Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

田舎の2次病院のダメなとこ

 みなさんこんにちは。現役救急医です。私は今、田舎の2次救急病院に勤務中ですが、今回はそんな環境で感じた「何これ!?ダメじゃね!?!?」と思ったことを列挙して自分の感情を整理しようと思います。どうか最後までお付き合い下さいませ。

 

(1) 早く知りたい検査項目が外注

 私が担当する患者には様々な背景を持つ人がおり、罹患した疾病(もしくは外傷)も, 年齢・性別も, 入院前の生活背景も, 既往歴も多様です。診断と治療を進める上で重要になるのが、現病歴・主訴・身体所見やバイタル(血圧, 脈拍, 呼吸数, 意識状態など)だけでなく, 検査結果です。例えば、カリウム等の電解質は極端に低くても高くても致死的になり得ますし、血液・尿・痰などの培養検査は感染症の病原体を特定し, それに合った抗菌薬を選択する上で極めて重要です。

 ところが私の勤務先では、特に重症患者を診療するに当たって早めに結果が判明した方が良い検査項目が複数外注になっているのです。具体例を全てここで挙げてしまうと身バレする可能性があるので、1個だけ挙げます。バンコマイシン, ゲンタマイシン等の一部の抗菌薬は、投与開始後の血中濃度を測定し, その数値次第で投与量を調整せねばなりません。濃度が過少だった場合、病原体への効果が不十分ということになりますし, 過剰だった場合も薬剤による副作用(腎障害など)のリスクが伴います。従って、早めに血中濃度が判明するに越したことはないのですが、当院では外注検査となっているので, 結果判明までなんと1週間もかかるのです!

 検査部の人たちだけでなく、検査機器新規導入に関する決定権を握る事務方トップにもこうした問題点を示しつつ私の要望を伝えているのですが、「予算の関係上、うちへ新しい検査機器を導入するのは難しい」などと言われましたですが、CTをもう1台新規に導入したり, 病院の建物の一部を増設しています)。

 

(2) 重症管理に必要なデバイス等も採用してもらえない

 重症患者にはどうしても、中心静脈カテーテル/末梢静脈カテーテル留置や気管挿管, 動脈圧ライン留置, 開胸・開腹・開頭手術, 経カテーテル的治療といった侵襲的な処置が必要となります。いずれも出血・臓器損傷・薬剤アレルギー等の合併症のリスクも伴うため、救命・安定化を実現するには慎重に実施する必要がありますし, こうした緊急手術等が終わった後も、厳格な監視が必要となります。

 現勤務先で重症患者を何人も診療する中で、私は「あのデバイスがあればもっと厳密に, 安全に重症管理ができるのに」と感じるようになりました。そして、それらのデバイスの新規採用を病院事務トップに申請はしているものの、これまた予算云々を理由に保留・却下される始末。

 事務側(特に上層部)と臨床現場の感覚の乖離には、もはや怒りを通り越して幻滅・うんざりです。

 

(3) とにかく人がいない

 診察中の患者の状態が不安定であればあるほど、その患者の診療に付くスタッフ数は増やす必要があります。薬剤やデバイスを準備したり, 暴れる患者を抑制したり, 経過を記録したりする等の行為について役割を分担してやっていくことが本来であれば必要です。しかし今の勤務先では、病棟にせよ外来にせよ、介助等に付いてくれるスタッフが本当に少ないと毎度毎度感じます。そして、せっかく診療に付いてくれても、そのスタッフが『不勉強』であるが故に指示したものと違う薬剤やデバイスを持ってきたり, 記録が間違っていたということもありました。こうした問題は結局のところ、「スタッフの数を確保できず, 従って診療の質の維持・向上を図る機会すら設けられない」というところに行き着くと思います。

 また地方の市中病院では特に、日中の通常外来のみならず, 土日祝日や夜間の救急外来の担当医を大学病院等からの『外勤(バイト)』医に依存している所が珍しくありませんこうした外勤医は、私のように救急科から派遣される場合もありますが、多くの場合、内科医(消化器, 糖尿病内分泌, 膠原病など)や外科医(消化管, 肝胆膵など)ですそうした医師は、普段はほぼ自分の専門領域の疾患の患者しか見ていないので、全ての急患の診断や治療を正確に行えるとは限らず(まあ私も同じことですが), 自分の専門外領域の疾患と思われる救急車の収容要請に応需しないことも多いのです。

 

(4) 事務職員よ…

 (1), (2)で述べた「病院上層部が私(≒臨床現場)の要望を拾ってくれない!」というものや、(3)の「人が足りない」にこれは被るかもしれません。これを言ったら怒られるかもしれませんが、医事課・受付等の事務職員も『ピンキリ』です。重症患者治療がひと段落した直後 或いは その真っ最中に書類云々で何やら要領を得ない相談をしに来たり,  救急隊からの重症患者収容要請を受けた後、患者の電子カルテの準備が恐ろしいほど遅く、患者を蘇生中に「IDができました」と言いつつ受付職員がノコノコやって来たり, 救急外来が混み合っていて、中等症患者の患者の体位変換(診察の為必要だった)を介助しているのが私だけなので「手伝っていただけませんか」と呼びかける私の横を素通りした受付職員etc...と、事務職員と臨床側の意識の乖離も私の頭痛の種です。

 事務職員に「自分らも病院職員であり, 患者とその家族のケアに協力せねばならない」という意識を持たせ, 臨床側の足を引っ張らない範囲で業務を遂行できるような訓練が十分行えれば、我々がイラつくことも無いはずです。

 

 

 結局のところ、突き詰めれば、「現状の日本では急性期医療機関が地域内に分散しており、それぞれの医療機関では少ないスタッフで通常外来・病棟・救急・手術室等の診療を(ギリギリの状態で)維持している」という環境の是正しかないと思います。急性期医療機関を集約化すればスタッフにも余裕が出るし, 予算に困るようなことも減るのではないでしょうか。

【第116回医師国試合格おめでとう】初期研修2年間にやっといた方がいいこと

 みなさんこんばんは。現役救急医です。3月16日は第116回医師国家試験の合格発表だったようで、午後になってTwitter上へ「受かった!」と言う報告が続々流れてきました。

改めて申し上げます。本当におめでとうございます。

 卒後, 或いは 初期研修終了後にどの進路を選ぶにせよ、これはほんの始まりに過ぎません。そこで今回は、「初期研修医課程でこれをやっといて良かった!」, もしくは「これをやっておくべきだった!」というものを思いつく限り列挙していきます。是非ご参考にして下さい。

 

(1) 症例レポートはさっさと済ませよう

 卒後間もない私は今と比べると、提出物等の期限に非常に敏感でした。初期研修医は指定された病態と主訴に関する症例レポートを作成するよう規定されていますが、私は思い当たる患者の診療を担当したら、間髪を入れずレポート作成を開始していました。そのお陰で、研修医2年目の夏には必要とされるレポートのおよそ7割を提出済みという状態であったと記憶しています。そして、2年目の2~3月頃になって「やべえ、こんなにレポートが溜まってた!」と焦っている研修医同期らの姿を見て、密かにほくそ笑んでいたのです(笑)

 ちなみに、レポートを書く分にはしっかりとやりましょう。患者の症状や検査結果・経過をまとめるに留まらず, 診断や治療等に関する考察もしっかりやる必要があります。論文はともかく、学会における症例報告の類でも、論文等の然るべき参考文献を根拠に考察を仕上げる必要があります。その練習として、まずは各学会が出している治療ガイドライン等を参照しつつレポートを書くべきです。

(2) 抗菌薬の使い方を押さえよう

 初期研修課程が終わり、3年目になって私は重大な錯誤に気づきました。抗菌薬の使い方(薬剤選択, 治療期間など)に関する知識が抜けていたのです。私の選択した専門領域は救急科ですので、当然ながら敗血症のような重感染症の患者を担当する機会も多いのです。慌てた私は先輩の助言も参考にしつつ、医師向けの参考書を購入し, 暇な時に目を通すのみならず, 治療方針に迷った時はすぐにそうした文献で抗菌薬の種類選択や投与期間などを調べるようにしました。以下に、これまで私が入手し参考とした感染症治療に関する医師向けの参考書(へのリンク)を3冊列挙しています。是非チェックして下さい(これ以外にもいろいろあります)。

 

 

(3) 輸液や電解質について理解しておこう

 これも研修医時代にうまく理解できず、未だに戸惑うことの多い領域です。私は計算・数字がとても苦手なので、特に電解質異常を補正する際には本当に困ります。幸い、輸液の考え方, 電解質の考え方について記した参考書は沢山あるので、早い時期に目を通して頭に刷り込んでおきましょう。

(4) 栄養管理を学ぼう

 糖尿病をはじめとする『生活習慣病』でも、塩分や炭水化物・脂質の制限etc.と栄養管理がネックになってきますが、急性期も同様です。上記のように、計算がとっても苦手な私は今でも、重症患者の栄養投与量について本当に苦悩することが多いです早めに攻略しておきましょう。なお、少なくとも『急性期』における栄養管理については、以下の参考書にバッチリ書いてあるので勉強になると思います。

(5) BLS, ACLS, JATECを勉強し、受講しよう

 医学生なら既に少なくとも1回は、ACLS・BLSという固有名詞を聞いたことがあるでしょう。医療従事者となる以上、突然の心停止への対応が迅速にできるよう勉強と訓練を積むに越したことはありません。それに加えて'JATEC'は、指定テキストを読み込むだけでも重症管理について学べるので、受講してみるに越したことはないと思います。特に、外傷患者診療に携わる機会がある救急科, 麻酔科及び全外科診療科の志望者の皆さんには必須知識でしょう。

JATECに加え、更に専門的な領域(各臓器損傷の治療や, 術後管理等の各論)に踏み込んだ'JETEC'という参考書も存在します。

(6) 『敗血症診療ガイドライン』等の各種ガイドラインをチェックしよう

 まず、日本集中治療医学会と日本救急医学会が合同で作成している『敗血症診療ガイドラインは絶対に目を通しておきましょう。敗血症(というより感染症)はほぼ全ての診療科で診療する機会が生じうる病態であり、上述した抗菌薬関連の知識とともに, 診断や治療に関する最新の推奨を把握しておくことが必須であります。

 また、'ACLS'の日本版?とも言うべきJRC蘇生ガイドラインや, 脳梗塞脳出血クモ膜下出血等への治療方針に関する最新の推奨をまとめた脳卒中治療ガイドラインといったものも世の中には存在します。この2個は、上記の敗血症診療ガイドラインとともに毎年救急専門医試験に出題されるくらいの重要な領域です。

 

ここで紹介したもの以外でも、各学会がガイドラインを作成していますし, いずれのガイドラインも最新の知見を反映すべく数年ごとに改訂されます。初期研修のローテーションで色々な診療科に行くと思いますが、その前に確認しておくことを推奨します。

(7) 総合内科領域の参考書を読んでおこう

 研修医は、日中の通常の外来はともかく, 夜間の救急外来の当直を必ず担当させられます。その際に、患者の主訴を聞き, 症状の変動等を聴取し, 身体所見を把握した上で、診断を絞り込んでいく為の検査法を選択する必要があります。何も知らぬまま突然やっても、診断はともかく検査のオーダーすらままならないでしょう。事前に総合内科領域の参考書を購入し、目を通しておきましょう。

 

 

 

 初期研修2年間を含む医師のキャリア・診療行為等に関する助言を述べ始めたら、正直なところキリがありません。上記のようなレポート云々, 知識云々以外にも、上級医・同期や看護師らを始めとする上司/同僚との付き合い方, 様々な背景を有する患者への接し方, 近年色々批判を浴びがちな専門医課程・医局制度との向き合い方など、色々な課題に直面するでしょう。重大なトラブルに巻き込まれたり, 身体面のみならず精神面で深刻なダメージを受けることなく、今後とも無事に過ごされますよう、切にお祈り申し上げます。

急性腎傷害への腎代替療法に関するreview Part 2

 こんばんは。現役救急医です。今日は前回に引き続き、NEJMへ掲載された急性腎傷害(AKI)への腎代替療法に関するreviewの紹介第2部をやります。

 

(4) 腎代替療法の開始時期・適応や治療内容について

① 開始時期・適応

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Table 2: 腎代替療法の適応

 重症患者への腎代替療法の適応をTable 2に示す。体液過剰("volume overload")の回避, ないし 治療は、腎代替療法の早期開始の適応としてよくリストアップされている。観察研究では、AKI患者における体液貯留("fluid accumulation")の程度と死亡率の間の強い相関関係が示されている; しかし、循環動態の負荷が大きく, 死亡リスクも高い患者は多くの場合、蘇生の為に多くの輸液を必要とするので、この相関関係は因果関係を成すものではないどの程度の体液過剰が死亡率上昇に繋がるのか, 限外濾過早期開始がリスクを軽減するのかどうかを評価する研究が必要である。

 代替療法開始を決定するに当たり、肺血管のうっ血の重症度と, 利尿薬への反応は考慮されるべきである。

 AKI患者において、顕著な伝導障害を来している高カリウム血症は一般的な緊急腎代替療法開始の適応である一方で、より軽症な高カリウム血症では多くの場合、内科的治療で十分である(Table 2)

 重篤代謝性アシドーシスも緊急腎代替療法開始の適応であるとされるものの、ランダム化臨床試験では、重炭酸投与による内科的治療が生存率改善や腎代替療法の必要性の低減と関連していたメトホルミン中毒を例外として、多くの乳酸アシドーシスについては腎代替療法の役割について議論が分かれている。

 進行した尿毒症の合併症(脳症, 出血傾向, 心外膜炎など)も、腎代替療法の開始適応にリストアップされている。しかしながら、これらの合併症はAKI患者よりも, 進行した慢性腎臓病の患者で多く発症する。

 上記のような具体的な適応がない状況について、'expert recommendation'では長きにわたって、血中尿素窒素濃度>100 mg/dLに達するまでは腎代替療法を見送るように推奨されてきた。しかし最近になり、こうした推奨は実証されておらず, 腎代替療法早期開始を支持する人たちにより疑義を挟まれている

 一般的に、具体的な適応のない状況では、重症AKI患者への腎代替療法開始に関して以下の2つの方法が可能である:

  • 重篤な合併症を発症する前の早期開始("early initiation")
  • 具体的な適応となる病態が生じるまで腎代替療法を見送る晩期開始("delayed initiation")

観察研究では早期開始に生存率の上での長所があると示唆されている。しかし、これらの研究の多くでは、最終的に腎代替療法を開始された患者のみが含まれ, 腎代替療法を行わずに治療された重症AKI患者は除外されている。実際の臨床上の疑問は、「腎代替療法の開始は早期か晩期か」ではなく, 「どの時点で開始, 或いは 延期すべきか」である(Fig. 3)

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Figure 3: 腎代替療法に関する観察研究とランダム化コントロール研究の間の被験者の違い

 重症AKIだが腎代替療法の具体的な適応のない患者合計4,034名で晩期開始(一定の基準を満たすまで腎代替療法を延期)早期開始(ランダム化後数時間以内に開始)を比較した多施設ランダム化コントロール臨床試験3件では、死亡率は44~54%であり, 治療群間で有意差は見られなかった特記すべきことに、晩期治療開始に割り振られた患者のうち、腎代替療法を一度も受けなかった患者の割合はかなりのものとなり, 臨床試験3件で合計で40%であった2010~2020年の間に発表された9件の研究のmeta-analysisも、同様の結果を示した。

 これらのデータは、厳格な監視と積極的な内科的治療が行われる場合、重症合併症の可能性が無い重症AKI患者において腎代替療法を開始する必要がないことを、説得力を持って示している。これらの臨床試験は、腎代替療法の晩期開始が 1) 死亡率増加と関連していないこと, 及び 2)代替療法実施の減少と関連していることを示してるのも関わらず、どれほど腎代替療法の開始を安全に遅延させられるのかを決定するように設計されていない。プロトコルの差があるので、早期開始と晩期開始の間の治療開始までの時間の中央値の差は、25~52時間と開きがある。

 晩期開始は医原性合併症のリスクを下げるものの、尿毒症毒素の蓄積が死亡率・疾病率を増加させるかもしれない。こうした課題は、腎代替療法開始を適度に遅延させた場合と, 更に遅延させた場合を比較した多施設ランダム化コントロール臨床試験で評価されている。この試験では、『適度に遅延させる』治療群では「血中尿素窒素濃度>112 mg/dL or 72時間以上の乏尿(=既述の臨床試験1件の『晩期開始[開始遅延]』と同じ)」で腎代替療法を開始している反面、『更に遅延させる』治療群では開始基準を「血中尿素窒素濃度 140 mg/dL」としている。多変量解析により、治療開始を『更に遅延』させた場合は死亡率が増加したことが示された

 

② 治療内容

 複数の単施設研究では、より集中的な腎代替療法の運用が臨床転帰改善と関連していることが示唆された。しかしながら、結果は全ての研究で一致している訳ではなく, また大規模な多施設ランダム化コントロール臨床試験では確認されていない。間欠的治療では透析量は1回の治療ごとの除去量と治療の回数の両方によって決定される一方で、持続的治療では、透析量は合計廃液流量速度("total effluent flow rate")によって決定される。大規模多施設ランダム化臨床試験2件では、AKIを伴う重症患者における腎代替療法の程度を評価した; 1件は持続的治療のみにフォーカスし, もう1件は循環動態により間欠的治療と持続的治療の間で変更することを可能としていた。いずれの研究でも、持続的治療で廃液流量速度を体重1kgごとに>20~25 mL/hr.にした場合, もしくは 間欠的血液透析では治療回数を週3回超・1回の治療における目標正常化尿素リアランス("target normalized urea clearance")を≧1.2にした場合には、生存率改善が示されなかった

 

目標正常化尿素リアランスは"Kt/Vurea"という数式で現し、K = dyalizerによる尿素除去速度, t = 透析の継続時間, V = 患者体内の尿素分布容積である。

 

 こうした結果は7件の臨床試験のmeta-analysisでも確認されており、このanalysisでは、より集中的な治療では腎機能回復が遅れることも示されている。高い廃液流量速度(120 mL/kg/hr.まで)は転帰改善と関連していなかった。集中的な腎代替療法電解質異常リスク上昇や人工呼吸器依存の延長とも関連しており, 集中的な間欠的血液透析は低血圧リスク上昇と関連している。こうしたデータに基づいて考えると、異化亢進

状態が深刻ではない場合に推奨される腎代替療法の強度は、

  • 持続的腎代替療法:  廃液流量 20~25 mL/kg/hr.
  • 間欠的血液透析:  1週間に3回, 1回の治療でKt/Vurea≧1.2

である。こうした溶質除去の閾値に到達出来なかった場合には、より頻回の血液透析が必要となるかもしれない。

 必要な腎代替療法の強度を決定する際に用いられる独立した基準に、体液量管理がある。限外濾過率("untrafiltration rates")は患者の全身状態と蘇生のphaseに依存する。患者の状態が安定化した後には、正味の体液バランスを維持する為の軽い限外濾過が最適かと思われる。患者が安定し, 輸液ないし血管作動薬投与が不要となった時には、より積極的な限外濾過が必要であると思われる。持続的腎代替療法施行中、正味の限外濾過は溶質除去と関係なしに管理可能である; 間欠的血液透析を受けている患者の場合、目標とする体液除去を達成する為に、治療時間を延長or週3回超実施する, ないし 追加の限外濾過が必要かもしれない

 

 

(5) 腎機能回復と治療終了について

  代替療法は、腎機能が『回復』した時に中止されることが多いものの、回復』の定義は明確ではない実臨床では、1) 利尿の回復, もしくは 2) 血中尿素窒素濃度, クレアチニン濃度, or その両方の自然な低下, が腎機能回復の基準といて用いられている。なお、こうした終了基準を評価した研究は無い。

 代替療法の早期開始と集中的な治療は、腎機能回復遅延と関連している開始を遅らせた患者にて、早期に利尿の回復と血清クレアチニンの自然な低下が見られることを示した研究, 及び 早期に開始された患者では90日後に透析への依存が多いことを示す研究がある。これらの知見は、「90日後も続いている腎機能障害」がend-stage kidney diseaseの定義に用いられているため特に重要である。代替療法の強度に関する研究7件のデータも、より集中的な腎代替療法が28日後の透析依存の増加と関連していることを示している。概念上、腎代替療法は、治療アプローチに関係のないメカニズムを通じて腎機能回復に干渉する可能性がある。透析中の血圧低下が明らかなメカニズムであるが、他の要素も関係しているであろう。特に、透析膜の生体適合性("biocompatibility")の改良にもかかわらず、完全な生体適合性を有する膜はない。腎代替療法と腎機能改善の間の, 炎症促進性のプロセスによる干渉を示唆するデータが存在する。これらの知見は、既に障害されている腎臓では、腎代替療法"second hit"になってしまう可能性を示しているもしこの仮説が証明された場合、腎代替療法を通じて生じた腎傷害は重大な懸念であり, 人工呼吸器関連肺傷害と似たようなものかもしれない

 回復が不十分となる, もしくは 慢性腎臓病(CKD; chronic kidney disease)へ進行することもあるものの、AKIは数日ないし数週間で消退する。従って、AKIとCKDは、CKDがAKI発症の素因に関与し, 傷害された腎臓の修復不良がCKDの発症or進行に繋がる、互いに連続した症候群である。

急性腎傷害への腎代替療法に関するreview Part 1

 こんばんは。現役救急医です。今日は、2022年3/10に発表された血液透析等に関するreviewを紹介してみます(Gaudry S. et al. 'Extracorporeal Kidney-Replacement Therapy for Acute Kideny Injury. N Engl J Me. 2022;386:964-75)。和訳してまとめてetc.とやっていたら、すげー長文になりそうなので、2部に分けて書きます。

 

(1) 導入

 急性腎傷害(AKI; acute kidney injury)とは急激な腎機能の低下を指し, 糸球体濾過率によって評価する。系球体濾過率を直接評価する方法が無いため、AKIはクレアチニンの蓄積, 或いは 尿量の減少or無尿を認めた場合に診断される; AKIの重症度は、クレアチニン蓄積・尿量減少の程度, ないし 持続期間に基づいて分類する。AKIは血液循環; 尿排泄の障害; または 腎臓内の構造1個以上を障害するプロセスによって発生し, 機能的な病態である。

 尿素クレアチニンの濃度上昇がAKIの進行度・重症度を定義するものの、尿素クレアチニンの蓄積は、尿毒症の有害作用を起こす, あまり特徴的でない代謝産物の蓄積と平行するものである。代替療法の主な目的は、体液量過剰("volume overload")・高

カリウム血症・代謝性アシドーシスといった致命的な合併症を軽減することである。

 腎代替療法開始の適応は、実用化された1050年代から議論されている。腎代替療法の技術と安全性は向上したものの、依然重篤な合併症と関連している。AKIに対する腎代替療法は多くの場合、血液透析("hemodialysis") もしくは 血液濾過("hemofiltration")という形で提供されている。

 ここでは、重症AKI患者に対する腎代替療法関連のupdateを示す。

 

 

(2) 技術的側面

 腎代替療法の全形態の中心となるものは、血管アクセスと, ポンプにより作動する体外式回路(血液が通過する半透膜が入っており、この半透膜を介して溶質, 塩分, 水分を交換する)である(Fig. 1)血液透析器("hemodialyzers")ないし血液フィルター("hemofilters")は半透性のセルロース, もしくは 合成ポリマー膜(中を血液が通る中空の繊維から構成されており、小さなカートリッジ内で広大な表面積[1~2.5 m2]を確保可能としている)から成る(Fig. 2)血管アクセスは、内頸静脈, または 大腿静脈へ大内径・double-lumenのカテーテルを挿入することで確保するカテーテル挿入部位は出血リスクが同等であり, 有効性と安全性の観点から差はないと考えられているBody-mass index(BMI)>28の患者では、大腿部へカテーテルを挿入した場合の感染率が内頸静脈へ挿入した場合のそれよりも高い挿入手技中の合併症のリスクの増加, 及び 挿入後の静脈狭窄or閉塞がアクセスを制限するリスクが伴うことから、鎖骨下静脈への挿入は避けられている

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Fig. 1: 左上が持続的血液濾過, 右上が持続的血液透析, 左下が持続的血液透析濾過, 右下が間欠的血液透析の回路の模式図

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Fig. 2: 腎代替療法における体液と溶質の移動。(A)拡散の仕組み, (B)対流の仕組みと、(C)血液透析, (D)血液濾過, (E)血液透析濾過における血液・透析液等の流れ



 

(3) 治療のアプローチ

 腎代替療法は、従来型or長時間の間欠的血液透析として, もしくは 持続的腎代替療法として提供される(Fig. 2 and Table 1)

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Table 1: 間欠的血液透析, 延長型間欠的腎代替療法と持続的腎代替療法の比較

 

① 間欠的血液透析

 間欠的血液透析では、主に拡散("diffusion")によって溶質を除去する。多くの場合、1回3~6時間の透析治療を1週間に3~7回実施する。こうした比較的短時間の治療により十分に溶質と体液を除去するには、高い透析液流・血流速度が必要である急速な溶質の除去は、致死的な酸-塩基平衡・電解質異常と, 血液透析で除去可能な毒物・薬物による中毒の治療を可能とする(Table 2)。また、短い治療時間は患者の離床を容易にする。しかしながら、体液過剰を補正する為の急速な限外濾過("ultrafiltration")が必要なことと, 及び 血液中の尿素やその他物質の急速な低下は、患者において透析中の低血圧を来しやすくするものの、こうしたリスクは治療時間の延長, 透析液の組成や温度を変える等の方法で軽減可能である尿素濃度の急速な低下は、特に尿素濃度が長期にわたって上昇していた場合において、頭痛から感覚の低下に至るまでの様々な神経症状を起こすこともあり、これは溶質の平衡の遅れ("delayed equilibration")によって体液の移動による脳の神経細胞の浮腫が起きているからである平衡の異常("disequilibrium")のリスクは、治療時間が短い血液透析を開始すること, 浸透圧上のストレスを最小化するために少ない血流量を用いること により軽減可能である。8~16時間の治療時間において, 血流・透析液流速度を下げることによって血液透析治療時間を延長するアプローチ(延長型間欠的腎代替療法と呼ばれる)は、循環動態が不安定な患者で用いられている。

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Table 2: 腎代替療法の適応。

 

② 持続的腎代替療法

 持続的腎代替療法は、間欠的血液透析中の循環不安定のリスクを軽減する為に開発された。本法は、対流性の溶質除去("convective solute clearance")を用いる持続的血液濾過; 主に拡散で溶質を除去する持続的血液透析; もしくは 拡散対流性の溶質除去を組み合わせる持続的血液透析濾過によって提供される。対流を用いる治療は高分子量物質(1,500~50,000 dalton)の除去量増加と関連している。しかしながら、標準的な血液濾過膜のcutoff pointではサイトカインの効果的な除去ができず, また持続的血液濾過は死亡率を減少させずに、一部では予後を悪化すらさせている持続的腎代替療法では24時間以上かけて治療を行い, 間欠的血液透析よりも溶質・体液除去速度は遅いが、間欠的血液透析と同等 ないし それ以上の除去を、時間をかけて行うことが出来る

 

③ 抗凝固療法

 透析回路の血栓による閉塞は多い。回路の開通を図る為の抗凝固療法は一般的であるものの、出血リスクを上昇させる可能性があり、特に治療期間が短い, もしくは 血流速度が速い場合は省略されることもある。抗凝固療法の適応は、出血リスクの評価(失血のリスクと, 回路閉塞による治療中断のバランスを取る形で)により判断されるべきである。抗凝固療法は多くの場合、1) 未分画 or 低分子量ヘパリンの投与, もしくは 2) 持続的腎代替療法の場合、回路へクエン酸を注入することで凝固系の一部を抑制すること(カルシウムをキレートすることで効果を発揮する。なお、患者身体側のイオン化カルシウム濃度を維持する為に、別途カルシウム投与が必要となる), のいずれかで実施可能である(Fig. 1)

 

④ 持続的vs間欠的の比較

 観察研究において、循環動態上の耐性, 患者の生存率, 及び 腎機能改善の観点では持続的腎代替療法が間欠的血液透析に優ることが示唆されているものの、こうした知見はランダム化コントロール研究では確認されていない。最大規模の臨床研究では、60日間の生存率は間欠的血液透析と持続的腎代替療法で同等であり, 治療による低血圧or腎機能改善の発生率に有意差は認めなかった。他の臨床試験でも同様の結果が報告されており、meta-analysesでも生存率, もしくは 腎機能回復について差があることを確認されていない頭蓋内圧上昇・頭蓋内浮腫がある患者は、浸透圧上の平衡異常と間欠的血液透析中の低血圧による脳循環の低下に対して感受性を示す; 従って、このような患者に対しては持続的腎代替療法が好ましい。

 

 

 AKIへの腎代替療法に関するreviewの紹介第1部はここまでです。第2部は、治療適応と時期や, 治療内容, 治療終了時期などについて紹介する予定です。