Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

東日本の某県に勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】出血性ショックの外傷患者の搬送中に、新鮮凍結血漿を投与すれば予後は改善するのか?

 皆様、もう『劇場版コードブルー』は見に行きましたか?私は先週末に映画館で見てきました。あれはドクターヘリを所有する救急救命センターが舞台のドラマですが、今回はドクターヘリに関連した論文を紹介したいと思います('Prehospital Plasma during Air Medical Transport in Trauma Patients at Risk for Hemorrhagic Shock' Sperry J.L, Guyette J.B. et al. New England Journal of Medicine 2018;379;315-26)。

(1) Background

 今日、重症外傷(出血性ショック)の患者に対しては、凝固障害防止の為に①細胞外液の投与を制限し, ②新鮮凍結血漿(FFP; flesh frozen plasma)・赤血球輸血(RC; red cells),・血小板輸血を同じ比率で投与する 'damege-control resuscitation'が主流となっています。

 この'damege-control resuscitation'を、prehospital(救急車やドクターヘリで搬送中)にできれば、凝固障害や不可逆的なショックといった合併症を更に減らすことが出来ると期待されています。特にFFPは凝固障害を緩和し, 外傷に対する炎症性反応を変化させ, 尚且つ血管内皮細胞の透過性を減らす効果があります。しかしながら、prehospitalにおけるFFP投与の効果と危険性は不明です。

 そこで、この研究(Prehospital Air Medical Plasma; PAMPer)は「prehospitalでのFFP投与は30日後の死亡率を減らす」という仮説を立てて検証を行ったのです。

 

(2)Study Design

 PAMPerは実用的なデザインの、複数の施設が参加するランダム化第3相試験です。

 FFPは使用期限が5日と短く、そう簡単に手に入りません。そこで、患者個々人をランダムに割り振るのではなく、患者集団をランダムに割り振った(cluster randomization)のです。

 具体的には、各参加施設の航空基地を1ヶ月間隔で治療的介入群, ないし比較対照群に振り分けたのです。そのため、治療的介入群の基地所属の航空機に搬送された患者は治全例治療的介入の対象になり、コントロール群基地所属の航空機に搬送された患者も全例コントロールの治療を受けるのです。

1. Patient selection(患者の選択基準)

 外傷センターへ航空機(ドクターヘリ等)で搬送された、出血性ショックのリスクを伴う外傷患者が対象です。

 なお、参加した27基地のうち13ヶ所では、航空機に常に2単位のRC('universal donor'と記載があるので、O型Rh-型のRCでないかと思われる)を常備していました。

 患者をPAMPer登録する基準、以下2項目のいずれかです。

収縮期血圧<90mmHg, 心拍数>108の少なくとも片方に該当する

② ドクターヘリ到着前ないし外傷センター到着前に収縮期血圧<70mmHg

 他方、患者の除外基準は次の通りです:  90歳超または18歳未満, 末梢静脈ルートや骨髄針ルートが確保できなかった, 立位から倒れて受傷, 頸髄損傷, 囚人, 妊婦, 外傷による心停止から5分超過, 貫通性脳損傷, 溺水・首吊り・体表面積20%超の熱傷, 紹介元の病院に入院していた患者, 現場で家族が臨床試験への登録に反対した, 患者本人があらかじめ、臨床試験への参加を拒む意思表示をしている(論文によると、"opt-out" braceletなるものが存在するそうです)

2. Intervention(治療的介入群)

 患者を搬送中にFFPを投与する群。

 あらかじめ2単位のFFPを基地に置いておき、搬送開始〜病院到着までにこれを全て使い切る(使い切る前に病院に到着した場合でも、病院で残りのFFPをきっちり投与し終わる)プロトコルになっています。従って、輸液開始時はまずFFPから開始するのが原則です。

 もし病院到着前に2単位使い切ってしまった場合、地域ごとのプロトコルにのっとった治療を行います。FFPを2単位とも投与し終わった段階でショックが改善しない, ないし出血がある場合は、RCの投与を開始する施設もありました。

3. Comparison(コントロール群)

 標準的治療を行う群。

※両群とも、過剰な細胞外液投与を制限する為に①循環動態に基づいて, ②基本的に細胞外液を用い, ③目標志向型 の治療を標準としています。

4. Outcome(結果の評価)

 Primary outcome:  30日後の死亡率で評価しました。

 加えて、このprimary outcomeを次に示すサブグループに分けて分析することで、治療効果を分析しました。①受傷後24時間以内に10単位以上のRC投与を受けた群とそうでない群, ②受傷後24時間以内に4単位以上のRC投与を受けた群とそうでない群, ③prehospitalでRC投与を受けた群とそうでない群, ④重症外傷性脳損傷がある群と無い群, ⑤臨床試験へ登録した場所(現場で登録した群と紹介元の救急救命センターで登録した群), ⑥ビタミンKアンタゴニスト(ワーファリン)を服用していた群とそうでない群, ⑦抗血小板薬を服用していた群とそうでない群, ⑧外傷の種類(鈍的外傷と貫通性外傷), ⑨搬送にかかった時間(長い群と短い群)

 Secondary outcome:  以下4項目で評価しました。

① 24時間後と入院中の死亡率

② PAMPer参加後24時間以内に投与された血液製剤と輸液の量

③ 多臓器不全, ARDS等合併症の発生

④ プロトロンビン時間比等の凝固障害指標

 

(3) Results

 2014年5月から2017年10月までの間に、27ヶ所の航空基地から9ヶ所の外傷センターに運ばれた7275名の患者のうち、564名がPAMPerへ登録されました。うち230名がFFP群に、271名が標準的治療群に割り振られました。なお全ての登録患者のうち72.7%が男性で、82.4%は鈍的外傷でした。

 他の救急救命センターから外傷センターに搬送された患者(111名)の人口統計学的データ及び外傷データは、現場から直接搬送された患者(390名)のそれと似たようなものでした。また、他院から搬送された患者は搬送時間が長い(他院から搬送; 52分 vs 現場から搬送; 39分)一方で、搬送中に気管挿管を行った患者は現場から搬送された集団で少なかった(現場; 37.3% vs 他院; 51.9%)のです。またRC投与を受けた患者は他院から搬送された集団で多かった(他院; 45.9% vs 現場; 30.8%)そうです。なお、FFP群と標準的治療群の他院から搬送された患者の比率は似たようなものでした(標準的治療群; 21.8% vs FFP群; 22.6%)。

1. プロトコル遵守について

 501名の患者のうち496名(99.0%)が指定された治療を行っていました。

 標準的治療群の患者はFFP群よりも多く細胞外液を投与されており、到着前にRCを受けた患者の比率もFFP群より多かったのです。

2. Primary Outcome

 30日後の死亡率は、FFP群で低いFFP; 23.2% vs 標準的治療; 33.0%)という結果でした。更なる分析により、prehospitalにおけるFFP投与は30日以内の死亡リスクと関連していると分かりましたが、標準的治療群のそれよりも39%低いという結果になりました。加えて、Kaplan-Meir生存曲線を描くとFFP群が優位だという事が分かります(NEJMから拝借した下の写真も参照。'Plasma'と書かれた赤い線がFFP群で、青い線が標準的治療群)。

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 また、サブグループ別に分けて分析した結果でも、30日後死亡率はFFP群の方が低かったのです。

3. Secondary Outcome

 FFP群では、24時間後と入院中の死亡率が低い, ②全ての血液製剤の投与量と、登録後24時間以内のRC投与量が少ない, ③病院到着時に採血した検体における平均プロトロンビン時間比が少ない と分かりました。

4. 安全性について

 この研究において、輸血関連肺障害を来した症例の報告はありませんでした。なお、副作用(実施されたレジメンに関連していると思われる全ての事象)は両群合わせて10件報告されています。下にNEJMから拝借した表を添付したのでご参照下さい。

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(3) Discussion

 結果をまとめると、

①PrehosipitalでFFP投与を受けた群は、標準的治療群と比較して24時間後と30日後の死亡率が低い

FFP群は、標準的治療群と比較して平均プロトロンビン時間比が低い

多臓器不全, ARDS等の合併症の発症がFFP群で高い訳ではない

という事なのです。

 この研究の特長は、1. 患者登録基準がシンプルで、研究デザインが実用的, 2. 多くの種類の外傷や重症度の患者が登録した, 3. 比較的少ない量のFFPを用いたことで、死亡率に対する強力な効果が現れた, の3点であると指摘されています。

 一方で、この研究は集団単位でのランダム化を用いたため、患者の登録が不均衡となりました。それによって治療的介入をマスクできず、治療バイアスを生じる可能性があるとも指摘されています。事実、地域ごとに外傷に対する治療プロトコルは異なります。標準的治療群ではFFP群より細胞外液を多く投与されていますが、これを解析により調整しても、FFP群における少ない細胞外液投与量が患者の予後に影響したと結論付ける事はできませんでした。

 

 私の拙い翻訳能力のせいもあり、長文+分かりにくい内容となってしまったかもしれません。この論文のTake Home Messageは、Prehospitalでも、重症外傷(出血性ショック)へFFPを投与すれば効果があるかもよ」という事なのです。