Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

【医療関係者向け】人工呼吸器設定の話

 今日は久しぶり?に医療・医学ネタに戻ろうかと思います。4月から研修医になる人も居るでしょうから、人工呼吸器の話をしてみます。

 

(1) まずは適応の話から

 人工呼吸器及び気管挿管の適応となるのは次の通りです。

1. 気道の問題:  意識障害, 上気道の閉塞, 喀痰の排泄ができない

2. 陽圧換気が必要な状態:  肺炎, 心不全, ARDS, 喘息・COPD急性増悪, 神経筋疾患

 コンプライアンス(肺の膨らみやすさ)が低下したり、気道抵抗(空気が気道を通りやすいかどうか)が低下すると、呼吸仕事量(呼吸筋の仕事量)が増大します。この仕事量を人工呼吸器で減らす事で、呼吸筋による酸素消費量を減らすことができます。

 また酸素化(PaO2の適正化)と換気(CO2の排泄)を、原疾患が治療されるまで生命維持が出来るように改善・調節する役割もあります。

 

(2) モードの話

CPAP

 患者の自発呼吸に完全に依存。呼気・吸気を通じて一定の陽圧をかけるモード。

② A/C (Assist/Control)

 自発呼吸があればassistし、呼吸が無ければcontrolするモードです。このモードには更に従量式(Volume Control Ventilation: VCV)と従圧式(Pressure Control Ventilation: PCV)の2つが含まれます。

1. VCV:  一回換気量吸気流量を設定する。気道内圧は患者(の状態)次第。

2. PCV:  吸気圧吸気時間を設定する。一回換気量は患者次第。

③ SIMV (Syncronized Intermittent Mandatory Ventilation)

 設定した回数のみassistやcontrolが行われますが、設定回数を超えた吸気は患者の自発呼吸頼みという設定です。患者は、assistないしcontrolに合わせて1回毎の呼吸回数を調整するということができません。よって、設定した呼吸回数が減ると呼吸仕事量が増大してしまいます。

④ PS (Pressure Support)

 患者の自発呼吸に合わせ、設定した圧で補助する。患者の吸気努力頼みであるため、吸気時間や一回換気量は一定しない。

 

(3) では、設定してみましょう

 人工呼吸器の設定項目を大別すると、次のようになります。

1. 酸素化:  FiO2(吸入酸素濃度), PEEP(Positive End-Expiratory Pressure: 呼気終末陽圧)

2. 換気:  一回換気量または吸気圧, 呼吸回数

3. その他

ここではA/Cモード(VCVとPCV)に関して、設定すべき項目を説明してみます。

① VCV

 1. 呼吸回数:  PaCO2が高い場合、増やす。但し、増やし過ぎると一回当たりの呼吸時間が短くなってしまうので注意(特にCOPDの場合)。

 例)  ①気道確保・神経筋疾患; 10~16, ②COPD・喘息; 8~12, ③肺炎・肺水腫; 12~24, ④ARDS; ~35

 2. 一回換気量:  (理想体重)[kg] x 6~8[mL] 

 例)  上記「呼吸回数」の例)①~③の場合、6~8 mL x 理想体重で設定。また例)④の場合、6 mL x 理想体重で設定。

 ※理想体重は男: 50+0.91x(身長[cm]-152.4), 女: 45.5+0.91x(身長[cm]-152.4)で計算。最近はこれを簡易に計算できるスマホのアプリもあります↓

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 3. FiO2:  最初は100%で設定。その後はSaO2>90 %, PaO2>60 mmHgを維持出来るよう適宜減量する。

 4. PEEP:  説明が抜けてしまいましたが、ざっくり言うと「肺胞が虚脱しないように圧力を掛けることで、ガス交換が出来るようにする」ものです。最初は5で設定しておき、それでもSaO2, PaO2の改善が無い場合(特にARDSの場合)は適宜8~20の範囲で増減します。

 5. その他:  VCVでは吸気流量の調節も必要になってきます。これを上げると吸気時間が短縮し、下げると吸気時間が延長します。また、人工呼吸器の圧波形モニターで凹みがある場合、それは吸気流量が不足している(患者と呼吸器が同調せず、呼吸仕事量が増大している)サインです。なお吸気流量は60 L/min.から開始し、40~90 mL/min.の間で適宜調整します。

② PCV

 1. 吸気圧:  目標とする一回換気量となるように適宜調整。

 2. FiO2, PEEP:  VCVに同じく。

 3. その他:  PCVでは吸気時間の設定も必要です。これが長過ぎると、患者の呼気が始まった段階でも陽圧がかかることになります。また逆に短過ぎても、患者の吸気が続いている最中に陽圧がなくなってしまいます。人工呼吸器モニターの圧・流量・換気量波形を参考に調整します。

 

(4) 最後に

 文章ばかりでは分からない方も多いでしょうし、また今回紹介したのはごく初歩的なものです。今回参考とした文献を提示しますので、興味のある方は是非ご一読を。

『Dr.竜馬の病態で考える人工呼吸管理』田中竜馬 著, 羊土社

 また、この本の著者 田中竜馬先生は定期的に都内で人工呼吸器に関する講義を行なっていらっしゃいます。「本だけではどうも分からない」という方は是非こちらも行かれては如何でしょうか。私も東京観光がてら出席してみましたが、かなり勉強になりました。

www.intensivecare.club