Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】新専門医制度の何が問題か

 以前から、新専門医制度に関して様々な問題点が指摘されています。ネットで様々な記事を読み、我ながら「なるほど」, 「これは良くないぞ」と思う事もあったのですが、今回は①「なぜ新専門医制度が始まったのか?」, ②「新専門医制度のどういった点が問題なのか?」の2項目に分けて、自分なりにまとめてみたいと思います。各項目の最後に参考にしたリンクも付けておいたので、参考までにご参照ください。

 

(1)なぜ新専門医制度が始まったのか?

 新専門医制度が作られるきっかけになったのは、下記の3点です。

①これまで各専門医資格は各学会独自にが設定している(各学会の認定基準に統一性がない)ため、専門医の質の担保に問題がある

②専門医制度が国民に理解されていない

③医師の地域偏在, 診療科偏在が問題となっている

 専門医の認定や養成プログラムの認定・評価を行うのが、第三者機関「日本専門医機構」(日本医師会, 日本医学会, 全国医学部長病院長会議等からなる)です。そして、専門医制度は内科, 外科, 救急科等の19基本領域に別れ、その下へ更に循環器, 消化器病, 集中治療等の29のサブスペシャリティ領域がついてくる形になるのです。

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epilogi.dr-10.com

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(2)どういった点が問題になっているのか?

①『プログラム制』の欠陥

 新専門医制度では、基幹施設(都市部の大病院, 多くの場合大学病院の医局)に所属する事を義務付けられる一方で、基幹施設の連携施設(地方の病院)も回って研修するよう規定されています(『循環型プログラム制』)。「単一の施設では、経験する症例等が限られてしまう」からだそうですが、様々な観点から異論が上がっています。

 まず、後期研修医はいわゆる医局人事で連携施設を回ることになるのですが、1つの施設に在籍するのはせいぜい数ヶ月程度で、これが終わればまた別の連携施設(或いは元の基幹施設)に移ってしまうので、いわゆる『お客様』状態で終わってしまい、きちんとした指導が受けられないという事が懸念されます。米国の研修制度に見られる「単一の施設で、きちんと上級医, 及び 学年が下の医師(時に医学生)から評価を受けることで、自分に足りないものを学ぶ」という形を採用すべきという指摘がなされています。加えて、「経験症例数さえ稼げば良いという問題ではない。数をこなしても、間違った治療方法を繰り返しているようでは意味がない(間違った知識・技能を習得しているだけ)」という意見もあります。つまり、本来の目的であるはずの『専門医の質の確保』が保証されていないのです。

 更に、結婚に加え妊娠・出産・育児というライフイベントが絡んでくる女医の場合、結婚出産適齢期に数ヶ月単位で研修施設を転々とする事でキャリアとプライベートの両立に尚更困難を来たす事が懸念されています。

www.huffingtonpost.jp

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②日本専門医機構の『皮算用』

 これは2017年3月時点の話になってしまうのですが、日本専門医機構理事長の吉村氏は、後期研修に進む医師は年間8500人と発表した上で、これを新専門医制度の34領域(基本領域+サブスペシャリティ領域の合計)で均等割りし、各領域にそれぞれ250名が進むと発表したのです(つまり単純計算)。

 その250名を更に各都道府県へ均等割りにすると、それぞれの自治体に毎年、各領域の後期研修医が5.2名ずつ入ってくるという事なのだそうです。更に、各領域の250名を都道府県の人口比で配分すると東京都には毎年25名, 人口百万人の県には毎年2人という計算になると発表しているのです(これらもまた単純計算)。

 小学生レベルの単純計算も考え物ですが、こんな人数で果たして各地の医療のニーズを補い切れるのでしょうか。不足は明白です(本ブログ過去記事も参照: https://voiceofer.hatenablog.com/entry/2018/06/26/123549)。『医師の偏在を是正する』という目標も守れない可能性があるのです。

www.huffingtonpost.jp

 

  このように新専門医制度は、

①これから後期研修に入る若手医師に研修内容の質もキャリアとプライベートの両立も保証できず,

②地域医療への貢献度がただでさえ低下している医局(こちらの過去記事を参照:

https://voiceofer.hatenablog.com/entry/2018/07/05/233733

)に若手医師の管理を全権委任しており,

③各地域へ需要に見合った医師数を補充出来ない可能性がある,

という欠点があるのです。

  以上が、私がまとめてみた新専門医制度の問題点です。もし「これが不足している」・「ここが間違っている」等ありましたら、コメント欄でご指摘頂けませんでしょうか。よろしくお願い申し上げます。