Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

救急外来は、やはり救急医(と総合内科医)に任せよう

  ちょっと久しぶりに医療ネタへ戻ります。

 以前、地方の市中病院に勤務している知り合いの脳外科医と話していた時に、こんなグチをこぼしていました。

「大学から来ている外科医が、脳梗塞の患者を見逃し帰らせた」

この脳外科医の勤務する病院(以下A病院)では、毎日各診療科の医師1名のみが夜間、当直医として病院に宿泊して救急外来を担当しているのですが、人手不足ということもあり、大学病院の外科(消化管や肝胆膵)の医師が土日・祝日の日当直をやりに来ています(つまり、医局バイトで来ている)。

 その大学病院の外科医が、「(家族から見て)言葉がうまく出ない」という主訴で受診した高齢患者を診察し、頭部CTで「脳出血等の所見が無い」事を理由に、帰宅して経過観察するよう指示したそうです。なお、A病院には脳神経外科, 脳神経内科の常勤医がおり、脳外科医・神経内科医が当直・日直に入っていない日は神経疾患が疑われれば自宅や携帯電話に連絡し、必要時は緊急治療も行える態勢になっています。また、脳梗塞の超急性期ではCT上所見が出ないことが多く、脳血管3DCTAで閉塞した血管を確認したり、神経症状を定量的に評価する等した上で、迅速に治療方針を決定する必要があります(下記リンク参照)。

voiceofer.hatenablog.com

 その患者の場合、週明けに脳神経外科外来を受診してようやく脳梗塞と診断され、そのまま入院となりましたが、最初に受診した時に脳外科医へ連絡・相談があったらすぐにt-PA静注・機械的血栓回収術を行い、後遺症を減らせていた可能性があったようなのです。

 更に、別の大学病院外科医の場合は、夜間に「CTでもMRIでも所見が無い意識障害の患者がいる」と脳外科医へ相談。脳外科医が診察しに行ったところ患者本人は麻痺も無く、ふらつきも無く歩けて、見当識障害も無い状態(家族曰く「朝からボンヤリしていて、車の急ブレーキが多かった」とのこと)。身体診察をやり直したところ39 ℃の発熱と肺雑音を認め、一転肺炎の診断となりました。最終的に、患者が65歳未満だったことや基礎疾患が無いこと, 血液検査で脱水・電解質異常等が無かった為、経口抗菌薬を処方して帰宅・経過観察の方針になったそうです。

 いずれのケースも、「大学病院の外科医が不勉強だった」と結論付ける事も出来ます。しかし、普段は消化器疾患の診断や手術に特化している医師に、「循環器疾患や神経疾患等にまで対応しろ」という要求もさすがに限度があると私は思います。

 それでは、どうすればいいのか?私の答えはズバリ、「救急外来は救急医と総合内科医に一任せよ」です。いずれの診療科も、患者の主訴・症状から診断を絞り込む(つまり全身の臓器を診れる)スキルがあり、特に救急科は重症患者に対する蘇生治療の専門家です。このような専門家らが救急外来に常駐することで、患者の状態に合わせて適切な診療科へ紹介出来るだけでなく、緊急治療を要する患者の判別が迅速に出来るようになるため、非常に効率的だと思います。

 ただし、現状の日本では、救急医と総合内科医が配置されている救急指定病院は限られています。今後も日本の医療インフラを維持していく為には、救急医や総合内科医を現状以上に増やす事も求められます。加えて、これは外科, 産科, 小児科, 脳神経外科といった診療科も同様ですが、救急科は医療スタッフにかかる身体的・精神的負担が大きく、高度な専門性の習得と維持が求められます。よって、給与を上げる等のインセンティブを付加したり、十分休養の取れる勤務体系を義務化する等の措置も不可欠です。

 厚労省や各学会, 医師会をはじめとする決定権・発言権を有する諸団体・機関は、短期的な現状維持に固執せず、将来を見据えたガバナンスを志向することが求められます。