Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

理想的な初期研修とは(1)

 今日は、医学生が医学部を卒業し、尚且つ医師国家試験に合格し医師免許を持った後に行う初期研修について考えてみたいと思います。

 初期研修は2年間、臨床研修指定病院にて行います。初期研修プログラムの内容は施設によって若干違いがありますが、私の場合(大学病院)は内科(循環器, 消化器, 呼吸器, 腎臓, 糖尿病内分泌, リウマチ膠原病)を計6ヶ月間回らねばならず、他に精神科, 小児科, 必修科(麻酔科, 外科系診療科, 産婦人科のいずれか), 地域医療はそれぞれ最短でも1ヶ月回る事になっていたと思います(記憶違いかもしれないので、ご了承下さい)。

 大学病院は全ての診療科が揃っているものの、市中病院では対応仕切れない特殊, 或いは稀な疾患が多いのが欠点です(脳神経外科を例にあげると、大学病院ではテレビによく出ている福島孝徳先生が執刀されているような難易度の高い脳腫瘍への手術が多いのです。逆に、脳腫瘍より数が多く、尚且つ治療が分単位で遅れる事が患者さん自身の生死やその後のQOLを左右してしまう脳卒中の手術は少ないです)。経験値が低めになってしまうのが泣き所でしょう。

 他方、市中病院はいわゆる"common disease" ー 上記の脳神経外科の例で上げたような、頻度の多い疾患の事です。循環器内科領域で言えば心筋梗塞, 呼吸器内科領域で言えば細菌性肺炎といったところでしょうか ーの診断と治療が経験できます。しかし、特に地方では特定の診療科が病院内に無かったり、診療科があっても研修医を除けば医師が1〜2人だけといった病院も珍しくありません(私が初期研修していた地域では、脳外科医が一人しか居ないので救急指定病院なのに脳卒中や頭部外傷の診療が出来ない臨床研修指定病院がありました。他に内科医が沢山居るが腎臓内科医が居ないので透析が出来ない病院なんてのもありました)。そんなにman powerが乏しいと、むしろその診療科での経験が乏しいまま初期研修を終えるか、多忙さのあまりじっくり勉強する機会が失われ「なんとなく分かったつもり」で初期研修を終えるか、の両極端のリスクが伴います。

 また、研修医を指導する医師らの態度も問題になる場合が多々あります。私がいた大学病院の場合、担当患者が急変・重症化した途端「全身管理が難しい」等理由を付けて救急科に全てを押し付け、状態が安定した後も見にすら来ない診療科が2〜3ありました。それらの診療科は、「医局の雰囲気がいい」・「QOLが良い」と学生・研修医間で評判が立っていましたが、その裏には、本来自分らが専門家として診療すべきである患者さんに関与しない消極的態度ー 研修医・学生らに『率先垂範』の率の字も示せていない! ーがあるのです。他方、時折報道にも上がっているようにパワハラや過労が重なって自殺してしまう医師も居ますし、精神的疲労がきっかけになり仕事に来なくなった研修医の噂を私自身何度も耳にしました。

 このように、卒業が近い医学生(5, 6年生)にとっては、将来どの診療科を目指すかに加えて、どの臨床研修指定病院で初期研修を行うかが実に悩ましい選択肢としてのしかかっているのです。

 次回は、私が実際に見聞きしたとある病院を例にして、理想的な初期研修(更に言えば、理想的な病院のあり方)を語っていきたいと思います。

 長文に付き合わせてしまい申し訳ありません。次回も宜しくお願い申し上げます。