Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ネット上で誹謗中傷をやらかす以前に考慮しておくべきこと。

(1) Introduction

 さて、昨日衝撃的なニュースが日本中を駆け巡りました(海外にも衝撃が伝わったようですが)。

(私は見たことがありませんが)"Netflix"で配信されていた人気番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが5/23に死去したというのです。それ以前からTwitter等のソーシャルメディア上では彼女を含め出演者への誹謗中傷が相次いでいたそうで、Instragramへの投稿には非常に意味深長なメッセージが最後に投稿されていたそうです。

 このようなネット上における誹謗中傷に関し、専門家らからは法制度の欠陥を懸念する意見や、法的対処に関する知見が提示されています。

法的対処のためのネット中傷被害者の心得|片瀬久美子|note

 ネット上での誹謗中傷に関しても、証拠を確実に保存した上で、弁護士・裁判所・検察を通じて相手を刑事告訴したり, 民事訴訟で賠償を請求できるのです。そしてその課程で、裁判所による発信者情報開示請求が行われ、相手のIPアドレスが判明します(そしてこれが誹謗中傷した本人[=裁判の被告人]の氏名や住所へと繋がる訳です)

 

(2) 私なりの考えとか

 さて上記(1)では、誹謗中傷が招きうる悲劇と, (匿名とはいえ)ネット上で誹謗中傷に遭った被害者が法的手段に訴えた場合、特定された上で前科がつくor賠償金を負う羽目になりうる、ということを物凄く簡略して述べました。

 但し、開示請求云々という手段を選ばなくても、ソーシャルメディア上への投稿内容からあなたの個人情報や, 秘匿しておきたい事実が特定されてしまうリスクが常にあるのです。ここで幾つか海外の具体例を挙げてみましょう。

 

ウクライナの極右過激派の男の事例

 2019年3月にニュージーランドクライストチャーチで、極右/白人至上主義を信奉する男がモスクで銃を乱射し、多数のムスリム市民を殺傷しました。その男は事件に前後してネット上にマニフェストを発表していましたが(クライストチャーチモスク銃乱射事件 - Wikipedia)、そのウクライナ語訳版とロシア語訳版を販売するチャンネルが"Telegram"に出現しました(bellingcat - The Russians and Ukrainians Translating the Christchurch Shooter’s Manifesto - bellingcat)。

 このチャンネル(以下、『彼』で統一)に関する記事を発表した独立系調査報道サイト"Bellingcat"はそれ以来、度々脅迫を受けていたそうですが、なんとある活動家が『彼』に、女性の極右活動家のフリをして連絡を取って親しくなり、メッセージ機能を介してご本人様の氏名を教えてもらい、御尊顔を拝する機会すら得たそうです。またそれに留まらず、『彼』は活動家に、他のソーシャルメディアFacebook等)のアカウント名(当然、本名でない)まで教えてしまったそう。その結果が、上記リンクの記事です。悪事と並んで本名や顔まで全世界へ公開なんて、入れる穴があったら入りたいどころの騒動ではありませんねえ。

 

②マレーシア航空17便撃墜事件(とウクライナ東部紛争)

 2014年7月17日、オランダのアムステルダムを経ったマレーシア航空17便がウクライナ上空で撃墜されるという衝撃的な事件が起きました(マレーシア航空17便撃墜事件 - Wikipedia)。これについてロシア政府は、1. ウクライナ当局が提示した「旅客機を撃墜した地対空ミサイルの映像」は、分離独立派の支配領域内ではなくウクライナ政府の支配領域で撮影されたものだ, 2. 旅客機は撃墜直前に進路を変えている, 3. 撃墜直後のレーダーでは、旅客機の近くに別の航空機が写っていた(そしてそれはウクライナ空軍の戦闘機だ), 4. 衛星写真では、撃墜当日にウクライナ軍の地対空ミサイルが基地の外に配備されていたことが分かる、と主張していました。

 しかしこれらの主張が真っ赤な嘘であり、ロシア当局の示した証拠も偽物であることが様々な証拠から判明する訳ですが、そうした証拠の中にはなんと、ロシア国内やウクライナ東部(分離独立派に占領された地域)の住民がTwitter, Youtube等のソーシャルメディア上に挙げた写真・動画のみならず、ウクライナ東部に派遣されたり, 問題の地対空ミサイルを運搬した兵士らがネット上に挙げた写真も含まれているのです。こういった報道を受けてなのか、ロシア議会は兵士がネットに接続可能なデバイスの使用や携帯することを禁じる法律を可決しているそうです。

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なお捜査によって容疑者はちゃんと特定され、公判は被告人が欠席のまま今年3月から開始されました。

マレーシア機撃墜、審理開始 4被告不在―オランダ:時事ドットコム

 

 いかがでしょうか。「ネット上はどーせ匿名なんだから、なんでもシェア or 呟いちまえ!」, 「こいつは幾らでも汚く罵ってやっていいわ、どーせネット上で自分は匿名だし」とか調子に乗っていると、思わぬところで足をすくわれることがあるという事をお分かり頂けたでしょうか?なお上記の事例はあくまで断片的なものであり、デジタル社会のはらむリスクについて解説した一般向けの書籍もありますので、参考までに本ブログの過去記事を貼っておきます。

 今後、「ネット上で自分は(他者から見て)全裸 or 半裸同然なのだ」という事を意識して行動しましょう。

研修医(と医学生)の皆さんに伝えたいことを綴ります。

 ここ数日、Twitterで研修医の言動に関して様々な議論が飛び交い、また私自身も日々の診療で思うところがあったので、今日はそれをここにまとめたいと思います。

 

(1) 上級医との付き合い方

 過日、Twitter上でフォローしている方がYouTubeにアップロードされている動画をたまたま視聴しました。

「世の中には、相手を徹底的に貶めて自尊心を破壊し、支配下に置く人間が居るから注意せよ」という趣旨の動画であり、これはカルト教団, 軍隊のみならずDVを行うパートナーにも当てはまる特徴(洗脳の方法)なのです。

 こうした話を受けて、私は初期研修時代に経験した不快な出来事を思い出しました。その内容と, それから得た教訓を私はTwitterに連続投稿という形でシェアした訳ですが、それをまとめてくれるサービスがあったので利用しました。以下のリンクで閲覧できます。

悲しいことに、我々は小中高校の学校教育と, 中学〜大学で加入する部活・サークル等で「教師/顧問→生徒」や「先輩→後輩」という力関係において、上述のような支配・洗脳を受けることが少なくありません。そのため、社会人になった後でさえも、順応し過ぎた余りに気付かないリスクがあると私は考えています。

 

(2) 医療のプロとしての心得

 一昨日〜昨日辺り(2020年5/19~20くらい)だったでしょうか。これまたTwitter上にて「酔っ払いの急患を診て腹が立ったので、太めの点滴針を刺してやった。上級医も賛同した」という趣旨のツイートを行った研修医がおり、それへ同じく医療関係者から様々な批判が生じていました。

 確かに、酔っ払って言動が支離滅裂, 飲酒運転, 果ては暴言・暴力に及ぶ患者に救急外来で対面すると、負の感情が生じるのは私も同じです(と言うか、大方の医療関係者はそうでしょう)。しかし我々医療スタッフには(当然一般市民にも)そもそも、そういった連中を処罰する権限はありません。法律上、一般市民は現行犯に限って私人逮捕ができるようですが(以下『私人逮捕』のWikipediaのリンク参照)、『悪人』に対する罰の内容(量刑)を決定するのはあくまで法律, 裁判所です。とはいえ、その者が暴力を振るい、医療スタッフらに危害が及ぶのであれば躊躇なく警察と警備員を呼びましょう。

私人逮捕 - Wikipedia

 また、過去にも私はTwitterや本ブログにおいて、大学病院や他科に対する愚痴を多く綴っています。

医学生・研修医を「アンプロ」と言う前に - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

【若手医師は特攻隊なのか】自民党議連が提案。「初期研修2年目は半年間、医師不足地域で研修を」 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院救命センターに勤務していて感じたことなど。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

大学病院・医局は監督者として適格なのか - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

今の日本の医療システムは欠陥が多く、修正が必要であることは否定しません。しかし、将来の専門診療科(進路)を決めるに当たり、その領域の専門性を軽んずるような皮算用はすべきでないと私は思っています。以下、その思いを綴ったツイートをまとめたものをリンクとして貼っておきます。

 

 最後になりますが、医療現場という労働環境は、人様の健康を預かるという点で非常にストレスフルなものです。途中で精気を失って文字通り倒れる前に、適宜休みを取り、ストレスは健康的な方法(e.g. 運動などの娯楽)で発散させましょう。

重症Covid-19患者への高用量vs低用量クロロキンのランダム化臨床試験

 久しぶりに、Covid-19関連の論文をざっと和訳して紹介してみようと思います。今回は、今年4月24日に公開された論文"Effect of High vs Low Dose of Chloroquine Diphosphate as Adjunctive Therapy for Patients Hospitalized With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(SARS-CoV-2) Infection. A Randomized Clinical Trial."(Borba MGS, Val FFA. et al. JAMA Network Open. 2020;3(4):e208857)を参照しました。

 

(1) Introduction

 Chloroquine diphosphate(CQ)hydrochloroquine(HCQ)マラリアだけでなく、リウマチ治療にも用いられてきた。HCQはCQの誘導体であるが、長期使用においてはCQに比べて毒性が低いことが証明されており, SLEと関節リウマチの治療に推奨されている。なおCQは、長期使用により眼球に蓄積して網膜毒性を来す可能性のほか、筋炎との関連も報告されている。他に、短期間の使用でも起こる主な副作用としてQTc間隔の延長も挙げられる。1960年代末、CQの試験管内における抗ウイルス活性が初めて特定された。2つのstudyにおいてCQの抗SARSコロナウイルス活性が証明されたが、抗ウイルス作用を発揮するには高濃度が必要であった。

 CQの効果は肺炎の悪化を抑制し, 胸部画像所見を改善, ウイルスの陰性化を促進, 病勢を改善させ、明らかにcontrol治療群より優れていた。HCQによる治療を受けたCovid-19患者20名(うち6名はアジスロマイシン併用)では、HCQ治療群とcontrol治療群間で鼻咽頭サンプル陰性の比率に有意差が生じた。

 Guandong省の保健委員会は、18〜65歳の軽症・中等症・重症のCovid-19による肺炎患者の治療に関して、リン酸CQ錠500mg1日2回, 10日間の投与を推奨した。より短期間のregimen(i.e. 5日vs10日)は副作用を減少させる可能性があるものの、抗ウイルス作用を減じる可能性もある。そのため、投与総量に関する明確な推奨は存在しない

 多くの国で既に重症Covid-19患者へのCQ or HCQの人道的な使用が正式に適応となっていることを考慮すると、比較対象となるプラセボ群が不足しているために適切な有効性を検証することは非倫理的であろう。本studyでは、重症Covid-19治療におけるCQの2つの異なる用量の安全性, 及び有効性を評価することを目的としている。

 

(2) Method

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 本studyは並行, 二重盲検, ランダム化されたphase IIbの臨床試験であり、2020年3月23日に開始され、ブラジルのマナウスにあるHospital e Pronto-Soccurro Delphina Rinaldi Abdel Azizにて行われた。

① Patient selection

 以下の条件に合致する患者が本studyへ登録された。

  • 臨床的にCovid-19を疑う(i.e. 発熱と呼吸器症状の病歴)
  • 18歳以上
  • 呼吸数>24 and/or 心拍数>125 and/or SpO2<90 %(室内気) and/or ショック(i.e. 血圧<65 mmHg)

ランダム化を遅らせないために、Covid-19が検査で確認される前に患者は登録された。Figure 1にflow chartを示す。患者は1:1の比率で、以下のグループへ割り振られた。

 なお観察バイアスを最小にするため、ランダム化のリストは薬剤師しか閲覧できなかった。参加者のランダム化は薬剤師によって行われ、割り当てられたstudy numberによってのみ参加者の特定がなされた。有害事象が見られた場合、Data Safety and Monitoring Board(DSMB)のメンバーが盲検化されていない情報にアクセスし, 計画になかったpreliminary analysisが計画されていたinterim analysesの前に実施され、両群(高用量と低用量群双方)の早期中止を指導した。この時点で、25%以上の死亡率が認められ, 重篤な循環器系有害事象が報告されていた。

② Intervention:  高用量(600 mgのCQ); 150 mg錠剤4錠を1日2回, 10日間(=合計 12 gのCQ)

③ Comparison:  低用量(450 mgのCQ); 0日目は150 mg錠剤3錠とプラセボ1錠を1日2回, 1〜4日目は150 mg錠剤3錠とプラセボ1錠を1日1回・その後プラセボ4錠, 5〜9日目はプラセボ4錠を1日2回(=合計 2.7 gのCQ)

 本studyの基準に合致する全患者(i.e. ARDS)には、0日目からセフトリアキソン(1g 1日2回, 7日間)とアジスロマイシン(500mg 1日1回, 5日間)の投与が行われた。またインフルエンザの感染が疑われた場合(アマゾンでは1~4月の間がインフルエンザのシーズンである)は、オセルタミビル(75 mg 1日2回, 5日間)も処方された。

④ Outcome

1. Satety Outcome

 治療中に起きた有害事象, 重篤な有害事象, そして 早期or一時的な投与中止

2. Primary End Point

 「28日目までに、高用量群の死亡率は低用量群のそれの半分となる」という仮説を立てていたので、primary end pointは28日目までの死亡と設定した。

3. Secondary End Point

  • 13日目と28日目の死亡
  • 参加者の状態
  • 検査結果
  • 13日目と28日目の心電図
  • 入院中の毎日の経過
  • 機械的換気・酸素療法の行われた期間
  • 治療開始から死亡までの期間

今回は13日目までの分析を示し、死亡をprimary outcomeとする。 ウイルスRNAの検査は0日, 4日目に実施した。

 Primary outcome(i.e. 死亡率の低減)に必要なsample sizeは、重症患者の死亡率が20 %である, 高用量のCQ投与は低用量群と比較して50 %死亡を低減させるであろう, という推測に基づいて計算した。そのため、同じ規模の2群間の比率の違いの検定を考慮すると、394名の参加者(各群に197名)が必要であった。10 %の喪失を加えると、最終的に440名の参加者が必要と考えられた。

 

(3) Result

① 参加者の特性

 合計81名の患者がランダム化され、40名(49.4 %)が低用量群へ, 41名(50.6 %)が高用量群へ割り振られた(Figure 1)。DSMBの勧告に基づき、preliminary analysisは2020年の4月5日に行われ、その時点で11名(高用量群で7名[63.6 %], 低用量群で4名[36.4 %])が死亡していた。大半の患者(81名中62名[76.5 %])は後になってRT-PCRでCovid-19と診断された(低用量群で31名[77.5 %], 高用量群で31名[75.6 %])。なお確定診断を得ていなくても、臨床的かつ疫学的にCovid-19と合う患者も一緒に分析された。

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 全体, 及びグループごとのbaselineの特性をTable 1に示す。全体の平均年齢は51.1(SD; 13.9)で男性が優位であった(60名[75.3 %])。高血圧, アルコール使用障害, 糖尿病が最も多い並存疾患だった。高用量群はより高齢で(平均[SD]年齢; 54.7[13.7] vs 47.4[13.3]), 心疾患が多かった(28名中5名[17.9 %] vs 0名)。

 心筋炎の発症(「Creatine Kinase-MB[CKMB]が正常上限の2倍超」と定義)は26名中2名(7.7 %; 各群ごとに1名)だった。心エコーは実施されなかった。全患者がアジスロマイシン投与を受け、低用量群で86.8 %(38名中33名), 高用量群で92.5 %(40名中37名)がオセルタミビルを投与された。

② Safety Outcome

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 Creatine phosphokinase(CK)は33名中13名(39.4 %), CKMBは26名中10名(38.4 %)で上昇していた。Covid-19と診断された患者のみを考慮すると、CKは25名中9名(37.5 %), CKMBは22名中7名(31.8 %)で上昇しており、低用量群よりも高用量群でCKが上昇した患者が多く見られた(14名中7名[50.0 %] vs 19名中6名[31.6 %])。1名のみが横紋筋融解症を発症し、その原因はウイルス, もしくはCQいずれでもあり得た(Table 2)。全体では、73名中11名(15.1 %)で500ミリ秒以上のQTc間隔(Fridericia methodで補正)延長が見られ、Covid-19と診断された患者においては57名中8名(14.0 %)でQT延長が見られた。また500ミリ秒以上のQTc延長は、低用量群よりも高用量群で多く見られた(37名中7名[18.9 %] vs 36名中4名[11.1 %])。高用量群内でCovid-19と診断されていた37名中2名(2.7 %)では心室頻拍を来し、その後の死亡した(なおtorsade de pointesは来していない)。両群でbody massは類似していた。

 42名中11名(26.2 %)でヘモグロビン減少が見られた。38名中16名(42.1 %)ではクレアチニン増加が見られた。

③ Lehtality Outcome

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 全体での死亡率は27.2 %(95%CI; 17.9~38.2 %)であり、この95%CIは、CQを投与されていない患者を含む2つの大規模studyに基づくmeta-analysisの95%CI(14.5~19.2 %)と重複する。本studyのgroupごとの生存は、CQを投与されていない2つの類似したstudy由来のデータと比較された(Figure 2A)。死亡率は高用量群で39.0 %(41名中16名), 低用量群で15.0 %(40名中6名)だった。Survival analysisにて両群は過去のデータと類似しており、高用量群で死亡数が多かったにも関わらず、有意差が見られなかった(log-rank -2.183; P=.03)。慢性心疾患のある患者5名(6.2 %)を除外した類似のsurvival analysisを行い、類似の結果が見られた(log-rank -2.188; P=.03)。低用量群中の死亡患者では6名中5名(83.3 %), 高用量群のそれでは16名中14名(87.5 %)にてウイルスRNAが検出された。

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 高用量群は死亡と関連していた(odds ratio 3.5; 95%CI 1.2~10.6)。サンプルサイズが小さいにも関わらず、探索的な多変量解析において年齢でcontrolした場合、高用量CQは死亡と関連していなかった(odds ratio 2.8; 95%CI 0.9~8.5)。慢性心疾患のある5名中、3名(60.0 %)が死亡した; その患者の臨床経過詳細をTable 3に示す。QTc延長が最初に生じた日と死亡日の間に明らかな関連性は見られなかったし, 死亡した患者間での累積投与量との関連性も見られなかった。全体として、死亡した22名中19名(86.4 %)で死亡前にSARS-CoV-2のウイルス学的診断がなされていた。高用量CQが仮説と逆の結果になったこれらの結果に基づき、DSMBは全年齢での高用量群の迅速な中断と, 全患者の非盲検化, 低用量群へ戻すことを勧告した。

 重症患者を含めたsubgroupの分析を実施し(Figure 2B)、両群間で死亡率に差が見られなかった。

 0日目と4日目に、合計27名から鼻咽頭and/or口咽頭サンプルが収集され、6名だけが4日目に陰性となっていた(22.2 %)。

 

(4) Discussion

 重症Covid-19患者という文脈においては、利益が有害作用を上回ることから、本studyは高用量regimen使用を止めるのに十分なred flagを掲げている。

 本studyでは既に全患者がアジスロマイシン投与を受けていたため、CQの毒性を独立して評価することができなかった。相乗的に心毒性を来す可能性があるため、中国の公式な勧奨ではCQとアジスロマイシンの非同時使用に注意を呼びかけている。本studyでは、インフルエンザ感染を疑われたことから大半の患者(89.6 %)へオセルタミビル投与も行われたが、オセルタミビルもQTc間隔を延長させ, 心毒性を来す可能性がある。相乗的な心毒性に関する結論は、現在世界中で進行中のstudyの結果を参考にすることで可能になるかもしれない。

 本srudyが計画された時点で、ブラジル規制当局と保健省は医師の裁量によるCovid-19患者へのCQ, HCQの人道的使用を承認した。これはplacebo-controlled trialを行うことへの要請ではなかったものの、プラセボによる治療を患者に行うランダム化臨床試験を行うことに対して倫理的なジレンマを引き起こした。プラセボ群がないので、本studyはCQを使用していない極めて類似した過去の患者データを用いねばならなかった。本studyの死亡率は低くなかった; しかしながら、CQに利益がないとも確実には断言できない。CQをルーチンに使用していない国でplacebo-controlled studyが現在行われている。複数の現在進行中臨床試験では、早期のCQ使用も強調されている。このような情報は、よくデザインされたplacebo-controlledの二重盲検ランダム化試験において緊急で必要とされている。

 この論文の筆者らは、元々計画していたsample sizeに達するまで低用量群への患者の登録を行っている。低用量regimenを使用する患者に対するフォローアップと毒性のモニタリングの必要性が、この意思決定を支持している。placebo-controlled trialが終了するまでの間、低用量群から得られた安全性に関するデータは、重症Covid-19に対する人道的治療としての合理的なCQ使用のガイドラインを改善するに当たって極めて有用となるであろう。本studyに残っている全患者に対し、最新のinformed concentを供するようお願いしており, またinformed concentも適切に改定を行っている。

 CQは呼吸器系分泌物内のウイルス量を低減させる可能性もあるが、本studyのデータではそのような効果のevidenceは示されなかった。CQを使っている患者(投与量に関係なく)において、アジスロマイシンを併用していたにも関わらず、4日目までに相当量のウイルスを排除したとするevidenceを示すことはできなかった。

 CQとHCQの間で、心毒性が異なると示す文献はない; 唯一の懸念は眼球である。本研究では500ミリ秒以上のQTc延長が73名中11名(15.1 %)に見られており、これはHCQを投与されているCovid-19患者における報告(11.0 %)と類似した値である。CQ投与は筋炎とも関連している。本studyでは1名が横紋筋融解症を発症し、CQ投与が中止された。2名の患者では、入院1日目以降のCKMB上昇から心筋炎が疑われた。このような症例では、QTcを延長させる薬剤が重症不整脈を起こす可能性がある。不幸にも、おそらく小さいsample sizeのため、高用量群では低用量群よりも心疾患のある高齢患者が多く含まれてしまった。そのため、グループごとの死亡率に関する結論に当たってはこれがlimitationとなってしまう。本studyのsampleでは、年齢ないし並存疾患が何であれ実用的なdesignへあらゆるタイプの患者を登録するという意思決定が、Covid-19の重症患者内で前もって予想されていた高い死亡率と, protocolを設計する時点でCQのrisk-benefitの推定が不正確であったこと, に基づいて行われていた。本studyの結果より、いかなるCQを使用する治療 ないし 重症Covid-19患者向けのprotocol設計においては、QTc間隔の評価, 緊密な連日のmonitoring, 必要時の用量調整を含めるべきことが明らかになった。

 本studyの重症患者間の死亡率は、イタリア Lombardyにおける、CQ投与を受けていない大規模なhistorical sample-size cohortよりも高かった。これは、2国間のICUの質の差, もしくは 重症Covid-19患者におけるCQの有害な作用or効果の不足を反映しているのかもしれない。

 本studyのstrengthとして、以下のようなものが挙げられる。

  • 二重盲検化されている
  • 公的な病院で実施された
  • DSMBが関与することで良質なclinical practiceを遵守した
  • 重症Covid-19患者に対し、初めて異なる用量のCQの使用を評価した

一方で以下のようなlimitationも指摘される。

  • Sample sizeが小さい
  • 1施設のみの参加である
  • Placebo対照群がない
  • BaselineのQTc間隔に基づくexclusion criteriaがない

 病院で1日2回の薬剤投与のmonitoringを施行できなかったため、per-protocol analysisは行っていない。経過中にCTの注意深い分析を行うことができなかったため、本articleにおいてはbaselineの画像所見のみ示している。画像所見データと完全な効果に関するデータは後日発表予定である。

 

(5) Conclusion

 本studyにおいて、10日間にわたる高用量(12 g)のCQとアジスロマイシン, オセルタミビルの併用は、投与を継続するに当たって安全性が不足していた。年齢は重要な交絡因子であり、不良なoutcomeと関連していたかもしれない。重症Covid-19患者の治療に、同じ用量を投与することはもはや推奨されない。本studyの患者における死亡を考慮すると、CQの利益は明らかでない。Covid-19治療におけるCQ, ないしHCQの役割のより良好な理解に当たって、以下のstepが推奨される。

 1. CQ/HCQの予防薬としての役割を評価するランダム化臨床試験

 2. 軽症もしくは中等症のCovid-19患者へ投与し、Covid-19悪化に対して効果があるのか評価するランダム化臨床試験

【COVID-19】我々は今日の日本政府に大本営のデジャヴを見ているのか?

 安倍首相が4月7日に緊急事態宣言を埼玉, 千葉, 東京, 神奈川, 大阪, 兵庫, 福岡の7都府県に対し発出してからもう既に6日。Twitter等を見ている限り、徐々に社会へその緊張感が伝わり、繁華街から人気が多少は引いたように思われます。

 専門家集団が表明し続けている危機感を、首相官邸や(大多数ではないものの)一般市民, メディアが受け止め始めているように見受けられるものの、未だに「本当に危機感があるのか?」・「これでも国益を守っているつもりなのか?」と思いたくなるような言動が、あろうことか日本政府内部で見られています。

 例えばこれ(下のNHKニュースの記事)。西村経済再生担当大臣は新型コロナウイルス対策特別措置法で規定された、都道府県が行う休業要請措置に言及。「休業制限は必要最小限にする」(注:  条文に『必要最小限に』と実際書かれている)と表明しました。

日本各地でCOVID-19感染拡大が見られる中、誤解を招くような情報発信です。西村氏の発言を都道府県知事が『誤解』し、自粛要請を時期尚早に撤回した場合、感染拡大を抑えられなくなるリスクがあるのです。確かに、飲食店・宿泊業・旅行代理店といった業界がこの自粛ムードのダメージを特に受けているのは事実ですが、本来必要なのは「休業せよ」という同調圧力や時期尚早な営業再開『許可』ではなく、休業によって受ける損害への補償と抱き合わせの自粛要請です。

 他にも、4月7日の記者会見で安倍首相は「欠航が相次ぐエアラインが、医療現場に必要なガウンの縫製を手伝いたいと申し出た」旨を公表。翌日にテレビ出演した西村氏は「CAさんも手伝うという申し出があった」と発言しました(下記ねとらぼの記事)。

しかしANAに裏を取ったところ、実際は政府から協力を相談されたANAが「職種を限定せず、ANAグループ全体として何らかの協力をしたい(=CAに限定していない)」と政府へ返答していたことが判明しました(本来縫製を専門としていない航空会社グループにわざわざガウンの縫製を依頼するという政府の方針にも疑問が残ります)。要は、(首相を含めた)閣僚が、このような緊急事態の最中にも関わらず誤解を招くような情報発信を行っているのです。

 

 他にも、4月10日の記者会見で麻生副総理大臣兼財務大臣は、東京都が独自に休業要請に応じた中小企業へ協力金を支給すると決定したことに触れ、「東京は資金を持っているのだろう。他の県はやれるのか」と発言しました(下記NHKニュースの記事)。これについては様々な批判が噴出しています。

麻生氏が言っている通り、東京は人口が多く、企業の本社等、多数の事業所が集中しているので税収が十分確保されている(=資金が十分)のですが、関東・阪神・愛知県ほど工業化されておらず、人口も多くない地方自治体となるとそうは行きません。事実、全国知事会も国に対して休業の影響を受けた事業者への損失補償を要望しています。

損失補償など国に要請へ コロナ緊急事態受け―全国知事会:時事ドットコム

こうしたニーズを無視し、財政出動を頑なに拒んで窮余する国民を事実上放置している財務省・麻生氏(もしくは日本政府)が国益に叶うとは到底思えません。

 

 他にも4月9日には文科省が全国の大学病院に対して「COVID-19患者を受け入れる病床の確保に最大限取り組むように」と要請しています(下記産経新聞の記事)。これに対しても特に医療関係者から異論が噴出しています。

 私も地方の大学病院の救命センターに勤務していますが、ただでさえ脆弱な地方の救急医療体制の崩壊の序曲を感じています。特にここ1~2週間、「主訴; 発熱」というフレーズを聞くだけで、少なからぬ2次医療機関が救急車収容を断り、長時間をかけて大学病院(3次医療機関救急救命センター)までたどり着くという事例が増えて来ています。その日救急外来を担当している2次医療機関の医療スタッフらがCOVID-19に対し何らかの忌避感を抱いているのも原因とは思われますが、COVID-19患者を受け入れた場合、他の患者と隔離した病床で診療せねばならず, PPE装着等の対策も必要です(そして肝心のPPEも不足しています。しかも、医療スタッフとて己が感染するリスクを冒してCOVID-19患者の診療が当たったとしても、報酬は普段と同じです(平時ですら、身体的・精神的負荷の大きい診療科[e.g. 救急科, 循環器内科, 脳神経外科etc.]も, そうでない診療科[e.g. 放射線科, 皮膚科, 精神科etc.]も給与は同じなのに)。このような現状では、大学病院か否かを問わず、COVID-19患者受け入れに二の足を踏む医療機関は決して少なくないと私は考えています。

 さらに、COVID-19蔓延/院内感染予防のために今後、地方の病院への医師の派遣(いわゆる外勤/医局バイト)を見合わせる動きが拡大するでしょう。彼ら・彼女らは地方の2次医療施設で、土日・祝日の救急外来での診療を担っていた訳ですが、それがなくなると地方の救急医療は更に悲惨な状況へ陥りかねません。文科省(そして厚労省)はいい加減、そうした臨床の現場の実情へちゃんと向かい合い、それに応じた対策を講じるとともに, 抜本的な欠陥修正に乗り出すべきなのです。

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 こうして見ると、本来であれば「COVID-19の感染拡大を阻止すること」, 「COVID-19患者の死亡数を減らすこと」, そして「経済危機によって失業した人々が路頭に迷って餓死することを防ぐ」という共通目標に向かって協調・統合して動くべき各省庁が、好き勝手に各々の思いつきのままに動いていることが分かります。戦時中、大本営という組織があったにも関わらず、陸海軍は最後まで連携が撮れていませんでした。肝心の作戦計画は両者の主張を折衷した曖昧な結論となり、しかもその結論が出るまでの間に米軍は迅速な意思決定を下して次の一手を既に打ち始めていたのです。そうした失敗の繰り返しが、1945年の壊滅的な敗戦であり、本来であればその失敗から学習すべきだったのです。しかし75年経った今、この国は戦前・戦時中と似たような形で失敗を繰り返しています。このままではCOVID-19という国難を契機に、日本という国が更に傾きかねないと私は危惧しています。

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