Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ちょっと頭にきたニュースー 「医師の働き方改革」?「過労死ラインが上限なら『救える患者も救えない』」?

 昨日Twitterを見ていたらあるニュースが話題になっておりました。というより、激しい批判の嵐が発生していました。

Yahoo!ニュースを引用していましたが、リンク切れになっていたためニュース記事のリンク先を変更しています↓(2018/7/21)

medical-saponet.mynavi.jp


記事の中から、重要そうな項目のみ抜粋します。

「意見書は、日医(日本医師会)の『医師の働き方検討委員会』が4月にまとめた答申がベースで、厚生労働省の検討会などに提言するため、『医師の働き方改革検討会議』が取りまとめた。」

「『時間外労働時間』の上限は、『1カ月間で100時間』または『2―6カ月間の時間外労働時間の平均が月80時間以上』だった場合などに発症リスクが高まる脳・心臓疾患の労災認定基準、いわゆる『過労死ライン』を基に設定。」

「松本常任理事は、医師の働き方の実態を踏まえると、『過労死ライン』での上限設定は医療現場が努力しても対応が難しく、医師不足などで地域医療が崩壊する恐れを指摘した。その上で、『命を救える患者さんも救えない状況になる』と訴え、上限を超えることを『特例』として認めるべきだとの認識を示した。」

 これに対して、Twitterで見られたコメント(反応)は、「過労死ラインを超えて医師が働いている地域は既に地域医療が崩壊している」, 「日本医師会の幹部・会員は開業医が大半である。当直すらしていない人間が何を言っているのだ」という趣旨のものでした。私も同感です。『前線』の実情をロクに把握していない人たちが、「医師の働き方改革」を立案し、厚労省の検討会への提言書を作成するというのです。こんな馬鹿げた話はあるでしょうか。

 厚労省や医師会といった組織が、前線からのフィードバックを欠いたまま机上の戦略を設定する様は、第二次世界大戦中の日本軍と同じ轍を踏んでいるように思えてなりません(また『失敗の本質』からの引用になります http://amzn.asia/fIRDCEY)。日本海軍も陸軍も、前線で起きた・起きている事実を学習する事なく(情報の軽視)、むしろ頭の中で描いた主観的な状況を判断基準に作戦・戦略を練っていました。

 例えば、日本海軍は太平洋戦争緒戦の真珠湾攻撃マレー沖海戦で米英海軍の戦艦を次々と航空攻撃によって撃沈し、海戦の主体が航空機である事を示しました。しかし日本海軍は「大型戦艦で構成された艦隊同士の決戦」という日露戦争以来の戦術から脱却する事ができず、むしろ「航空機が海戦の主体である」と学習した米英軍によって出し抜かれていく事になりました。事実、日本の建艦技術の粋を集めたとされる戦艦『大和』は、1945年4月6日に沖縄戦へ参加中の米海軍を叩くために「海上特攻作戦」へ投入されましたが、護衛戦闘機の不足や対空砲火装備の不備も手伝って、翌日午後には鹿児島県坊ノ岬沖で米海軍の航空部隊の波状攻撃によって撃沈されてしまいました。しかも『大和』1隻の建造費で空母3隻が建造できたと日本海軍の一部の将校は指摘していたそうです。上層部の意思決定がこんなにメチャクチャでも日本が1945年8月15日まで戦争を継続できたのは、前線の将校や兵卒が頑張ってくれていたからです。しかし、その努力・精神力も限界があるのは前回述べた通りです(

https://voiceofer.hatenablog.com/entry/2018/07/14/164655

)。

 医師会や厚労省といった組織の意思決定に問題があり、その過程は日本軍と気持ち悪いほど類似性がある事は、以前もこのブログで散々指摘して来ました(下記リンク)。

voiceofer.hatenablog.com

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私は、ここではっきり言っておきたいのです。腐敗した指導者・権力者層は、『アラブの春』においてチュニジアのベンアリらがそうなったように、その地位から放逐されて然るべきです。こんな事を言ってしまっては過激に聞こえますよね。しかし、そうしなければ日本の民主主義や日本国憲法の存在意義が問われるでしょう。医療崩壊が尚更加速し、被害が医療関係者のみならず全国民に波及するでしょう。