Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

敗血症にビタミンCって実際どうなの?

 みなさんこんばんは。現役救急医です。久々の更新です。ここ最近、仕事が忙しい上に, ブログやYouTubeに上げたいネタが切れていました。ごめんなさい。今日は、最近New England Jornal of Medicineに掲載された、敗血症患者へのビタミンC投与の臨床試験に関する論文(DOI: 10.1056/NEJMoa2200644)です。

 

(1) 方法

① Trial Design

 LOVIT(Lessening Organ Dysfunction with Vitamin C) trial第3相の多施設参加型・ランダム化比較対象試験である。LOVITでは、ICUで血管作動薬投与を受けている敗血症成人患者において、高用量ビタミンC投与が28日後の死亡または臓器障害の持続を減少させる可能性がある」という仮説を検証した。

 LOVITには、カナダ, フランス, ニュージーランドから35ヶ所の成人ICUが参加した。被験者は1:1の比で、ビタミンC投与群とプラセボ投与群に割り振られた。

 

② 被験者

 以下の条件を満たした患者がLOVITに参加登録可能であった。

  • 18歳以上
  • ICUに入ってからの経過時間が24時間未満
  • 診断が感染症 または その疑い
  • 血管作動薬投与を受けている

他方、以下のいずれかに該当する人は除外された。

  • ビタミンC療法の禁忌
  • Open-labelのビタミンC投与を受けている
  • 48時間以内に死亡すると予測される もしくは 生命維持療法から撤退

 

③ 介入群(ビタミンC投与群

 介入群の患者は、50 mg/kgのビタミンCを50 mLの生食 or 5%ブドウ糖に溶解したものをボーラスで30~60分かけて静脈内投与された。患者がICUに滞在している間、96時間の間に投与を6時間間隔で繰り返した。

 

④ 対照群(プラセボ

 対照群の患者には、プラセボを50 mLの生食 or 5%ブドウ糖に溶解したものが投与された

 なお、プラセボorビタミンC以外の治療については、治療担当チームの判断に委ねられた。

 

転帰(outcome)

 LOVITの主要転帰は、28日後における死亡or臓器障害持続の複合であった。

 副次転帰は以下の通り。

  • 28日後までに、ICUで臓器障害なく経過した日数
  • 28日後と6ヶ月後における死亡
  • 6ヶ月後におけるquality of life(QOL
  • 2, 3, 4, 7, 10, 14, 28日後における臓器不全
  • 3, 7日後におけるバイオマーカー(乳酸, インターロイキン-1β, 腫瘍壊死因子α, トロンボモジュリン, アンギオポエチン-2)

 ビタミンC療法に関連した有害事象の可能性を考慮し、安全性転帰として以下も評価した。

  • Stage 3の急性腎傷害の発症
  • 急性溶血症
  • 低血糖

臨床試験で投与された薬剤に関連していると考えられた、予期せぬ重篤な有害事象は24時間以内に臨床試験coordinatingセンターへ報告され, その後調査が行われ, データ・安全性監視委員会と'Health Canada(カナダの医療保健政策を管轄する政府機関)'に報告された。

 

統計学的解析

 2020年4/23に運営委員会は、データ・安全性監視委員会とHealth Canadaに対して、参加登録基準を満たすSARS-CoV-2患者もLOVITへ参加可能とするように勧告した。元のSARS-CoV-2ではない患者の人数も含める為に、sample sizeは拡張された。

 主要解析は割り振られた治療群に従った"intention-to-treat population"で行われ、プラセボに対するビタミンCの優位性を評価することを目的とした。主要転帰については、リスク比と95%信頼区間(CI: confidence interval)を推計した。主要転帰の副次解析では、baselineの特徴(年齢, 重症度, ステロイド投与など)について調整を行った。

 その他副次解析では、主要転帰の解析に使用したものと同じ変量を用いて、未調整 及び 調整モデルで28日後の死亡率を比較した。他に、6ヶ月後の生存率と, 28日後までのICUにおける臓器障害のない期間を累積分布方式で比較した。これに加えて、最初の7日間のSOFAスコア(血圧・血管作動薬の使用, 酸素化, 血小板数, 血清クレアチニン濃度, ビリルビン濃度によって臓器不全の程度を現すスコアを比較した。7日目以後のSOFAスコアも両群間で比較したが、7日目より前に死亡or退院した患者ではSOFAスコアの平均値・帰属値の両群間の差を評価した。治療効果の推計値はリスク比 または 平均値or中央値の差として報告した

 年齢(<65歳 or 65歳≦), 性別, 脆弱性("frality"), 重症度(APCHE IIと呼ばれるスコアのbaselineの値に基づいて決定された『死亡リスク予想値の四分位値』で現す, 敗血症性ショックの有無, baselineのビタミンC濃度の四分位値で分類したsubgroup主要転帰を解析した

 

 

(2) 結果

① 被験者について

 2018年11/24〜2021年7/19の間に、872名の患者が参加登録された; 間違ってランダム化された8名と同意を撤回した1名が脱落した結果、863名が主要解析の対象になった(内訳: ビタミンC投与群 429名, プラセボ群 434名

 患者のbaselineの特徴は、二群間で類似していた。患者のICU滞在日数の中央値は3日間, 入院日数の中央値は16日間だった。一緒に行われた治療と, 生命維持療法の使用・期間は二群間で類似していた。

 

② 主要転帰

 28日後に死亡 または 臓器障害が持続していた患者数は、

  • ビタミンC投与群: 191名/429名(44.5%)
  • プラセボ群: 167名/434名(38.5%)

で、リスク比: 1.21, 95%CI: 1.04~1.40, P=0.01だった(Table 2)。Baselineの特徴に関する調整後に行った解析では、リスク比: 1.15だった(95%CI: 0.90~1.47)。

Table 2: 主要転帰と副次転帰

 

③ 副次転帰

 28日後の死者数は、

  • ビタミンC投与群: 152名(35.4%)
  • プラセボ群: 137名(31.6%)

であり、リスク比: 1.17, 95%CI: 0.98~1.40だった。28日後に臓器障害なく経過した日数の中央値

であり、中央値差: -2.43日, 95%CI: -7.23~2.37だった(Table 2)SOFAスコア, バイオマーカー, 6ヶ月後の生存率(Fig. 2), ないし QOL(Table 2)に関しては、両群間で差は見られなかった

Fig.2: 6ヶ月後生存率のKaplan-Meir解析

 

安全性転帰subgroup解析

 安全性転帰について、両群間の差は見られなかった(Table 2)信頼できるsubgroupの影響のevidenceは認めなかった(Fig. 3)

Fig. 3: Subgroup解析

 

 

(3) 考察

 28日後の死亡 or 臓器障害の持続は、プラセボ群よりもビタミンC投与群で多かったこれは予期せぬ知見であり, 副次解析(バイオマーカーに関する解析を含む)では害をもたらす予想上のメカニズムを断定できなかった。

 この知見は、ビタミンC単独療法に関する最近のmeta-analysisの知見と異なる。このmeta-analysisには、LOVITと同じregimenからなるビタミンC投与を行ったランダム化臨床試験2件が含まれている。このうち片方は重症敗血症患者へのビタミンC投与量を決定する為の臨床試験であり、高用量のregimenは96時間におけるSOFAスコア低下と関連していたもう1件の臨床試験'CITRIS-ALI')では敗血症に急性呼吸窮迫症候群(ARDS: acute respiratory distress syndrome)を合併した患者を対象としており, 96時間のSOFAスコアはビタミンC群・プラセボ群で同等であったものの、28日後の死亡率はビタミンC群で有意に低下していた。CITRIS-ALIではLOVITと同様に、参加登録から24時間以内に患者のランダム化が行われた。しかしLOVITでは、患者はARDSである必要がなく, また、敗血症発症時期・酸化ストレスのピークの観点ではCITRIS-ALIの被験者よりも早期に被験者が登録された可能性があるLOVITではビタミンCの投与がランダム化後4時間後以内に投与されたのに対し、CITRIS-ALIでは6時間以内に投与されていた。

 

 

 まあ敗血症の治療について、何かしら特定の薬剤・治療法が「(劇的に)効果を発揮する」ということはない(≒特効薬はない)ということでしょう。抗菌薬, 輸液・栄養投与, 感染巣・膿瘍のドレナージ, 必要な場合の血管作動薬・人工呼吸器等の使用等の基本的な治療を地道にやるしかないということなのでしょうね。