Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

Clostridioides difficile感染症の診断と治療

 みなさんこんにちは。現役救急医です。今日は、偽膜性腸炎の治療や診断について、UpToDateを基にまとめてみようと思います。なお、偽膜性腸炎の起炎菌は以前まで、『クロストリジウム・ディフィシル』と呼ばれていましたが、近年になり"Clostridioides difficile"へ変更になったそうです。長ったらしいので、以下"CD"と呼びます。また、『CD感染症』という呼称も長ったらしいので、以下"CDI(Clostridioides difficile infection)"という略称を使用します。

 

(1) 症状について

 典型例では抗菌薬使用下でCDIを発症することが多く, 多くの場合、抗菌薬治療から2週間以内に発症する(稀に、抗菌薬治療から10週間後に発症した症例もあり)。但し市中感染CDIの約30%で抗菌薬使用歴がなかったという研究もあるので、「抗菌薬使用歴なし=CDIではない」という判断はすべきでない。他にも、65歳超, 最近の入院歴あり, プロトンポンプ抑制薬の投与などもリスクファクターである。

 CDIでは、24時間に3回以上の水様便が特徴的な症候である。他にも、下腹部痛・下腹部触診時の圧痛, 発熱, 吐き気, 食欲不振といった症状も呈するまたCDIでは、WBC数が平均で15,000/μLと上昇していることもある。

 

① 重症CDIの診断基準

 重症CDIの場合、下痢, 下腹部or腹部全体の痛み, 腹部膨隆, 発熱, 循環血液量低下, 乳酸アシドーシス, 低アルブミン血症, クレアチニン上昇, WBC>40,000/μLといった症候が見られる。重症CDIの基準には、WBC>15,000/μL, ないし 血中クレアチニン≧1.5 g/dL といった項目が含まれる。

 

② 劇症型CDI

 劇症型CDIでは、以下の症候のうちいずれかを呈する。

  • 低血圧 or ショック:  多臓器不全へ進行することもある。血圧低下の原因が、腸管穿孔・腹膜炎である場合もある。
  • イレウス:  ほとんど下痢をせず、急激にイレウスとして発症することもある。そのような患者では多くの場合、結腸が壁肥厚を起こして拡張している。
  • 巨大結腸症全身状態不良で, 画像上大腸の拡張(結腸の内径が>7 cm and/or 盲腸の内径が>12 cm)を認める場合に疑う。腸管穿孔を起こして重症化することもある。

 

③ 再発性CDI

 「適切な治療中はCDIが改善しているものの、治療が終了/中断した2~8週間後に症状が再燃したもの」を再発性CDIと呼ぶ。CDIへの治療終了後30日以内にCDIが再燃する患者は、実に25%にのぼる。CDIが再発した患者は、その後も再燃するリスクが顕著に高い。また再発のリスクファクターには、65歳超, 基礎疾患が重篤である, CDI治療中も抗菌薬治療が必要である, toxin Bへの抗体を介した免疫反応が欠如, といったものが挙げられる。

 再発性CDIは、軽症・重症・劇症型いずれの形も取りうる。1,500名を超えるCDI患者を対象にした研究では、再発性CDI患者の34%が入院となり, 28%が重症化し, 4%が劇症型結腸炎を発症した。

 

 

(2) 診断

 CDIは、CD toxin B遺伝子が核酸増幅検査(NAAT; nucleic acid amplification test)陽性, 或いは 便のCD toxin検査陽性 のいずれかによって診断する。

 下痢があってCDIが疑われる患者では、水様便のみをCD検査に提出すべきである。またCD診断の為の検査は、臨床的に顕著な下痢のある患者のみで行うべきである。

 イレウスがありCDIが疑われる患者では、直腸拭い液へのtoxin検査, ないし 嫌気性培養を行う場合がある; イレウスを伴うCDIでは、直腸拭い液CD培養の感度は高い。

 CDIを検査によって診断するには

  • NAATのみ実施
  • 1) グルタミン酸脱水素酵素(GDH; glutamate dehydorgenase)抗原, 及び toxin A・toxin Bに対する酵素免疫法(EIA; enzyme immunoassay) で最初にscreeningを行い、2) その後、必要に応じて(i.e. GDHに対するEIA, toxin A/Bに対するEIA のどちらかが陰性なら)NAATを実施

のいずれかが好まれる。

 ※: UpToDateには、NAATやGDH抗原EIA, Toxin A・B EIAの感度・特異度などについて各論が述べられています。他にも、細胞培養による細胞毒性検査法, 選択的嫌気性培養についても言及されていますが、冗長になるので今回は割愛します。ごめんなさい。

 他に、診断の為に補助的に用いられる検査法に以下のようなものがある。

1. 画像診断

 重症CDI・劇症型CDIの症状がある患者では、中毒性巨大結腸症, 腸管穿孔などの有無を診断する為に、腹部・骨盤の画像検査が必要である。経口投与, 及び 静注の造影剤を用いたCTが好まれる。

 中毒性巨大結腸症では画像上、

  • 結腸拡大(内径>7 cm)
  • 小腸の拡大, "air-fluid levels(小腸閉塞or虚血に似る)", "thumb printing(小腸壁がホタテガイ状になる?)"

が見られる

 他にCD腸炎で画像上見られる所見には、強い結腸壁肥厚と低吸収性の壁肥厚が含まれる。

 画像上、偽膜性腸炎(腸管内膜の重篤な炎症)と一致する所見は、CDIの可能性を強く示唆する。大腸の炎症と粘膜の浮腫によって形成される"accordion sign"(経口投与造影剤が肥厚した結腸膨起の間に溜まることで見えるもの)は、偽膜性腸炎である可能性を強く示唆している

2. 内視鏡

 下部消化管内視鏡は、1) CDIの典型的な症状を呈する患者, 2) 検査が陽性の患者, and/or 3) "empiric treatment"に反応している患者 では不要とされる。一般的に、内視鏡が必要となるのは、病変の直接観察 and/or 腸管粘膜の生検 が必要となる別の診断が疑われる場合である。他にも、イレウスないし劇症型CDIで下痢のない患者にて、内視鏡は偽膜を直視できるので有用かもしれない。但し、内視鏡実施の判断は慎重にすべきである; 実施する際には、拡張した結腸の穿孔を防ぐために、S状結腸に限定して軟性内視鏡を行い, 送気は無しor最小限にすべきである

 CDIの場合、下部消化管内視鏡では次のような所見が見られることがある。

  • 腸管壁の浮腫, 脆弱性, 発赤, 炎症
  • 炎症を起こした粘膜状の偽膜(軽症, ないし 治療中のCDIでは見られないこともある)

 

 

(3)  治療

 1) CDIの症状があり、検査でCD陽性である患者, 及び 2) 検査結果が出る前であっても、臨床経過からCDIを強く疑う患者 が、以下に示す抗菌薬による治療適応とされている。

 他にも、

  • 感染制御・・・CDIと診断されたor疑われる患者に対しては、接触感染対策を講じるべきである。当該患者に接触前, 及び 接触後の医療従事者は、水と石鹸で手を洗う必要がある。なおCDの芽胞はアルコールに耐性を示す。
  • 抗菌薬の中止・・・可及的早期に、原因となった抗菌薬を中止すべきである。
  • 輸液・栄養・下痢のmanagement・・・体液喪失・電解質異常の補正などを行う。

の3つも重要である。

 

重症例の治療

 初発のCDIで, 重症でない場合に選択される薬剤は以下の通り。

  • メトロニダゾール経口投与500mgを1日3回。
  • バンコマイシン経口投与:  125 mgを1日3回。点滴では、結腸内腔にまで十分薬剤が分泌されないのでCDI無効
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mgを1日2回。

このうちいずれかを10日間継続する。

 

重症例の治療

 抗菌薬治療に加え、補助的治療, 緊密なモニタリングが必要である; 加えて、外科的治療適応に関して評価を受ける必要がある抗菌薬は概ね上記のものを10日間使用する(米国で推奨される薬剤は、推奨度が強い順にフィダキソマイシン経口投与>バンコマイシン経口投与であり, メトロニダゾールは非推奨)

 また重症劇症型CDIでは、結腸切除術のかわりに便移植が用いられており, 後方視的研究・観察研究では死亡率低下との関連が示されている; 但し、便移植と結腸切除術を比較する前方視的ランダム化研究による検証が必要である。

 以下のうち1個以上にCDI患者が該当する場合、早期の外科的コンサルテーションが必要である。

  • 低血圧
  • 38.5 ℃≦の発熱
  • イレウス, もしくは 顕著な腹部膨隆
  • 腹膜炎, もしくは 顕著な腹部の圧痛
  • 意識状態の変容
  • WBC>20,000/μL
  • 血中乳酸濃度>2.2 mmol/L
  • ICUへ入室
  • 臓器障害
  • 3~5日間の最大限の内科的治療で改善しない

いずれも予後不良と関係している。他方、外科的治療の絶対的適応基準は以下の通りである。

  • 結腸の穿孔, もしくは 全壁虚血
  • 腹部コンパートメント症候群, もしくは 腹腔内圧上昇(雑に言うと、腹腔内圧が上がり過ぎて循環・呼吸・腎機能等に障害を来していることです)
  • 適切な輸液にも関わらず、血管作動薬を必要とするほどの循環・呼吸状態の悪化が生じている場合、早期に
  • 気管挿管・人工呼吸器を使用するほどの呼吸不全
  • 臓器障害悪化
  • 適切な内科的治療に関わらず、腹膜炎の臨床所見がある or 腹部所見悪化が見られる

 

再発症例の治療

 1回目の再発の場合、抗菌薬は

  • バンコマイシン経口投与:  1. 125 mg 1日4回10~14日間 → 2. 125 mg 1日2回7日間 → 3. 125 mg 1日1回7日間 → 4. 125 mgを2~3日間隔で2~8週間
  • フィダキソマイシン経口投与:  200 mg 1日1回10日間, または 1. 200 mg 1日2回5日間→2. 1日1回20日

のいずれかが使用される。それに加えて、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例について, 米国ではbezlotoxumab(CD toxin Bに結合するヒト化モノクローナル抗体)単回投与が承認されている。

 2回目以上の再発の場合も抗菌薬を使用し, また、直近の6ヶ月以内にCDIの既往があった症例には、bezlotoxumabが適応(米国の場合)となる。CDIへ適切な抗菌薬治療を3回以上行い, 4回目以上再発を起こした症例では、便移植を考慮する。

 

劇症結腸炎の治療

 劇症型でも抗菌薬治療, 補助的治療, 緊密なモニタリング, 及び 外科的治療適応に関する評価が必要である。抗菌薬治療は

  • イレウス無い場合・・・バンコマイシン経口投与 500 mg 1日4回と, メトロニダゾール点滴 500 mg 8時間ごと の併用。
  • イレウスある場合・・・イレウスが無い場合と同様。これに 1) 便移植, 或いは 2) バンコマイシン直腸内投与(500 mgを生食 100 mLに溶解し浣腸。可能な限り直腸内に留め, 6時間ごとに再投与), のいずれか の併用を考慮。なお1), 2)は直腸穿孔のリスクもあるので、注意が必要である。

と状態により異なる。劇症型CDIの患者で、便移植を考慮する条件は次の通りである。

  • 再発性CDIが劇症型である
  • イレウスを伴う劇症型
  • 3~5日間の内科的治療で改善しない劇症型

 

 なんか雑で冗長なまとめになって申し訳ありません。