Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

本の紹介(9); 日本史の復習になりそうな本をまとめて紹介します!

 こんにちは。今回もまた医療ネタと全く関係ない話題で記事を書きます。

 私は小学校の頃から、日本と世界の歴史に興味を持っており、中学生の時は、休み時間・昼休み中にひたすら井上靖の『敦煌』や陳舜臣の『十八史略』等を読んでいました。そうゆう訳で、今回は最近読んだ歴史関連の書籍の中で、特に面白かったものを紹介します。

(1) 『陰謀の日本中世史』 呉座勇一 著, 角川新書

 題名に『陰謀』と付いていると、「なんだこれは?」と期待を唆られると思います。この本は、各種メディアを通じて流布されている「陰謀論」 ー 特に、日本の中世の出来事について ーを論破する為に、日本中世史の専門家の方が一般向けに書いた本なのです。

 一番(?)有名な陰謀論が、織田信長明智光秀に討たれた『本能寺の変』に「黒幕が居た」とする風説ですが、呉座氏はそれら陰謀論について ①歴史的イベントの因果関係が単純化され過ぎている(複数の人物の利害関係や、そこに到るまでの複数の出来事が無視されている), ②論理の飛躍 (状況証拠しかないのに、自分の憶測に基づき『理論』を組み立てる), ③歴史的イベントの結果から逆行して原因を導き出す(「歴史的イベントの結果、最大の利益を受けるに至った者こそ首謀者だ」と唱える), ④批判者に対して、自分の『理論』(陰謀論)の立証を要求する(果ては、「証拠となる資料が隠蔽・破棄・改ざんされた」と物証すら無いのに主張する)の4つの特徴を備えていると指摘しています。

(2) 『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一 著, 中公新書

 上記『陰謀の中世日本史』の著者が、応仁の乱についてまとめた著書です。学校で習う日本史や、TV等で扱われる応仁の乱は、単純化されていて、事実関係等について必ずしも正確でないようです。なのでこの本が出版されたのです(と私は解釈しました 笑)。

 この本の内容ですが、『応仁の乱』そのものに関する記述を10とすると、前日譚(乱が起きた背景の説明等)は15~20, 応仁の乱以降の情勢は11~12くらいだと思います。それくらい、事実関係が複雑なのです。従って、登場人物や地名も複数あり、何世代にも渡るので、読んでいる最中に前のページへ戻って「この人ってどんな人だったっけ?」・「どの派閥の人だったっけ?」と再度確認しに行くことが何回もありました。

 それでも、室町幕府の権威失墜→戦国時代への突入の過程を正確に把握できるので、それなりの教養になるし、面白いですよ。

(3) 『核DNAでたどる日本人の源流』齋藤成也 著, 河出書房新社

 ホモ・サピエンスがアフリカから出て世界中に拡散したという事実は、今や言うまでも無いとは思いますが、この本はそれを出土した遺物(石器, 化石等)だけでなく、①出土した人骨から得られたDNAや、②今まさに地球上で生きている人々のDNAを比較・分析することで、私達の祖先の移動ルート等について仮説を立てる最新の考古学・人類学の知見を紹介しています。

 本の題名から想像がつくと思いますが、この本は主に「現在日本列島に住んでいる人々のご先祖様はどうやって日本列島にたどり着いたのか」という事について扱っています。石器時代〜古代〜現代に到るまで、海外から絶えず人が行き来して、私達の先祖となっていた事がよく分かります。

(4) 『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』 戸部良一, 寺本義也ほか 著, 中公文庫

 既に何回もこのブログで取り上げている本です。アジア・太平洋戦争で日本が敗戦し、それまでの間に日本, アジア諸国と米英蘭でかなりの数の犠牲者が出てしまった事は誰もが知っている事です。但し、メディアは先の大戦の悲惨さを強調することはあっても、「なぜ日本は負けたのか」・「ミッドウェー海戦ガダルカナル島インパール作戦のような、悲惨な大失敗はどうして起きたのか」といった検証を冷静に行なっているような気配は感じられません。

 この本は、そのような検証を行なってくれています。勝てる見通しすら無いのに始めた対米戦争, 組織内部の融和を優先する余り、今で言う『パワハラ上司』のメチャクチャな作戦計画にゴーサインを出してしまった周囲の将校らと上層部, 科学技術や合理性よりも優先される精神論  etc...現代日本にも通じる、様々な問題点がこの本で明らかになります。

 昨今、「日本兵はこんなにも勇敢に戦った!」, 「自虐史観なんてごめんだ!」という論調が強くなっていますが、この本を読んだら、益々そのような言説が馬鹿馬鹿しく見えてくるでしょう。

 なお、本ブログでは『失敗の本質』以外にも、アジア太平洋戦争に関する書籍を紹介している(下記リンク参照)ので、そちらも是非参考にして下さい。

【医学部教育】『模範回答』を学生に要求する教育は、実戦で役に立つのか?

 読者の皆様、久しぶりです。ネタ切れで暫く更新を止めていましたが、ちょっとしたネタを思いついたので投稿します。

 以前から、私は医学部の講義・試験について「講師が我が道を通し、学生が十分理解できるかは二の次, 三の次」, 「その為、定期試験の際には過去問・ヤマ集が必要となる」と指摘してきました。大学指定の教科書や講義資料よりも、過去問・ヤマ集を用いた方が効率的に試験対策が出来、尚且つ留年のリスクを減らす事に繋がるという事です。

4月から医学部に入る人へ。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

医学部教育の問題点 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 但し、見方を変えれば「知識の定着(とそれの応用)よりは、出題者の望む回答を書いて提出し、出題者の合格基準を満たす点数を叩き出す」事を学生は求められている訳です。このままで本当に良いのでしょうか?臨床の現場(外来, 病棟)に出たら、そこに居るのは試験監督や、設問内に登場する架空の患者ではありません。看護師・上級医ら医療スタッフと、様々な背景を持つ患者とその家族です。

 かつて日本軍の教育機関海軍兵学校, 陸軍士官学校, 陸軍大学など)では、学生へ『模範回答(日清・日露戦争から得られた戦訓)』通りの答えを出す事が要求されました。そして、卒後の序列は成績で決定されました。つまり、試験で『模範回答』を忠実に再現した者ほど、昇進を約束されるのです。このような教育を受けた人は、シナリオが決まっている平時の訓練には強いのですが、不測の事態が生じやすい戦時では十分に機能しません。

 こうした教育体系が裏目に出たのが、太平洋戦争だったのです。日本軍の司令官の人事は年功序列と成績(『模範回答』への忠実度)重視だったのに対し、米軍は成果主義・合理主義を徹底し、最新の戦訓も学習/吸収する態勢が完成していました。太平洋戦争開戦時、日本軍は真珠湾に居る米海軍太平洋艦隊へ航空攻撃で大打撃を与え、航空戦力の重要性を示しました。しかし、日本海軍の将官らは、従来の「艦隊決戦(大型戦艦同士の決戦を重視する)思想」から離脱する事は出来ませんでした。他方の米軍は、太平洋艦隊の司令官を降格・解任。その上で、航空戦力の重要性をいち早く学習した結果、旧態依然の日本軍を追い込んで行ったのです。

 「教える側が求める『答え』」を学生側に求め続けるのは実用性に乏しいことを、大学側はもっと認識すべきでしょう。その上で、学生が確実に知識を身につけ、それを実戦で応用できるカリキュラムを構成する努力が必要だと私は考えています。

4月から医学部に入る人へ。

 こんばんは。今日は4月に医学部入学が決まっている人の為に、学生生活に関する助言をしたいと思います。

(1) 講義は出席してなんぼ

 最近は各大学でカリキュラムの見直しが進み、私が大学生だった頃と多少違うとは思いますが、医学部1年~2年前期はどうしても「基礎教養科目」と言って、医学とは関連性が強いとは思えない科目 ― 数学, (植物を含めた)生物学, 物理学 他 ― の講義・実習と試験が多々含まれます。特に、大学で履修する数学や化学の難易度は高校で履修したそれと正直比べ物になりません(生物は暗記すれば何とかなる)。また講師は大抵、「多くの学生に理解してもらう」という工夫は一切せず我が道を通します。途中で勉強する気や講義・実習に出席する気すら萎えるとは思いますが、講義は出ておきましょう。出席点も進級時に勘案されるからです。筆記試験の成績が芳しくなくとも、(大学によっては)出席点で赦免されるパターンはあり得ます。

 もちろん、2年生以降の生化学・解剖学・薬理学などの基礎医学, 循環器・脳神経・消化器などの臨床医学の講義・実習もちゃんと出席しましょう(理由は上に同じく)。

(2) 大学側の『アンケート』は正直に記載しよう

 各学期末ないし各年度末に、大学が「各教科について、自己評価と講義・試験・実習等に対する評価/意見を記載せよ」というアンケート的なものへの記入を求めてくることがあります(大学によると思いますが)。面倒臭がったり遠慮はせず、思ったことはしっかり書きましょう(例; 講義内容が分かりにくい, パワーポイントが見にくいetc.)。

 講師側が「こっちは〇〇という意図があってやっているんだから、その通りにやれ云々」と主張し、耳を貸そうとすらしない事も多いと思いますが、中には「はいはい、分かりました。指摘された通りここは直しますよ」と応じるケースもあるので、大学側へ意見して無駄ということは決してありません。

(3) 英語と統計学を軽視すべからず

 グローバル化による国内外の人の出入りの活発化(ex. 外国人観光客or労働者を診療する機会が増える), ②将来、国際学会or海外留学に行く機会もあり得ること, ③将来英語論文をジャーナルに投稿する機会が十分あり得ること, ④(あくまで万が一の話ですが)日本国内の医療or経済状況が悪化し、国外へ移住せざるを得なくなる可能性があること, を考えると、英語を読む練習のみならず、話す練習もしておいた方がいいとは思います。私の場合、大学に米国人医師が講師として在籍しており、この先生の講義で英会話やプレゼンの練習が出来ました。また、私は'IFMSA(国際医学生連盟: International Federation of Medical Students)'の関連サークルにも参加していたので、1ヶ月間だけ海外の大学の研究室に留学する機会も得られました。大学に進んでも、英語によるコミュニケーションの鍛錬は継続しましょう。

 また、私の場合数学が苦手だったので、統計学を十分理解できず医学部を卒業しました。卒後、英語論文を読むにしても疫学的・統計学的な専門用語や概念が理解できず苦しんでいます。数学が嫌でも、統計学はしっかりと押さえておきましょう。

(4) 試験勉強は先輩・友人の助言・協力を仰げ

 大学も定期試験があります。但し、医学部の講義というものは総じて「学生に十分理解してもらえるように・興味を持ってもらえるように工夫する」事よりも、「各講師の専門領域について、自己流で掘り下げて」講義する事に努力が傾注されています。言うまでもないかもしれませんが、定期試験の内容も同様です。

 悲しいことに、大学指定の教科書や講義資料を1つ1つ辿っていっても、定期試験に受かる保証はありません。むしろ先輩・友人のネットワークを生かして試験の過去問・ヤマ集や分かりやすい参考書を入手し、それらを学習した方が合格・進級する確率が上がるのです。

医学部教育の問題点 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

(5) 部活・サークルに入るか否かは貴方次第

 私は大学時代、体育会系の部活に入っていました。一概に部活と言っても、加入する事で受けるメリットとデメリットの双方があります。

メリット:  体育会系なら運動する機会を得られる。先輩・友人・後輩のネットワークが形成でき、孤立するリスクが低減する。

デメリット:  活動費がかかる。大会・練習・飲み会などのイベントに自分の時間を取られてしまう。先輩・後輩の人間関係によるストレス。飲酒に関係したトラブル。

 特に後輩・先輩の関係は絶対視される傾向にあり、多少の無茶振りでも先輩の言う通りにせねばなりません。このような背景もあって、飲み会では一気飲みや大量飲酒を強要する空気が強くなりがちなのです(急性アルコール中毒のリスクを伴う)。また、最悪の場合、酔った勢いで性暴力や飲酒運転に及ぶ不届き者も出兼ねません。

【昭和大学病院医師逮捕】かくも卑劣な不祥事はなぜ繰り返すのか? - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 「部活に入るな」とは言いませんが、メリットとデメリット両者をよくよく検討してから加入しましょう。

(6) 運転免許は早めに取ろう

 就職後、公共交通機関が不便な地域の医療機関に勤務する可能性もありますし、大学の立地自体が不便な場合もあります。運転免許は取っておくべきですが、2年生に入ると解剖実習が始まってしまい、こちらに時間を取られます。また、それ以降の学年も薬理学/生理学の実習が入ったり、病院実習や国家試験対策に追われたりと、自動車学校に通う時間的余裕がありません。とにかく早めに運転免許を取っておきましょう。

(7) 最後に ー 理不尽に耐える(或いは抗戦する)覚悟はあるか?

 このブログの過去の記事も参照して頂ければ分かると思いますが、卒業後の医師の世界も理不尽だらけです。少子高齢化による労働力の減少と医療需要の増加や、人手不足が著しい地域・診療科, 制限の無い残業時間, 労働量に見合わぬ給与や診療報酬体系etc.と、今日の日本の医療は課題が山積しています。

 しかしながら、厚生労働省日本医師会等の有力団体, 各大学医学部トップといった人たちは、医療現場のニーズを把握する努力を怠り、また短期的な損得勘定や従来通りのやり方・考え方に固執している為、長期的視野の無い朝令暮改を繰り返しているだけです。また、彼ら・彼女らの中には、公共の福祉よりも私腹を肥やす事を優先している者すら居ます。

厚労省案「医師の残業時間は年間2000時間までOK」の影響を考察する - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東京医大入試不正、最終報告書で衝撃的な事実が発覚 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

もはや、地域医療を医局に任せてはおけない - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局制度は地域に貢献しているのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省と医師会の嘘(2) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省と医師会の嘘(3) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 このように無慈悲な境遇を受け入れて耐え忍ぶのか?『苦役』から逃れる道を見出し、そちらに『逃れて』安寧と平和を手に入れるのか?もしくは、矛盾した現体制に対して批判の声を上げて団結し、現状打破と是正を目指すのか?これらのうちいずれを選択するのも、貴方次第です。

東日本大震災から8年。

 今日で東日本大震災から8年。私は既に大学生でしたが、忘れもしません。激しい揺れと、TVで見たおぞましい津波の映像, 爆発する原発建屋。こんなことを言ってはなんですが、「この世の終わり」をこれほど強く意識したことはありませんでした。

 8年経過し、津波で破壊された街並みに建物が戻った光景や、福島第一原発の避難区域に戻りだした住民の映像を見る機会も増えてきました。しかし、心に傷を負った人や、未だ行方不明の方々が居るのも事実です。

 

 話は変わり過日、日本DMATの研修を東京都内某所で受講し、無事合格しました。「日本DMATとは何ぞや?」と言う方のため、大雑把に説明しますが「災害時に大量の傷病者が発生し、地元の医療機関だけでは手に負えないので応援に向かう専門チーム」ということです。仕事内容は多岐に渡り、被災地域の災害拠点病院での傷病者診療のみならず、被災した病院からの患者の転院の支援, 避難所での診療など色々あります。詳細な定義云々は、下のWikipedia厚労省のリンクを参照して下さい。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tefj-att/2r9852000001tev6.pdf

 この研修の中で、阪神淡路大震災以来、被災地での急性期の医療活動を経験されてきた先生が以下のような話をしていました。1995年の阪神淡路大震災の時、皆災害時の医療について右も左も分からないため、救えるはずの多くの命が失われたそうです。例えば、現地の医療スタッフは被災した病院で必死に入院患者と、次々と来院する傷病者の診療をこなしていました。しかし、物資輸送が寸断され、電気やガス, 水道が止まった状況で出来ることは限られています。被災していない病院や地域に転院搬送すれば助かっていた患者が多数亡くなったことが後になって判明したのです。

 DMATといった仕組みは、この教訓を生かし創設されました。その後、DMATは大規模自然災害が発生する度に現地で活動し、その度に新たな教訓を得ます。2004年の新潟県中越地震のとき、避難所に行かず車内で過ごしていた被災者の間で所謂「エコノミークラス症候群(下肢静脈血栓症と、それに続発した肺塞栓症)」が多発し、これらの予防・啓発が新たな課題として浮上しました。

 また2011年の東日本大震災の時は、東北地方の太平洋沿岸部の広範囲で多くの病院が被災しましたが、福島県では第一原発の避難区域内の医療機関の避難が滞り、移動の過程で複数の入院患者が亡くなりました。未曽有の原子力災害, そして「被災した病院の避難をどう進めるのか」が、また新たに課題として浮上したのです。そして2016年の熊本地震の際、行政が把握していない場所に避難している住民が見つかるなど、「避難所への救援をいかに進めるか」が新たなる課題となりました。

 災害が起きるたびに、新たなる課題が浮かび上がる。これは医療に限った話ではないと思います。毎年、3/11を迎える度に私たち日本人は、亡くなられた方々を追悼しつつも、「この国は常に、いつ起こるかわからない自然災害という爆弾を抱えている」という事を思い出し、それに対していかなる対策を練るか・どのような社会/インフラを構築すべきか考えていく必要があると強く感じました。