Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

UpToDateで見るCOVID-19ワクチンのプロファイル

 こんばんは。今日は、2021年5月13日現在、各国で製造され実用化されている(注: 臨床試験が始まっていないのものは除く)COVID-19ワクチンについて調べてみた結果をまとめてみたいと思います。今回は、"UpToDate"を利用しました。

 

(1) 作用機序による分類

 現在実用化されているCOVID-19のワクチンを、製造方法or作用機序によって分類した場合、次の5種類に分けられます。

① 不活化ワクチン:  SARS-CoV-2を細胞培地で増殖させた後、化学的に不活化する。不活化したウイルスは大抵、ミョウバン等のアジュバント(免疫反応を刺激する成分)と混合されている。

② 組換えタンパクワクチン(recombinant protein caccine):  昆虫や哺乳類の細胞, 酵母細胞, 植物が発現するウイルスタンパク質。このウイルスタンパク質にはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質, 受容体結合ドメイン, ウイルス様粒子が含まれる。

ベクターワクチン:  現在実用化に至っているのは、生体内で自己複製をする能力を失ったベクターウイルスにSARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現させたもの。

⑤ mRNAワクチン:  SARS-CoV-2ウイルスタンパク質の情報を含むmRNA。mRNAは細胞質内に入り(核には入らない)、そこでmRNAが翻訳されることでウイルスタンパク質が合成される。

 

 

(2) 商品名/製造業者による分類(+有効性など)

 まず有名どころ(?)のmRNAワクチンから行きましょう。mRNAワクチンは以下の2種類が現在使用されています。

① BNT162b2

 1. 製造業者:  ファイザー, BioNTech

 2. 投与方法:  3週間の間隔を置いて、2回筋注する。

 3. 承認している国:  米国, 英国, EU, カナダ等
 4. 第3臨床試験の結果:  16歳以上の被験者36,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で8名・プラセボ群で162名COVID-19罹患が確認されており、2回目接種後7日以降の有効性は95%であった。
 5. 各国のデータ

  • イスラエルでは、SARS-CoV-2感染の予防効果; 92%, 症候性COVID-19の予防効果; 97%, COVID-19による入院の予防効果; 97%, COVID-19による死亡の予防効果; 97%という結果(いずれも2回目接種から7日以降に評価)が出ている。
  • 英国でB.1.1.7 variant(所謂『英国変異株』)流行していた時期に行われた、23,000名の医療従事者対象の試験では、1回目接種から21日以降で70%, 2回目接種から7日以降で85%の有効性だった。
  • B.1.351 variant(所謂『南アフリカ変異株』)B.1.1.7が優勢であったカタールにおける265,000名を対象にした試験では、B.1.1.7に対する有効性は90%, B.1.351に対する有効性は75%であり, 両variantによる重症・超重症・死亡に対する有効性は100%だった。

② mRNA-1273

 1. 製造業者:  モデルナ

 2. 投与方法:  28日の間隔を置いて2回筋注

 3. 承認している国:  米国, EU

 4. 第3相臨床試験の結果:  18歳以上の被験者約30,000名を2回目接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、COVID-19罹患はワクチン群で11名・プラセボ群で185名であり、2回目接種後14日以降の効果は94.1%であった。

 5. 各国のデータ:  COVID-19に合致する症状で入院した65歳以上の患者489名を対象にした米国の研究では、SARS-CoV-2の検査で陽性となった1名(0.5%)のみが2回の接種を受けており, それに対して18名(8%)がSARS-CoV-2陰性であった。COVID-19による入院の予防効果は94%と推定された。

 

 次に、ベクターワクチンを紹介します。

③ Ad26.COV2.S

 これに関しては、脳静脈洞血栓症と血小板減少症の合併1例が若い女性被験者1名にて報告され、その後使用が拡大するにつれて同様の合併症が報告されています(稀な合併症ですが)。

 1. 製造業者:  ヤンゼン/ジョンソンアンドジョンソン

 2. 投与方法:  1回投与, 筋注

 3. 承認している国:  米国

 4. 第3相臨床試験の結果:  18歳以上の被験者40,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で116名・プラセボ群で348名が中等症〜重症のCOVID-19に罹患しており、接種14日以降の予防効果は66.9%であった。接種28日以降の結果も類似していた。

 5. 各国のデータ

  • 米国; 有効性は74%
  • ブラジル; P.2 variant(所謂『ブラジル変異株』のこと?)が優勢だが、有効性は66%だった。
  • 南アフリカ(B.1.351が流行); 有効性は52%だった。

④ ChAdOx1 nCoV-19/AZD1222

 こちらも、ごく稀ながら血小板減少症を伴う血栓症のリスクと関連性があるとされています。

 1. 製造業者:  オックスフォード大学, アストラゼネカ, インド血清研究所

 2. 投与方法:  筋注。WHOは8~12週間間隔で2回投与を推奨。

 3. 承認している国:  EU, 英国, カナダ, インド

 4. 第3相臨床試験の結果:  11,000名を接種後2ヶ月間(中央値)追跡した結果、ワクチン群で30名・コントロール群で101名COVID-19と診断されており、2回目接種14日以降の有効性は70.4%であった。

 5. 各国のデータ:  南アフリカでの第1/2相臨床試験のpreliminary resultによると、アストラゼネカ製ワクチンは軽症〜中等症の割合を減らさなかったが、この試験の期間中B.1.351が蔓延していたB.1.1.7による症候性COVID-19への効果は、他の変異ウイルスと比較しても統計的に有意な差はなかった。

⑤ Ad5-based COVID-19 vaccine

 1. 製造業者:  CanSino Biologics

 2. 投与方法:  筋注で単回投与。

 3. 承認している国:  中国, メキシコ, パキスタンなど

 4. 臨床試験データなど:  Press releaseでは75%の有効性と発表されたものの、検証に必要な詳細な臨床試験のデータがまだ公表されていない。

Gam-COVID-Vac/Sputnik V

 1. 製造業者:  Gamaleya Institute

 2. 投与方法:  1回目はadenovirus 26ベクターを筋注し、2回目は21日〜3ヶ月後にadenovirus 5ベクターを筋注する。

 3. 承認している国:  ロシア, メキシコなど

 4. 第3相臨床試験の結果:  14,964名のワクチン群の中で16名・2902名のプラセボ群の中で62名がCOVID-19に罹患した。症候性COVID-19の発症防止の効果は92.6%であった。

 

 続いて、組み替えタンパクワクチンに移ります。こらは今のところ、次の1種類のみのようです。

⑦ NVX-CoV2373

 1. 製造業者:  Novavax

 2. 投与方法:  21日間間隔を空けて2回筋注。

 3. 承認している国:  不詳(UpToDateで言及なし)

 4. 第3相臨床試験の結果:  18〜84歳の被験者15,000名を追跡し、ワクチン群で6名・プラセボ群で52名のCOVID-19症例が出たinterim analysisの結果より、症候性COVID-19を予防する効果は89.3%だった。

 

 最後は不活化ワクチンです。次の3つが含まれます。

⑧ BBIP-CorV

 1. 製造業者:  Sinopharm

 2. 投与方法:  28日間間隔を空けて2回筋注

 3. 承認している国:  中国, UAE, ハンガリー

 4. 臨床試験のデータなど:  Press releaseでは79~86%の有効性と発表されたが、検証に必要な詳細なデータが公表されていない。なお、B.1.351への中和活性が低いとの報告がある。

⑨ CoronaVac

 1. 製造業者:  Sinovac

 2. 投与方法:  ⑧に同じく

 3. 承認している国:  中国, ブラジル, チリ, インドネシア, メキシコ, トルコ等

 4. 臨床試験のデータなど:  Press releaseでは50~91%の有効性と発表されているが、詳細なデータが公表されていないB.1.351への中和活性は低いとの報告あり。

⑩ Covaxin

 1. 製造業者:  Bharat Biotech/Indian Council of Medical Research

 2. 投与方法:  29日間の間隔を空けて2回筋注。

 3. 承認している国:  インド

 4. 臨床試験のデータなど:  効果を検証する臨床試験の途中。

COVID-19 vs トシリズマブ Part 4 - EMPACTA trial -

 数日ぶりですが、今日も前回同様、COVID-19患者へのトシリズマブの臨床試験の論文を紹介していきます。今回紹介するのは、2020年12/17にNEJMへ発表された論文"Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19 Pneumonia."(Salama C., Han J. et al., N Eng J Med 384(1)20-30)です。

 

(1) Introduction

 パンデミックにより不均衡に影響を受けている、医療サービスを十分受けられない人種的マイノリティに対しては、特にCOVID-19の治療が必要である。米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)とPrevention Covid-19-Associated Hospitalization Surveillance Networkによると、非ヒスパニック系白人と比較したその他人種のCOVID-19による入院率は以下のようになっている(2020年11/30時点のデータ):

  • 非ヒスパニック系黒人: 3.7倍
  • ヒスパニック系 or Latino: 4.1倍
  • 非ヒスパニック系アメリカンインディアン or アラスカ先住民: 4.0倍

またイングランドでも、1,700万人の患者のうち、非白人患者は白人患者と比べてCOVID-19に関連した死亡のriskが高かったというデータが出ている。マイノリティで医療サービスが十分に受けられない集団をもっと多くCOVID-19治療へ参させる臨床研究が必要である; こうした集団は大抵、臨床試験参加の焦点にならず, COVID-19の臨床試験では過小評価されている。

 EMPACTA(Evaluating Minotiry Patients with Actemra)国際的な第三相臨床試験であり、この試験では人工呼吸器を装着していないCOVID-19入院患者におけるトシリズマブの安全性・効果を試験した。この試験ではハイリスクかつ人種的マイノリティ集団の登録が強調された。

 

(2) Method

①Trial Design

 EMPACTA trialはランダム化二重盲検化・プラセボコントロールの第三相試験である。ハイリスクかつマイノリティの集団の登録を行う世界中の施設が参加した。

② PICO

1. Patient Selection

 18歳以上のCOVID-19(PCR, 画像検査で確定診断)患者が登録した。

 一方で、以下に該当する患者は除外された。

  • 持続的陽圧換気(continuous positive airway pressure), 双レベル陽圧換気(bilevel positive airway pressure), 人工呼吸器管理のいずれかを使用
  • 24時間以内に病勢の死亡への進行が切迫し不可避である, もしくは、活動性結核症ないし活動性の細菌性・真菌性orウイルス(SARS-CoV-2感染orコントロールが良好なHIV感染症は除く)感染症が疑われる場合

2. Intervention:  標準治療へトシリズマブIV 1 or 2回を併用(以下、介入群と呼ぶ)

3. Comparison:  標準治療へプラセボを併用(以下、対照群と呼ぶ)

 ここで言う標準治療とは地域ごとのpracticeに則ったものであり、抗ウイルス治療, ステロイド投与の制限(≦1 mg/kgのメチルプレドニゾロン or その同等), 支持的ケアが含有され得る。また患者の状態が悪化ないし改善しなかった場合、初回の薬剤投与から8~24時間後に追加投与が可能であった。

4. Outcome:  以下のようなprimary efficacy outcomeとkey secondary outcome, 及び有害事象の発生率・重症度が評価された。

 1) Primary Efficacy Outcome; 28日目までの人工呼吸器使用 or 死亡

 2) Key Secondary Efficacy Outcome; 以下の4項目

  • 28日間における退院 or 退院待ち状態までの期間
  • "Seven-category ordinal scale"が2 category以上改善するまでの期間(baselineとの比較)
  • "Clinical failure"(死亡, 人工呼吸器使用, ICU入室, 治療撤退["withdrawal"])に至るまでの期間
  • 死亡

 

(3) Result

① Patients Randomization

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 6ヶ国(米国, メキシコ, ケニア, 南アフリカ, ペルー, ブラジル)の389名の患者がランダム化され, 1名が間違ってランダム化された結果、377名が2:1の比率でそれぞれ介入群ないし対照群へ割り振られた(Fig. 1)。調整済みintention-to-treat population(=元のprotcolから逸脱した患者も元のグループのまま解析を行うこと)において、249名が介入群, 128名が対照群となっていた。対照群に行った患者1名がトシリズマブを投与され, 11名の患者がトシリズマブまたはプラセボの投与を受けなかったことから、safety populationに含まれたのは介入群250名, 対照群127名だった。全体として、介入群において255名(90.4%), 対照群において115名(89.8%)臨床試験を完了した。両群において、フォローアップ期間の中央値は60日間であった。

② Patient Characteristics(Table 1)

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 両群間でbaselineの人口統計学上・疾患特性は概ね均衡であった。

  • 性別:  介入群; 60.2%が男性, 対照群; 57.0%が男性
  • 平均年齢:  介入群; 56.0±14.3歳, 対照群; 55.6±14.9歳
  • ヒスパニック or Latino:  介入群; 143名(57.4%), 対照群 68名(53.1%)
  • 黒人:  介入群; 35名(14.1%), 対照群; 21名(16.4%)
  • アメリカンインディアン or アラスカ先住民:  介入群; 33名(13.3%), 対照群; 15名(11.7%)

試験参加前7日間 or 参加中に受けた治療の内訳

  • ステロイド投与:  介入群; 200名(80.3%), 対照群; 112名(87.5%)
  • 抗ウイルス療法:  介入群; 196名(78.2%), 対照群; 101名(78.9%)

③ Primary Efficacy Outcome

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 28日目までに人工呼吸器使用or死亡した患者の累積percentageは、対照群(19.3%; 95%CI 13.3-27.4)よりも介入群(12.0%; 95%CI 8.5-16.9)有意に低かった(hazard ratio[HR] 0.56; 95%CI 0.33-0.97; P=0.04) (Table 2, Fig 2)

④ Secondary Outcome

 28日間における退院or退院待ち状態までの期間の中央値は介入群で6.0日(95%CI 6.0-7.0), 対照群で7.5日(95%CI 7.0-9.0)だった(HR 1.16; 95%CI 0.91-1.48) (Table 2)。その他の結果は以下の通り。

  • 28日間における改善までの期間の中央値:  介入群; 6.0日(95%CI 6.0-7.0) vs 対照群; 7.0日(95%CI 6.0-9.0) (HR 1.15; 95%CI 0.90-1.48) (Table 2)
  • 28日間における"clinical failure"までの期間の中央値:  両群で推計不能(HR 0.55; 95%CI 0.33-0.93) (Table 2)
  • 28日間の死亡率:  介入群; 10.4%(95%CI 7.2-14.9) vs 対照群; 8.6%(95%CI 4.9-14.7) (weighted difference 2.0 percentage points; 95%CI -5.2-7.8) (Table 2)

⑤ Safety

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 データのcutoff期日は2020年9/30であった。有害事象の内訳は以下の通り(Table 3)

  • 60日間における有害事象:  介入群; 50.8%, 対照群; 52.8%
  • 重篤な有害事象:  介入群; 15.2%, 対照群; 19.7%
  • 死亡:  介入群; 29名(11.6%), 対照群; 15名(11.8%)

 

(4) Discussion

 EMPACTA trialでは、合計して25%超が65歳超であり, 75%超が1つ以上の並存疾患を持ち, 80%超が人種的マイノリティであった。

 EMPACTA trialにおいて、トシリズマブと標準治療を併用された患者は、プラセボ+標準治療の患者よりも、28日間における人工呼吸器への悪化 or 死亡の可能性が有意に低かった。あらゆる原因による死亡のみをsecondary outcomeとして評価した場合、死亡率に関するbenefitは見られなかった。「トシリズマブ投与後に人工呼吸器使用へ悪化した患者はより重症な患者のsubgroupからなっており, その為死亡riskが高い」という仮説が考え得る; この仮説は、対照群において、介入群よりも多くの割合の患者が人工呼吸器を着けないまま死亡したという事実により支持される。この疑問に答えるための研究が現在進行中である。28日目までの退院までの期間の中央値は、介入群において対照群よりも1.5日間短かったものの、重複する期間が存在する。

 人種的マイノリティの集団がCOVID-19パンデミックの影響を不均衡に受けていると言う知見が示され続けていることから、COVID-19患者におけるhealth careの不均等は危機的である。COVID-19臨床経過において人種が果たす役割は複雑であり, 十分理解されていない。COVID-19に罹患した人種的マイノリティの過剰な提示と, COVID-19臨床試験におけるマイノリティの提示不足の間の不一致を処理する為に、EMPACTAでは、医療サービスが十分に受けられないマイノリティ集団へ治療を行なっている施設を優先的に参加させた。人種別に評価したprimary efficacy outcomeは、全患者集団のoutcomeと一致した。

 人工呼吸器使用への悪化を防止することは、COVID-19治療においては極めて重要である。人工呼吸器の危機的な不足は、この限られた資源を節約する治療法の必要性を強調する; これは特にアフリカにおいて懸案である。人工呼吸器を使用する患者の比率を減らすことが、重症管理病棟への負荷や直接的な医療費資質を減少させ, 最も重症な患者の為に人工呼吸器を確保することに繋がる。

 EMPACTA trialの結果は、トシリズマブのbenefitを受ける可能性が最も高い患者が中等症, ないし 重症患者であること, また、トシリズマブが抗ウイルス薬・ステロイド投与による潜在的なbenefitを高める可能性があることを示唆している。

 EMPACTAは、標準治療+トシリズマブの治療が、人工呼吸器使用への進行 or 死亡という複合outcomeの可能性を低減することにおいて、標準治療+プラセボよりも効果的であることを示した。しかしながら、死亡に関して差は無かった。

COVID-19 vs トシリズマブ Part 3 - "STOP-COVID" -

 今日も前回, 前々回に続いて、COVID-19患者におけるトシリズマブの臨床試験を紹介していきます。今回参考にした論文は、2020年10/20にJAMA Internal Medicineへ掲載された"Association Between Early Treatment With Tocilizumab and Mortality Among Critically Ill Patients With COVID-19."(Gupta S., Wang W. et al.)です。

 

(1) Intruduction

 ランダム化試験の結果が出ていない場合(2020年当時[10月以前]、トシリズマブのランダム化試験の結果は出ていなかったから?)、target trial emulation approachを採用することで、観察研究の分析を実践の指針にできる可能性がある。従って、多施設コホート研究由来のデータを、COVID-19重症患者の死亡率に対する早期のトシリズマブ治療の効果の推定に使用した。

 

(2) Method

① Study Design

 この研究では'Study of the Treatment and Outcomes in Critically Ill Patients With COVID-19(STOP-COVID)'由来のデータを使用した。'STOP-COVID'とは、米国内の68施設のICUに入室し, COVID-19確定診断が得られている患者を連続して登録した多施設コホート研究である。

② PICO

1. Patient Selection

 以下の条件を満たす患者がこの研究に登録された。

  • 検査でCOVID-19と確定診断されている
  • 年齢; ≧18歳
  • 2020年3/4〜5/10の間に、COVID-19と直接関係のある病態でICUへ入室した

 また、以下の条件に該当する患者は除外された。

  • トシリズマブ, または その他IL-6 antagonistを使用するプラセボコントロール試験に参加している
  • ICU入室前に1週間以上入院している
  • ICU入室時に肝機能障害あり(AST or ALT>500 U/L)
  • トシリズマブ以外のIL-6 antagonistを、ICUへ入室した最初の2日間に投与された
  • ICU入室前にトシリズマブを投与された

2. Intervention&Comparison

 患者は、ICUへ入室した最初の2日間にトシリズマブを投与されたか否かによって組み分けされた。最初の2日間より後でトシリズマブを投与された患者は、トシリズマブ群へ分類された。

3. Outcome

 患者のフォローアップは退院, 死亡, もしくは 2020年6/12, のいずれかに達するまで行われた。Primary outcomeは院内での死亡("in-hospital death")だったが、他にも以下の項目が評価された。

 1) 2次感染(ICU入室後に発症したCOVID-19以外の感染症)の非調整発生率

 2) 高トランスアミナーゼ血症(AST>250 U/L or ALT>500 U/L)

 3) 不整脈(心房細動, 心房粗動, 心室頻拍, 心室細動

 4) ICU入室後14日以内に起きた血栓性合併症(DVT, 肺塞栓症, 脳卒中

③ Statistical Analysis

 交絡因子を調整する為に'inverse probability weighting(IPW)'が行われた。それを行う為に、トシリズマブ投与をoutcomeとし, 以下の共変量を条件としたlogistic回帰モデルを当てはめた。

  • 年齢
  • 性別
  • 人種
  • BMI
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 冠動脈疾患
  • うっ血性心不全
  • 喫煙
  • 活動性の癌
  • 元の内服薬(スタチン, ACE阻害薬, アンギオテンシン2受容体拮抗薬)
  • 発症からICU入室までの日数(3日以内 vs 3日超)
  • ICU入室時に評価した重症度の共変量(発熱, SOFA score, PaO2/FiO2比, 使用している昇圧薬の数, WBC数, 炎症反応)
  • ICU入室時に併用されていた治療法(ヒドロキシクロロキン, アジスロマイシン, ステロイド, 抗凝固薬, 伏臥位療法, 筋弛緩薬)

 

(3) Result

① Patient Characteristics

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 登録された4,485名の患者のうち、3,924名(87.5%)が分析に含まれた(Fig. 1)年齢中央値は62歳で、2,464名(62.8%)の患者が男性, 1,460名(37.2%)が女性だった。合計433名(11.0%)の患者がICUに入室した最初の2日以内にトシリズマブ投与を受けた。IPWを当てはめる前のトシリズマブ群(以下、介入群と呼ぶ), 及び トシリズマブ群(以下、コントロールと呼ぶ)のcharacteristicsをTableに示す。介入群とコントロール群間での違いを以下に示す。

  • 年齢: 介入群の方が若い(介入群 58歳 vs コントロール群 63歳
  • 併存疾患: 介入群の方が少ない(高血圧; 介入群 234名[54.0%] vs コントロール群 2,186名[62.6%], 冠動脈疾患; 介入群 39名[9.0%] vs コントロール群 504名[14.4%], うっ血性心不全; 介入群 23名[5.3%] vs コントロール群 386名[11.1%]
  • 低酸素血症(人工呼吸器使用中でPaO2/FiO2比<200): 介入群で多い(介入群 205名[47.3%] vs コントロール群 1,322名[37.9%]
  • ICU入室時の炎症マーカー上昇: 介入群で多い(介入群 371名[85.7%] vs コントロール群 2,290名[65.6%]
  • ICU入室時のステロイド投与: 介入群で多い(介入群 81名[18.7%] vs コントロール群 440名[12.6%]

 IPWを適用後、両群間でbaselineと重症度のcharacterisiticsはバランスが良好となった(Table)。例えばIPW適用前の年齢中央値は介入群 58歳, コントロール群 63歳だったが、適用後は両群ともに62歳となった。なお以下のデータが欠落している。

  • BMI: 介入群 8(1.9%) vs コントロール群 17(4.9%)
  • ICU入室時のWBC数: 介入群 26名(6.0%) vs コントロール群 193名(5.5%)
  • 炎症所見(CRP, IL-6, フェリチンの上昇: 介入群 19名(4.4%) vs コントロール群 598名(17.1%)
  • ICU入室時のPaO2/FiO2比(人工呼吸器装着中): 介入群 282名中40名(14.2%) vs コントロール群 2,096名中335名(16.0%)

② 死亡率(Mortality)

 分析対象となった3,934名の中で、フォローアップ期間の中央値は介入群で26日, コントロール群で27日だった(全体では27日)。合計2,058名(52.4%)が生存退院し, 1,544名(39.3%)が死亡, 322名(8.2%)が最終フォローアップでも入院中だった。死亡した1,544名中、介入群は125名(介入群は合計433名なので、同群に占める割合は28.9%), コントロール群は1,419名(コントロール群は合計3,491名なので、同群に占める割合は40.6%)であった(非調整hazard ratio[HR] 0.64, 95%CI 0.54-0.77)。

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 Primary analysisにおいて、介入群はコントロール群と比較して死亡調整riskが低かった(HR 0.71; 95%CI 0.56-0.92) (Fig. 2 and Fig. 3)。予測30日間死亡率は介入群で27.5%(95%CI 21.2%-33.8%), コントロール群で37.1%(95%CI 35.5%-38.7%)だった(risk difference 9.6%; 95%CI 3.1%-16.0%)。5つのsensitivity analysisでも類似した結果であった(Fig. 3)

 また以下のsubgroupでもトシリリズマブ治療と死亡の関連性は類似していた(Fig. 3)

  • 年齢:  <60歳; HR 0.80(95%CI 0.57-1.12) vs ≧60歳; HR 0.66(95%CI 0.49-0.89); P=0.40
  • 性別:  男性; HR 0.71(95%CI 0.52-0.96) vs 女性; HR 0.72(95%CI 0.48-1.08); P=0.96
  • ICU入室時のPaO2/FiO2比:  ≧200 or 人工呼吸器なし; HR 0.88(95%CI 0.58-1.35) vs <200 or 人工呼吸器管理中; HR 0.59(95%CI 0.43-0.81); P=0.14
  • ICU入室時に昇圧薬使用:  使用なし; HR 0.76(95%CI 0.53-1.07) vs 使用あり; HR 0.66(95%CI 0.47-0.93); P=0.60
  • ICU入室時にステロイド使用:  なし; HR 0.71(95%CI 0.53-0.96) vs あり; HR 0.68(95%CI 0.46-0.99); P=0.83

 なお、トシリズマブと死亡の関連性は、発症から3日以内にCUへ入室した患者(HR 0.41; 95%CI 0.23-0.74)の方が、3日より後に入室した患者(HR 0.85; 95%CI 0.65-1,11)よりも大きかった(P=0.03) (Fig. 3)

③ Adverse Events

 介入群とコントロール群での有害事象は以下の通り。

  • 2次感染:  介入群 140名(32.3%) vs コントロール群 1,085名(31.1%)
  • AST or ALT>250 U/L:  介入群 72名(16.6.%) vs コントロール群 452名(12.9%)
  • AST or ALT>500 U/L:  介入群 37名(8.5%) vs 196名(5.6%)
  • 不整脈介入群 63名(14.5%) vs 602名(17,2%)
  • 血栓性合併症:  46名(10.6%) vs 342名(9.8%)

 

(4) Disucussion

 ICU入室最初の2日間にトシリズマブで治療された患者は、そうでない患者と比較して死亡riskが低かった。

 この試験での知見は、複数のsensitivity analysis間でも一致していた。トシリズマブの効果は複数のsubgroup間で検証された。トシリズマブの死亡率への効果は、発症から3日以内にICUへ入室した患者で特に顕著であった。この患者集団における大きな効果は、病勢進行が急速な患者ほどトシリズマブの効果が大きくなることを反映している。或いは、不可逆的な臓器傷害を来す前の早期にトシリズマブを投与することが効果的である可能性がある。

 重症患者にトシリズマブが有効である可能性はあるが、投与と薬剤副作用の双方を評価することが重要である。トシリズマブ投与を受けた患者はそうでない患者と比べて高トランスアミナーゼ血症の発生率が高かったが、2次感染症の発生率は2群間で類似していた。それにも関わらず、トシリズマブ投与を受ける患者は、2次感染症及び肝毒性の緊密なモニタリングを受ける必要がある。

 なおこの研究には次のstrength, 及び limitationがある。

Strength

  • 仮説上のtarget trialをまねた方法を用いた("it uses methods to emulate a hypothetical target trial)
  • 複数のsensitivity analysisが行われ、全てのmodelで結果が一致した
  • 連続的なCOVID-19重症患者多数からなる包括的なデータを用いて行われた研究である
  • 患者は全米の地理的に異なる68箇所から登録している
  • 収集したデータは全て、管理上もしくは請求書のコードよりも寧ろカルテ記録見直しによりなされた
  • 過去の研究ではCOVID019重症患者へのフォローアップ期間は短かったが、この研究では最初の退院, 死亡, もしくは 2020年6/12までフォローアップが行われた。

Limitation

  • IPW適用前、両群間でbaselineに差異があった
  • 収集したデータにトシリズマブ投与量や, 併用した薬剤の投与期間が含まれていない
  • 複数のsubgroup analysisを行ったにも関わらず、「治療前の炎症パラメーター値によってトシリズマブへの反応が変化したか」は検証されなかった
  • 生前の"living will", もしくは "Medical Orders for Life-Sustaining Treatment forms"の存在に関するデータは収集されなかったので、一部のコントロール群でトシリズマブ投与を拒んだ可能性がある
  • CRP, IL-6といった一部の検査値の検査は低頻度であり、長期間の分析, もしくは subgroup分析に適しなかった

 

(5) Conclusion

 このコホート研究に含まれる重症COVID-19患者において、ICU入室最初の2日間でトシリズマブ投与を受けた患者の入院中死亡率は、そうでない患者と比べて低かった。しかしながら、この知見には交絡因子があり, 更なるランダム化臨床試験が必要である。

COVID-19 vs トシリズマブ Part 2 - イタリアのRCT -

 今日は前回に引き続き、COVID-19治療薬の一つとして推奨されている免疫抑制剤トシリズマブの臨床試験の論文を紹介していきます。今回参考にするのは、2020年10/20にJAMA Internal Medicineへ発表された論文"Effect of Tocilizumab vs Standard Care on Clinical Worsening in Patients Hopitalized With COVID-19 Pneumonia ARandomized Clinical Trial"(Salvarani C., Dolci G. et al.)です。

 

(1) Introduction

 COVID-19患者へのトシリズマブ早期投与の効果, 及び 安全性を評価する為に、他施設ランダム化臨床試験を行った。

 

(2) Method

① Study Design

 本研究は他施設のopen-labelランダム化臨床試験である。2020年3/31〜6/11の間に、イタリア国内の24施設に入院していた患者が対象となった。患者は1:1の比率でトシリズマブ投与群と,標準治療群に振り分けられた(Fig. 1)

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② PICO

1. Patient Selection

 呼吸器検体へのPCR検査でSARS-CoV-2陽性である18歳以上の入院患者のうち、以下の条件を満たす人が登録された。

  • 呼吸不全あり; PaO2/FiO2比 200~300(ベンチュリーマスクor高流量経鼻カニューレ使用中の患者でも登録可能だが、NPPV・人工呼吸器装着中の患者は登録不可
  • 炎症あり; 直近2日間で体温>38 ℃ and/or CRP≧10 mg/dL and/or CRPの値が入院時の値の2倍以上

一方で、以下の条件に合致する患者は除外された。

  • ICU入室中
  • トシリズマブへの過敏症の既往あり
  • ICUへの入室が適応外となる状態(e.g. 高齢で複数の併存疾患あり, 患者が気管挿管を希望していない)

2. Intervention:  ランダム化後8時間以内にトシリズマブを8 mg/kg(最大800 mgまで)IVし, 12時間後に2回目を投与する。(トシリズマブ投与群

3. Comparison:  各施設のprotcolに則った補助的治療のみ。(標準治療群

 なお、両群においてIL-1 blocker, JAK inhibitor, tumor necrosis factor inhibitor投与が禁止された。ステロイド投与は、入院前から使用している場合に限り許可された。

 しかし、悪化を来した場合には("In case of occurrence of documented clinical worsening,")、両群の患者においてステロイドを含むいかなる種類の治療を受けることが可能であり, 特に標準治療群ではトシリズマブ投与が可能であった。

4. Outcome:  この研究では"primary aim", "primary end point", "secondary aim"と表記。

 1) Primary aim; ランダム化後最初の2週間において、トシリズマブ(早期)投与群 vs 標準的治療群 の効果を評価する。

 2) Primary end point; ランダム化後14日以内の悪化

 なお『悪化』の定義とは以下の通り。

  • 人工呼吸器管理を伴うICU入室
  • 死亡(死因は問わない)
  • 最初の血ガス測定から4時間以内の、緊急or予定されていた血ガス測定にてPaO2/FiO2比<150 mmHg

 3) Secondary aim; トシリズマブの早期投与 vs 遅い投与が以下に与える影響の評価

  • 人工呼吸器管理を伴うICUへの入室
  • 死亡率
  • トシリズマブの毒性作用

 

(3) Result

① Randomization

 当初126名の患者が参加していたものの、3名が同意を撤回(いずれも標準治療群)した。そのため123名intention-to-treat analysis(=protocolから逸脱した患者も、元のグループのまま解析を行うこと。ITT analysisとも)に含まれ、うち60名がトシリズマブ群へ, 63名が標準治療群へ振り分けられた(Fig. 1)

 その後の各群の治療内容は以下の通り。

トシリズマブ群; 59名(98.3%)がprotcol通りに治療を受けたが、1名はランダム化直後に消化管出血を来したため投与されなかった

標準治療群;

  • 2名(PaO2/FiO2比がそれぞれ169, 426)が、臨床的な悪化前にトシリズマブIVとステロイド投与を受けた。
  • 1名がPaO2/FiO2比 192と判明した後にトシリズマブ皮下注射を実施された。
  • 2名(PaO2/FiO2比がそれぞれ200, 229)がステロイドを投与された。
  • 1名がPaO2/FiO2比 210と判明した後にcanakinumabを投与された。
  • 他方、14名は臨床的な悪化後にトシリズマブ IVを受けた(うち2名はステロイドも併用)。

全体で8名がprotcol通りの治療を受けなかった。またper protocol analysis=protcolを遵守した集団だけ解析すること)は、2名を除外した結果、113名の患者に対して行うことになった。

② Patients Characteristics (Table 1)

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 患者全体の61.1%が男性で、年齢中央値は60.0歳(range: 53.0-72.0)であった。

③ Primary Outcome

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 ランダム化後の14日以内に悪化を示したのは、トシリズマブ群で60名中17名(28.3%), 標準治療群で63名中17名(27.0%)だった(rate ratio 1.05; 95%CI 0.59-1.86; P=0.97) (Table 2)。悪化の全34エピソードがランダム化後6日以内に起きていた(Fig 2)が、2群においてイベント発生までの期間に差は無かった。

④ Secondary Outcome

 ランダム化後14日以内に11名がICUに入室したが、トシリズマブ群・標準治療群間で大差は無かった(トシリズマブ群 10.0% vs 標準的治療群 7.9%; rate ratio 1.26; 95%CI 0.41-3.91) (Table 2)

 全体で4名が死亡し、うち2名はランダム化後14日以内に死亡し, 1名は15~30日の間に死亡し(Table 2), 1名はランダム化後26日目に死亡した。14日目における死亡率(トシリズマブ群 1.7% vs 標準治療群 1.6%; rate ratio 1.05; 95%CI 0.07-16.4)と30日目における死亡率(トシリズマブ群 3.3% vs 標準治療群 1.6%; rate ratio 2.10; 95%CI 0.20-22.6)は2群間で類似していた。

 123名中117名(95.1%)が退院しており、うち70名(56.9%)は14日以内に, 112名(91.1%)は30日以内に退院したが、2名は61日後, 及び 68日後でも入院していた。14日以内の退院した患者の割合はrate ratio 0.99(95%CI 0.73-1.35), 30日以内の退院した患者の割合はrate ratio 0.98(95%CI 0.87-1.09)と、2群間で同一であった。

⑤ Safety Outcome

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 Serious adverse eventが3名で生じた:  2名が重症感染症を来し(いずれも標準治療群), 1名が上部消化管出血を来した結果、治療薬投与を見送られた(Table 3)。どれも治療と関係なしと判断された。Adverse eventは21件(17.1%)発生し、14件(23.3%)がトシリズマブ群, 7件(11.1%)が標準治療群で発生していた。最も多いadverse eventはalanine aminotransferase上昇と好中球減少だった。

 

(4) Disucussion

 ITT analysisにおいて、primary end pointの複合(=ランダム化後14日以内の悪化)に関してトシリズマブ群 vs 標準治療群の間に有意差は無かったPer-protocol analysisも同様の結果を示した。更に、primary end pointを構成する3つのoutcomeのうち、両群間で差が出たoutcomeは無かった。ランダム化30日後においても同様の結果が見られた。

 この研究における死亡率は低く、ITT populationに含まれる123名中、ランダム化14日後に1名(0.8%), 30日後には更に2名(全体の2.4%)が死亡している。まずこの研究では、状態に関係なくICU入室適応外の患者を除外している。その結果、死亡riskの高い併存疾患のある高齢者を除外できた可能性がある。次に、PaO2/FiO2比<200の患者は登録不可であった。これらの理由から、この研究のpopulationのbaselineの状態は、COVID-19入院患者全体よりも良好だった可能性がある。

 この研究の最大のlimitationは、designがopen labelだったことである。緊急時に後方支援を組織するのが困難であること, そして トシリズマブに抗IL-6効果があることから、二重盲検化pracebo-controlled試験の実施は見合わせられた。この研究においては、倫理的配慮からトシリズマブをrescue therapyに使用することが認められた。それにも関わらず、rescue therapyはprimary outcomeへ影響を及ぼさなかった。しかし、盲検化が無いことがprimary end pointの評価にバイアスを来す可能性もある。これを考慮すると、次の2点が考えられる:  1. primary end pointの評価におけるバイアスがトシリズマブ群を優位にする可能性, 2. 悪化の大半(34名中33名)はPaO2/FiO2比低下の発生であり、これは治療内容を知っていることに影響される筈がない。

 ランダム化にも関わらず、標準治療群ではCRP・フェリチン・D-dimer値がトシリズマブ群より低く, またトシリズマブ群よりも高頻度に抗ウイルス薬治療を受けていた。しかし、これらの差は統計学的に有意でなく, それぞれの数値間の差は小さかった。こうした差は小さなsample sizeによるものと思われる。更に、トシリズマブ群で肥満は少なく, 年齢は2群間で年齢は類似していたため、バイアスの可能性はほぼない。

 この研究のselection criteria及びprimary end pointにより、病態が進行した患者においては、トシリズマブが死亡or気管挿管のrisk減少という役割を果たした可能性が除外できない。この研究で、primary end pointの複合は「死亡・気管挿管・PaO2/FiO2<150の呼吸状態悪化のどれかが発生したこと」と定義した。しかし、PaO2/FiO2<150であったため、34名のうち33名がprimary end pointに達していた。標準治療群においてprimary end pointに達した17名のうち、14名がトシリズマブによるrescue therapyを受けた。30日目において、挿管及び死亡の発生は両群間で同等であった。そのため、トシリズマブは、投与時期と関係なく、30日後の死亡or挿管の予防に効果的である可能性が除外できない。

 

(5) Conclution

 PaO2/FiO2比が200~300のCOVID-19患者への患者へのトシリズマブ投与は悪化のriskを減少させなかった。治療効果を確認し, 異なる病期におけるトシリズマブ適応の可能性を検証する為には、更なる盲検化pracebo-contrilledランダム化試験が必要である。