さて、昨日の夜あたりから、感染症診療に関する著作等で有名な岩田健太郎先生が、YouTubeにアップロードした動画が話題になっています。
※追記: 岩田健太郎先生ご自身の意思で、動画を削除されています。よって下記リンクの動画は視聴できません。(2020年2月20日午前七時確認)
当然、医療関係者(以下では、それ以外の分野の方のツイートも含まれていますが)の間では様々な意見が出ています。
ダイアモンド・プリンセス号の問題は、専門なしのたかだか学部卒である厚労省の官僚たちが国難よりも自分たちのプライドを優先して全く有効な対策を打てておらず、もはや人災と言っても過言ではないと思う。こんな愚かな人たちに公衆衛生政策を担って欲しくないです。
— sekkai (@sekkai) 2020年2月18日
(´-`).。oO( 岩田さんが告発したダイヤモンドプリンセスの現場は既視感がありすぎ.まさに自分が土方SIの現場で何度も遭遇したヤツ….統一的な意思決定機構もなく,正しい問題管理もなく,責任をとるヤツも居ず,ただ現場が不休で正しくない手順で頑張り続ける系の,伝統的な日本の危機管理芸… )
— Yuta Kashino (@yutakashino) 2020年2月19日
我々感染症医は日頃から感染管理で現場に対する介入を行います。その際、アドバイスしつつ現場への敬意がなけりゃうまくいきません。問題指摘は大いにけっこうなんですが、突然やってきて現場(厚労省)への配慮が1ミリもない場合、今後の感染症業界と厚労省の協力体制にヒビが入りかねません
— EARLの医学ツイート (@EARL_Med_Tw) 2020年2月19日
私の周囲でも、「現場は現場で大変なんだ。そこへ急に飛んできて、難癖を付けて帰って行くのも頂けない」, 「もうちょっと発信方法を考えてくれ」, 「DMATにしてみれば、背後から刺されるようなこと」などと愚痴る人もいました。
では、岩田先生は何を問題にしているのか。私なりに解説してみます。
① 感染症診療の原則は、医療スタッフを病原体から守るのが原則。しかし、問題の船『ダイヤモンド・プリンセス』内では、それが徹底されていない。感染リスクがある場所(動画では『レッドゾーン』として言及。発熱した患者を収容し、医療スタッフがマスク, 防護服, グローブ等を着けるスペース)と, そうでない場所(動画では『グリーンゾーン』として言及。医療スタッフらが防護服を着ないで過ごすスペース)の区分けがなされていない。その為、DMAT医療スタッフや検疫官も感染してしまった。
② 現場で検疫官・DMAT医療スタッフを統括する厚労省官僚は、岩田先生や環境感染学会といった専門家の助言を受けても、実践していない。
③ 挙げ句の果てに、岩田先生を一日でお払い箱にする。環境感染学会も、自分らの感染が嫌だったこともあり、数日で退去。どういう訳か、助言をしに来る専門家を全員邪魔者扱い。
要は、感染症の専門家を『ダイアモンド・プリンセス』対処チーム(主にDMATの医療スタッフと、厚労省官僚からなる)内に加えずにやっていたということです。
※DMATの詳細については、以下のリンクをご参照ください。
東日本大震災から8年。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー
どういう訳か私は、ノモンハン事件の際に「ソ連軍の兵力や火力が優越であり、下手に出ると壊滅する」という諜報部将校らの助言を撥ねつけて無謀な突撃を繰り返して損耗を重ねた関東軍・日本陸軍や、水雷専門でキャリアを積んだ士官が年功序列で第一航空艦隊司令官(航空部隊)に繰り上がってしまい、そのままミッドウェー海戦で指揮を執る羽目になった(そして大敗北を喫した)日本海軍を連想してしまいました(詳細は以下を参照)。
本の紹介(13); 『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー
「現場の俺たちは一生懸命やっているんだ!そんな時に『外野』の連中からの『野次』は不要だ!」, 「俺たちには俺たちのやり方があるんだ!」という、なんとなく体育会系的で視野の狭い思考回路が垣間見えたような気がしました。よく考えると、厚労省官僚, 特に医系技官の多くは医学部を卒業し医師免許を取ったら即入省している ー つまり、初期研修3年+後期研修で臨床経験を積み、尚且つ専門医資格等を取得する過程が欠落している訳です。そうゆう人たちが、『ダイヤモンド・プリンセス』において(感染症でなく)災害時の対応を専門にしているDMATの指揮を執っている様は、冷静に考えれば異様ではありませんか。これを契機に、厚労省官僚の養成や採用について見直しが進めば良いのですが、どうなることやら。
断っておきますが、今回岩田先生が批判したのは「厚労省官僚らの『ダイヤモンド・プリンセス』に対する対応」のみであり、DMATに対する批判は控えています。また『ダイヤモンド・プリンセス』以外の日本国内の情勢に対する対応に関しては、この動画で言及していません。そして最後に、一番重要と思われるメッセージを誠に勝手ながらTwitter上より拝借して今日の記事を締めたいと思います(以下を参照)。
そして、あくまでもここまでの話はクルーズ船の話です。日本全体がクルーズ船の状態というわけではないので、そこは分けて考えましょう。我々が普段からやる感染防御は何ら変わりません。
— EARLの医学ツイート (@EARL_Med_Tw) 2020年2月19日