(1) Introduction
さて、昨日衝撃的なニュースが日本中を駆け巡りました(海外にも衝撃が伝わったようですが)。
(私は見たことがありませんが)"Netflix"で配信されていた人気番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが5/23に死去したというのです。それ以前からTwitter等のソーシャルメディア上では彼女を含め出演者への誹謗中傷が相次いでいたそうで、Instragramへの投稿には非常に意味深長なメッセージが最後に投稿されていたそうです。
このようなネット上における誹謗中傷に関し、専門家らからは法制度の欠陥を懸念する意見や、法的対処に関する知見が提示されています。
木村花さんの件で、私の中傷者を批難するツイートが流れてきて面白がって嫌がらせしてくる人達は、私がこれまで匿名中傷者たちを特定して法的対処してきたことを知らないのでしょうね。
— 片瀬久美子🍀 (@kumikokatase) 2020年5月24日
そのうち、いい気になって中傷投稿をしてくる人達の中からまた見せしめとしてやってもいいかな? https://t.co/5iaVXHD6mR
法的対処のためのネット中傷被害者の心得|片瀬久美子|note
ネット上での誹謗中傷に関しても、証拠を確実に保存した上で、弁護士・裁判所・検察を通じて相手を刑事告訴したり, 民事訴訟で賠償を請求できるのです。そしてその課程で、裁判所による発信者情報開示請求が行われ、相手のIPアドレスが判明します(そしてこれが誹謗中傷した本人[=裁判の被告人]の氏名や住所へと繋がる訳です)。
(2) 私なりの考えとか
さて上記(1)では、誹謗中傷が招きうる悲劇と, (匿名とはいえ)ネット上で誹謗中傷に遭った被害者が法的手段に訴えた場合、特定された上で前科がつくor賠償金を負う羽目になりうる、ということを物凄く簡略して述べました。
但し、開示請求云々という手段を選ばなくても、ソーシャルメディア上への投稿内容からあなたの個人情報や, 秘匿しておきたい事実が特定されてしまうリスクが常にあるのです。ここで幾つか海外の具体例を挙げてみましょう。
① ウクライナの極右過激派の男の事例
2019年3月にニュージーランドのクライストチャーチで、極右/白人至上主義を信奉する男がモスクで銃を乱射し、多数のムスリム市民を殺傷しました。その男は事件に前後してネット上にマニフェストを発表していましたが(クライストチャーチモスク銃乱射事件 - Wikipedia)、そのウクライナ語訳版とロシア語訳版を販売するチャンネルが"Telegram"に出現しました(bellingcat - The Russians and Ukrainians Translating the Christchurch Shooter’s Manifesto - bellingcat)。
このチャンネル(以下、『彼』で統一)に関する記事を発表した独立系調査報道サイト"Bellingcat"はそれ以来、度々脅迫を受けていたそうですが、なんとある活動家が『彼』に、女性の極右活動家のフリをして連絡を取って親しくなり、メッセージ機能を介してご本人様の氏名を教えてもらい、御尊顔を拝する機会すら得たそうです。またそれに留まらず、『彼』は活動家に、他のソーシャルメディア(Facebook等)のアカウント名(当然、本名でない)まで教えてしまったそう。その結果が、上記リンクの記事です。悪事と並んで本名や顔まで全世界へ公開なんて、入れる穴があったら入りたいどころの騒動ではありませんねえ。
②マレーシア航空17便撃墜事件(とウクライナ東部紛争)
2014年7月17日、オランダのアムステルダムを経ったマレーシア航空17便がウクライナ上空で撃墜されるという衝撃的な事件が起きました(マレーシア航空17便撃墜事件 - Wikipedia)。これについてロシア政府は、1. ウクライナ当局が提示した「旅客機を撃墜した地対空ミサイルの映像」は、分離独立派の支配領域内ではなくウクライナ政府の支配領域で撮影されたものだ, 2. 旅客機は撃墜直前に進路を変えている, 3. 撃墜直後のレーダーでは、旅客機の近くに別の航空機が写っていた(そしてそれはウクライナ空軍の戦闘機だ), 4. 衛星写真では、撃墜当日にウクライナ軍の地対空ミサイルが基地の外に配備されていたことが分かる、と主張していました。
しかしこれらの主張が真っ赤な嘘であり、ロシア当局の示した証拠も偽物であることが様々な証拠から判明する訳ですが、そうした証拠の中にはなんと、ロシア国内やウクライナ東部(分離独立派に占領された地域)の住民がTwitter, Youtube等のソーシャルメディア上に挙げた写真・動画のみならず、ウクライナ東部に派遣されたり, 問題の地対空ミサイルを運搬した兵士らがネット上に挙げた写真も含まれているのです。こういった報道を受けてなのか、ロシア議会は兵士がネットに接続可能なデバイスの使用や携帯することを禁じる法律を可決しているそうです。
The Bellingcat Podcast | Podcast on Spotify
なお捜査によって容疑者はちゃんと特定され、公判は被告人が欠席のまま今年3月から開始されました。
マレーシア機撃墜、審理開始 4被告不在―オランダ:時事ドットコム
いかがでしょうか。「ネット上はどーせ匿名なんだから、なんでもシェア or 呟いちまえ!」, 「こいつは幾らでも汚く罵ってやっていいわ、どーせネット上で自分は匿名だし」とか調子に乗っていると、思わぬところで足をすくわれることがあるという事をお分かり頂けたでしょうか?なお上記の事例はあくまで断片的なものであり、デジタル社会のはらむリスクについて解説した一般向けの書籍もありますので、参考までに本ブログの過去記事を貼っておきます。
今後、「ネット上で自分は(他者から見て)全裸 or 半裸同然なのだ」という事を意識して行動しましょう。