Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

低リン血症の治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。先日も少し述べましたが、電解質異常の補正はどの診療科でも直面しうる問題であり, 色々な参考書で原因検索や治療について述べられています。そこで今回は、それらの参考書で(あくまで私の印象論ですが)治療法の詳細が載っていない電解質異常について、UpToDateを基にしてまとめてみようと思います。とりあえず今回は低リン血症についてやります。

 

(1) 低リン血症の評価

 低リン血症の原因には、1) 体内での再分布(e.g. インスリン分泌過剰, 急性の呼吸性アルカローシスなど), 2) 消化管での吸収低下(e.g. 摂取不足, 制酸薬等による吸収抑制, ビタミンD欠乏など), 3) 尿への排泄亢進(e.g. 副甲状腺機能亢進症, ビタミンD欠乏, Fanconi症候群など)の3つが挙げられます。多くは病歴から診断することが可能です。

 他に、① 24時間蓄尿, ないし ② 随時尿でのFractional Excretion of Filtered Phosphate(FEPO4)計測 のいずれかで尿中へのリン酸塩排泄を評価し、診断に活用する場合もあります。

① 24時間蓄尿リン酸塩排泄量<100 mgならば、腎からのリン排泄が適度に低い("appropriate low renal phosphate excretion")リン酸塩排泄量≧100 mgならば、リンの腎排泄亢進。

② FEPO4:  ([尿中PO4濃度]x[血中クレアチニン濃度]x100])÷([血中PO4濃度]x[尿中クレアチニン濃度])で算出する<5%ならば、腎からのリン排泄が適度に低い≧5%ならば、リンの腎排泄亢進。

 ※ PO4とは、リン酸イオンのこと

 

 「腎からのリン排泄が適度に低い」場合に考えうる低リン血症の原因は、体内での再分布と, 消化管からの吸収量低下です。他方、「リンの腎排泄亢進」の場合に考えうる低リン血症の原因は、副甲状腺機能亢進症と, 尿細管障害です

 

 

(2) 治療 − リンの補充について −

 上記のように低リン血症の原因には様々な疾患があり、基礎疾患により補充の要否が左右される場合があります。例えば、糖尿病性ケトアシドーシス治療中に出現する低リン血症は、正常の経口摂取により自然に補正されると言われています。また消化管での吸収不良が低リン血症の原因となっている場合、その原因を補正することで自然に補正されると言われています。

 リンの補充方法は、症状の有無, 及び 血中リン濃度の値によって変わります。具体的には、

  • 症状で血中リン濃度<2.0 mg/dLの場合:  経口補充
  • 症状がある場合

   血中リン濃度1.0~1.9 mg/dLでは経口補充

   血中リン濃度<1.0 mg/dLなら経静脈的補充, 1.5 mg/dLを超えたら経口補充に変更

 

いずれにせよ、血中リン濃度>2.0 mg/dLになったら、補充を中止します(慢性的に排泄が亢進している場合は継続)。

 ちなみに、血中リン濃度が<2.0 mg/dLになるまで明らかな臨床症状を呈さないとされており, その一方で、<1 mg/dLでは筋力低下・横紋筋融解症といった重篤な症状が出ます。

 

① 経口補充

 血中リン濃度により投与量が変わります。具体的には、

  • ≧1.5 mg/dLの場合:  リンを1 mmol/kg(40~80 mmolの範囲)で、1日3~4回に分けて内服
  • <1.5 mg/dLの場合:  リンを1.3 mmol/kg(最大100 mmolまで)で、1日3~4回に分けて内服

となりますが、肥満患者の場合は最初から最大量を投与するか, 身長と体重で投与量を調整する必要があります。また、腎機能低下のある患者では半分程度へ投与量を下げる必要があります。リン血中濃度の再検は、分割された1日投与量のうち最後の分が投与されてから2~12時間後に行い, その結果で補充を継続すべきか否か判断します。

 

② 経静脈的補充

 リンの経静脈的補充は、カルシウムと沈澱を形成したり, 低カルシウム血症・腎不全・致死性不整脈といった合併症を来したりするリスクを伴います。経静脈投与を行う場合、重症度と体重に応じて投与量を調整する必要があります。具体的には、

  • 血中リン濃度≧1.25 mg/dLの場合:  0.08~0.24 mmol/kgを6時間かけて投与(最大30 mmolまで)
  • 血中リン濃度<1.25 mg/dLの場合:  0.25~0.50 mmol/kgを8~12時間かけて投与(最大80 mmolまで)

となります。リン補充に用いる輸液の組成は、点滴製剤1本につきリン7.5 mmolまでとされており、速度は7.5 mmol/hr.程度までとされています。経静脈的にリンを補充している患者では、6時間ごとに血中リン濃度を計測すべきとされています。

 

 次はたぶん、低マグネシウム血症をやると思います。