Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医学部教育】『模範回答』を学生に要求する教育は、実戦で役に立つのか?

 読者の皆様、久しぶりです。ネタ切れで暫く更新を止めていましたが、ちょっとしたネタを思いついたので投稿します。

 以前から、私は医学部の講義・試験について「講師が我が道を通し、学生が十分理解できるかは二の次, 三の次」, 「その為、定期試験の際には過去問・ヤマ集が必要となる」と指摘してきました。大学指定の教科書や講義資料よりも、過去問・ヤマ集を用いた方が効率的に試験対策が出来、尚且つ留年のリスクを減らす事に繋がるという事です。

4月から医学部に入る人へ。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

医学部教育の問題点 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 但し、見方を変えれば「知識の定着(とそれの応用)よりは、出題者の望む回答を書いて提出し、出題者の合格基準を満たす点数を叩き出す」事を学生は求められている訳です。このままで本当に良いのでしょうか?臨床の現場(外来, 病棟)に出たら、そこに居るのは試験監督や、設問内に登場する架空の患者ではありません。看護師・上級医ら医療スタッフと、様々な背景を持つ患者とその家族です。

 かつて日本軍の教育機関海軍兵学校, 陸軍士官学校, 陸軍大学など)では、学生へ『模範回答(日清・日露戦争から得られた戦訓)』通りの答えを出す事が要求されました。そして、卒後の序列は成績で決定されました。つまり、試験で『模範回答』を忠実に再現した者ほど、昇進を約束されるのです。このような教育を受けた人は、シナリオが決まっている平時の訓練には強いのですが、不測の事態が生じやすい戦時では十分に機能しません。

 こうした教育体系が裏目に出たのが、太平洋戦争だったのです。日本軍の司令官の人事は年功序列と成績(『模範回答』への忠実度)重視だったのに対し、米軍は成果主義・合理主義を徹底し、最新の戦訓も学習/吸収する態勢が完成していました。太平洋戦争開戦時、日本軍は真珠湾に居る米海軍太平洋艦隊へ航空攻撃で大打撃を与え、航空戦力の重要性を示しました。しかし、日本海軍の将官らは、従来の「艦隊決戦(大型戦艦同士の決戦を重視する)思想」から離脱する事は出来ませんでした。他方の米軍は、太平洋艦隊の司令官を降格・解任。その上で、航空戦力の重要性をいち早く学習した結果、旧態依然の日本軍を追い込んで行ったのです。

 「教える側が求める『答え』」を学生側に求め続けるのは実用性に乏しいことを、大学側はもっと認識すべきでしょう。その上で、学生が確実に知識を身につけ、それを実戦で応用できるカリキュラムを構成する努力が必要だと私は考えています。