Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

地域枠の義務を拒否する研修医たち

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/int/201807/557228.html

 今回は、↑日経メディカルの記事を取り上げてみました。今年4月に新たに初期研修医になった人たちのうち、「卒業した大学のある地域で、初期研修を含め数年間、指定された医療機関で勤務する」ことを条件に定める『地域枠』で医学部へ入学した人は764名ですが、そのうち9名が他の都道府県に就職してしまったと判明しました。

 実は、このような事象は今回に限ったことではありませんでした。厚労省は2017年7月に医事課長通知を出し、「地域枠の学生にはマッチングの際にその旨を申し出ることを求めるとともに、病院側にも従事要件と研修プログラムに齟齬がある場合は希望順位登録を行わない」よう各臨床研修病院に求めていたのです。

 そして今回、地域枠の義務を拒否する新初期研修医らが居る実態を具体的に把握した厚労省は、①2019年度のマッチングをめどに、地域枠の学生が他地域で研修できないような仕組みを導入し, ②理由なく域外の地域枠の学生とマッチングした病院に対して、補助金の減額や研修医の採用人数の減員などのペナルティーを導入する, 予定なのだそうです。

 以前、私は本ブログで初期研修のあり方について、持論を述べました(下記2個のリンク)。

voiceofer.hatenablog.com

voiceofer.hatenablog.com

初期研修は確かに、様々な科を回って多様な技能/知識を習得する貴重な機会ではあると思います。しかし、病院によっては特定の診療科が無いため、初期研修中にその領域を回って経験・知識を獲得する機会が無いまま後期研修医になってしまう場合も多々あります。また、多忙な診療科を回って経験数を稼いだとしても、先輩たち(後期研修医や指導医ら)からの適切なフィードバックを得られなければ、経験を正確な知識に変換し, それを蓄積していくという事が出来ません。それに加え、上級医の態度が強圧的な場合、パワハラ・過労死といったトラブルに発展しやすいので、医学生/初期研修医が寄り付かないのは想像に難くないですよね。

  上記のような課題が、医学生/初期研修医が卒後の勤務先を選択する際の重要な判断基準となっている事実は、私も同級生や先輩・後輩を見る等して痛感しました。そして、都道府県で設定された地域枠及び医師修学資金は、上記の課題の解決を先送りにし、新規初期研修医や学生らに「その地域に残ることを強制する」だけの間に合わせの策に過ぎないのではないか?と私は最近思っています。

 地域によっては指導医クラスの医師すら確保するのも一苦労するところがあるのは百も承知しています。そして、そのような環境では、精神的・時間的な制約のため、カンファレンスに時間を割いたり、後輩たちの『粗相』へ丁寧かつ寛大に忠告を垂れたりする余裕が無いのでしょう。しかし、指導医すら不十分なところには若手は集まらず、人材の流出が止まる訳がありません(それだから、地域枠や医師就学資金を利用して、強引に若手を食い止めようとするのでしょう)。しかも、「時間や人員に余裕がない」とはいえ、医局バイトのように、撤廃しさえすれば人員の有効活用が図れるはずの悪弊が存在するもの事実です(詳細は下記リンクをご参照下さい)。

voiceofer.hatenablog.com

  各地域そして各施設内の組織の改革に着手することなく、間に合わせの策だけで地域医療の崩解を止めようとする厚労省や全国の都道府県/自治体の対応には、私は賛同できません。むしろ彼ら・彼女らには、太平洋戦争に突入した際の日本政府の首脳部同様、長期的なビジョンが欠落しているからこそ、このような策に走っているように思えてなりません(下記リンクも参照)。

voiceofer.hatenablog.com

 行政は今こそ、目先の利権や数字(帳尻合わせ)だけに固執するのではなく、「数世代先まで持続可能な医療を供給する」という目標を再認識し、目標達成のためには何が必要か、常に検討を重ねるべきです。そして、医師会や大学病院首脳部, 厚労省といった組織の内輪だけで意見を交換して意思決定を下すのではなく、外部(現場で実際に働く医療スタッフ)の批評も積極的に取り込んだ上で政策を決定すべきなのです。