Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

必要なのは『断らない救急』ではない

 ずっと、更新が止まってしまいました。すみません。理由は3つかあります。

①ネタが切れた。

②仕事から帰ると、疲れてブログを書く気がしなかった。

③単に更新が面倒臭くなった。

 

 

 以前から本ブログで愚痴っていますが、救急搬送された患者に診断を下し、当該診療科へせっかく紹介しても、結局色々理由を付けて「うちじゃない」と救急科や本来その疾患を専門としない他科に押し付けてしまう診療科(ないし医師)が居ます。更に、大学病院では『外勤(医局バイト)』という慣習がある事は以前から本ブログで取り上げていますが、それで上級医が抜けた結果、経験・知識が浅い若手だけが残り、せっかく紹介した患者の治療方針が決まらないなんてことも少なくありません。そんなザマですから、私とて時々「他院を当たってくれ」と救急車の収容を一旦断ることもあります。

大学病院救命センターに勤務していて感じたことなど。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 また、都市によると思いますが、同じ市町村内等に『輪番病院』というものを設定し、「今日の整形外科は◯◯病院で内科はXX病院…明日の整形外科はXX病院で内科は◯◯病院etc.」というふうに救急医療を回している場合もあります。更に、ご存知の方も居るとは思いますが、救急医療に携わる医療機関は機能別に、

1次医療機関診療所を想像して頂ければちょうど良いかと

2次医療機関脳卒中, 消化管出血, 心不全など緊急で治療を要する疾患を診療する病院

3次医療機関救急救命センターがあり、救急医が常駐。高エネルギー外傷, ECMO(人工心肺)を要するような心停止/心不全など『ややこしい』症例を診療する病院

へ分類されます。

 これで上手く回っている訳ではないのです、残念ながら。上述のような「うちじゃない科」ならぬ「うちじゃない病院」も居るのです。例えば、その日の当直医が消化器内科医で「めまいは診れない。脳卒中だったらどうするんだ!」的な理由を付けて救急車を断ったり, 或いは「今日うちが輪番というのは分かっていますが、病棟が満床なので」とか。救急車のたらい回しはこうゆう機序で発生するのです。

 そんな中で、『断らない救急』というフレーズが一般市民/マスコミはおろか医療者界隈でもてはやされています。しかし、現状でのこのフレーズの理想化に私は反対しています。なぜなら、

①救急医療に携わる全医療スタッフの『献身』を美化する余り、長時間労働を正当化しかねない。

②特に、人手が少ない地域・病院では医療スタッフの過重労働が更に増大するおそれがある。

③これら長時間労働/過重労働は、医療スタッフの健康を害するのみならず、患者の安全にも関わる危険因子である。

これら3点の懸念があるからです。欠陥があるシステムを漫然と維持したまま、美辞麗句をスローガンに掲げ『戦意』昂揚を図るよりも、システムを改善した方が断然良いはずではありませんか。

【医療関係者向け】医師の燃え尽きと、医療安全・患者満足度・プロフェッショナリズムの関連性 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 

 

 では、具体的にどうシステムを改善すべきなのか。私には幾つか腹案があります。

 

① 患者ごと, ないし地域/地区ごとに救急車での搬送先の病院をあらかじめ設定しておく

 以前入院治療を受けた病院に救急搬送できれば、既往歴/治療経過等の把握が比較的容易ですよね。救急車をたらい回しにする理由も1つ減ります。

 

② 医療スタッフの集約化(適度な配置/増員)

 そもそも特定の診療科が無い(e.g. 2次救急病院なのに透析ができない, 産婦人科があるのに小児科が無い)病院も多々ありますが、特定の診療科の医師が片手で数えるしか(e.g. 3次救急病院に脳外科医が3~4名だけ, 2次救急病院なのに耳鼻咽喉科医が1名だけ)おらず、外来・病棟・急患の診療の全てを十分回せないケースも多く見られます(なので、大学病院から医局員を日中に派遣して外来診療をしてもらう等の措置を講じる『医局バイト』があるのです)。

 そうした病院内/診療科内の少ない人数で全ての診療をやりくりしようとすると、医療スタッフの疲労がますます蓄積することとなります。その結果、

1.医療事故発生に繋がる

2.モチベーションの低下により、急患応需や他科より紹介された患者の精査加療から手を引きがちになる

3.燃え尽き・心身の不調等による離職者の増加

といった弊害が現に生じています。そして、そのような環境にある病院(もしくは診療科の医師)が、日本全国の各都道府県内に分散配置されている状況なのです。

 ここは、思い切って病院を集約化すべきです。全ての救急指定病院の救急外来に、救急医療専従スタッフを十分数配置することで、救急外来での蘇生及び鑑別診断を円滑に進めることが可能となります。また、各診療科・手術室・ICUのスタッフも十分濃厚に配置することで、診療業務による負担を分散してゆとりある労働環境を実現するのです。

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③空き病床確保の為の工夫

 前述のような「満床だから救急車が受けられません」という問題については、確かに病院新設・増床で解決できるかもしれません。しかし、人手がその分増えないと労働環境が悪化するだけですし、そもそもこれから日本社会は高齢化が進行し労働人口が減少してしまうのです。必ずしも病院施設の新設による増床が、地域医療にポジティブに働くとは言えません。

 私は敢えて、替わりに患者の入院期間の短縮を提案します。急性期を脱し, 尚且つリハビリ継続が必要な患者は、極力早期に回復期リハビリ病院へ転院する流れを確立しておくのです(いわゆる『植物状態』など、特別な事情のある患者は療養型病院へ, そのまま自宅に戻っても支障が無い患者は自宅退院)。

 

④地域/都道府県レベルで見た、病院の適正な配置

 上記①, ②のように、救急搬送先の『かかりつけ』を設定したり、分散配置された医療スタッフを集約化するだけでは不安が残りますよね。特に、救急車に収容されてから病院に到着するまでの時間が長すぎると、治療が遅れてしまい良好な予後が得られにくくなる場合があります。そういったところを考慮し、適度な地理的間隔を置いて救急指定病院を配置すべきです。

 

⑤外来診療を開業医(や家庭医)に委託

 病院勤務医は、病棟管理, 急患対応, 当直/夜勤だけでなく一般外来業務もこなさねばなりません。病院の一般外来の患者数はかなり多いので、それなりの負担にはなります。患者側も自分の仕事・家庭の都合をやりくりして来ていますし、病院まで来るのにはそれなりの手間がかかります。よって、ケースバイケースの判断にはなりますが、退院後のフォローアップを患者のご近所にある診療所に委託するというシステムを構築しておくことも必要です。