Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

オミクロン株に関する文献まとめ

 みなさんこんばんは。現役救急医です。今日は、最近話題のオミクロン株について自分なりに調べて、文献を3つ発見したのでそれを紹介してみます。

 

(1) 南アフリカからの入院患者に関する報告(Maslo C., Friedlamd R. et al., JAMA, 2021年12月30日発表, DOI: 10.1001/jama.2021.24868)

 南アフリカでは、これまで3回COVID-19の感染拡大が起きている。

  • 第1波:  2020年6~8月。従来型SARS-CoV-2による。
  • 第2波:  同年11~翌年1月。ベータ株による。
  • 第3波:  2021年5~9月。デルタ株による。

2021年11月15日から再度感染者数が増加し, 同時期にオミクロン株が発見された(=第4波; 2021年12月7日の時点で、地域内の陽性率は26%に達した。この研究では'Netcare'という病院グループでCOVID-19検査が陽性となって入院した患者全例を対象とし、第1~3波の最中に陽性率が26%になった時期と第4波(2021年11月15日〜12月7日)を比較した。フォローアップ期間は同年12月20日までだった。

 感染拡大期初期において入院治療を受けた患者数は、

  • 第4波:  2,351名
  • 第3波で最大:  6,342名

と異なった; 一方で、救急外来を受診してCOVID-19陽性と判明し, 入院した患者の割合は

  • 第1~3波:  68~69%
  • 第4波:  41.3%

であった。以前の感染拡大と比べて、第4波中に入院した患者は

  • より・・・第4波: 年齢中央値 36歳 vs 第3波で最大: 年齢中央値 59歳
  • 女性の割合が高い
  • 併存疾患のある患者が有意に少ない
  • 急性の呼吸器症状で受診する患者の割合が低い・・・第4波: 31.6% vs 第3波で最大: 91.2%

という結果だった。第4波で入院した971名のワクチン接種状況の内訳は

  • 接種済:  24.2%
  • 未接種:  66.4%
  • 接種状況不明:  9.4%

だった。

 酸素療法が必要な患者の割合は

  • 第4波:  17.6%
  • 第3波で最大:  74%

有意に減少, また人工呼吸器を使用している患者の割合も同じく有意に減少したICUへの入室は

  • 第4波:  18.5%
  • 第3波:  29.9%

だった。

 入院期間中央値は第4波で3日間その前では7~8日間)へ減少した。死亡率は

  • 第1~3波:  19.7~29.1%
  • 第4波:  2.7%

だった。

 南アフリカの第4波初期では、第1~3波と比較して患者の年齢が若く, 併存疾患が少なく, 入院・呼吸器症状が少なく, 重症度・死亡率が低下していた。

 しかしながらこの研究には、患者のウイルスのgenotypingが不明, 2021年12/20時点で7%の患者が入院中, 等の欠点があり、更なる研究が必要である。

 

 

(2) ノルウェーでのアウトブレイクBrandal LT., MacDonald E. et al, Euro Surveill, 2021;26(50):pii=2101147, 2021年12月16日発表)

① Introduction

 2021年11/30に、ノルウェー公衆衛生研究所(NIPH: Norwegian Institute of Public Health)は、SARS-CoV-2オミクロン株感染が疑われるCOVID-19症例の報告オスロの地方研究所から通知された12/1にはオミクロン株と確定診断された)。この症例は同年11/24に南アフリカから帰国しており, また11/26に開催されたクリスマスパーティに出席していた。

 このパーティはオスロのレストランで18:00~22:30の間に145 m2の個室で行われ、その後22:30~翌朝3:00まで開放されていた(0次会も別の場所で行われていた)。パーティー出席者全員がワクチン2回接種済と自己申告し, また 主催者から自分で迅速抗原検査を受けるように要請されていた。パーティ会場の部屋を訪れる他の客やレストランの従業員に対しては、ワクチン接種・COVID-19検査・マスク着用・COVID-19に関する証明書は求められておらず、客の名簿は着けられていなかった。

 アウトブレイクが探知された11/30以後、パーティー出席者には10日間自宅で隔離("quarantine")を行うこと, 及び 直ちにPCR検査を受けるように求められた。陽性者には、少なくとも7日間は隔離(或いは分離?: "isolation)をするように求められた。12/1には、11/26の22:30〜11/27の3:00の間にパーティ会場に居た人に対して、症状の有無に関係なくPCR検査を直ちに受けるよう求める広報が出された。

 

疫学調査

 12/1にオスロの市政当局とNIPHは調査を開始した117名の出席者のうち111名がインタビューに回答した。回答者の平均年齢は39歳で, 女性は48名(43%)だった。107名(96%)の回答者は2回接種済だった。回答者全員が、クリスマスパーティーの1~2日前に自分で受けた迅速抗原検査 or PCRが陰性であったと回答した。

 111名のうち、

  • オミクロン株と確定診断されたのは 66名(59%)
  • 疑い例PCRSARS-CoV-2陽性となっただけ)は15名(14%)

であった。デルタ株感染が確認された1名は、その後の解析から除外されたオミクロン株の合計発症率("total attack rate")は74%(110名中81名)だった。これらの症例の平均年齢は38歳で, 女性は35名(43%)だった。残りの参加者29名に関しては、2021年12/13の時点でPCR陽性とはならなかった。

 パーティがウイルス曝露であると仮定すると、症候性症例の潜伏期間は0~8日(中央値: 3日)である。1名が無症状であり, 74名(91%)で少なくとも3個の症状があった。81名の症例の中で最も多い症状は、咳嗽(83%), 鼻汁(78%), 倦怠感(74%), 咽頭痛(72%), 頭痛(68%), 発熱(54%)だった。

 インタビューの時点で症候性症例80名中62名(78%)が症状を有していたので、症状持続期間は正確に推測できなかった。

  • パーティ2週間にCOVID-19症状があったと申告:  7名
  • パーティ前7日以内に海外旅行したと申告:  7名(うちアフリカ 3名, ヨーロッパ 4名), このうちパーティ前の時期に症状があったと申告したのは0名だった。
  • パーティの前の週に出勤していた:  110名中104名(95%), うち89%(96名)ではオフィスを共有していた。

 オミクロン株症例の大半(79名; 98%)と, オミクロン症例の大半(27名: 93%)がワクチン2回接種を済ませていた。

 加えて、調査の過程で, 12/13の時点では、パーティ会場で感染した可能性のある他の客約70名が確認され, そのうち53名でオミクロン株が検出された

 

③ Discussion

 この調査結果は、2回接種済の人の間であってもオミクロン株が高い感染力を持つという知見を支持している。今回記載されたアウトブレイクにおいて、症候性感染による高い発症率は、屋内・長い曝露時間・混雑・大声での会話といった環境により悪化させられた可能性がある。パーティの参加者の一部ではパーティ前に症状があったことから、感染の一部は職場の同僚間, ないし 0次会で発生した可能性がある。また、複数のウイルス導入があった可能性も除外できない。

 潜伏期間中央値は3日と推定され、これはデルタ株や, その他過去に流行した非デルタ株SARS-CoV-2に関する過去の報告よりも短い

 濃厚接触者追跡による迅速な検出・隔離の組み合わせは短期的に感染拡大を減速させられるかもしれないが、こうした方法がオミクロン株の拡散を将来的に阻止する可能性は低い。パーティ参加者の大半がワクチン接種2回接種済であり, パーティ前に抗原検査を受けていたことから、COVID-19関連のデジタル証明書といった枠組みですら今回のアウトブレイクを防げなかったと思われる。

 ノルウェーは12/2以降、感染制御政策を適用し, 強化している。12/16の時点で、イベントの制限, 在宅での労働, 4週間の飲食店でのアルコール飲料提供禁止を含めた対策を行っている。

 

 

(3) デンマークの785症例に関する報告(Espenhain L., Funk T. et al., Euro Surveill, 2021;26(50):pii=2101146, 2021年12月16日に発表)

① Introduction

 デンマークでは2021年11/28に、最初のオミクロン株症例が発見された(南アフリカからの帰国者)。12/9までにデンマークでは合計785名のオミクロン症例が登録された。

 この研究において、オミクロン株症例の記述の為に、複数の全国規模registryを毎日リンクしている通常のCOVID-19 surveillanceのデータを使用した。

 

デンマークでの検査体制やオミクロン株への対策

 デンマークのCOVID-19検査は無料かつアクセスは容易である。地元住民 or 訪問者なら誰でも予約可能な'TestCenter Denmark'(TCDK)で検査が行われる他、病院やかかりつけ医からの紹介で, 地元の臨床微生物学部で検体の解析を行うこともある。

 デンマークのCOVID-19検査の方針には、COVID-19確定診断例への無症候な濃厚接触者への検査と, 職場や学校などの特定の状況へのscreening検査が含まれている。流行開始〜12/9の時点で、デンマークの人口の9.2%がSARS-CoV-2陽性となった。

 デンマークにおけるSARS-CoV-2変異株の検査は、陽性検体全例への変異株特異的なRT-PCRによるscreeningと, 拡大した全ゲノム配列解析(WGS: whole-genome sequencing)によって行われた。

 デンマーク患者安全当局(STPS: Danish Patient Safety Authority)により、オミクロン症例の周辺での広範囲の濃厚接触者追跡が開始された。オミクロン確定例には症状消失後48時間までの自己隔離が求められ, 無症状の場合には7日間の隔離が求められた。濃厚接触者とその濃厚接触者全員には、オミクロン確定例接触後1日目・4日目・6日目に検査を受けること, 及び 6日目の検査で陰性と出る間では自己隔離するように推奨された。2021年12/7に濃厚接触者の接触者への自己隔離は廃止された。11/27には入国制限が導入された。

 

③ オミクロン症例について

 2021年12/9までにデンマークでは785名のSARS-CoV-2 オミクロン株症例が登録された。直近の検体は12/7に採取された。1日の症例数は急速に上昇し(Figure 1)12/4からは40%を超える増加が見られた。合計すると、WGSにより更に143例(18%)が確認された。オミクロン症例の年齢は2~95歳(中央値: 32歳)で, 男性は433名(55%)だった。

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Figure 1: 2021年11/22~12/7の間のオミクロン症例数。感染したと疑われる場所ごとに色分けされている。
  • 入院:  9名(1.2%), そのうち1名は集中治療を受けた
  • 死亡:  0名

だった。症例はデンマーク国内の広範囲で特定されたものの、デンマーク西部と首都に集中したワクチン接種状況は

  • 2回接種済:  599名(76%)
  • ブースター接種済:  56名(7.1%)

だった。

 12/9時点で644名(全症例の82%)で感染した場所が判明しており, うち56名(8.7%)で旅行歴があった。16名は南アフリカからの帰国のみならず、その他のアフリカ諸国やヨーロッパ諸国からの帰国も申告した。更に464名(75%)は感染した可能性のある場所を申告し, 180名(28%)の旅行歴のない人は感染した疑いのある場所を申告しなかった(or できなかった)。今日に至るまで(≒2021年12月中旬)、STPSは83名のオミクロン症例を5件のイベント(参加者100名超)と関連づけている。1件のイベントでは71名の参加者(47%)が感染するという高い発症率が報告された。このイベントへのオミクロン株の持ち込みは、南アフリカへの渡航歴がある人により行われた。このウイルスは更に中等学校3校と, 同じ地域で開催されたコンサート(参加者2,000名)へと伝播し、結果的にデンマーク国内他地域で開催された他のイベントにも伝播した。更に、1ヶ所の病院の高齢者病棟で院内アウトブレイクが発生し、80歳以上の患者4名と2名のスタッフがオミクロン株陽性となった。全員ワクチン接種済だった。

 

④ Discussion

 デンマークで1例目のオミクロン症例が発見されてから、症例数は急増した。こうした増加の要因は、若年成人が参加する大規模パーティであった。デンマークの対応は、3回目接種の拡大, 及び 最近開始された5~11歳の小児への接種プログラム拡大までの時間を稼ぐ為に、オミクロン株の感染を遅らせることだった。しかし急速な症例数増加はこうした対策を妨げているオミクロン症例を早期に探知し, 渡航制限を実施し, また濃厚接触者追跡を拡大したにも関わらず、5名中1名超は既知の症例と関連付けられなかった。この知見は、オミクロン株の最初の症例が特定されて1.5週間以内の時期に, 既に地域内感染が拡大していたことを示している。

 オミクロン株症例の83%が2回接種済 または ブースター接種済だったことは懸念される。これらの知見が大規模な感染拡大イベントと、主に若年成人によるその後の感染の連鎖というartefactによるものかどうか, そして 子供へまだ広がっていないかどうかということは、まだ結論を出すことができないオミクロン株症例の内訳と短いフォローアップ期間は、今回観察された入院症例の割合に影響した可能性がある。無症候症例の割合は、濃厚接触者への大規模検査と比較的急速な症例へのフォローアップを考慮すると、注意して解釈されるべきである。つまりオミクロン株症例は、感染症の早期に検出された可能性がある。

 注意すべきことに、デンマークのオミクロン症例第1号は、南アフリカがこの変異株の出現を公表する前に発生した。こうした症例はカタールからオランダへの渡航歴を申告しており、このことはオミクロン株がこの時期よりも前にアフリカ諸国から拡散した可能性を示しているまた、より後の時期のデンマークの旅行関連オミクロン症例は、南アフリカから帰国した人のみならず, 他のヨーロッパ諸国から帰国した人においても見出され、報告よりも広範囲にわたって地域内に蔓延している可能性が示された

 

 

(4) まとめ

 最後に、これらの論文によってオミクロン株について分かったことを私なりにまとめてみます。

  1. オミクロン株の感染力は強くデンマークでは症例数が急増した。またこれまでのSARS-CoV-2同様、多人数での密集・複数人との飲食や談笑といった高リスクな行動で容易に伝播してしまう
  2. ワクチン2回接種済(及び3回接種済)であっても感染するので、ワクチン接種済であっても油断禁物である。
  3. 若年者や併存疾患が無いor少ない人でも感染するし、中には入院治療が必要となったり, 集中治療室へ行く場合もある。
  4. デルタ株などの従来のSARS-CoV-2変異株と比べて潜伏期間が短い可能性がある。
  5. 南アフリカで発見される前(or 発見が公表される前)に既に各国へ伝播していた可能性がある。
  6. まだ分からないことも多いので、今後も解析・研究が必要である。

最も重要なメッセージは1, 2, 3と6だと思います。