Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

厚労省と医師会の嘘(3)

 こんにちは。本ブログの記事を書くのもこれで5回目になります。もうお気付きの方も居るかと思いますが、実はTwitterアカウントも開設しました。

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 今回も前2回同様、上昌弘氏の著書『病院は東京から破綻する』を元に、医師不足医療崩壊)に対して政府が講じた対応策と、『抵抗勢力』がそれをぶち壊しに動いている様を追っていきたいと思います。

 医学部定員を増やす等して将来の医師数を確保せねば、少子高齢化の影響によって医療現場が益々疲弊し、文字通り『医療崩壊』を招きかねない事は前回の記事で述べた通りです。ではなぜ医学部定員(医師数の増加)に厚生労働省がいい顔をしないのか。それには予算が絡んできます。

 1983年、米国の医療経済学者が自国での実証研究の結果に基づいて「医師が増加すると医療費が増加する」(『医師誘発需要説』)と発表しました。同じ頃に、医療費の膨張抑制に心を砕いていた日本の厚労省(当時はまだ厚生省ですが)は、この理論に目を付け医学部定員削減に舵を切っていきました。しかし、『医師誘発需要説』の追加研究はその後も行われており、1990年以降に欧米で行われた研究でこの理論は否定されています。それでも今日の厚労省官僚や医療関係者の中には『医師誘発需要説』を信じている人が多いそうです。

 確かに、医師を増やしてしまえば医療費が増加していく状況はあります。それは、医師が足りない環境で医師を増やした場合です。また『病院は東京から破綻する』のデータの引用になりますが、医師数は「西高東低」ー 東日本で医師が不足傾向であり、西日本はそれよりマシ ーであると上氏らは分析しています(https://voiceofer.hatenablog.com/entry/2018/06/26/123549 に上げた地図の写真も参照)。下に写真を添付していますが、東日本では医師数と県民1人あたりの医療費が相関しています。これに対し、西日本は医師数と無関係に、県民1人あたりの医療費はほぼ一定しています。

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医師数が足りない東日本で医師数を増やせば、医療費は増えるのです。しかし、この医療費の増加も医師数が一旦充足すると頭打ちになります。

 厚労省にとっては、(一過性とはいえ)増加する医療費を巡って予算を握る財務省と『対決』する事は極力避けたい面倒事なのです。このような理由もあり、厚労省内部では医学部定員増加を嫌う意見が根強いのです。

 そんな厚労省に助太刀する勢力がいます。商売敵が増えて困る2大勢力ー 日本医師会と、日本全国の医学部(の首脳部) ーです。

 厚労省も医師会も、「商売敵が増えるから嫌だ」・「予算を巡る折衝が面倒だから」という近眼視的な発想で国策を操っています。そして医療スタッフの疲弊を看過し、それによって起こる医療崩壊のリスクに国民を曝している(日本国憲法に明示された基本的人権、特に生存権の侵害に当たると私は思います)のです。

 我々日本人はつい70年近く前に、近眼視的な方策が大失敗を招いた事例を経験しています。過日本ブログで紹介した『失敗の本質』の引用になりますが、先の大戦で日本軍は長期的な見通しを欠いたまま真珠湾攻撃(1941年12月8日)に踏み切りました。例えば、1941年9月初旬に昭和天皇から「絶対に勝てるか」聞かれた海軍幹部は、「勝算はあると思うが、絶対勝つとは言えない」と返答したそうです。また連合艦隊司令長官であった山本五十六は、開戦当時の首相 近衛文麿に見通しを聞かれた際、「初めの半年, 1年は暴れてみせる。しかし2, 3年後は分からない」と答えています。要は、長期戦では米軍に勝てる自信が無いので「短期決戦でなんとか乗り切れたらいいなあ」程度にしか大本営・政府は考えていなかったのです。

 短期決戦志向の戦略は防御・情報に対する関心の低さと兵力補充・兵站・補給の軽視に繋がり、悲惨な結果を招きました。1944年3月〜7月に現在のミャンマーで行われたインパール作戦では、英軍の拠点インパールを攻略するに当たって、日本軍の拠点とインパールの間に横たわる険しい山岳地帯を3週間で突っ切る予定で作戦が断行されました。日本軍は太平洋戦争緒戦の如き急襲に拘ったため、かさばる重火器をあまり携行できませんでした。その上道路もロクに無い山岳地帯の行軍であったため弾薬・食糧・武器の輸送は家畜と人力に依存していました。しかも作戦司令官は「足りない食糧は敵軍から奪取すれば良い」と述べ、3週間分の食糧しか持たせていなかったのです。皆様がご存知のように、上空からの偵察で日本軍の動向を把握し、重火器を揃えて準備万端だった英軍の反撃に遭い、加えて栄養失調と病気(マラリア赤痢が流行)が日本軍兵士間で蔓延し作戦は失敗。戦死者約3万人を出し、負傷・病気の為後送されたのは2万人, 生き残った5万人も半分以上は病人だったそうです。

  そして21世紀の日本では、厚労省・医師会・医学部首脳部が自分らの短期的な損得勘定に基づいてこの国の保健医療政策を決定しています。彼ら・彼女らは都合の悪い情報(日本の高齢化の見通しや、各地域の医師数など)を無視しており、労働力が不足している前線(医療現場)への人員補給は未だに不足しています。まさにインパール作戦のような惨禍が起きつつあり、全国民を巻き込むでしょう。

 現代の大本営- すなわち厚労省内部の利己的な官僚や、彼らに同調する族議員日本医師会、医学部首脳部ら- にこれ以上、好きにさせてはなりません。彼ら彼女らに、方針の是正を強く求める必要があります。