Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

話題の岩田健太郎先生のビデオを見てみた。

 さて、昨日の夜あたりから、感染症診療に関する著作等で有名な岩田健太郎先生が、YouTubeにアップロードした動画が話題になっています。

※追記: 岩田健太郎先生ご自身の意思で、動画を削除されています。よって下記リンクの動画は視聴できません。(2020年2月20日午前七時確認)

 当然、医療関係者(以下では、それ以外の分野の方のツイートも含まれていますが)の間では様々な意見が出ています。

私の周囲でも、「現場は現場で大変なんだ。そこへ急に飛んできて、難癖を付けて帰って行くのも頂けない」, 「もうちょっと発信方法を考えてくれ」, 「DMATにしてみれば、背後から刺されるようなこと」などと愚痴る人もいました。

 では、岩田先生は何を問題にしているのか。私なりに解説してみます。

感染症診療の原則は、医療スタッフを病原体から守るのが原則。しかし、問題の船『ダイヤモンド・プリンセス』内では、それが徹底されていない。感染リスクがある場所(動画では『レッドゾーン』として言及。発熱した患者を収容し、医療スタッフがマスク, 防護服, グローブ等を着けるスペース)と, そうでない場所(動画では『グリーンゾーン』として言及。医療スタッフらが防護服を着ないで過ごすスペース)の区分けがなされていない。その為、DMAT医療スタッフや検疫官も感染してしまった。

② 現場で検疫官・DMAT医療スタッフを統括する厚労省官僚は、岩田先生や環境感染学会といった専門家の助言を受けても、実践していない。

③ 挙げ句の果てに、岩田先生を一日でお払い箱にする。環境感染学会も、自分らの感染が嫌だったこともあり、数日で退去。どういう訳か、助言をしに来る専門家を全員邪魔者扱い。

 要は、感染症の専門家を『ダイアモンド・プリンセス』対処チーム(主にDMATの医療スタッフと、厚労省官僚からなる)内に加えずにやっていたということです。

※DMATの詳細については、以下のリンクをご参照ください。

東日本大震災から8年。 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 どういう訳か私は、ノモンハン事件の際に「ソ連軍の兵力や火力が優越であり、下手に出ると壊滅する」という諜報部将校らの助言を撥ねつけて無謀な突撃を繰り返して損耗を重ねた関東軍日本陸軍や、水雷専門でキャリアを積んだ士官が年功序列で第一航空艦隊司令官(航空部隊)に繰り上がってしまい、そのままミッドウェー海戦で指揮を執る羽目になった(そして大敗北を喫した)日本海軍を連想してしまいました(詳細は以下を参照)。

本の紹介(13); 『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』 - Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

 「現場の俺たちは一生懸命やっているんだ!そんな時に『外野』の連中からの『野次』は不要だ!」, 「俺たちには俺たちのやり方があるんだ!」という、なんとなく体育会系的で視野の狭い思考回路が垣間見えたような気がしました。よく考えると、厚労省官僚, 特に医系技官の多くは医学部を卒業し医師免許を取ったら即入省している ー つまり、初期研修3年+後期研修で臨床経験を積み、尚且つ専門医資格等を取得する過程が欠落している訳です。そうゆう人たちが、『ダイヤモンド・プリンセス』において(感染症でなく)災害時の対応を専門にしているDMATの指揮を執っている様は、冷静に考えれば異様ではありませんか。これを契機に、厚労省官僚の養成や採用について見直しが進めば良いのですが、どうなることやら。

 断っておきますが、今回岩田先生が批判したのは「厚労省官僚らの『ダイヤモンド・プリンセス』に対する対応」のみであり、DMATに対する批判は控えています。また『ダイヤモンド・プリンセス』以外の日本国内の情勢に対する対応に関しては、この動画で言及していません。そして最後に、一番重要と思われるメッセージを誠に勝手ながらTwitter上より拝借して今日の記事を締めたいと思います(以下を参照)。