Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

また感染者数が増えていますが

 こんばんは。現役救急医です。ワクチン接種拡大により落ち着いていたSARS-CoV-2感染者数が、最近また増え始めています。東京では300名以上で感染が確認され、沖縄に至っては早くも第6波が来たとすら言われています。

【速報】東京都で新たに390人感染 前日(151人)から倍以上、先週水曜日(76人)から約5倍増(TBS系(JNN)) - Yahoo!ニュース

年明け5日で1000人超え 沖縄新たに623人感染(沖縄テレビOTV) - Yahoo!ニュース

以前このブログで触れた通り、mRNAワクチン(やベクターワクチン)の2回目接種から6ヶ月以上経過すると、SARS-CoV-2感染に対する有効性が低下するということが分かっています(重症化に対する有効性は高く保たれるのですが)。それを踏まえて、3回目(或いはブースター)接種が先進国を中心に開始されており、イスラエルからのデータではSARS-CoV-2感染及び重症化へかなりの予防効果があることが示唆されています。

 また感染拡大を起こしているのは、ニュースを見る限り日本だけではなく、英国・フランス等欧米諸国も同様とのこと。さて、その状況下で日本では3回目接種はどこまで進んでいるのでしょうか?Yahooの特設ページに具体的な接種率が出ていましたので共有します。

news.yahoo.co.jp

曰く、1/3時点で2回目接種率は78.5%(9,942万人以上)ですが、3回目はなんとたったの0.5%(63万6,242人)ですまだ医療従事者をカバーしている真っ最中で、もしかしたら一部地域でようやく高齢者ら重症化リスクが特に高い集団への接種が始まったばかりなのかもしれません(かく言う私も、昨年末に3回目を接種しました)。

 この状況を嘆いているのは医療従事者だけでなく、(一部の)政治家も同様のようです。

東京五輪を控え, デルタ株の猛威に悩まされた2021年夏季と打って変わって、岸田政権はオミクロン株発見の報から間髪入れず(?)入国制限を発動しました。こうした『水際対策』はあくまで時間稼ぎであり、本来であれば、病原体が人口内へ相当数蔓延するまでの間に医療従事者の養成/訓練や病床確保, 法体系等の整備, ワクチン接種拡大, 軽症患者の重症化を阻止する薬剤の確保といった準備をしておくものです。しかし、現実が理想と乖離していることは、3回目接種の数字を見るだけでも明らかでしょう。

 そんな中で、昨年にワクチン担当大臣を務め, 自衛隊を動員し, 大規模接種会場を複数設営し, 1回目と2回目のコロナワクチン接種を進めた河野太郎氏の手腕を賞賛し、彼の復帰を望む意見も医療従事者の間で見られるようになりました(あくまでTwitterでの風潮ですが)。しかし、彼とて聖人君子ではないようです。昨年9月には、官僚に対し声を荒げて暴言を吐く等のパワハラがあったことが暴露されています。

news.yahoo.co.jp

(それなりの才覚はあるが)自らの信じる『正義』や『理想』の為に鼻息荒く突き進むタイプの参謀(?)が居ないと物事が前に進まない日本の行政/政治機構って、あまりにも不合理ではありませんか(政治に限った話ではありませんけど)。

 

 昨年末に読んだ本辻政信 失踪60年 − 伝説の作戦参謀の謎を追う』という書籍には、こんなエピソードが収載されています。日本陸軍参謀本部作戦課の兵站班長だった辻政信は、1941年7〜8月頃から南方作戦の計画立案に関与します。その過程で彼は、まずマレー半島を制圧し, 続いてシンガポールを早期に占領することが必要と主張しました(いずれも当時は英国の植民地だった)。

 またマレー半島への上陸に関しては、辻自身が偵察機に乗って上空から把握した情報も踏まえて、タイ領であるソンクラー(シンゴラとも)・パタニ(パッターニーとも)の2箇所に加えて, 当時英領だったコタバル(現在はマレーシア)への同時の奇襲上陸が必要だと彼は主張します(通常ならば制空権を奪取してから上陸する)。海軍は当初、コタバル付近に英軍の飛行場があることも考慮して、コタバルへの上陸に反対していましたが、最終的に折れて陸軍の案に同意しました。しかも、自軍の艦艇や地上部隊を空から掩護する為の飛行場を確保する為に、陸軍航空参謀が東京に出張している間に, 当時フランス領だったフーコック島(タイランド湾にある島)に, フランス側の了承も得ずに飛行場を建設したというのです。

※皆さんに分かり易いように、これらの場所をGoogle Map上へプロットしておきました(2022年1月6日追記)

 最終的に日本軍は1941年12月未明にソンクラー・パタニ・コタバルへ同時に上陸し, マレー半島を南下。英軍が難所と見做していたジットラ・ラインを十数時間で突破し、翌年1/11にクアラルンプールを占領し, 同年2/14にはシンガポール陥落を達成しました。

 上記経緯から辻政信を有能と考える人も居たようですが、上記書籍にも記載があるように、彼はノモンハン事件で『盛大にやらかした』という前科持ちですし, シンガポール陥落後の華僑粛清事件の際には、憲兵らを怒鳴りつけて殺害人数を増やすように迫った経緯もあります。河野太郎氏だって、確かにワクチン担当大臣としては有能だったかもしれませんが、その影では既述のように、パワハラの証拠が世に出てしまっている訳です。「悪い意味で一癖も二癖もある人物が、一見強硬なリーダーシップを発揮しないと物事が前に進まない」というデジャブを、令和になっても我々は見せられているようです。このような不条理を正すには、各職場内の人事評価や教育等はまだしも, 義務教育・高等教育課程での生徒への指導内容等も見直す必要があるのではないでしょうか。残念ながら、是正には時間がかかりそうです。