Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

我々はいつ『規制解除』ができるのか

 みなさんおはようございます。現役救急医です。これまで私はCOVID-19に対する国策等について持論を展開し、最近では自ら感じた第6波の影響について綴った上で, それを通して感じたこと世間に要望したいことを記していたと思います。但し、ずーっと愚痴っていても仕方ないので、「ではどのような条件を満たせば、規制を現状よりだいぶ緩くできるのか(≒規制解除のレベルが上がるのか)」について自分なりに考察してみようと思います。

 

(1) 意思決定を左右しうる要素

 これまで度々問題となってきたのが日本国内のSARS-CoV-2感染者数の推移でしたがそれに加えて、日本国内のコロナワクチン接種率も無視できない要素です。首相官邸HPにワクチン接種回数・接種率を公開しているページがありますが、3/22午後に私が確認した限りでは

  • 2回接種完了:  79.4%
  • 3回接種(ブースター接種)完了:  35.1%

でした。

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3/22に首相官邸HPへ掲載されていたワクチン接種回数・接種率

私の職場で医療従事者向けのブースター接種が開始されたのは昨年12月であり, その後高齢者への優先接種が開始されました。小児への2回接種開始は、地域によりばらつきはありますが、2月下旬〜3月に開始されたばかりです。

 この他にネックとなりそうな要素はやはり、1) 死亡者数/死亡率 と, 2) 重傷者数/重症化率 でしょう。厚労省のHPには日本国内の感染者数を掲示しているページがあり、そのページをよく見ると、累計死亡者数・重症者数などを世代別に掲示しているリンクが存在しています。私が3/22午後に確認したところ、3/15時点での世代別致死率・重症者の割合等がまとめられており、

  • 10歳未満・・・致死率:  0.0%(死者3名), 重症者割合: 0.0%(7名)
  • 10代・・・致死率:  0.0%(死者7名), 重症者割合:  0.0%(2名)
  • 20代・・・致死率:  0.0%(死者35名), 重症者割合:  0.0%(10名)
  • 30代・・・致死率:  0.0%(死者105名), 重症者割合:  0.0%(10名)
  • 40代・・・致死率:  0.0%(死者346名), 重症者割合:  0.0%(20名)
  • 50代・・・致死率:  0.2%(死者984名), 重症者割合:  0.2%(60名)
  • 60代・・・致死率:  0.6%(死者1,985名), 重症者割合:  0.4%(88名)
  • 70代・・・致死率:  2.4%(死者5,625名), 重症者割合:  1.1%(208名)
  • 80代以上・・・致死率:  7.0%(死者16,277名), 重症者割合:  0.5%(132名)

という数値でした。やはり年齢が上がるにつれて死者数・致死率・重症者数が増えていく傾向が見て取れます。特に死者数については)『累計』の数値となるので、日本でコロナワクチン接種が開始される前の人や, 日本国内で接種が開始された後でも1・2回目すら未接種だった(またはブースター未接種だった)人も含まれていることに注意は必要です。

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厚労省HPより:3/15時点での累計死者数など

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厚労省HPより:3/15時点での重症者数など

 これまで臨床試験・疫学的調査を含む様々な研究で判明しているように、コロナワクチン(とりわけmRNAワクチン)は、1) 2回接種後早期ではSARS-CoV-2感染と重症化への高い予防効果を示し, 2) 2回接種後半年の間に感染への予防効果は低下するものの重症化への予防効果は維持され, 3) ブースター接種後に感染に対する予防効果は回復して、重症化への予防効果も発揮される, ことが示されてきています実用化されて比較的日が浅いこと, オミクロン株への有効性のデータがまだ揃っていないことは勘案されるべきですが)。他にも、重症化リスクの高い軽症COVID-19患者へ投与される薬剤(e.g. レムデシビル, 中和抗体, ニルマトレルビル・リトナビル, モルヌピラビル)が日本国内で処方可能となっています

 

(2) では、『規制解除』がなされる条件は何か?

 細かい点に目を向けると、日本国内のSARS-CoV-2感染者数の増減の他に, また厄介な変異株が誕生しないかどうか, オミクロン株が示す臨床症状や免疫回避能力がどれほどか, レムデジビル・中和抗体などの『重症化抑制薬』が安定供給できるか, といったところも問題となるでしょう。ですがやはり、まず問題になるのはワクチン接種率でしょう。これまで述べてきたように、日本国内のコロナワクチン接種状況の問題点は、

  1. ブースター接種率が(2回接種率と比較しても)明らかに低いこと
  2. 小児への接種が最近始まったばかりであること

です。過去に述べたとおり、子供から同居家族や学校・保育園等の職員へSARS-CoV-2が感染していくことで所謂『クラスター』を形成し、学校・一般の事業所・保育園・幼稚園等のみならず, 医療機関にまで深刻な影響が出ています。ブースター接種の拡大も重要ですが、小児へのワクチン接種拡大こそ喫緊の課題とすら思えます。言い方を変えると、『規制解除』を可能とする条件は、① ブースター接種率が一定水準を超えること, 及び ② 5~11歳へのコロナワクチン2回接種率が一定水準に達すること(12歳以上・成人の2回接種率と同じくらいの数値へ達すること?)だと思います。

 死亡率に関しては、やはり年代別の差も考慮に入れるべきです。そもそも60代を越した患者は、肺炎にせよ, 急性膵炎にせよ, 脳卒中にせよ, 外傷にせよ, 一般的に重症化して死亡するリスクがどうしても高くなってしまいます。患者本人及び家族の価値観はそれぞれ異なるとはいえ、社会全体として「加齢に人は抗えず, 『衰退』は進行し, いずれにせよ死は免れない」といった趣旨のコンセンサスを形成せざるを得ないと思います。それに加えて経済面・安保面等で特にダメージが深刻となり得るのが、「小児〜現役世代における死者数・重症者数(ないし死亡・重症化率)や後遺症の『罹患率(←疫学的に正確な用途とは限りません)が上昇すること(或いは減らないこと)」であるのは明白だと思われます。即ち、『規制解除』を可能とする条件3つ目は、③ 60代以下の死亡率・重症化率等が現状よりも低減されること でしょう。

 なお私は、「高齢者は疾病罹患時に予後不良になりやすい」からと言って、高齢者へのコロナワクチン接種や, ニルマトレルビル・リトナビル等の『重症化抑制薬』の投与を否定したい訳ではありませんので、誤解なきようお願いします。寧ろ、「それまで十分に日常生活が自立していた高齢者がCOVID-19罹患をきっかけに要介護者になってしまい, 本人のQOLが低下してしまった」というパターンを予防できるに越したことはありません。

 最後に、やはり重要となるのは④ 医療提供体制がまた逼迫しないようにすること でしょう。過去にこのブログやYouTubeチャンネルで度々指摘してきたように、COVID-19パンデミック以前から日本の医療は、急性期病院が集約化されていない, 急性期病院への入院期間が伸びがち, 急性期離脱後すぐに自宅へ帰れない場合の受け皿(e.g. 回復期リハビリ病棟, 老健施設など)が少ない, 医療機関への医師の配置が大学病院医局に左右され過ぎetc. といった多くの課題が解決されぬままとなっています。今こそ文字通り『メスを入れて』改善を図るべきなのです。

 

(3) まとめ

 最後に、私(救急医ですが感染症専門医ではなく, また疫学の知識は皆無です)が考えたCOVID-19関連の『規制解除』が可能となる条件をまとめて終わりにします。

 ① ブースター接種率が一定水準を超えること

 ② 5~11歳へのコロナワクチン2回接種率が一定水準を超えること

 ③ 60歳代以下の死亡者・重症者数が十分低減されること(and/or 後遺症の『罹患率』も十分低減されること)

 ④ 医療提供体制の逼迫を繰り返さぬよう、政府が十分な政策を実行すること

の4項目が達成されるべきだと考えます。