Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

東京女子医大の混乱から日本の現状を憂う

 皆さんこんばんは。現役救急医です。最近色々と忙しく、ブログもYouTubeも全然更新できていません。頑張ればネタの一つや二つは思いつく筈ですし, 実際色々興味のあるトピックは存在するのですが、いかんせん纏めてからブログやYouTubeに上げる時間的・体力的・精神的余裕が明らかに減じています。

 言うまでもなく、COVID-19の第7波が影響しています。政府は『まん延防止措置』や『緊急事態宣言』などの発出を見送ったまま来ていますが、そのせいもあってか感染拡大は一向に落ち着く気配がないように思われます。私個人としてはコロナワクチン接種を遍く国民に実施できている(或いはその素地が揃っている)のであれば、その選択肢は必ずしも『悪』でないと思う反面、第1波から6波に至るまで「各地の医療機関と保健所が増大する感染者に対処しきれず、医療スタッフやその同居家族の感染に伴う人員不足等も災いしてCOVID-19以外の患者の診療もままならない」ということを繰り返してきた事に対する抜本的な対策が一切講じられていないことに不満を禁じ得ません。

 

 そんな中で、また日本の医療の先行きに不安を生じさせるニュースが飛び込んできました。以下、週刊文春の記事を適宜引用・参考にしつつ説明してみます。

 東京女子医科大学ICUでは2014年に、小児患者への鎮静薬(プロポフォール。本来小児には禁忌と考えられている)を過剰投与したことに伴う死亡事故が発生していましたが、その反省を活かして分散していたICUを統一し, 新たに小児ICUを設け, 新たに教授を招聘する等の対策を講じた結果、ICUの機能が一旦『回復』していたそうです。

 しかしながら、女子医大の経営陣である理事長らが小児ICUの採算や新たに招聘された教授の給与にいちゃもんを付けたせいでその教授が辞任し, その教授に続いて医師が辞めたため小児ICUが無くなり, その結果、術後管理に高度な技術が必要な臓器移植手術患者やその他の術後患者, 重症患者の診療(=ICU診療全般)に影響が出つつあるというのです。

東京女子医科大学病院の「ICU崩壊状態」を招いた、患者の命を軽視した経営方針と恐怖政治 | 文春オンライン

《患者の命が危機に》東京女子医科大学病院のICU医師9人が一斉退職「ICU崩壊状態」で移植手術は中止か | 文春オンライン

 女子医大については他にも、経営陣が医療スタッフのボーナスをカットし, 病院経営で赤字を出す一方で、理事長ら経営陣の報酬を増やす等の経営陣による不正・腐敗が指摘されています(そのような経営陣に不満を抱いて離職するスタッフが相次いでいるそうです)。

(2ページ目)「いつ事故が起きても不思議ではない」名門・東京女子医大が“存続の危機” 理事長“女カルロス・ゴーン”の「疑惑のカネ」《内部資料入手》 | 文春オンライン

 

 要は、無能な経営陣が権力を振り回すことで現場の医療スタッフの努力やモチベーション, これまでの成果を台無しにし、自分達は蓄財に勤しんでいるということでしょう。組織内の自浄作用が正常に機能したり, 行政(≒警察[と検察?])や司法(≒裁判所)による介入が行われたりすれば多少なりとも女子医大の状態を改善できるとは思うのですが、記事から察する限り現段階では難しいのかもしれません。

 最近私は『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(小泉悠 著, 株式会社PHP研究所という本を読んだのですが、その中でプーチン政権について以下のような記述があります。

プーチンが大統領に就任したとき、ロシアはガタガタの状態でした。(中略)こうした状態にある祖国を前にして、プーチンは『戒厳司令官』として自らを規定し…(中略)プーチン大統領は政権に逆らう大富豪を粛清して経済やメディアに対する国家統制を強め、チェチェンの分離独立主義者を軍事力で鎮圧していきました。」

 

「この間、ロシア経済は好景気を経験し、(中略)プーチンは一時期『名君』扱いでした。(中略)問題は、戒厳令がいつまでの解除されなかったことです。」

 

「しかも、強権による秩序の回復は政権の外側においてであって、プーチンに近い政財界の有力者たちの間では途方もない蓄財やコネ人事が罷り通るようになっていきました。」

 実際、プーチンに対して批判的だったジャーナリストの殺害や, 亡命中の元KGB職員の暗殺・暗殺未遂, そして近年では野党政治家のアレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂といった事件が発生しています。また近年、周知のように、プーチン政権はシリア・ウクライナへの軍事介入を行い, 今年には遂にウクライナへの本格侵攻を開始し, 国内では(多数派ではないようですが)侵攻を批判する人々への弾圧を強化し, 統制下にある国営メディア等の手段を通じて侵攻を強引に正当化しています。

 こうして対比してみると、今の女子医大の経営陣とプーチン政権が「全く同一」とまで行かなくとも、類似点を幾つか有していることが分かります。我が国は1945年の第二次世界大戦/アジア・太平洋戦争における敗戦をきっかけに米国から民主主義を受け入れ, 大日本帝国憲法に代表される強権的な支配体制から『卒業』した筈です。しかし21世紀・令和の現状はどうでしょうか?森友・加計学園問題厚労省の賃金統計不正などに代表される政治家・高級官僚による不正が未だに見られ、中には有耶無耶に処理されて、本来責任を問われるべき人間が『野放し』になっているような有様です。政府ですらその様ですから、その他の組織(地方自治体や教育機関, 一般企業, 大学病院など)は言うまでもないでしょう。

 日本国内で生じている諸問題の根底に、上記のような『宿痾』があるような気がしてなりません。