Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

「◯◯が担当大臣/首相だったから…」は本当ですか?

 皆さんこんにちは。現役救急医です。SARS-CoV-2感染者数がまた急増し、一部地域では蔓延防止措置が適用されました。

news.yahoo.co.jp

「まん延防止等重点措置」広島・山口・沖縄への適用を正式決定 約3カ月ぶり 9日から31日まで(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース

そんな中で、医療従事者の間では「11歳以下へのコロナワクチン接種を前倒しすべきだったのでは」, 「ブースター接種を前倒ししておけばよかったのに」という意見が見られ, また「ワクチン担当大臣が河野太郎氏だったら良かったのに」などと言う意見も聞かれたことは、前回のブログ記事で述べた通りです。

 そういえば昨年、日本でコロナワクチンの2回接種率が急速に上がった時期に、「旧民主党政権ではこんなことできなかった」とかいう意見も散見されました。もしかしたら、第一原発事故の際の菅直人政権の対応や, 現在の野党の状況を見てそう思っているのかもしれませんが、私はこうした「あの人だったらワクチン接種が進んだ」, 「あいつらが政権を担っていたらもっと酷いことに…」という意見には懐疑的です。

 皆さん、ちょっと世界に目を向けてみませんか?下のリンクはロイター通信社が作成したページで、世界中のコロナワクチン接種率を地図上に反映したものです。明るい緑色になるほど接種率が高い国であり, 他方、色が暗くなるほど接種率が低い国です(中には真っ黒でクリックしても国名と数字が出ない国があり、ロイター通信社がデータを把握していないのでしょう)。

graphics.reuters.com

この地図を見ていると、アフリカ大陸がヨーロッパや北米などと比較しても明らかに色が暗い(=接種率が低い)ことが分かります。他にも、ヨーロッパで西と東でコントラストに差があり、とりわけロシア・ウクライナベラルーシといった旧ソ連構成国と, より西側の国々の間で差が歴然としているように思われます。アジア大陸でも、北・東へ行くほど接種率が高いように見受けられます(各国がどのワクチンを採用しているのかまでは表示されませんでした)。様々な要因が考えられますが、やはり国家・地域間の経済状況や政治体制といったものにより影響を受けていると思われます。

 昨年の秋などに「ワクチン接種率が7割に到達した!」と喜べたのは、私たちがたまたま日本列島に住んでいた(or 生を受けた)からであって、たとえばアフリカやシリア・アフガニスタン辺りならば、コロナワクチン接種券の到着どころか, 日々の生活すら貧困や内戦などのせいで怪しかったかもしれないのです。では、こうした地域・国家間の格差生じたそもそもの原因は何なのか?それは、我々の祖先(ホモ・サピエンス)がアフリカ大陸から出てきた頃から始まっていたのかもしれません。ジャレド・ダイアモンド博士が2000年代初頭に著した『銃・病原菌・鉄』では、

  • 定着した先に、家畜化に適した動物がどれほど居たか(生態系や気候の問題)
  • 家畜化した動物が起源の病原体(天然痘, 麻疹など)の感染を経験し, 結果的にそれら病原体への集団免疫を獲得したか
  • 定着した先に、農業に適する植物が分布していたか(生態系や気候の問題)
  • 他の地域と交易や競争によって(=地理的な要因)、農業・製鉄等の技術導入や技術革新の機会があったか

などの要因が指摘されています。ホモ・サピエンスは狩猟採集生活から定住に移行する過程で農業や牧畜を開始したと考えられますが、その農業の発展により人類は集住し, 人口が増加。やがて国家を形成し、金属の利用方法や文字を開発し…という形で、いわゆる文明を形成する訳です。なお、ホモ・サピエンスの到達が遅れたオーストラリアや南北アメリカ大陸などでは、ユーラシア大陸と比べて文明の誕生が遅くなり, その結果、15世紀以降に金属製の武器(鉄製の刀剣と銃器)を備え, 天然痘などの疫病を持ち込んだヨーロッパ人の侵略を前に容易に屈服してしまったと考えられるのです。日本は、シベリア・朝鮮半島・南方(台湾辺り)という比較的渡航が容易な経路で祖先が日本列島に定着し, 四大文明(=中国)がたまたま近くにあったので農業や製鉄・文字などが早期に流入したからこそ、比較的早期に国家を形成できたのです。

 また、昨年初頭くらいに読んだ『人口で語る世界史』(ポール・モーランド著, 文藝春秋では、英国での産業革命以降の史料等を根拠に、英国のみならず米国・日本・ロシア・中国といった世界史にそれなりの影響を与えた各国での人口の推移や, それが近代化・経済発展・世界情勢に与えた影響について述べられています。詳細は省きますが、過去に近代化/工業化に成功し, それに伴い人口が増大したお陰で今の日本がある、ということなのです。

 私たちは、たまたま運が良かっただけなのです。祖先が比較的早期に, 比較的突破可能な難関を超えて日本列島に到達しました。気候が安定していたので定住と人口増加が可能となり, 近くに中国と朝鮮半島があったので比較的早期に農業・文字・製鉄等の各種の技術や知識を導入し、比較的早期に国家を形成することが出来たのです。昨年夏などにコロナワクチンの大規模接種会場複数を設営できたのも、こうした石器時代・古代からの積み重ね, この国の統治機構が古くから発展・崩壊・新生・改善を繰り返してきた積み重ねの結果なのです。