Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

低マグネシウム血症の治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。先日に引き続き、マニアックな(?)電解質異常の治療について、UpToDateを参考にまとめてみようと思います。今回は、低マグネシウム(Mg)血症についてまとめてみました。

 

(1) 低Mg血症の原因と症状

① 症状

 低Mg血症の症状は主に以下の4つです。

  • 神経筋症状:  振戦, テタニー, 筋力低下, 痙攣, せん妄, 昏睡など
  • 循環器症状:  心電図上、軽症例ではQRS延長・T波増高。重症例ではPR間隔延長・T波平坦化・心室不整脈
  • カルシウム(Ca)代謝異常:  低Ca血症, 副甲状腺機能低下症など
  • カリウム(K)血症

 

② 原因

 主な原因は、1) 消化管からの喪失, 及び 2) 腎臓からの喪失です。

 消化管からの喪失を起こす病態には下痢, 短腸症候群, 急性膵炎, 医薬品(プロトンポンプ抑制薬)などが含まれます。一方、腎臓からの喪失を起こす病態には医薬品(利尿薬, アミノグリコシド, アムホテリシンなど), コントロール不良の糖尿病, アルコール依存症, 先天性疾患(Bartter症候群など)など多くのものが含まれます。

 こうした原因の鑑別に有用な検査には、以下の2種類があります。

1. 24時間尿中Mg排泄量:  10~30 mg<で腎機能正常ならば、腎臓からの喪失10 mg>で腎機能正常ならば、腎臓以外からの喪失。

2. Fractional Excretion of Magnesium(FEMg):  ([尿中Mg濃度]x[血中クレアチニン濃度])/{(0.7x[血中Mg濃度])x[尿中クレアチニン濃度]} x 100という公式で求める。

 3~4%<で腎機能正常ならば、腎臓からの喪失2%>で腎機能正常ならば、腎臓以外からの喪失。

 

 

(2) 低Mg血症の治療 − 補充を中心に −

 Mgの投与量とルートは、臨床症状の重症度と低Mg血症の程度に左右される。

① 重症

 テタニーや不整脈, 痙攣といった症状がある場合、Mgの静注(IV)が行われる。

  • 循環不安定だった場合:  まず硫酸Mg 1~2 g(8~16 mEq)2~15分かけて投与。初回投与後でも不安定だった場合は追加投与。
  • 血中Mg濃度≦1 mg/dLで循環安定の場合:  5%ブドウ糖液50~100 mLへ硫酸Mg 1~2gを混注したもの5~60分かけて投与。その後、後述する持続点滴投与を実施。
  • 緊急例への持続点滴投与:  硫酸Mg 4~8 g(32~64 mEq)12~24時間かけて投与。血中Mg濃度>1 mg/dLを維持できるまで反復投与。
  • 腎機能低下(クレアチニンリアランス<30 mL/min./1.73m2):  Mg投与量を50%削減し、血中Mg濃度をより緊密に監視。

血中Mg濃度は、Mg製剤IVの6~12時間後に再測定する必要がある。この値を元に、追加投与の是非を判断する。

 

② 無症状〜軽症

 無症状・軽症の低Mg患者で患者本人が経口製剤に耐えられる場合、経口投与製剤が投与可能である(酸化マグネシウムの場合、800~1,600 mg/day)。しかし、経口製剤を摂取できない患者も居る他、経口製剤には消化管症状といった副作用が伴うそのため、多くの場合はIVによる補正が行われることが多い。

 IVする場合、血中Mg濃度により投与量が左右される。

  • 血中Mg濃度<1 mg/dL:  硫酸Mg 4~8 gを12~24時間かけて投与し, 必要に応じて反復
  • 血中Mg濃度1~1.5 mg/dL:  硫酸Mg 2~4 gを4~12時間かけて投与し, 必要に応じて反復
  • 血中Mg濃度1.6~1.9 mg/dL:  硫酸Mg 1~2 gを1~2時間かけて投与

Mg血中濃度は毎日測定するか, 必要時には更に頻回に測定すべきである。この再検時の値により硫酸Mg再投与の是非を判断する。

 

③ 治療期間

 血中Mg濃度は治療後急速に上昇するが、細胞内のMgが補充されるまで時間がかかる。従って、腎機能が正常な患者の場合は、血中Mg濃度が正常化してから少なくとも1~2日はMg補充を継続する必要がある