Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

もはや、地域医療を医局に任せてはおけない

 暫く更新がストップしていましたが、溜まっていたネタがそろそろ熟成されてきたタイミングなので、少しずつ放出していきます。

 以前から、本ブログでは医局制度や医学部入試での女子受験生差別問題, 初期研修・専門医制度等について様々なfactや持論を展開してきましたが、今回はもう少し踏み込んでみたいと思います。

 

 (1) はじめに

 まずは、少し前にSNSを介して見つけた非常に興味深い記事2件を紹介します。

dot.asahi.com

Vol.177 東京医大問題から見えた、働き方改革に抗う日本医療界の異常性 | MRIC by 医療ガバナンス学会

 つい先日も、女性の新学長が不正な足切りで不合格になった受験生への『救済策』的なものを発表し話題になっていた東京医大の入試不正問題ですが、上記記事では、その背景を女性医師が解説してくれています。要点をまとめてみますと、

性労働者は結婚・出産の時期に一旦職場を離れ、育児が落ち着くと復職する。従って女性の労働力率を縦軸に, 時系列を横軸にしてグラフで描くと「M字カーブ」になる。

子育て中の女性医師は、当直ができない(つまり当直手当が入らない), 定時勤務にしてもらっているので残業代が出ない(しかし必ず定時に業務が終わる訳ではない), そもそも大学病院の基本給が少ないといったことが原因で、男性医師と比較して収入が少ない。

③ 大学は本来、学生の味方であり、優秀な人材を低コスト(つまり粗悪な労働環境)で雇用せんとする企業とは利益が相反する存在である。しかし日本の大学医学部に関して言うと、大学が附属病院(医局)のために学生・医師を囲い込む体制となっており、新専門医制度によってその体制の維持が図られている。

 大学側は、附属病院・関連病院の待遇が悪くとも休まず・抜け駆けせず働いてくれる人材しか欲しくないので、結婚・出産・育児を契機に中途離脱する女性の採用(≒女性の入学者)を忌避するようになった。

以前も本ブログで指摘していますが(下記リンク参照)、これは単なる性差別の問題に止まらず、日本の医療スタッフの労働環境の劣悪さを示す『氷山の一角』なのです。

東京医大、女子受験生を一律減点 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 

(2) 医局制度と新専門医制度の関係

 加えて、この記事では新専門医制度についても言及されていますが、厚労省や日本専門医機構といった公的機関は、この制度を施行する根拠について、

1. 従来の専門医資格は、各学会が好き勝手に作ったものなので統一性がない。つまり、専門医の質の担保ができない。

2. 専門医制度を国民が理解できていない。

3. 医師の地域偏在, 診療科偏在が問題となっている。

を挙げています。しかしながら、現場の医師の間では、この新制度に対して様々な欠陥が指摘されました。例えば、新専門医制度では基幹施設(大学病院, すなわち医局)と連携施設(医局の関連病院)を、それぞれ数ヶ月単位で回っていく「循環型プログラム制」を採用していますが、後期研修医は各施設での研修を『お客様』の状態で過ごしてしまい、真っ当な指導が受けられない可能性が指摘されています。寧ろ、米国の研修制度に倣い「単一施設での研修を通して、指導医と後輩のフィードバックをしっかり受け取ることで、自身に不足したものを学ぶ」研修制度が良いという意見も聞かれました。つまり、『新専門医制度』とはいえ旧来の医局制度に依拠する形を残しているが為に、本来の目的であるはずの「専門医の質の担保」が達成できないおそれがあるのです(詳細は下記リンクを参照)。

【医療関係者向け】新専門医制度の何が問題か - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

※追記:  更に悪いことに、日本専門医機構では、① 重要な情報の共有と重大な意思決定を一部の幹部だけで行なってしまったり, ② 都道府県や研修医らからの問い合わせへの返答が遅延ないし曖昧であった, という実態が内部告発により発覚しています(下記facebookページを参照)。つまり、マネジメントが滅茶苦茶な組織が新専門医制度の設計と施行を担っているのです。

www.facebook.com

 

(3) 医局に入る『黒い(?)カネ』

  また、過去に本ブログで紹介した本『病院は東京から破綻する』(著者; 上昌広, 朝日新聞出版)を読むと、我が目を疑うような医局制度の『醜聞』が紹介されています。医師不足に悩む市中病院や自治体は、大学病院(医局)から医師を派遣して貰うために「寄付講座」というものを作っています。この仕組みを分かりやすくする為、福島県の実例をここで説明してみます。整形外科医の不足に悩むいわき市は、福島県立医科大学に年間6000万円を支払い、同附属病院「寄付講座」所属の整形外科医を派遣してもらいます。この整形外科医らに支払われる人件費の総額は2500万円なので、差し引き3470万円が福島県立医科大学の懐に残る訳です。しかも、「寄付講座」医師の残業代はいわき市側の負担であり、年間990万円です。いわき市は医師確保の為に、大学病院へ6990万円を支払い、そのうち3470万円は大学病院(医局)の懐に入ってしまうのです。この「寄付講座」は全国の大学病院に広がっており、これに対しては ① 医師の人件費高騰, ② 地域医療に対する大学病院の支配強化, ③ 労働基準法の中間搾取禁止に抵触すること, が懸念されています。

 更に、以前下記の記事でも説明しましたが、大学病院勤務の医師は薄給なので、それだけでは生活が厳しくなります。その為、各医局はアルバイトを斡旋して市中病院の日中の外来や日直・当直へ医局員を派遣しています。一見いい話に聞こえますが、外来・手術・アルバイトで医局員が出払っている状態なので、日中の大学病院の病棟管理は看護師と初期研修医だけに依存します。その結果、医療過誤が見逃され死亡事故も発生しました。更に、医局員のアルバイトを斡旋するのは教授です。教授の懐には、医局員を派遣した見返りに、市中病院からのカネが『顧問料』, 『奨学寄附金』という形で入ってきます。大学病院は診療・教育・研究のための機関なのに、これでは人材派遣会社と変わりません。

大学病院・医局制度は地域に貢献しているのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 

(4) まとめ

 「医局制度が地域医療を支えてきた」・「大学病院は地域医療に貢献する」とよく耳にしますが、実態はそれら美辞麗句と乖離しており、少子高齢化(とそれに伴う人手不足・医療需要の増加)が進行する現代日本では汚点しか露呈していません。各地域での医師の配置を大学病院・医局に一任する正当性は十二分に乏しいと言えます。

 そうとはいえ、一応大学病院とは独立しているはずの専門医機構も既述のように、その役割を果たせていません。他方、厚労省, 各自治体, 日本医師会や全国医学部長会議のような諸機関・団体は、短期的な損得勘定に則って意思決定を下し、医療現場の意見・ニーズを採用する努力すら怠っています。

 そうした現状を鑑みた上で、私が提案する解決策は次の通りです。

① 日本専門医機構を解体し、厚労省や医師会, 全国医学部長会議といった集団から完全に利害が独立した非営利団体/非政府組織を結成する(以下、「新組織」と呼ぶ)。当然、人員も総入れ替え。

② 大学病院(医局)から、従来握ってきた各地域に対する医師の人事権を取り上げて「新組織」に移譲する。

③ 医学部, 大学病院, 市中病院, 自治体や国といった機関・団体には、「新組織」の方針や意見を政策に取り入れる義務を課す。

④ 「新組織」の構成員は、意思決定に偏りが生じないように、指導医クラスの医師に加え、若手医師やコメディカルスタッフ(ベテラン・若手は問わない), 非医療者(患者代表)というふうにバリエーションを持たせる。こうすることで、医療現場の意見やニーズが拾われるようにする。

⑤ 専門医制度も作り直し、その際には欧米先進国に倣ったものとする。また制度設計・施行に当たっては、明治期のお雇い外国人のように海外から識者を招聘し、その人たちの意見を反映する。

このような策を実行に移すのは難しいかもしれませんが、近い将来に日本で本格的な医療崩壊が生じ、一般市民も医療スタッフも大いに傷つくという事態を回避する為には、既存の体制へ大鉈を振るうことも厭わない姿勢が重要と考えます。

 

※2:  参考までに、過去の記事のリンクを貼り付けておきます。

厚労省と医師会の嘘 (1) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省と医師会の嘘(2) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省と医師会の嘘(3) - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

地域枠の義務を拒否する研修医たち - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省発表。「医師は長時間労働を我慢せよ」 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

呆れた『地域医療支援』の実態 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー