Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

また例の医師が話題になっているけど

  いつもお世話になっております。現役救急医です。諸事情によりめちゃくちゃ忙しく、ブログ更新が停止(YouTubeなんて完全放置)していましたが、数日前、気になる話題がネット上に浮上していたので、私なりの思いの丈?を綴ろうと思います(正直、ブログを更新する時間・労力も勿体無いくらいの一大イベントを控えているんですが…)。

 以前、私は具体的な固有名詞の言及を避けた上で、ある『事件』についてこのブログで持論を展開していました。何故固有名詞を出さなかったかというと、当該事件について暴露(?)した漫画について色々な懸念を抱いていたからです。

【久々の更新】SNS上で話題になっている医療系漫画のことについて。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

しかしこの事件、所謂『続報』が出てきているのです。こうして周知の事実(?)となった以上、曖昧な言及だけに留める必要性が薄いと思うに至った次第です。

 とりあえず、その『続報』についてできる限り簡潔に紹介します。まず今年2月頃、大阪府内の病院へCOVID-19治療のため転院した患者が、慢性腎疾患のため透析が必要なのに転院後透析を受けていなかったため死亡した事案について、患者家族により訴訟が起こされたという報道がなされました(以下の『赤穂民報』の記事)。その後、今月に入り、別の医療機関へ転職した同じ医師が、その医療機関でも問題を起こしているという記事がネット上に掲載されました(以下の『現代ビジネス』の記事2件)。

赤穂民報|元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か

「指に針を突き刺して…」決死の内部告発!『脳外科医 竹田くん』のモデル医師が吹田徳洲会病院で「デタラメ診療」連発、院内は大混乱(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

「人として最低限のルールさえ…」なぜ『脳外科医 竹田くん』モデルは医師を続けられるのか? 吹田徳洲会病院の院長が語った「驚愕の言い分」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

 特に現代ビジネスの記事は、週刊誌によるもの(私見ですが、大手新聞紙よりも芸能人らの私生活暴露云々といったしょーもないネタや, 健康・医療に関連したdisinformationが大好きな媒体であるように思います)ですから、私は疑いの目を持って目を通しました。それでも、「これはどう考えてもダメでしょ」と感じるような内容が列記されていました。曰く、「患者本人を直接診察せず, かつ 画像・検査データすら確認せずに入院させている」とか, 「院内で喫煙や飲酒をしていることが強く疑われる」とか, 「遅刻常習犯だ」とか。誇張の可能性を完全に否定することは正直難しいとは思います。しかし、「直接の診察などによって患者の状態をロクに確認せず、指示を出す」という医師を私は実際に何度も見てきておりますので、『現代ビジネス』の記事の内容についてある程度、信憑性があると思わずにはいられません。

 そして私が愕然としつつ、「まあそうゆう人間も居るよねえ」と思ってしまったのが、問題の医師を擁護しようとする上司の存在です。実際、これまで私はこのブログ(やYouTubeチャンネル)で、医局制度等、日本の医師の教育や人事に関わる機構が欠陥を抱えるが故の様々な事件や, 実際に直面したトラブルを紹介し、欠陥の修正を自分なりに提言してきました。

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 大前提として、人間は誰であれ大小のミスを犯すものです。医療の場合、それが他者の身体・健康・生命に影響を及ぼしかねないので問題になるのです(その点では、自動車の運転や船舶・航空機・電車等の運行なども同じだと思いますが)。本来人間は、犯したミスについて学習し、それにより自分の思考や行動を修正することで、それ以降、同じようなミスを犯さないようにします(或いは、する筈です)。そして、そのようなプロセスは個人レベルに留まらず、集団(例:部署, 会社, 病院, 官庁など)レベルで機能することが理想的です。

 しかし、上記の事件はどうでしょうか。問題の医師の言動は、自身の過去のミス等について真摯に向き合って行動・思考を修正した結果とは思えません。彼の上司や病院上層部も、彼を「育てる」等々言いながら、実際にどのような介入をしているのか全く見えてきません(かといって彼の上司らが週刊誌の記者にペラペラ喋るとも思えませんが)。これまで起きた様々な診療上のエラー/ミスについて、問題の医師が教訓を得ていないのであれば、「何故学習できないのか」を解明する必要もあると思います。患者の身体診察や検査結果等をそもそも確認すらせずに治療等をやる(そしてそれを繰り返す)医師について、何らかの懲罰, ないし 強制的な再教育を執行する制度は必要だと思います。また、アルコール等への依存により診療業務に支障が出ている場合、それこそ専門医による治療が必須ではないでしょうか。

 上記の『事件』は、問題を起こした本人『個人の』レベルのみに着目すると、問題の根幹や, 肝心の再発防止策を見失いかねないと思います。彼を雇用し擁護し続ける病院という『組織/集団』レベル, 及び 日本国の医師免許, ないし 専門医制度という『政府/国家』レベルでの再発防止策こそ真剣に考えるべきです。