Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

医局肯定派の皆様へ提案。米国式メディカルスクールはどうですか?

 今日は、医局制度をどうしても残したい場合、どのようなシステムを新設すべきか(皮肉を込めた)提案を行いたいと思います。

 現在の医局制度の人材獲得の手段は次の3つでしょう:1.部活のOB, OGが後輩を勧誘する, 2. 病院実習で来た学生を飲み会に誘う, 3. 医師就学資金を学生に貸与し、一定の年数その地域に残れば返済を免除する(地域枠も同じようなもの)。それでも、一定数の学生・研修医は卒業・初期研修修了後に他の地域へ出て行ってしまいます。また、医師の中には「医学部定員が増えてから学生の学力が下がった」と主張する人も居ます。医局や地域に若手が残ってくれて、学力も保障ができる制度が欲しいと思うのは当然の流れかもしれません。

 そこで、私は日本国内の医学部を全て、米国式のメディカルスクール(以下、『医学部』に呼称を統一)に変えてみることを提案します。米国のカリキュラムがどういう感じなのか説明しますと(私の知っている限りで書きました。不足・間違いがあったらご指摘下さい)、

① 学生はまず一般の学部に入学し、化学, 生物学, 物理学等(主に理系の学部・学科)を専攻し卒業。そこから大学院としてのに入学する。一般の学部での成績が振わなければ当然医学部への入学は叶わない。当然学費もバカにならず、医学部卒業後もローン返済に追われる医師が居る。

医学部の入試はもちろん、進級判定も厳しい。

③ 国家試験であるUSMLEはSTEP1, 2, 3の3段階に分かれており、全て合格しないと医師・専門医にはなれない。

 まずSTEP1は筆記試験のみで医学部2年の終わりに受けるが、1.合格基準点は60~70%(およそ190点。なおSTEP1の問題数は308問), 2.点数によって将来進める診療科のresidencyが左右される(下の写真も参照)という特徴がある。また、STEP2は医学部4年次に受験するが、筆記試験Clinical Knowledge(CK)と実技試験Clinical Skill(CS)がある。STEP3はresidency programに入ってから ーつまり卒業し働き始めてからー CKとCS両方を受験する。

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USMLE STEP1点数と各診療科residency programの関係。耳鼻科(248くらい), 皮膚科(247くらい), 形成外科(245くらい)の順に高得点を求められる一方、家庭医療 218, リハビリと精神科220, 産婦人科と小児科226といったぐあいである

 いかがでしょうか。学生そして研修医は必然的に勉強を継続しなければならなくなります。多分、学生/研修医の学力は上がるでしょう。また、上記のように学費が上がります。その分を地域枠や医師修学資金でその分をカバーしてあげる一方で、「一般学部を出たら必ず医学部に進学し, その上で医学部卒業後も最低X年間はこの地域で勤務しないと返済義務が生じる」という規定を設ければ、若手がその地域に残って、尚且つ医局に入局してくれる確率が上がると思います。

 但し、こうした『改革』にはデメリットが伴います。まず、このシステムに各大学を組み替える作業は半端ではなく、国家レベルでの大変動が必要となってしまいます。面倒に感じる人は決して少なくないでしょう。

 また、学生たちは勉強で忙しくなり、今までの医学生のように部活なんてやっていられなくなるでしょう。東医体・西医体といった一大イベントは消滅し、既述のような部活の先輩・後輩繋がりで新入医局員を獲得する流れが無くなるでしょう。また、一般学部で必死に勉強し、医学部入学後も、進級や希望診療科に進む為に必死に勉強してきた人たちが若手としてやって来る訳ですが、日本の従来型の医学部で教育を受けてきた先輩医師が、学力・教養的に彼らに太刀打ちできる保証は無いように思えます。

 更に、上記のようなメディカルスクールのシステム導入後のことを想像してみて下さい。あなたは医師であり、自身の子供も医師にするために大学に入学させたと仮定します。我が子を取り敢えず理学部生物学科に入学させたものの、一般学部+医学部となると、学費が高くなってしまい自分の収入で補えるのか非常に不安です。ましてや、医学部入学とその後の進級・医師免許取得に必要な勉強量を考えると、子供にバイトをさせる訳にはいきません。そこであなたは医師修学資金を利用する事にしました。

 しかしその後、思わぬ問題が生じるのです。あなたの子供は生物学科に在学中に遺伝子の研究に没頭してしまい、理学部卒業間際になって「遺伝子の研究者になりたいから、医学部でない大学院に進学したい」と言い出したのです。あなたはどうしますか?子供を叱責して無理やり行きたくもない医学部に行かせますか?或いは医師修学資金を返済しつつ子供の希望を叶えてやりますか?

 

 私なりに、極力面白くしてみたつもりですが、いかがだったでしょうか?感想などありましたら、遠慮なく教えて下さい。