面式の学校に出席:  70%

だった。対照群と比べると、症例患者では社会的脆弱性指数のスコアが高い地域に住んでいる頻度が多かった。接種済患者と未接種患者の両方で併存疾患は多かった(接種済: 73% vs 未接種: 71%)。呼吸器疾患・内分泌疾患は対照群よりも症例群でより多かった; 神経・神経筋肉疾患と免疫抑制・自己免疫疾患は症例患者よりも対照群で多かった

 完全接種済である299名のうち、288名(96%)で完全接種済の記録が確認できた。ワクチン接種記録がある症例患者455名の内訳は

  • 完全接種済:  17名(4%)
  • 部分接種済:  1名(<1%)
  • 未接種:  427名(96%)

だった。これと対照的に、ワクチン接種記録がある対照例患者777名の内訳は

  • 完全接種済:  282名(36%)
  • 部分接種済:  54名(7%)
  • 未接種:  441名(57%)

だった。

 455名の症例患者のうちICUに入室したのは180名(40%)であり, そのうち127名(29%)は入院中に生命維持装置を使用した(うち13名[3%]はECMOを使用し, 7名[2%]は死亡した)ICUに入室した180名のうち、

  • 完全接種済は2名
  • 未接種は178名(そのうち126名は生命維持装置を使用し, 7名は死亡)

だった。

 

 COVID-19入院に対するファイザー製ワクチンの有効性は

  • 対照群の2グループを組み合わせた解析:  94%(95%CI: 90~96)
  • 検査が陰性だった対照を用いた解析:  95%(95%CI: 91~97)
  • 症状が陰性だった対照を用いた解析:  94%(95%CI: 89~96)

だった。ICU治療を要するCOVID-19に対する有効性は98%(95%CI 93~99), 生命維持装置を要するCOVID-19に対する有効性は98%(95%CI 92~100)だった。Subgroup解析では、COVID-19入院に対する2回接種の有効性は各年齢集団で同等であった。

  • 12~15歳(症例患者251名):  95%(95%CI: 88~97)
  • 16~18歳(症例患者193名):  94%(95%CI: 88~97)

 部分接種済の有効性は97%(95%CI: 86~100)だった。しかし、症例患者における最後のワクチン接種からCOVID-19様症状の発症までの時間中央値は、部分接種済だった患者1名では30日間で, 完全接種済だった患者では90日間だったことに注意する必要がある。

 

 

(4) 考察

 コロナワクチン接種が可能となったにも関わらず、入院した思春期患者の96%・生命維持装置を使用した患者の99%が完全接種済でなかったファイザー製ワクチンの2回接種は、米国の12~18歳の思春期青少年において、COVID-19による入院リスクを94%減少させた。この入院した思春期青少年コホートにおいて、ワクチンは、生命維持装置を要し, 死亡に繋がるCOVID-19をほぼ全例回避したECMOを使用した13名と死亡した7名は全員ワクチン未接種だった。今回の知見は、12~15歳の思春期青少年を対象とし, 入院を要しないCOVID-19に対する有効性が100%と示したファイザー製ワクチンの臨床試験のデータと一致する。

 12~15歳の小児におけるファイザー製ワクチンの高い有効性は、ワクチンが感染後の病勢進行も防止する筈であることを示している。しかしながら、実際のワクチンのパフォーマンスを理解する為にワクチンは導入されるので、承認後の有効性のmonitoringも重要である。ワクチンの効果は併存疾患のある思春期青少年では異なるであろう。またワクチンの有効性は、新規変異株や, 1回目と2回目接種の間隔によっても異なる可能性がある。この研究で、米国で白人よりもCOVID-19のリスクが高い集団である黒人は24%, ヒスパニックは25%だった。併存疾患のある患者や, マイノリティ集団に属する人は、12~15歳におけるファイザー製ワクチンの臨床試験で過小評価されていた。今回の研究コホートでは患者の特徴についてこうした差が見られ, また基礎疾患の有病率が高いにも関わらず、ワクチン接種はCOVID-19による入院の合計リスクの94%の減少, ICU入室ないし致死的COVID-19の合計リスクの98%の減少と関連していることがわかった。加えて、今回の解析のフォローアップ期間中央値は、早期のファイザー製ワクチン臨床試験のそれよりも長かった思春期青少年ではワクチンの有効性が高く, また COVID-19重症化も見られているにも関わらず、この研究の対照群で完全接種済だったのは39%のみだった。こうしたデータは、思春期青少年におけるワクチン接種率改善の取り組みが、同集団における重症COVID-19リスクを顕著に低下させられる可能性を示している。

 

 

 どの年齢層であってもmRNAワクチンが有効であることは確実であり、特に重症化を防ぐ効果が高い点では、非常に心強いと言えます。ですがSARS-CoV-2感染を完全に防ぎ切れる訳ではありませんし、これまで当ブログで紹介したデータや, 報道でも触れられている通り、コロナワクチンの感染に対する予防効果は時間と共に低下します(重症化予防効果は維持されますが)。感染者が増えてしまえばそれなりに重症化する人は増えますので、医療体制の機能低下は避けられません。やはり個々人が感染対策に気を遣い, また政府が3回目接種を進めることが重要であることに変わりありません。

 最後になりますが、手前味噌ながら昨年末に3回目接種を受けた感想や, 3回目接種に関する最新データの紹介をYouTubeでやってみました。是非ご覧ください。

youtu.be

交通事故を起こした運転手の大麻成分血中濃度に関する研究

 こんにちは。現役救急医です。New England Journal of Medicineからのメルマガをチェックしていたら、非常に興味深い論文を見つけました。カナダで大麻合法化後に、交通事故を起こした運転手における大麻成分血中濃度を解析した研究です(N Engl J Med. 2022;386:148-56)。

 

(1) Introduction

大麻の運転に与える影響など

 大麻の使用は、認知機能障害・精神運動障害と関連しており, 特にtetrahydrocannabinol(THC; 大麻の主要な精神活性成分)の濃度が高いほど交通事故のリスクが上がると示すevidenceもある。大麻合法化が交通安全に与える影響は米国で研究されているが、「合法化後に致命的な事故が増加した」とする研究がある一方で, そうでないと示す研究があったりと結論が出ていない。カナダでこれまで行われた研究も、バイアスが伴っている等して正確とは言えない。

 

② カナダにおける大麻合法化と、交通安全に関する規定

 カナダでは2001年に医療目的で, 2018年10月に娯楽目的で大麻が合法化された。カナダの"Cannabis Act(Bill C-45)"は、若者の大麻へのアクセスの制限, 大麻に関連した非合法的活動の低減, 大麻製品の安全性向上, 大麻の健康リスクについて公衆の認知度を上げることにより、公衆衛生と安全を守ことを目標としている。またカナダ政府は、全血中THC許容量を規定し, 警察がドラッグ使用運転の証拠を採集する権限を拡大することによって、大麻を使用した運転を防止することを目的とするBill C-46を導入した。Bill C-46では、全血中THC濃度が2 ng/mLを超える運転手に対する罰則を規定している。また、THC濃度>5 ng/mL もしくは THC濃度>2.5 ng/mLで血中アルコール濃度>0.05% だった場合は、より重い罰則が規定されている。

 

③ この研究の背景や目的

 大麻使用後の運転のprevalence(有病率)を調べる方法の1つに、事故後病院で治療を受けた運転手を調べることが含まれる。この研究グループは2011年以来、ブリティッシュコロンビア州の外傷センターで治療された運転手のアルコール濃度・ドラッグ濃度を調査している。最初の解析は、大麻陽性or法律で規定されたTHC許容量を超える運転手の有病率を, 合法化前と後で比較することを目的としていた。大麻のavailability(入手のし易さ)上昇は、運転手がアルコールの替わりに大麻を使用していた場合、飲酒運転事故の減少と関連している可能性が示された。今回この研究では、事故前に飲酒単独ないし飲酒・大麻併用をした交通事故運転手の有病率の変化を調査することを目的とした。

 

 

(2) Method

① Study Design

 交通事故による中等度の外傷の患者には全例にて、診療の一環で採血が行われている。そこで、交通事故後に病院で治療を受けた中等度外傷患者の採血で, 診療のための検査後に余剰となり, かつ -40℃で保存されていた血液検体を使用した。

 

② 参加者について

 2013年1月から2020年3月の間に、ブリティッシュコロンビア州の外傷センター4ヶ所で治療を受けた運転手への研究を前方視的に行った。採血を行われた交通事故の運転手全員が対象となった。採血適応の判断は、ドラッグ使用の疑いに基づいては行われなかった; 参加施設では、大麻とその他ドラッグの検査を尿検体で実施した。低速度の交通事故による軽症外傷の運転手(採血されない)この研究から除外され、また、事故から6時間超過して採血された場合, もしくは 採血検体の余りがない場合除外された。

 

統計学的解析

 この研究ではTHC濃度だけでなく、血中アルコール濃度も評価した。合法化(2013年1月〜2018年9月)合法化(2018年11月~2020年3月)の2期間で有病率を計算し、全ての外傷運転手, 及び 関連するsbgroupにおいて粗有病率比("crude prevalence ratios")を報告した2018年の10月に事故を起こした運転手は除外した(合法化が実施された月であり、事故発生期日は個人情報保護の為伏せられている)。

 

 

(3) Result

 7年間で4,409名が対象となり, 血液検体の解析が実施された:  合法化前は3,550名, 合法化後は789名だった(合法化が実施された月の70名は解析より除外)。

  • 男性:  約2/3(4,409名中2,728名[61.9%])
  • 年齢中央値:  40歳
  • 入院:  1/5(21.8%)

合法化前後で、運転手及び事故の特徴は類似していた。研究期間中、時間経過とともに大麻使用の有病率は変化した(Figure 2)

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Figure 2

 合法化前、3,550名中325名(9.2%)でTHCが検出された。

  • THC濃度≧2 ng/mLの運転手:  136名(3.8%)
  • THC濃度≧5 ng/mLの運転手:  38名(1.1%)

だった。合法化後、789名中14名(17.9%)でTHCが検出された。

  • THC濃度≧2 ng/mLの運転手:  68名(8.6%)
  • THC濃度≧5 ng/mLの運転手:  28名(3.5%)

であった。アルコールが検出された運転手は、合法化前:  409名/3,550名(11.5%), 合法化後:  77名/789名(9.8%)だった。

 合法化、中等度外傷の運転手における有病率の増加が見られた。

  • THC濃度>0:  調整後有病率比: 1.33, 95%信頼区間(confidence interval; CI): 1.05~1.68
  • THC濃度≧2 ng/mL:  調整後有病率比: 2.29, 95%CI: 1.52~3.45
  • THC濃度≧5 ng/mL:  調整後有病率比: 2.05, 95%CI: 1.00~4.18

 THC濃度≧2 ng/mL(=大麻使用増加が最大)が見られたのは50歳以上(調整後有病率比: 5.18; 95%CI: 1.60~3.74)男性(調整後有病率比: 2.44; 95%CI: 1.60~3.74)だった。アルコール検査陽性, もしくは アルコールとTHCが陽性である運転手の有病率に有意な変化は見られなかった(Figure 3)

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Figure 3: 中等度外傷運転手への大麻合法化の影響を現す調整後有病率比

 

 

(4) Discussion

 娯楽目的の大麻使用合法化は、中等度外傷運転手におけるTHC陽性・THC濃度≧2 ng/mL・THC濃度≧5 ng/mLの有病率増加と関連していた。こうした増加は、大麻使用運転を抑制するための交通法規導入と同じ時期に発生した。カナダ統計局によると、大麻使用を報告した成人は合法化の14.9%から, 合法化は16.8%にまで増加した。合法化後により多くの人が大麻を使用するようになったことに加え, THC陽性運転手の有病率が大幅に増加したという知見は、合法化前よりも多く運転前に大麻が使用されるようになったという可能性を示している。Figure 2は、連邦政府が合法化を予告したものの, 法律自体は施行されていない時期からこうした傾向が始まったことを示している。こうした『移行期間』は大衆に「大麻はもう合法化された」, ないし 「大麻使用を禁ずる法律は施行されない」という誤った認識を抱かせた可能性がある。THCの存在 − 特に低濃度は、必ずしも大麻による事故を引き起こすとは限らないことに注意する必要がある。THC濃度>5 ng/mLの運転手では交通事故を起こすoddsが増加したものの、THC濃度<5 ng/mLでリスクが増加するというevidenceは乏しい

 ワシントン州では、2012年の大麻合法化後に致死的交通事故を起こしたTHC陽性運転手の割合が2倍となり, 2017年まで高値が維持された。コロラド州でも、大麻合法化後のマリファナ関連交通事故死増加が報告された。大麻合法化後4年間で大麻使用の有意な増加が見られたという点で、今回の研究の知見とワシントン州での調査は一致している。

 THC有病率の最大限の増加は、50歳以上で見られた。大麻使用有病率の研究のレビューによると、過去20年間で50歳以上における大麻使用に増加傾向があることが示された。同様にして、オンタリオ州では合法化前の時期でも、50歳以上の成人が大麻使用者の割合の増加に寄与した。合法化前、高齢運転者は、仮に若い時期に使用歴があったとしても、若年者よりも強く大麻禁止の影響を受けていた可能性がある。しかし合法化後、娯楽目的の使用を再開している可能性がある。この高齢者における大麻使用後の運転の増加は、懸念すべきことである。安全運転に必要な認知・精神運動機能は加齢とともに低下するので、高齢運転手は大麻の影響をより強く受ける可能性すらある。

 Bill C-46は警察が、体内にドラッグが存在するという合理的な疑いのある運転手に路上で口腔検体採取を求め, また, その前の3時間以内に運転手がドラッグ使用運転を行なったと合理的に信じるに足る場合には血液検体採取を求めることを可能とした。ブリティッシュコロンビアMotor Vehicle Actは、大麻使用運転を抑制する為に新たな罰則を規定した。外傷運転手におけるTHC陽性の顕著な増加は、新法が大麻使用後運転を抑止するに至っていないことを示している。これはおそらく、警察が大麻を使用した運転手を特定するのに難渋しているからであろう。

 大麻と関連した交通事故リスクは、飲酒運転の事故リスクと比較して低いように見える。また大麻入手が容易となったことは、運転手がアルコールの替わりに大麻を使用している場合、合計の事故発生率減少と関連している可能性が示されている。しかしながら、大麻合法化後に、中等度外傷運転手における血中アルコール濃度>0.08%の有病率(調整後有病率比: 0.98; 95%CI: 0.74~1.30)が減少したというevidenceは今回の研究で示されなかった。この知見は、大麻合法化でも飲酒運転に有意な変化が無かったことを示すワシントン州の調査と一致する。

オミクロン株に関する文献まとめ

 みなさんこんばんは。現役救急医です。今日は、最近話題のオミクロン株について自分なりに調べて、文献を3つ発見したのでそれを紹介してみます。

 

(1) 南アフリカからの入院患者に関する報告(Maslo C., Friedlamd R. et al., JAMA, 2021年12月30日発表, DOI: 10.1001/jama.2021.24868)

 南アフリカでは、これまで3回COVID-19の感染拡大が起きている。

  • 第1波:  2020年6~8月。従来型SARS-CoV-2による。
  • 第2波:  同年11~翌年1月。ベータ株による。
  • 第3波:  2021年5~9月。デルタ株による。

2021年11月15日から再度感染者数が増加し, 同時期にオミクロン株が発見された(=第4波; 2021年12月7日の時点で、地域内の陽性率は26%に達した。この研究では'Netcare'という病院グループでCOVID-19検査が陽性となって入院した患者全例を対象とし、第1~3波の最中に陽性率が26%になった時期と第4波(2021年11月15日〜12月7日)を比較した。フォローアップ期間は同年12月20日までだった。

 感染拡大期初期において入院治療を受けた患者数は、

  • 第4波:  2,351名
  • 第3波で最大:  6,342名

と異なった; 一方で、救急外来を受診してCOVID-19陽性と判明し, 入院した患者の割合は

  • 第1~3波:  68~69%
  • 第4波:  41.3%

であった。以前の感染拡大と比べて、第4波中に入院した患者は

  • より・・・第4波: 年齢中央値 36歳 vs 第3波で最大: 年齢中央値 59歳
  • 女性の割合が高い
  • 併存疾患のある患者が有意に少ない
  • 急性の呼吸器症状で受診する患者の割合が低い・・・第4波: 31.6% vs 第3波で最大: 91.2%

という結果だった。第4波で入院した971名のワクチン接種状況の内訳は

  • 接種済:  24.2%
  • 未接種:  66.4%
  • 接種状況不明:  9.4%

だった。

 酸素療法が必要な患者の割合は

  • 第4波:  17.6%
  • 第3波で最大:  74%

有意に減少, また人工呼吸器を使用している患者の割合も同じく有意に減少したICUへの入室は

  • 第4波:  18.5%
  • 第3波:  29.9%

だった。

 入院期間中央値は第4波で3日間その前では7~8日間)へ減少した。死亡率は

  • 第1~3波:  19.7~29.1%
  • 第4波:  2.7%

だった。

 南アフリカの第4波初期では、第1~3波と比較して患者の年齢が若く, 併存疾患が少なく, 入院・呼吸器症状が少なく, 重症度・死亡率が低下していた。

 しかしながらこの研究には、患者のウイルスのgenotypingが不明, 2021年12/20時点で7%の患者が入院中, 等の欠点があり、更なる研究が必要である。

 

 

(2) ノルウェーでのアウトブレイクBrandal LT., MacDonald E. et al, Euro Surveill, 2021;26(50):pii=2101147, 2021年12月16日発表)

① Introduction

 2021年11/30に、ノルウェー公衆衛生研究所(NIPH: Norwegian Institute of Public Health)は、SARS-CoV-2オミクロン株感染が疑われるCOVID-19症例の報告オスロの地方研究所から通知された12/1にはオミクロン株と確定診断された)。この症例は同年11/24に南アフリカから帰国しており, また11/26に開催されたクリスマスパーティに出席していた。

 このパーティはオスロのレストランで18:00~22:30の間に145 m2の個室で行われ、その後22:30~翌朝3:00まで開放されていた(0次会も別の場所で行われていた)。パーティー出席者全員がワクチン2回接種済と自己申告し, また 主催者から自分で迅速抗原検査を受けるように要請されていた。パーティ会場の部屋を訪れる他の客やレストランの従業員に対しては、ワクチン接種・COVID-19検査・マスク着用・COVID-19に関する証明書は求められておらず、客の名簿は着けられていなかった。

 アウトブレイクが探知された11/30以後、パーティー出席者には10日間自宅で隔離("quarantine")を行うこと, 及び 直ちにPCR検査を受けるように求められた。陽性者には、少なくとも7日間は隔離(或いは分離?: "isolation)をするように求められた。12/1には、11/26の22:30〜11/27の3:00の間にパーティ会場に居た人に対して、症状の有無に関係なくPCR検査を直ちに受けるよう求める広報が出された。

 

疫学調査

 12/1にオスロの市政当局とNIPHは調査を開始した117名の出席者のうち111名がインタビューに回答した。回答者の平均年齢は39歳で, 女性は48名(43%)だった。107名(96%)の回答者は2回接種済だった。回答者全員が、クリスマスパーティーの1~2日前に自分で受けた迅速抗原検査 or PCRが陰性であったと回答した。

 111名のうち、

  • オミクロン株と確定診断されたのは 66名(59%)
  • 疑い例PCRSARS-CoV-2陽性となっただけ)は15名(14%)

であった。デルタ株感染が確認された1名は、その後の解析から除外されたオミクロン株の合計発症率("total attack rate")は74%(110名中81名)だった。これらの症例の平均年齢は38歳で, 女性は35名(43%)だった。残りの参加者29名に関しては、2021年12/13の時点でPCR陽性とはならなかった。

 パーティがウイルス曝露であると仮定すると、症候性症例の潜伏期間は0~8日(中央値: 3日)である。1名が無症状であり, 74名(91%)で少なくとも3個の症状があった。81名の症例の中で最も多い症状は、咳嗽(83%), 鼻汁(78%), 倦怠感(74%), 咽頭痛(72%), 頭痛(68%), 発熱(54%)だった。

 インタビューの時点で症候性症例80名中62名(78%)が症状を有していたので、症状持続期間は正確に推測できなかった。

  • パーティ2週間にCOVID-19症状があったと申告:  7名
  • パーティ前7日以内に海外旅行したと申告:  7名(うちアフリカ 3名, ヨーロッパ 4名), このうちパーティ前の時期に症状があったと申告したのは0名だった。
  • パーティの前の週に出勤していた:  110名中104名(95%), うち89%(96名)ではオフィスを共有していた。

 オミクロン株症例の大半(79名; 98%)と, オミクロン症例の大半(27名: 93%)がワクチン2回接種を済ませていた。

 加えて、調査の過程で, 12/13の時点では、パーティ会場で感染した可能性のある他の客約70名が確認され, そのうち53名でオミクロン株が検出された

 

③ Discussion

 この調査結果は、2回接種済の人の間であってもオミクロン株が高い感染力を持つという知見を支持している。今回記載されたアウトブレイクにおいて、症候性感染による高い発症率は、屋内・長い曝露時間・混雑・大声での会話といった環境により悪化させられた可能性がある。パーティの参加者の一部ではパーティ前に症状があったことから、感染の一部は職場の同僚間, ないし 0次会で発生した可能性がある。また、複数のウイルス導入があった可能性も除外できない。

 潜伏期間中央値は3日と推定され、これはデルタ株や, その他過去に流行した非デルタ株SARS-CoV-2に関する過去の報告よりも短い

 濃厚接触者追跡による迅速な検出・隔離の組み合わせは短期的に感染拡大を減速させられるかもしれないが、こうした方法がオミクロン株の拡散を将来的に阻止する可能性は低い。パーティ参加者の大半がワクチン接種2回接種済であり, パーティ前に抗原検査を受けていたことから、COVID-19関連のデジタル証明書といった枠組みですら今回のアウトブレイクを防げなかったと思われる。

 ノルウェーは12/2以降、感染制御政策を適用し, 強化している。12/16の時点で、イベントの制限, 在宅での労働, 4週間の飲食店でのアルコール飲料提供禁止を含めた対策を行っている。

 

 

(3) デンマークの785症例に関する報告(Espenhain L., Funk T. et al., Euro Surveill, 2021;26(50):pii=2101146, 2021年12月16日に発表)

① Introduction

 デンマークでは2021年11/28に、最初のオミクロン株症例が発見された(南アフリカからの帰国者)。12/9までにデンマークでは合計785名のオミクロン症例が登録された。

 この研究において、オミクロン株症例の記述の為に、複数の全国規模registryを毎日リンクしている通常のCOVID-19 surveillanceのデータを使用した。

 

デンマークでの検査体制やオミクロン株への対策

 デンマークのCOVID-19検査は無料かつアクセスは容易である。地元住民 or 訪問者なら誰でも予約可能な'TestCenter Denmark'(TCDK)で検査が行われる他、病院やかかりつけ医からの紹介で, 地元の臨床微生物学部で検体の解析を行うこともある。

 デンマークのCOVID-19検査の方針には、COVID-19確定診断例への無症候な濃厚接触者への検査と, 職場や学校などの特定の状況へのscreening検査が含まれている。流行開始〜12/9の時点で、デンマークの人口の9.2%がSARS-CoV-2陽性となった。

 デンマークにおけるSARS-CoV-2変異株の検査は、陽性検体全例への変異株特異的なRT-PCRによるscreeningと, 拡大した全ゲノム配列解析(WGS: whole-genome sequencing)によって行われた。

 デンマーク患者安全当局(STPS: Danish Patient Safety Authority)により、オミクロン症例の周辺での広範囲の濃厚接触者追跡が開始された。オミクロン確定例には症状消失後48時間までの自己隔離が求められ, 無症状の場合には7日間の隔離が求められた。濃厚接触者とその濃厚接触者全員には、オミクロン確定例接触後1日目・4日目・6日目に検査を受けること, 及び 6日目の検査で陰性と出る間では自己隔離するように推奨された。2021年12/7に濃厚接触者の接触者への自己隔離は廃止された。11/27には入国制限が導入された。

 

③ オミクロン症例について

 2021年12/9までにデンマークでは785名のSARS-CoV-2 オミクロン株症例が登録された。直近の検体は12/7に採取された。1日の症例数は急速に上昇し(Figure 1)12/4からは40%を超える増加が見られた。合計すると、WGSにより更に143例(18%)が確認された。オミクロン症例の年齢は2~95歳(中央値: 32歳)で, 男性は433名(55%)だった。

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Figure 1: 2021年11/22~12/7の間のオミクロン症例数。感染したと疑われる場所ごとに色分けされている。
  • 入院:  9名(1.2%), そのうち1名は集中治療を受けた
  • 死亡:  0名

だった。症例はデンマーク国内の広範囲で特定されたものの、デンマーク西部と首都に集中したワクチン接種状況は

  • 2回接種済:  599名(76%)
  • ブースター接種済:  56名(7.1%)

だった。

 12/9時点で644名(全症例の82%)で感染した場所が判明しており, うち56名(8.7%)で旅行歴があった。16名は南アフリカからの帰国のみならず、その他のアフリカ諸国やヨーロッパ諸国からの帰国も申告した。更に464名(75%)は感染した可能性のある場所を申告し, 180名(28%)の旅行歴のない人は感染した疑いのある場所を申告しなかった(or できなかった)。今日に至るまで(≒2021年12月中旬)、STPSは83名のオミクロン症例を5件のイベント(参加者100名超)と関連づけている。1件のイベントでは71名の参加者(47%)が感染するという高い発症率が報告された。このイベントへのオミクロン株の持ち込みは、南アフリカへの渡航歴がある人により行われた。このウイルスは更に中等学校3校と, 同じ地域で開催されたコンサート(参加者2,000名)へと伝播し、結果的にデンマーク国内他地域で開催された他のイベントにも伝播した。更に、1ヶ所の病院の高齢者病棟で院内アウトブレイクが発生し、80歳以上の患者4名と2名のスタッフがオミクロン株陽性となった。全員ワクチン接種済だった。

 

④ Discussion

 デンマークで1例目のオミクロン症例が発見されてから、症例数は急増した。こうした増加の要因は、若年成人が参加する大規模パーティであった。デンマークの対応は、3回目接種の拡大, 及び 最近開始された5~11歳の小児への接種プログラム拡大までの時間を稼ぐ為に、オミクロン株の感染を遅らせることだった。しかし急速な症例数増加はこうした対策を妨げているオミクロン症例を早期に探知し, 渡航制限を実施し, また濃厚接触者追跡を拡大したにも関わらず、5名中1名超は既知の症例と関連付けられなかった。この知見は、オミクロン株の最初の症例が特定されて1.5週間以内の時期に, 既に地域内感染が拡大していたことを示している。

 オミクロン株症例の83%が2回接種済 または ブースター接種済だったことは懸念される。これらの知見が大規模な感染拡大イベントと、主に若年成人によるその後の感染の連鎖というartefactによるものかどうか, そして 子供へまだ広がっていないかどうかということは、まだ結論を出すことができないオミクロン株症例の内訳と短いフォローアップ期間は、今回観察された入院症例の割合に影響した可能性がある。無症候症例の割合は、濃厚接触者への大規模検査と比較的急速な症例へのフォローアップを考慮すると、注意して解釈されるべきである。つまりオミクロン株症例は、感染症の早期に検出された可能性がある。

 注意すべきことに、デンマークのオミクロン症例第1号は、南アフリカがこの変異株の出現を公表する前に発生した。こうした症例はカタールからオランダへの渡航歴を申告しており、このことはオミクロン株がこの時期よりも前にアフリカ諸国から拡散した可能性を示しているまた、より後の時期のデンマークの旅行関連オミクロン症例は、南アフリカから帰国した人のみならず, 他のヨーロッパ諸国から帰国した人においても見出され、報告よりも広範囲にわたって地域内に蔓延している可能性が示された

 

 

(4) まとめ

 最後に、これらの論文によってオミクロン株について分かったことを私なりにまとめてみます。

  1. オミクロン株の感染力は強くデンマークでは症例数が急増した。またこれまでのSARS-CoV-2同様、多人数での密集・複数人との飲食や談笑といった高リスクな行動で容易に伝播してしまう
  2. ワクチン2回接種済(及び3回接種済)であっても感染するので、ワクチン接種済であっても油断禁物である。
  3. 若年者や併存疾患が無いor少ない人でも感染するし、中には入院治療が必要となったり, 集中治療室へ行く場合もある。
  4. デルタ株などの従来のSARS-CoV-2変異株と比べて潜伏期間が短い可能性がある。
  5. 南アフリカで発見される前(or 発見が公表される前)に既に各国へ伝播していた可能性がある。
  6. まだ分からないことも多いので、今後も解析・研究が必要である。

最も重要なメッセージは1, 2, 3と6だと思います。

「◯◯が担当大臣/首相だったから…」は本当ですか?

 皆さんこんにちは。現役救急医です。SARS-CoV-2感染者数がまた急増し、一部地域では蔓延防止措置が適用されました。

news.yahoo.co.jp

「まん延防止等重点措置」広島・山口・沖縄への適用を正式決定 約3カ月ぶり 9日から31日まで(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

そんな中で、医療従事者の間では「11歳以下へのコロナワクチン接種を前倒しすべきだったのでは」, 「ブースター接種を前倒ししておけばよかったのに」という意見が見られ, また「ワクチン担当大臣が河野太郎氏だったら良かったのに」などと言う意見も聞かれたことは、前回のブログ記事で述べた通りです。

 そういえば昨年、日本でコロナワクチンの2回接種率が急速に上がった時期に、「旧民主党政権ではこんなことできなかった」とかいう意見も散見されました。もしかしたら、第一原発事故の際の菅直人政権の対応や, 現在の野党の状況を見てそう思っているのかもしれませんが、私はこうした「あの人だったらワクチン接種が進んだ」, 「あいつらが政権を担っていたらもっと酷いことに…」という意見には懐疑的です。

 皆さん、ちょっと世界に目を向けてみませんか?下のリンクはロイター通信社が作成したページで、世界中のコロナワクチン接種率を地図上に反映したものです。明るい緑色になるほど接種率が高い国であり, 他方、色が暗くなるほど接種率が低い国です(中には真っ黒でクリックしても国名と数字が出ない国があり、ロイター通信社がデータを把握していないのでしょう)。

graphics.reuters.com

この地図を見ていると、アフリカ大陸がヨーロッパや北米などと比較しても明らかに色が暗い(=接種率が低い)ことが分かります。他にも、ヨーロッパで西と東でコントラストに差があり、とりわけロシア・ウクライナベラルーシといった旧ソ連構成国と, より西側の国々の間で差が歴然としているように思われます。アジア大陸でも、北・東へ行くほど接種率が高いように見受けられます(各国がどのワクチンを採用しているのかまでは表示されませんでした)。様々な要因が考えられますが、やはり国家・地域間の経済状況や政治体制といったものにより影響を受けていると思われます。

 昨年の秋などに「ワクチン接種率が7割に到達した!」と喜べたのは、私たちがたまたま日本列島に住んでいた(or 生を受けた)からであって、たとえばアフリカやシリア・アフガニスタン辺りならば、コロナワクチン接種券の到着どころか, 日々の生活すら貧困や内戦などのせいで怪しかったかもしれないのです。では、こうした地域・国家間の格差生じたそもそもの原因は何なのか?それは、我々の祖先(ホモ・サピエンス)がアフリカ大陸から出てきた頃から始まっていたのかもしれません。ジャレド・ダイアモンド博士が2000年代初頭に著した『銃・病原菌・鉄』では、

  • 定着した先に、家畜化に適した動物がどれほど居たか(生態系や気候の問題)
  • 家畜化した動物が起源の病原体(天然痘, 麻疹など)の感染を経験し, 結果的にそれら病原体への集団免疫を獲得したか
  • 定着した先に、農業に適する植物が分布していたか(生態系や気候の問題)
  • 他の地域と交易や競争によって(=地理的な要因)、農業・製鉄等の技術導入や技術革新の機会があったか

などの要因が指摘されています。ホモ・サピエンスは狩猟採集生活から定住に移行する過程で農業や牧畜を開始したと考えられますが、その農業の発展により人類は集住し, 人口が増加。やがて国家を形成し、金属の利用方法や文字を開発し…という形で、いわゆる文明を形成する訳です。なお、ホモ・サピエンスの到達が遅れたオーストラリアや南北アメリカ大陸などでは、ユーラシア大陸と比べて文明の誕生が遅くなり, その結果、15世紀以降に金属製の武器(鉄製の刀剣と銃器)を備え, 天然痘などの疫病を持ち込んだヨーロッパ人の侵略を前に容易に屈服してしまったと考えられるのです。日本は、シベリア・朝鮮半島・南方(台湾辺り)という比較的渡航が容易な経路で祖先が日本列島に定着し, 四大文明(=中国)がたまたま近くにあったので農業や製鉄・文字などが早期に流入したからこそ、比較的早期に国家を形成できたのです。

 また、昨年初頭くらいに読んだ『人口で語る世界史』(ポール・モーランド著, 文藝春秋では、英国での産業革命以降の史料等を根拠に、英国のみならず米国・日本・ロシア・中国といった世界史にそれなりの影響を与えた各国での人口の推移や, それが近代化・経済発展・世界情勢に与えた影響について述べられています。詳細は省きますが、過去に近代化/工業化に成功し, それに伴い人口が増大したお陰で今の日本がある、ということなのです。

 私たちは、たまたま運が良かっただけなのです。祖先が比較的早期に, 比較的突破可能な難関を超えて日本列島に到達しました。気候が安定していたので定住と人口増加が可能となり, 近くに中国と朝鮮半島があったので比較的早期に農業・文字・製鉄等の各種の技術や知識を導入し、比較的早期に国家を形成することが出来たのです。昨年夏などにコロナワクチンの大規模接種会場複数を設営できたのも、こうした石器時代・古代からの積み重ね, この国の統治機構が古くから発展・崩壊・新生・改善を繰り返してきた積み重ねの結果なのです。