Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

核兵器保有の是非(※2022/3/23午後9時台に追記)

 みなさんこんばんは。現役救急医です。今夜(3/23)午後6時にウクライナのゼレンスキー大統領の国会演説が行われました。演説の中でゼレンスキー氏はチェルノブイリ原発のことに言及し, 日本による一早い対露制裁発動とウクライナ支援へ謝意を表明し, 戦後復興への協力を要請した模様です。

 ロシアのウクライナ侵攻は依然として止むことがなく、ロシア軍による攻撃で民間人の犠牲が増え続けています。プーチンが主導するこのような戦争犯罪非人道行為今に始まったことではない旨は以前このブログなどで紹介した通りです。

【速報】ゼレンスキー大統領が日本の国会で演説「アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのが日本。引き続き継続を」(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース

重なる子の遺体 絶望のマリウポリ - Yahoo!ニュース

ロシアのウクライナ侵攻 最新情報 - Yahoo!ニュース

 ロシアは、その圧倒的軍事力, 安保理常任理事国というステータス, 及び 核抑止力を元手に、依然強気の姿勢を誇示しています(国際社会の反発やウクライナ国民・軍の頑強な抵抗, 及び 自国民からの批判にも関わらず)。これに反応して(やはりと言うべきか)日本においても、米国との核兵器『共有』のみならず, 日本独自の核兵器開発を主張する意見が出てきています。

 保有を主張する気持ちは分からないでもないですが、私は賛同できません。理由は以下の通りです。

① 日本が核兵器を持つことで、後に続く国家が多発する可能性がある

 先の大戦中、米軍は広島・長崎の2ヶ所へ原爆を投下し、放射線急性障害と, 長期的な疾病(甲状腺癌など)により多くの方々が亡くなる, もしくは 苦しむことになりました。それ以来、日本は『唯一の戦争被爆国』として、まがりなりにも「核兵器廃絶」を国際社会に向けてアピールしてきた訳です。そんな国が、米国との『核共有』はまだしも独自の核兵器開発に乗り出したら、「アイツが核開発始めたんだから俺も!」と考える国家が出てくるのは必定ではないでしょうか。その上、同盟国を含む各国と多少なりとも(不必要な)緊張を生じてしまうのは明らかです。

 

核兵器開発を始めたことが、逆に他国からの武力介入を招くリスクもある

 核兵器開発を進めた国に対し、敵対する国が攻撃を行なって原子炉を破壊したり, 原子力施設の機能を一時的に麻痺させた事例が過去に発生しています。全てイスラエルが『実行犯』であり、イラクの原子炉空爆は1981年, シリアの原子炉空爆は2007年, そしてイランの核施設へのサイバー攻撃(これはあくまで疑惑のようですが)はなんと昨年の出来事です。

 「イラク・シリア・イランの情報保全態勢に穴があった」と言ってしまえばそれまでですが、それでもなお、核開発が他国による武力介入を招いた前例を無視すべきではないと思います。

 

③ 開発費や維持費を捻出する余裕はあるのか?

 核爆弾そのものの研究開発や, 運搬手段(ミサイルなど)の研究開発, 保管等を行う施設(機密保持等のため、立地選定も一筋縄では行かないはず)の建設にも相当の国家予算を要するのみならず、核爆弾・運搬手段・施設の維持費や人件費の類も、相当額を要するはずです。日本は高齢化のみならず、毎年のように襲ってくる地震・台風・豪雨等の自然災害といった様々な課題を抱えています。果たして、核兵器開発・運営・維持にまで国家予算を割くだけの余裕はあるのでしょうか。

 

 核兵器開発・保有や同盟国との共有に関する議論をやることは構いませんが、こうした問題点(或いは疑義)についてもう少し掘り下げて欲しいなと思います。

 

 最後に、ゼレンスキー大統領やウクライナ全国民のみならず、世界中の紛争地などで生命や生活が危機的状況にある人々が一人でも多く危機を脱し, また無益な戦争への協力を迫られているロシア国民とロシア軍兵士が一人でも多く救われることを切に祈ります。

我々はいつ『規制解除』ができるのか

 みなさんおはようございます。現役救急医です。これまで私はCOVID-19に対する国策等について持論を展開し、最近では自ら感じた第6波の影響について綴った上で, それを通して感じたこと世間に要望したいことを記していたと思います。但し、ずーっと愚痴っていても仕方ないので、「ではどのような条件を満たせば、規制を現状よりだいぶ緩くできるのか(≒規制解除のレベルが上がるのか)」について自分なりに考察してみようと思います。

 

(1) 意思決定を左右しうる要素

 これまで度々問題となってきたのが日本国内のSARS-CoV-2感染者数の推移でしたがそれに加えて、日本国内のコロナワクチン接種率も無視できない要素です。首相官邸HPにワクチン接種回数・接種率を公開しているページがありますが、3/22午後に私が確認した限りでは

  • 2回接種完了:  79.4%
  • 3回接種(ブースター接種)完了:  35.1%

でした。

f:id:VoiceofER:20220322163119p:plain

3/22に首相官邸HPへ掲載されていたワクチン接種回数・接種率

私の職場で医療従事者向けのブースター接種が開始されたのは昨年12月であり, その後高齢者への優先接種が開始されました。小児への2回接種開始は、地域によりばらつきはありますが、2月下旬〜3月に開始されたばかりです。

 この他にネックとなりそうな要素はやはり、1) 死亡者数/死亡率 と, 2) 重傷者数/重症化率 でしょう。厚労省のHPには日本国内の感染者数を掲示しているページがあり、そのページをよく見ると、累計死亡者数・重症者数などを世代別に掲示しているリンクが存在しています。私が3/22午後に確認したところ、3/15時点での世代別致死率・重症者の割合等がまとめられており、

  • 10歳未満・・・致死率:  0.0%(死者3名), 重症者割合: 0.0%(7名)
  • 10代・・・致死率:  0.0%(死者7名), 重症者割合:  0.0%(2名)
  • 20代・・・致死率:  0.0%(死者35名), 重症者割合:  0.0%(10名)
  • 30代・・・致死率:  0.0%(死者105名), 重症者割合:  0.0%(10名)
  • 40代・・・致死率:  0.0%(死者346名), 重症者割合:  0.0%(20名)
  • 50代・・・致死率:  0.2%(死者984名), 重症者割合:  0.2%(60名)
  • 60代・・・致死率:  0.6%(死者1,985名), 重症者割合:  0.4%(88名)
  • 70代・・・致死率:  2.4%(死者5,625名), 重症者割合:  1.1%(208名)
  • 80代以上・・・致死率:  7.0%(死者16,277名), 重症者割合:  0.5%(132名)

という数値でした。やはり年齢が上がるにつれて死者数・致死率・重症者数が増えていく傾向が見て取れます。特に死者数については)『累計』の数値となるので、日本でコロナワクチン接種が開始される前の人や, 日本国内で接種が開始された後でも1・2回目すら未接種だった(またはブースター未接種だった)人も含まれていることに注意は必要です。

f:id:VoiceofER:20220322165424p:plain

厚労省HPより:3/15時点での累計死者数など

f:id:VoiceofER:20220322165500p:plain

厚労省HPより:3/15時点での重症者数など

 これまで臨床試験・疫学的調査を含む様々な研究で判明しているように、コロナワクチン(とりわけmRNAワクチン)は、1) 2回接種後早期ではSARS-CoV-2感染と重症化への高い予防効果を示し, 2) 2回接種後半年の間に感染への予防効果は低下するものの重症化への予防効果は維持され, 3) ブースター接種後に感染に対する予防効果は回復して、重症化への予防効果も発揮される, ことが示されてきています実用化されて比較的日が浅いこと, オミクロン株への有効性のデータがまだ揃っていないことは勘案されるべきですが)。他にも、重症化リスクの高い軽症COVID-19患者へ投与される薬剤(e.g. レムデシビル, 中和抗体, ニルマトレルビル・リトナビル, モルヌピラビル)が日本国内で処方可能となっています

 

(2) では、『規制解除』がなされる条件は何か?

 細かい点に目を向けると、日本国内のSARS-CoV-2感染者数の増減の他に, また厄介な変異株が誕生しないかどうか, オミクロン株が示す臨床症状や免疫回避能力がどれほどか, レムデジビル・中和抗体などの『重症化抑制薬』が安定供給できるか, といったところも問題となるでしょう。ですがやはり、まず問題になるのはワクチン接種率でしょう。これまで述べてきたように、日本国内のコロナワクチン接種状況の問題点は、

  1. ブースター接種率が(2回接種率と比較しても)明らかに低いこと
  2. 小児への接種が最近始まったばかりであること

です。過去に述べたとおり、子供から同居家族や学校・保育園等の職員へSARS-CoV-2が感染していくことで所謂『クラスター』を形成し、学校・一般の事業所・保育園・幼稚園等のみならず, 医療機関にまで深刻な影響が出ています。ブースター接種の拡大も重要ですが、小児へのワクチン接種拡大こそ喫緊の課題とすら思えます。言い方を変えると、『規制解除』を可能とする条件は、① ブースター接種率が一定水準を超えること, 及び ② 5~11歳へのコロナワクチン2回接種率が一定水準に達すること(12歳以上・成人の2回接種率と同じくらいの数値へ達すること?)だと思います。

 死亡率に関しては、やはり年代別の差も考慮に入れるべきです。そもそも60代を越した患者は、肺炎にせよ, 急性膵炎にせよ, 脳卒中にせよ, 外傷にせよ, 一般的に重症化して死亡するリスクがどうしても高くなってしまいます。患者本人及び家族の価値観はそれぞれ異なるとはいえ、社会全体として「加齢に人は抗えず, 『衰退』は進行し, いずれにせよ死は免れない」といった趣旨のコンセンサスを形成せざるを得ないと思います。それに加えて経済面・安保面等で特にダメージが深刻となり得るのが、「小児〜現役世代における死者数・重症者数(ないし死亡・重症化率)や後遺症の『罹患率(←疫学的に正確な用途とは限りません)が上昇すること(或いは減らないこと)」であるのは明白だと思われます。即ち、『規制解除』を可能とする条件3つ目は、③ 60代以下の死亡率・重症化率等が現状よりも低減されること でしょう。

 なお私は、「高齢者は疾病罹患時に予後不良になりやすい」からと言って、高齢者へのコロナワクチン接種や, ニルマトレルビル・リトナビル等の『重症化抑制薬』の投与を否定したい訳ではありませんので、誤解なきようお願いします。寧ろ、「それまで十分に日常生活が自立していた高齢者がCOVID-19罹患をきっかけに要介護者になってしまい, 本人のQOLが低下してしまった」というパターンを予防できるに越したことはありません。

 最後に、やはり重要となるのは④ 医療提供体制がまた逼迫しないようにすること でしょう。過去にこのブログやYouTubeチャンネルで度々指摘してきたように、COVID-19パンデミック以前から日本の医療は、急性期病院が集約化されていない, 急性期病院への入院期間が伸びがち, 急性期離脱後すぐに自宅へ帰れない場合の受け皿(e.g. 回復期リハビリ病棟, 老健施設など)が少ない, 医療機関への医師の配置が大学病院医局に左右され過ぎetc. といった多くの課題が解決されぬままとなっています。今こそ文字通り『メスを入れて』改善を図るべきなのです。

 

(3) まとめ

 最後に、私(救急医ですが感染症専門医ではなく, また疫学の知識は皆無です)が考えたCOVID-19関連の『規制解除』が可能となる条件をまとめて終わりにします。

 ① ブースター接種率が一定水準を超えること

 ② 5~11歳へのコロナワクチン2回接種率が一定水準を超えること

 ③ 60歳代以下の死亡者・重症者数が十分低減されること(and/or 後遺症の『罹患率』も十分低減されること)

 ④ 医療提供体制の逼迫を繰り返さぬよう、政府が十分な政策を実行すること

の4項目が達成されるべきだと考えます。

低マグネシウム血症の治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。先日に引き続き、マニアックな(?)電解質異常の治療について、UpToDateを参考にまとめてみようと思います。今回は、低マグネシウム(Mg)血症についてまとめてみました。

 

(1) 低Mg血症の原因と症状

① 症状

 低Mg血症の症状は主に以下の4つです。

  • 神経筋症状:  振戦, テタニー, 筋力低下, 痙攣, せん妄, 昏睡など
  • 循環器症状:  心電図上、軽症例ではQRS延長・T波増高。重症例ではPR間隔延長・T波平坦化・心室不整脈
  • カルシウム(Ca)代謝異常:  低Ca血症, 副甲状腺機能低下症など
  • カリウム(K)血症

 

② 原因

 主な原因は、1) 消化管からの喪失, 及び 2) 腎臓からの喪失です。

 消化管からの喪失を起こす病態には下痢, 短腸症候群, 急性膵炎, 医薬品(プロトンポンプ抑制薬)などが含まれます。一方、腎臓からの喪失を起こす病態には医薬品(利尿薬, アミノグリコシド, アムホテリシンなど), コントロール不良の糖尿病, アルコール依存症, 先天性疾患(Bartter症候群など)など多くのものが含まれます。

 こうした原因の鑑別に有用な検査には、以下の2種類があります。

1. 24時間尿中Mg排泄量:  10~30 mg<で腎機能正常ならば、腎臓からの喪失10 mg>で腎機能正常ならば、腎臓以外からの喪失。

2. Fractional Excretion of Magnesium(FEMg):  ([尿中Mg濃度]x[血中クレアチニン濃度])/{(0.7x[血中Mg濃度])x[尿中クレアチニン濃度]} x 100という公式で求める。

 3~4%<で腎機能正常ならば、腎臓からの喪失2%>で腎機能正常ならば、腎臓以外からの喪失。

 

 

(2) 低Mg血症の治療 − 補充を中心に −

 Mgの投与量とルートは、臨床症状の重症度と低Mg血症の程度に左右される。

① 重症

 テタニーや不整脈, 痙攣といった症状がある場合、Mgの静注(IV)が行われる。

  • 循環不安定だった場合:  まず硫酸Mg 1~2 g(8~16 mEq)2~15分かけて投与。初回投与後でも不安定だった場合は追加投与。
  • 血中Mg濃度≦1 mg/dLで循環安定の場合:  5%ブドウ糖液50~100 mLへ硫酸Mg 1~2gを混注したもの5~60分かけて投与。その後、後述する持続点滴投与を実施。
  • 緊急例への持続点滴投与:  硫酸Mg 4~8 g(32~64 mEq)12~24時間かけて投与。血中Mg濃度>1 mg/dLを維持できるまで反復投与。
  • 腎機能低下(クレアチニンリアランス<30 mL/min./1.73m2):  Mg投与量を50%削減し、血中Mg濃度をより緊密に監視。

血中Mg濃度は、Mg製剤IVの6~12時間後に再測定する必要がある。この値を元に、追加投与の是非を判断する。

 

② 無症状〜軽症

 無症状・軽症の低Mg患者で患者本人が経口製剤に耐えられる場合、経口投与製剤が投与可能である(酸化マグネシウムの場合、800~1,600 mg/day)。しかし、経口製剤を摂取できない患者も居る他、経口製剤には消化管症状といった副作用が伴うそのため、多くの場合はIVによる補正が行われることが多い。

 IVする場合、血中Mg濃度により投与量が左右される。

  • 血中Mg濃度<1 mg/dL:  硫酸Mg 4~8 gを12~24時間かけて投与し, 必要に応じて反復
  • 血中Mg濃度1~1.5 mg/dL:  硫酸Mg 2~4 gを4~12時間かけて投与し, 必要に応じて反復
  • 血中Mg濃度1.6~1.9 mg/dL:  硫酸Mg 1~2 gを1~2時間かけて投与

Mg血中濃度は毎日測定するか, 必要時には更に頻回に測定すべきである。この再検時の値により硫酸Mg再投与の是非を判断する。

 

③ 治療期間

 血中Mg濃度は治療後急速に上昇するが、細胞内のMgが補充されるまで時間がかかる。従って、腎機能が正常な患者の場合は、血中Mg濃度が正常化してから少なくとも1~2日はMg補充を継続する必要がある

低リン血症の治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。先日も少し述べましたが、電解質異常の補正はどの診療科でも直面しうる問題であり, 色々な参考書で原因検索や治療について述べられています。そこで今回は、それらの参考書で(あくまで私の印象論ですが)治療法の詳細が載っていない電解質異常について、UpToDateを基にしてまとめてみようと思います。とりあえず今回は低リン血症についてやります。

 

(1) 低リン血症の評価

 低リン血症の原因には、1) 体内での再分布(e.g. インスリン分泌過剰, 急性の呼吸性アルカローシスなど), 2) 消化管での吸収低下(e.g. 摂取不足, 制酸薬等による吸収抑制, ビタミンD欠乏など), 3) 尿への排泄亢進(e.g. 副甲状腺機能亢進症, ビタミンD欠乏, Fanconi症候群など)の3つが挙げられます。多くは病歴から診断することが可能です。

 他に、① 24時間蓄尿, ないし ② 随時尿でのFractional Excretion of Filtered Phosphate(FEPO4)計測 のいずれかで尿中へのリン酸塩排泄を評価し、診断に活用する場合もあります。

① 24時間蓄尿リン酸塩排泄量<100 mgならば、腎からのリン排泄が適度に低い("appropriate low renal phosphate excretion")リン酸塩排泄量≧100 mgならば、リンの腎排泄亢進。

② FEPO4:  ([尿中PO4濃度]x[血中クレアチニン濃度]x100])÷([血中PO4濃度]x[尿中クレアチニン濃度])で算出する<5%ならば、腎からのリン排泄が適度に低い≧5%ならば、リンの腎排泄亢進。

 ※ PO4とは、リン酸イオンのこと

 

 「腎からのリン排泄が適度に低い」場合に考えうる低リン血症の原因は、体内での再分布と, 消化管からの吸収量低下です。他方、「リンの腎排泄亢進」の場合に考えうる低リン血症の原因は、副甲状腺機能亢進症と, 尿細管障害です

 

 

(2) 治療 − リンの補充について −

 上記のように低リン血症の原因には様々な疾患があり、基礎疾患により補充の要否が左右される場合があります。例えば、糖尿病性ケトアシドーシス治療中に出現する低リン血症は、正常の経口摂取により自然に補正されると言われています。また消化管での吸収不良が低リン血症の原因となっている場合、その原因を補正することで自然に補正されると言われています。

 リンの補充方法は、症状の有無, 及び 血中リン濃度の値によって変わります。具体的には、

  • 症状で血中リン濃度<2.0 mg/dLの場合:  経口補充
  • 症状がある場合

   血中リン濃度1.0~1.9 mg/dLでは経口補充

   血中リン濃度<1.0 mg/dLなら経静脈的補充, 1.5 mg/dLを超えたら経口補充に変更

 

いずれにせよ、血中リン濃度>2.0 mg/dLになったら、補充を中止します(慢性的に排泄が亢進している場合は継続)。

 ちなみに、血中リン濃度が<2.0 mg/dLになるまで明らかな臨床症状を呈さないとされており, その一方で、<1 mg/dLでは筋力低下・横紋筋融解症といった重篤な症状が出ます。

 

① 経口補充

 血中リン濃度により投与量が変わります。具体的には、

  • ≧1.5 mg/dLの場合:  リンを1 mmol/kg(40~80 mmolの範囲)で、1日3~4回に分けて内服
  • <1.5 mg/dLの場合:  リンを1.3 mmol/kg(最大100 mmolまで)で、1日3~4回に分けて内服

となりますが、肥満患者の場合は最初から最大量を投与するか, 身長と体重で投与量を調整する必要があります。また、腎機能低下のある患者では半分程度へ投与量を下げる必要があります。リン血中濃度の再検は、分割された1日投与量のうち最後の分が投与されてから2~12時間後に行い, その結果で補充を継続すべきか否か判断します。

 

② 経静脈的補充

 リンの経静脈的補充は、カルシウムと沈澱を形成したり, 低カルシウム血症・腎不全・致死性不整脈といった合併症を来したりするリスクを伴います。経静脈投与を行う場合、重症度と体重に応じて投与量を調整する必要があります。具体的には、

  • 血中リン濃度≧1.25 mg/dLの場合:  0.08~0.24 mmol/kgを6時間かけて投与(最大30 mmolまで)
  • 血中リン濃度<1.25 mg/dLの場合:  0.25~0.50 mmol/kgを8~12時間かけて投与(最大80 mmolまで)

となります。リン補充に用いる輸液の組成は、点滴製剤1本につきリン7.5 mmolまでとされており、速度は7.5 mmol/hr.程度までとされています。経静脈的にリンを補充している患者では、6時間ごとに血中リン濃度を計測すべきとされています。

 

 次はたぶん、低マグネシウム血症をやると思います。