Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医学生の皆様へ】同期・先輩の「臨床 or ◯◯科は向いていないよ」は本当なのか

 皆様こんにちは。現役救急医です。前回の更新からまただいぶ時間が空いてしまいました。新職場には慣れてきたんですが、色々忙しくて更新する余裕がありませんでした。

 実のところ、ブログで色々述べたいことはあったんですが(TVやネットを見ても、喜ばしいニュースよりもイライラするようなニュースがやたらと多いので)、一度くらいは後輩の皆様に役に立ちそうな助言を書いた方がいいかな〜?と思い、今回ブログを更新することにしました。

 

 医学生の皆様は(昔医学生だった医師の皆様でも良いのですが)、これまで同期や部活等の先輩から、ご自分の将来の進路などについて語り合った際に、「お前は◯◯に向いてないよ」と言われたことはありませんか?私自身、ものすごく心当たりがあります。早くて医学部2-3年生の頃に、大して仲が良いわけでもない, たまたま同じ実習班になっただけの同期から、「臨床向いていないんじゃね?研究にでもしなよ」的なことを言われた覚えがあります。その後も、他の同期や部活の先輩から、何かのきっかけに「外科系はやめといた方がよくね?」とか「患者に接する機会の少ない放射線科や病理がいいかもよ」という『お節介』を頂いています。

 さて、そう言われ続けた医学部医学科を卒業し、もう10年以上は経過しました。私のブログ(やTwitter / X)をフォロー中の皆様は既にお気づきでしょうが、私は卒後の初期研修2年間をなんだかんだで修了し, 今も救急専門医として臨床現場で働き続けております。特に初期研修医時代や, 救急科に進んだ当初は、多少の勘違い等々ありましたが、例えば患者さんが死亡する, 重大な後遺症をきたすといったトラブルは遭遇していません。学生時代に私が散々言われてきた「臨床向いてない」・「◯◯科はやめとけ」という同期や先輩の『ご助言』は一体何だったのでしょうか?

 

 結論から言うと、まだ座学(講義, 実験室での実習と試験メイン)と, 病院実習(とはいえ全部見学で、治療方針決定や治療手技に全く関わっていない)しか経験していない医学生に、人様の臨床能力や適性などを判断できる訳がないのです(厳密に言うと、まだ臨床現場に出て日が浅い臨床研修医や, 専門課程に入って日の浅い専攻医にも難しいと思います)。

 

 そもそもの話、私はこれまで何度も臨床現場で、「この人やる気あるのか?」とか, 「研修医など若手の風上に置けないような奴だなあ」とか思った医療従事者と少なからず遭遇してきました(具体例に関しては、以下の過去記事リンクをご参照ください。あくまで氷山の一角ですが)。

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そうゆう人間が『行くところまで行ってしまった』極端な事例が、近年ネット上で度々話題になっている、件の『脳外科医の竹田くん』です。要するに、先輩ら指導者の助言や各種の教科書・ガイドライン・論文等で収集できる知見を受け入れ、その上で自分の思考や行動のアップデートに繋げるという一連の流れを実践できず, 且つ 患者とその家族とのコミュニケーションや、同科ならびに他科の医師, 看護師や技師などの他職種とのコミュニケーションが機能していないような人間が臨床現場で問題を起こすのです。

 言い換えると、仮に学生時代に何らかの課題や欠陥を抱えていたとしても、1) 指導者の助言や各種の教材・講義などを通じて得た知識を吸収し、かつそれを自分で実践できる, 2) 患者とその家族や職場の同僚とのコミュニケーションが円滑かつ正確に出来る という2条件を初期研修の2年間や, 専攻医課程の初期で十分習得できればそれで良いのです。また、特に1)に関しては、組織内で指導者(≒先輩や上司ら)が、若手の監督を満足にできる態勢が完成されているか, 監督者の言動や人格などに問題が無いか, といった点も重要であると思います。前回の『竹田くん』関連の記事でも指摘していますが、問題を抱えたスタッフの行動が患者や周囲のスタッフへ与える負の影響を打ち消したり, 最小限に抑えたり, そうした行動に対して再教育(あるいは懲戒解雇を含む制裁)を行うことは、その組織の上層部や監督者の重要な役割です。

 『竹田くん』はあくまで極端な事例でありますが、それでも私はこれまで大学病院・医局や市中病院内での卒後教育・監督態勢について色々な問題を感じてきました。また、私の知っている範囲での話ですが、米国では医学部在学中に受験する国家試験(USMLEのSTEP1)の成績によって卒後に選択できる診療科が左右されます(それに対して日本は、基本的に本人の希望を医局側がほぼ全例受け入れるような形で事が進みますし, 診療科別・地域別に明確に人数の枠が指定されている訳でもありません)。加えて、所謂『進学校』や予備校の中には、「理系で成績が優秀」というだけで医学部医学科への進学(一般入試や推薦入試, 地域枠など)を勧めて、本人や保護者をその気にさせてしまう側面もあると思います。まだ18歳以下の高校生に成人後の社会経験などあるはずも無く、学校や予備校の教師・講師とて医療現場の経験などある筈がありません。また教師・教員側が、「医学部に行きなよ!」と応援したくなる生徒の『選択基準』に何らかのバイアス(e.g., 体育祭・部活動・生徒会などでの『活躍』が目立つ方に注意が向くなど)が掛かっていることも十分考えられます。卒後の指導・教育態勢だけでなく、医学部入学前から医学部入学後の進路指導や教育のあり方にもそろそろメスを入れてもいいのではないでしょうか

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