Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

ウクライナのインフラ等を空爆したロシア軍関係者が身バレ

 みなさんこんばんは。お久しぶりです。忙しすぎて、またまたブログ更新が止まってしまいました。YouTubeなんて8月以来全然更新してません。今回は、Twitter等を見ていて気になったニュースを紹介してみます。

 以前もこのブログ紹介していますが、欧米には'Bellingcat'と呼ばれるジャーナリストや専門家らからなる有志の調査報道集団が居ます。そのグループが10/24に、非常に興味深い記事を発表したので紹介してみます。

www.bellingcat.com

 今年(2022年)10/10にロシア軍はウクライナ各地をミサイルで攻撃し、120名以上の死傷者が出ました。この攻撃では公園や住宅地などが被害を受けていたにも関わらず、ロシア当局は「巡航ミサイルによる精密な攻撃でウクライナ軍の司令部などを狙った」という趣旨の発表を行っています。その後も10/11の空爆でキーウ, リヴィウ等の都市で停電が生じる等、市民生活を支えるインフラへの攻撃が続きました。

ウクライナ検察、ロシアの空爆に刑事手続き ミサイル100発超 | 毎日新聞

アメリカ、「残忍な」攻撃とロシアを非難 ウクライナ各地への砲撃 - BBCニュース

ロシア軍、ウクライナ首都のエネルギー施設空爆 3人死亡 | ロイター

空爆を受けた現場に残った残骸から、これらの攻撃に用いられたミサイルは大半が'Kalibr'(洋上発射型), 'R-500'(地上発射型), 'Kh-101'(空中発射型)の3種類だったことが判明しています。

 そんな中、Bellingcat'The Insider''Der Spiegel'といったメディアと協力して調査を行い、これらのミサイルの発射に関与したロシア軍の関係者を特定しました。その連中が勤務しているのは"Main Computation Centre of the General Staff"(GVC)という部署であり, モスクワの国防省サンクトペテルブルグの海軍本部を拠点にしているそうです。

 

 ここで気になるのが「こんな重要な部署の存在やメンバーの名前がどうしてこんな簡単にバレているのか?」ということです。まずBellingcat・The Insider・Der Spiegelのチーム(以下、『合同チーム』と呼ぶは、ミサイルの製造やプログラミングに特化したロシア軍の教育機関モスクワにある戦略ミサイル軍アカデミーと, ペテルブルグ郊外にある海軍工学研究所の卒業生に関する公開データを入手しました。ロシアではネット上で個人情報が売買されており'Telegram'というSNS上でこれら教育機関の卒業生の電話番号GVCのスタッフの電話番号を『発注』することで必要な個人情報が手に入ったそうです。卒業生の中で電話番号がGVCに紐づけられている人の住所は皆、ロシア軍参謀本部(モスクワ市, Znamena Street 19番地)を住所として登録していました。

 その後、合同チームはGVCの最高責任者であるRobert Branov少将の携帯電話のメタデータの記録を入手しました(上記同様、ネット上の闇市場で『発注』)。そして2022年2/24〜4月末までのBranovの通話履歴126件を解析した結果、ウクライナへの大規模なミサイル攻撃の前に特定の電話番号から通話が行われていたことが判明しており、その電話番号の主を調べたところ、Igor Bagnyuk中佐という人物が浮上したのです。

 そこで合同チームは、Bagnyukの携帯電話メタデータを入手しました。このデータから、Bagnyukがウクライナ侵攻以降に20名以上のGVCのエンジニアやIT専門家と頻繁に連絡を取っていることが判明したので、特に頻回に連絡を行っており, GVC将校と紐付けられる電話番号をネット上で入手しました。それらの通話記録を解析した結果、Bagnyukと頻繁に連絡を取っているチーム33名(以下、『ミサイルチーム』と呼称)の構成が判明したのです。またミサイルチーム内の通話を解析した結果、チームは3つの班に分けられており, それぞれ別のミサイル(冒頭で紹介したKalibr, R-500, Kh-101)を担当していることも分かりました。

 

 このミサイルチームには、様々な背景を持つ人間が参加しているようです。以下に具体例を示します。

  • Bagnyuk:1982年生まれ。2004年に戦略ミサイル軍アカデミーを卒業し(専攻はロシア軍のミサイルのITシステム)、地方の部隊に勤務後、2010年にモスクワに異動しGVCに所属。2015~2017年の間に、シリアでの軍事作戦に従事した可能性あり。
  • Matvey Lyubavin少佐:1992年生まれ。2009年にNakhimov海軍学校を卒業後, 2014年に海軍工学研究所を卒業(専攻は特殊なシステムのIT自動化)。その後銀行のIT担当などの一般職に従事し、海外旅行やファッションショーの開催などに興じたこともある。2020年頃には既にGVCのミサイル航路事前計画ユニットに勤務していた。

ミサイルチームのメンバーの大半は20代後半と若く, 最も若いメンバーは24歳でした。多くの者が民間の数学教育ないしIT教育を受けていた一方で、全員が戦略ミサイル軍アカデミーや海軍工兵研究所で訓練を受けていました。上述の通り、皆モスクワやサンクトペテルブルグといった司令部で勤務しています。

 

 厳重な機密情報管理が求められる組織の一つである軍の中でも, とりわけ機密性が高い組織の構成員の名前や連絡先までもがネット上で売買されているということ自体が正直驚きですが、今回はそのお陰で加害者の素性がこうして白日の下に晒されることになりました。記事の中にも書いてあったんですが、ジャーナリストから直接電話でウクライナでの空爆のことや自身の所属を聞かれたミサイルチームのメンバーたちは回答を拒否したり, 「そもそも自分は軍人じゃない」と関与自体を否定したりしたそうです。ですが、いずれにせよ世界中の人間 − そして一部の良識あるロシア国民 − が『ロシアによる戦争犯罪』という現実に目を向け、各々の記憶に留めています。プーチンらロシアの上級国民や, 侵攻・虐殺に関与した軍人らは死ぬまで糾弾され続けるでしょうプーチンとその取り巻き連中については、今後起訴され処罰されるかどうかは予測し難いですけれども)