Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ウクライナ情勢に関する雑感など。

 こんばんは。現役救急医です。今日は一応病院に出勤中ですが、COVID-19第6波の影響をまた体感し, 人様の健康や生命を預かっているという事実を再認識し, また国内外の陰鬱となるようなニュースを思い出して心が乱れつつあります。心の整理を付けたいので、ブログを書いています。

 2/27夜9時からNHK Gで放映されていたNHKスペシャルを私は視聴し、ウクライナ情勢に関するこれまでの経緯や識者の解説を聞き、色々と私なりに考えていました。その番組曰く(私の記憶なので不鮮明な部分がある可能性をご了承下さい)、ウクライナのゼレンスキー大統領に関してロシア国営放送等は「既にウクライナから脱出した」などと言う情報を公然と流していたそうですが、ゼレンスキー氏本人は自ら首都キーウの大統領官邸で撮影した動画をSNSに上げて, ウクライナ国民へ連帯と侵略者ロシアへの抵抗を呼びかけたそうです。

www.bbc.com

Twitter上の軍事・国際情勢の有識者や各種メディアアカウントも述べていますが、ウクライナ側の抵抗はロシア軍・ロシア政府中枢の予想を上回っているそうです。その反面、ロシア軍の規模がウクライナに対して優位であることには変わりなく、依然、首都キーウをはじめとするウクライナの国土が蹂躙されていく危険性は存在しています。

 昔このブログで紹介した書籍『知略の本質』(著者: 野中郁次郎, 戸部良一ほか, 日本経済新聞社出版)には、湾岸戦争イラク戦争の経緯の他に、第二次世界大戦独ソ戦と, バトル・オブ・ブリテン及び大西洋における英独の戦い)やインドシナ戦争ベトナム戦争のような、不利な立場から形勢を逆転させた戦時中の事例も紹介しています。私はウクライナ国民や政府を取り巻く状況を見て、インドシナ戦争ベトナム戦争において勝利を手にしたホーチミン(或いは旧ベトナム民主共和国)を連想してしまいました。

 ホーチミンらは、経済力や軍事力で優るフランス(インドシナ戦争)・米国(ベトナム戦争)に抵抗する為に、ソ連・中国といった同盟国からの支援を取り付けるに留まらず, ジャングルのような過酷な環境へ敵を誘い込んでゲリラ戦によって翻弄したり, (戦術的には失敗でしたが)『テト攻勢』と呼ばれるベトナム共和国(当時)内の都市部でのゲリラ戦を展開して米国世論に「必ずしも自軍は優位でなかった」との認識や反戦感情を生じさせたり, といった巧みな戦術・戦略で軍事大国を翻弄しました。ベトナム国民や兵士らも民族自決・独立の為の自己犠牲すら厭わない覚悟を各所で示していたそうで、その背景には、リーダーであるホーチミンの巧みな演説やコミュニケーション力等があったことは言うまでもないでしょう。

 ニュース等ではロシアへの抵抗に自ら志願するウクライナ市民の姿が多く見られ, 識者らも「ウクライナ市民がロシアへ容易に屈服するとは思えない」といった趣旨の見解を述べています。欧米当局からキーウ(ないしウクライナ国内)からの脱出を勧められても断り, 自ら動画をアップロードして抵抗と団結を呼びかけたゼレンスキー氏を見ると、ついついホーチミンに重なって見えてしまうのです。

 正直なところ、プーチンの身勝手な妄信の為に前線へ送られて死亡・負傷するロシア兵らも気の毒ですし, 自国の独立維持のために抵抗するウクライナ兵やウクライナの民間人の犠牲が増え続ける状態も(本来なら)人道的見地から好ましいものとは言えません。それでも、ウクライナ国民や, その代表たるゼレンスキー氏らウクライナの政治家らの決意の固さを見ると、「応援せずには居られない、なんとしても勝ち残って欲しい」と願わずにはいられないのです。

 

 

 こうした『ロシアvsウクライナ』の対決を見て、もう一つ私の脳裏に浮かんだのが今後の中国の出方です。中国もロシア同様、核兵器を多数保有している軍事大国で, 国連安保理常任理事国であり, また国内では強権的な独裁体制を敷いています。中国が日本のみならずアジア諸国(台湾, ベトナムなど)へ領海・領土面を含む様々な局面で干渉を強めていることはもはや言うまでもないでしょうが、中国はロシアという『先例』を見て、今後の自分らの出方を既に考え始めていることは想像に難くありません。

 「まず台湾が先に狙われる」という見解は多くの人が同意するでしょうし, 「日本も危ういよ」という考え方もあながち間違いでないと私も思います。それに加えて、私が「台湾の次くらいに中国の脅威に直面するのでは?」と思っているのは朝鮮半島です。北朝鮮が(ロシアのみならず)中国にとっても戦略上重要な存在であることは、朝鮮戦争時に北朝鮮側へ中国が義勇軍を送ったことや, 中国が北朝鮮核兵器保有にイチャモンを付けないこと等からも明らかですが、古代に朝鮮半島に存在した王朝の起源中国の王朝に求める記述が中国側の史書に残されていたり, 漢王朝により朝鮮半島楽浪郡帯方郡といった『植民地』が置かれていた経緯も併せて考えると、台湾と同様に, 朝鮮半島に対して中国が公然と介入して武力衝突に発展させるのは時間の問題とすら思えてきます。

 

 いずれにせよ、ロシア(や, 将来起こりうる中国)の大義に欠ける軍事介入は、独裁・強権的な指導部の自己満足に過ぎず、末端の兵士や, 戦火の脅威にさらされる市民を不幸に陥れるだけです。どんな理由があれ、国際法や他国の主権, 自国民や他国民の人権を踏み躙るような戦争行為は許されません。今回のロシアの軍事行動はロシア国民の間でも反発を生んでいるそうですが、我々日本の市民も国際社会の一員として、抗議の意思表示を続けることが不可欠です。