Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

いち医療従事者として、世間の皆様にお願いしたいこと

 みなさんこんにちは。現役救急医のカ医ロ・レンです。今日は医療関係以外のお仕事に就いておられる皆さんへ、お願いしたいことがあってブログを書いています。私のブログやYouTubeチャンネルを始めて見られた方も居ると思うので改めて自己紹介しますと、私はだいたい2010年代に地方の国公立大学医学部医学科を卒業し, 昨年(2021年)秋に救急専門医を取ったばかりの医師です。大学病院救命センターに勤務していた時期もありますが、現在は大学医局の人事により、田舎の2次病院で働いております。ブログは2018年から, YouTubeチャンネルは2020年からマイペースに更新し、自分の勉強も兼ねて医学的なことや, 医学に関係ない趣味 - すなわち読書に関すること, 日々の診療業務の中で感じたこと, 国内外のニュースを見て思ったことなどをダラダラと書いたり語ったりしています。

 最近のブログYouTubeで述べているように、私の同僚が何人も新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、療養しました。誤解なきよう付け加えますが、感染した同僚たちは皆家族と同居しており, パートナーが職場で感染したり, 子供が学校や幼稚園で感染していたが故に本人も感染してしまったのですこうしてスタッフが居なくなった結果、病院内の診療業務が大幅に制約を受けたことに加え, 身近な人間が次々と感染したことに私は衝撃を受けました。更に、ロシア軍がウクライナに侵攻したというニュースや, 日本全国における新型コロナウイルスの感染状況に関する情報を見聞きしたことで、一時私の精神状態は激しく動揺し, 正常な思考が立ち行かなくなる寸前にまで行ってしまいました。

 幸いにして、感染した同僚たちは入院したり, 亡くなったりすることなく復帰してきてくれました。私も同僚たちも、昨年12月から今年1月の間にコロナワクチンのブースター接種を受けています。感染した同僚たちは、ブースター接種をしていたお陰で重症化を免れたのだと考えていますしかしながら、復帰した同僚は皆、COVID-19の後遺症である嗅覚障害や咳嗽, 息切れ, 味覚障害などを口々に訴えており、私は愕然としてしまいました。

 

 コロナワクチン - とりわけmRNAワクチンは、新型コロナウイルス感染や, それに伴う重症化への予防効果が強いことが示されました。昨年中、「2回接種後時間が経つと有効性が下がってくる」というデータが出ていましたが、それはあくまで「ウイルスへの『感染』に対する有効性が低下した」という話であり, 『重症化』への有効性は保たれていました。加えて、昨年中にはイスラエルを皮切りにブースター接種が開始され, その有効性などに関するデータが徐々に蓄積された結果、「ブースター接種後に新型コロナウイルス『感染』への有効性は持ち直し, 『重症化』抑制効果も十分だ」ということが明らかになってきています。

 しかしながら、先進国と途上国の間でのコロナワクチンの接種率の格差等の課題は依然解消されておらず, そのせいもあってか昨年(2021年)11月以降、新たなる変異株『オミクロン株』が南アフリカから瞬く間に世界中へ拡散してしまいました。オミクロン株感染による重症化リスクや, コロナワクチンによる予防効果について何らかの結論を導くにはまだ日が浅いと私も考えてはいるものの、最近では、「オミクロン株『感染』に対するコロナワクチン2回接種の有効性は、これまでのデルタ株等に対する有効性と比べて低い」ということ, 及び, 「ブースター接種後はオミクロン株『感染』に対する有効性は一気に上がるものの、デルタ株等に対する有効性と比べても低い」ということを示すデータも出てきています。まだ分からないことも多いので私自身も不安ですが、コロナワクチンを接種すること, 多人数での会食や談笑・実家への帰省といったリスクのある行動を避けること, 及び, 不特定多数と接触することが見込まれる外出時などには不織布マスクを装着して行くこと, が有効な対策であることに変わりはありません。

 世界に目を向けると、特に欧米先進国では、COVID-19対策として行ってきた様々な規制を撤廃し、経済活動を活発化させる方向へ舵を切る動きが見られます。こうした政策の根底には、「『高齢者など一定数がCOVID-19で死亡することを受容する』という概念があるのだ」という意見がSNS上などで散見されますが、英国等では既にブースター接種や, 5~11歳の小児へのコロナワクチン2回接種が昨年秋頃より開始されている所もあるようです。これまでブログやYouTubeでも私は指摘していますが、日本の場合、第5波の落ち着いた昨年秋頃から今年1月までの間に、ブースター接種の開始時期や速度を上げたり, 11歳以下へのコロナワクチン接種を前倒ししたり, 地域内の感染者とその家族の健康観察・治療を十分なレベルで継続する為に組織体系を再構築する, といった対策が十分に行われてきませんでした。その結果、COVID-19の第6波が今年1月以降に発生し, 3月に入り「感染者増加が鈍ってきた」と言われる一方で「このまま第7波に入るかもしれない」とすら言われるようになったのです。

 そうとはいえ、いずれ日本国内でもブースター接種率が一定水準以上に達し, それに伴い新型コロナウイルスの感染拡大は停滞するでしょう。その時点で、『まん延防止等重点措置』などの規制は解除され, 経済を活性化させる方向に舵が切られるでしょう。もしかしたら、欧米に倣って「COVID-19によって一定数の人間が亡くなることを受容する」かのような方針も徐々に導入されるかもしれません。但し、そのような意思決定が成される際に、政治家・官僚の皆様のみならず, 全ての市民の皆様にご理解頂きたいことがあります。

 医療従事者が新型コロナウイルス感染によって多数離脱した結果、病院で通常通りの診療業務が行えずに患者の状態変化をフォローできなくなる, その為に医療従事者が精神的・身体的な負担を感じるという事態が現在進行形で起きています。また、医療従事者も人間ですから、新型コロナウイルスに感染したら本人らの生命や身体に危険が及び, 入院や死亡を免れたとしても後遺症に悩まされ, それによって日常生活や診療業務へ支障を来たすことは十分あり得ることです。そして、こうした事態が日本各地で繰り返される限り、日本国民が自分の抱える疾患のフォローを受け続けることが出来なくなり, 救急車で搬送されている急患の収容が難しくなってしまいますこれを改めて認識して頂いた上で、今後の『規制解除』云々の議論を進めていただきたいのです。どうかお願いします。