Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

モデルナ製(とファイザー製)ワクチンのデルタ株に対する有効性

 こんばんは。現役救急医です。今日は2021/11/2にNature Medicineというジャーナルに発表された、モデルナ製及びファイザー製コロナワクチンの有効性に関する論文(https://doi.org/10.1038/s41591-021-01583-4 )を紹介してみます。

 

(1) Intruduction

 2021年初頭の段階でカタール国内ではアルファ株(B.1.1.7)による感染拡大とベータ株(B.1.351)による感染拡大が立て続けに起こっていた。同年3月末にはデルタ株(B.1.617.2)が初めてカタールで検出された。SARS-CoV-2感染者数増加に伴ってデルタ株の検出も増加し, 同年夏には200件/day近くで推移していたものの、2021年9月の段階では、他の変異株の発生数と比較しても低値であり, 感染拡大の兆候もない。2021年3/23~9/7の間に診断されたSARS-CoV-2感染例のうち、43%がデルタ株だった。なお2021年9/19時点で、カタールの全人口の80%超がBNT162b2ワクチン(ファイザー製), ないし mRNA-1273ワクチン(モデルナ製)の2回接種を受けたと推定されているこの研究では、2021年3/23~9/7の期間でカタール国内におけるファイザー製・モデルナ製ワクチンのデルタ株に対する有効性を推計した。

 

(2) Methods

 この研究はカタール市民を対象に行われた。Hamad Medical Corporationにて、全国規模のデータベースよりCOVID-19検査結果, ワクチン接種記録, SARS-CoV-2感染に関するデータ等を抽出した。

 ワクチンの有効性は、検査陰性症例対照研究デザインを用いて推計した。2021年3/23~9/7の間にカタールで発生した全感染例(PCR検査でデルタ株感染が診断された人)と対照例(PCR検査でSARS-CoV-2が陰性だった人)が対象となった。

 感染へ曝露される危険性の差を調整する為、性別・年齢集団(5年単位で区切られた集団)・国籍・PCR検査を行った理由・PCR検査を行った期日が合うように、感染例と対照例を1:5の比でmatchさせた。

 感染例2021年3/23~9/7の間にPCR検査で初めてデルタ株陽性となった人と定義した。対照例は、その他のPCR陽性者を除外, 同期間において初めてPCR陰性となった人と定義した。

 旅行前, もしくは 入国時に実施したPCR検査は今回除外した。

 今回、デルタ株感染に対する有効性, 及び デルタ株と関連した重症, 危機的 or 致死的COVID-19に対する有効性を推計した。

 コロナワクチン被接種者及び未接種者のPCR検査記録を全て検証し, 1回目と2回目で別種のコロナワクチンを接種された人, もしくは ファイザー製・モデルナ製以外のコロナワクチンを接種された人除外した。

 なおここではCOVID-19重症度の表記にWHOの定義を用いている。

  • 重症SARS-CoV-2に感染し, 室内気にてSpO2<90% and/or 呼吸数>20/min.(成人・5歳<の小児) and/or 重症呼吸不全の症候あり
  • 危機的SARS-CoV-2に感染し, Acute Respiratory Distress Syndrome(ARDS), 敗血症, 敗血症性ショック or その他人工呼吸器・昇圧薬等を必要とする状態
  • 死亡(致死的):  COVID-19による死亡

 研究サンプルは頻度分布と, 中心傾向("central tendency")により記述された。感染例と対照例のワクチン接種のoddsを比較したodds比と, その95%信頼区間(CI; confidence interval)を推計した。次に、異なる時期におけるワクチン有効性とその95%CIを以下の公式により算出した。

[ワクチン有効性] = 1 - [症例と対照例のワクチン接種のodds比]

 SARS-CoV-2感染既往と医療従事者による影響をcontrolしたsensitivity analysisを行った。他にも、年齢別に階層化(<50歳, 50歳≦)してワクチン有効性推計を行った。加えて、症候性SARS-CoV-2感染(呼吸器症状がある人でPCR陽性となった症例), 及び 無症候性感染(症状のない人でPCR陽性となった症例)に対する有効性も推計した。また比較の為、ベータ株に対する有効性も推計した

 

(3) Result

 2020年12/21~2021年9/7の間に、各コロナワクチンを接種された人数は以下の通り。

  • ファイザー製:  少なくとも1回は接種済: 950,232名, 2回目接種済: 916,290名
  • モデルナ製:  少なくとも1回は接種済: 564,468名, 2回目接種済: 509,322名

 ファイザー製ワクチンの接種率は2020年12月以来堅調に増加している。その反面、モデルナ製ワクチンの接種率は大量出荷に依存しており, 2021年3月以前には十分な水準に達していなかった。

 ここで『デルタ株感染例』は、PCR検査実施理由 ないし 症状の有無に関係なく, PCR検査でデルタ株陽性となった症例と定義する。追加の解析でベータ株感染を検討したことを例外として、他の変異株への感染例は除外した。

 2021年3月〜9月の間のデルタ株によるブレークスルー感染は、

  • ファイザー製:  1回目接種の後: 88名, 2回目接種の後: 1,126名
  • モデルナ製:  1回目接種後: 60名, 2回目接種後: 187名

であった。

 これに加えて、2021年9/7までに、デルタ株による重症COVID-19症例は、

  • ファイザー製:  1回目接種後: 4名, 2回目接種後: 15名
  • モデルナ製:  1回目接種後: 3名, 2回目接種後: 2名

となっていた。

 また危機的COVID-19症例・死亡に関しては、

  • ファイザー製:  1回目接種後: 1名(その後死亡), 2回目接種後: 2名
  • モデルナ製:  致死的症例ないし死亡例は0

という結果だった。

 

 1回目接種後14日以上(2回目接種はまだ)のデルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  45.3% (95%CI 22.0~61.6)
  • モデルナ製:  73.7% (95%CI 58.1~83.5)
  • 両者を含めたもの:  58.0% (95%CI 44.4~68.2)

 1回目接種後14日以上(2回目接種はまだ)のデルタ株による重症COVID-19, 危機的COVID-19, ないし 死亡に対する有効性は、ファイザー製・モデルナ製・両者を含めたものに関して80~87%だったものの、デルタ株症例数が比較的少なかったことから95%CIが広かった。

 2回目接種14日以上におけるデルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  51.9% (95%CI 47.0~56.4)
  • モデルナ製:  73.1% (95%CI 67.5~77.8)
  • 両者を含めたもの:  55.5% (95%CI 51.2~59.4)

であった。

 2回目接種14日以上におけるデルタ株による重症, 危機的COVID-19ないし死亡に対する有効性は

  • ファイザー製:  93.4% (95%CI 85.4~97.0)
  • モデルナ製:  96.1% (95%CI 71.6~99.5)
  • 両者を含めたもの:  93.6% (95%CI 85.9~97.1)

だった。

 Sensitivity analysisSARS-CoV-2感染既往や医療従事者に関して調整したもの)は上記の結果と同一だった。

 50歳以上におけるデルタ株感染に対するワクチン有効性は、50歳未満のそれよりも低かった。しかしながら、この結果は50歳以上の人は50歳未満よりも早期に2回目接種を受けたという文脈で解釈せねばならない

 2回目接種14日以上における症候性デルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  44.4% (95%CI 37.0~50.9)
  • モデルナ製:  73.9% (95%CI 65.9~79.9)
  • 両者を含めたもの:  49.2% (95%CI 42.8~54.9)

だった。

 2回目接種14日以上における症候性デルタ株感染に対する有効性は、

  • ファイザー製:  46.0% (95%CI 32.3~56.9)
  • モデルナ製:  53.6% (95%CI 33.4~67.6)
  • 両者を含めたもの:  45.9% (95%CI 33.3~56.1)

 比較の為に、2021年3/23~9/7の期間におけるベータ株感染に対する有効性も推計した。

  • ファイザー製:  1回目のみ接種後14日以上: 18.9% (95%CI -1.8~35.4), 2回目接種後14日以上: 74.3% (95%CI 70.3~77.7)
  • モデルナ製:  1回目のみ接種後14日以上: 66.3% (95%CI 55.8~74.2), 2回目接種後14日以上: 80.8% (95%CI 69.0~88.2)

ベータ株による重症, 危機的COVID-19 ないし 死亡への有効性は、両ワクチンで>90%だった。

 ベータ株に対する有効性とデルタ株に対するそれを比較する際には、ベータ株のPCRによる診断期日の中央値は2021年4/15だが、デルタ株のPCRによる診断期日の中央値は2021年8/2であることに注意が必要である2021年8/1~9/7の期間に、RT-qPCRによりgenotypeが診断された症例の83.6%がデルタ株であった

 

(4) Discussion

 ファイザー製とモデルナ製のコロナワクチンは、英国・米国・イスラエルの研究と同様、デルタ株と関連した入院・死亡に対して強固な有効性(>90%)を示した。特にファイザー製コロナワクチンでは、多くのブレークスルー感染症例にも関わらず、ワクチン被接種者内で重症or危機的COVID-19症例数は少なかった。

 注目すべきことに、1回目接種後14日以上ないし2回目接種後14日以上におけるファイザー製orモデルナ製ワクチンのデルタ株感染に対する有効性は同等だった。最近のevidenceは、特にファイザー製ワクチンに関して、時間経過とともにワクチンの有効性が顕著に減少することを示しているアルファ株ベータ株に対する高い有効性は、カタールの住民の大半がファイザー製・モデルナ製コロナワクチンを接種されたばかりの時期に推計されたものである。逆に、今回推計したデルタ株に対する有効性は、2回目接種後から何ヶ月も経過した時期に推計したものである。従って、コロナワクチン2回目接種後の人におけるデルタ株に対する低い有効性は、ワクチンの予防効果の漸減を反映している可能性がある

 こうした知見は、他所で行われたデルタ株に対する有効性の報告において見られるパターンと一致する。この研究におけるファイザー製コロナワクチン有効性(2回目接種完了後)51.9%という数字は、英国・カナダよりも低いものの, イスラエル・米国と類似している。英国・カナダでは2回目接種が延期された結果、大半の人がイスラエル・米国・カタールよりも直近の時期に2回目接種が完了していた。よって、イスラエル・米国・カタールにおける低い有効性は、2020年末・2021年初頭に2回目接種が完了した人におけるワクチン予防効果減少を示しているのかもしれない

 他に今回の知見を説明可能なものに、カタール国内でデルタ株の症例数が緩徐に増加している時期に行われた公衆衛生上の規制の段階的緩和が挙げられるワクチン接種状況に応じて規制が緩和されるとともに(スマホアプリ["Ehteraz app"と呼ばれるもの]インストール義務が課された), 被接種者は未接種者よりも社交的な接触率("social contact rate")が高くなっていた可能性があり、また、マスク装着といった安全対策へ従わなかった可能性もある。

 ファイザー製ワクチンと比べてモデルナ製ワクチンでは2回目接種後にデルタ株感染への高い有効性が推計され、モデルナ製ワクチンがより強力な免疫と予防効果を誘導したとする研究にも一致する。

 

 ちなみに今日、YouTubeへ動画をアップロードしています。脳梗塞に関する最新の論文をちょっと解説してみました。もし良ければご視聴下さい。

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