Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

厚労省と医師会の嘘 (1)

 もう10年近く前ですが、皆様は当時の舛添要一厚労大臣が「2016年までに医学部定員を1500人に増員する」という方針を発表し、ニュースで話題になったことを覚えてらっしゃいますか?私はちょうど、医学部入りたてぐらいの時期だったのですが、正直ある本を読むまで記憶は曖昧でした。今回はその「ある本」を今回紹介します。

『病院は東京から破綻するー医師が「ゼロ」になる日』 著者: 上昌広, 朝日新聞出版

 

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 以前本ブログの記事で挙げた『失敗の本質』(https://voiceofer.hatenablog.com/entry/2018/06/24/121134)同様、今後複数回このブログに取り上げると思います。

 話は戻り、上記の舛添氏の決定の背景に何があったのか、この記事で触れて行きたいと思います。2006年、福島県の病院で産婦人科医が医療事故で逮捕されたのを契機に世論の医療への関心が高まり、医師不足医療崩壊というフレーズが注目を集め始めました。舛添氏が厚労相になったのはこの時期で、既述のように、2008年6月に医学部定員削減の閣議決定(1997年に決議)を撤回させることで医学部定員増加を打ち出したのです。

 実はこの意思決定のプロセスで様々な横槍が入ったそうです。まず、文部科学省に出向中の厚労省官僚や、厚労省の技官(医師免許を持つ官僚)らが、各医学部へ「なるべく医師は増やさないように」と電話して回ったそうです。もちろん、官僚全員がそのような真似をした訳でなく、舛添氏に同調する者も居たそうです。ではなぜ彼ら・彼女らは医学部定員増員に水を注したのか?医師が不足している地域で医師を増やせば医療費が増加してしまいます(この理由は後日触れたいと思います)。予算を担うのは財務省であり、厚労省の官僚は彼らとの折衝で『面倒』を抱えたくなかったのです。

 他方、日本医師会も色々理由を付けて反対しましたが、最大の理由は「将来的に商売敵を増やすことになる」からです。

 最終的に、舛添氏の医学部定員増員政策は実行され、医師会・厚労省は表面上はこれに賛同したかのように見えます。しかし後々になり、再び欲を出して世論の説得(調略?)を試みます。2015年に厚労省が出した試算によると、将来の10万人当たりの医師数推計は「2012年の227人から20年に264人まで増え、25年には292人とOECD平均の280人を上回る」のだそうです。言い換えるなら、「日本の人口が将来減少する事を考慮に入れると、もう十分医師は足りる(これ以上増やしたら医師が余る)」と発表したのです。

 この試算について、医療現場でも異論が出ていたのですが、この本の著者、上昌広氏もその1人です。彼は他の研究者と出した試算で厚労省のデータに反論していますが、それについては後日取り上げて行こうと思います。

  最後に、長文をご精読頂き、ありがとうございました。拙いとは思いますが、今後とも宜しくお願い申し上げます。