Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【昭和大学病院医師逮捕】かくも卑劣な不祥事はなぜ繰り返すのか?

 先月末に、ショッキングなニュースがありました。昭和大学病院の医師2名が、女性に睡眠薬の混入した酒を飲ませた上に、性的暴行を加えたのです。医師の発行した処方箋でしか入手できない睡眠薬であり、しかも容疑者となった医師の自宅から見つかったのだそうです。最初からこのような犯行に及ぶつもりで自身の権限を悪用したと見られても仕方が無い状況です。

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 なお2016年にも千葉大学医学部の学生3名と同病院医師1名が、女子学生(学生らの同級生?)を泥酔させた挙句に性的暴行を加えて逮捕されるという事件が起きています。

なお上記の記事では、彼らの先輩や後輩らのコメントも掲載されています。

「医学部は5年生から実習が始まります。実習期間中は各病院と自宅を往復する毎日で、朝早くから夜遅い時間まで課題は山積み、自宅でもレポートを書かなければならない。彼らは実習が終わって緊張感から解放されて、酒を飲んでハメを外し過ぎたんでしょうね。」

「医学部のラグビー部は、飲み会で過激な下ネタが飛び交うような雰囲気なんです。もともと千葉大医学部生はエリートで遊び慣れていない男子学生が多いのですが、入学してしばらくすると大学デビューというのか、看護学部や近隣にある女子大の学生から急にそこそこモテるようになるので、勘違いしやすいんですよ。」

また、裁判で被告の一人はこんな事を言ったそうです。

仲間の間で女性をモノ、性の対象として見て人格を蔑んでいる考え方が根本的にあったと思う。大学に入学してサークルなどで他大学の子と接して、彼女らはアタマが悪いからとか、バカにして、いやらしい目でばっか見るようになり……という、男たちの中でそういう考え方が形成されてきたように思います。」

 

 2016年の千葉大の事件と、3年後の今年に入って起きた昭和大学の事件。同じ医療に携わる者として、同業者がこのような人道にもとる行為に及んだ事は非常に情けないと感じます。

 今回は、これらの事件が起きてしまった背景を(拙いかもしれませんが)私なりに考察してみたいと思います。

(1) 性教育・人権教育の欠陥

 海外のカリキュラムはどうか知りませんが、少なくとも日本の場合、医学部(或いは看護学部, 看護学校といった専門課程)に入学しない限り、人間の生殖や妊娠・出産(とそれらが人体に及ぼす影響)について詳細に学ぶ機会はほぼ無いと言って良いでしょう。小学校〜高校の保健体育の授業で男女の体の違いについて学ぶ事はありますが、妊娠・出産について踏み込んで学ぶ機会はありません。同様に、理科でも遺伝や動植物の生殖について学びますが、やはり人間の生殖に関して踏み込んで学ぶ機会はありません(避妊方法についても、踏み込んで教わった記憶は私にはありません)。

 また、公民や現代社会, 倫理など社会科の授業では、政府の仕組み・法律や権利等について学びます。しかし、私の記憶する限りでは「同意が無い強制的なセックスは犯罪(人権侵害)だ」と強調して教えられたり、自分や他者, 異性の人権について深く考える機会はありませんでした。ましてや、家庭でもそのような話(或いはしつけ)が不十分であれば、こういった事を意識する事は無いでしょう。

 (2) 人間関係や待遇に対する不満?

 過日、本ブログで紹介した本『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』(https://amzn.to/2ToHKUX)によると、日本軍内部では ①老年兵/下士官らが、初年兵らに身体的・精神的な虐待を加える「私的制裁」が蔓延しており、また ② ①及び戦闘によるストレスや、待遇に関する不満が鬱積した結果、はけ口を求めて地元住民への残虐行為に及んだり、軍紀を無視して窃盗・賭博・飲酒後の暴行等に走る兵士が続出したそうです。

本の紹介(7); 『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 医学部や医局も、戦時中の日本軍と似たような環境かもしれません。私も大学の体育会系の部活に居たことがあるので分かるのですが、部活動では先輩・後輩の上下関係がかなり重視されます。流石に身体的な暴行はありませんでしたが、理不尽な要求を呑まざるを得ない状況もあり、言わば上記の「私的制裁」に似たようなものでした。そして医局内の人間関係も、そんな体育会系の雰囲気を受け継いでいます。

 更に、医療関係者は「患者の人命を扱っている」(と、患者本人や家族によるクレームの)ためそれなりのストレスを感じています。加えて、これまで本ブログで指摘してきたように、医師はほぼ制限の無い残業時間や十分と言えない賃金といった劣悪な労働条件の下働いていました(下記リンク参照)。

厚労省案「医師の残業時間は年間2000時間までOK」の影響を考察する - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

厚労省発表。「医師は長時間労働を我慢せよ」 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局制度は地域に貢献しているのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 これはあくまで私の勝手な想像ですが、人間関係や待遇・労働環境などに対する不満のはけ口を、飲酒や野蛮な性行為に求めた結果起きた事件だったのかもしれません。

 

(3) 最後に

 言うまでもないとは思いますが、職場や部活等でのストレスが、性的暴行といった犯罪行為・人権侵害を正当化する理由には絶対なり得ません。しかし、セックス・妊娠・出産が人体に及ぼす影響に関して学ぶ機会を小児期から得た上で、人権や法律に関する真っ当な知識も持っていれば、このような事件は防げたのでは無いでしょうか。