Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

コロナワクチン4回目接種の効果 − イスラエルの全国規模のデータ −

 こんばんは。現役救急医です。最近忙しくて、ブログもYouTubeも放置していました。ちょっと余裕が出てきたので、最近見つけた論文をざっくりと紹介しようと思います。今年4月13日に発表されたイスラエルの論文です(Magen O. et al., Fourth Dose of BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting. N Eng J Med. DOI:10.1056/NEJMoa2201688)。

 

(1) 導入

 2022年1/3にイスラエル保健省は、≧60歳 or 免疫不全のある人で, 3回目接種後4ヶ月以上経過した人を対象とした4回目接種を開始した。今日に至るまで、70万人以上のイスラエル市民がBNT162b2 mRNAワクチン(以下、ファイザー製ワクチンと呼ぶ)4回目接種を受けた。

 最近の研究で、ファイザー製ワクチン4回目接種の有効性が発表され, 3回目接種よりも4回目接種がSARS-CoV-2感染症・重症COVID-19の予防に有効であることが示された。しかしながら、COVID-19による入院・COVID-19による死亡といったものに対する4回目接種の有効性はまだ示されていない。

 

 

(2) 方法

① データ元

 この研究では、'Clallt Health Services(CHS)'と呼ばれる、イスラエルの人口の半分以上をカバーする医療保険サービス(?)からのデータを利用し, 2022年1/3〜2/18の間のデータを収集・解析した。

 

② Study Design

 研究対象期間のその日1日1日において、その日4回目接種を受けた人("four-dose group"; 以下『4回目群』が、その日において4回目接種をまだ受けていない人("control group"; 以下『対照群』とmatchされ, matchさせる際には、年齢・居住地・人種/宗派・3回目接種を受けた期日・COVID-19重症化リスク因子とされる慢性基礎疾患の数・その前3年間における入院の回数 で調整した。

 Matchされたペアは、matchされた当日から、1) 問題となるoutcome, 2) 死亡, 3) 30日間のフォローアップが完了, 4) 2022年2/18, or 5) 対照群になったペアが4回目接種を受けた, のいずれかが先が起きる時期まで追跡された。対照群の人が後ほど4回目接種を受けて『4回目群』に入ることもあった。

 

③ 被験者の参加登録基準

 Baselineで以下の基準を満たす人が参加登録された。

  • 60歳以上
  • 1年以上CHSと契約
  • 研究対象期間中に4回目接種を受けられる

他方、以下に該当する人は対象外となった。

  • 医療従事者
  • 長期ケア施設に入所中
  • 自宅に長期的に篭っている
  • Matchされる当日から3日前までに医療機関を受診
  • Body-mass index(BMI), 人種/宗派, or 居住地に関するデータが無い

 

転帰("outcome")の評価

 以下の項目を評価した。

  • PCRにて診断したSARS-CoV-2感染症
  • 症候性COVID-19
  • COVID-19による入院
  • 重症COVID-19
  • COVID-19による死亡

これらoutcomeは4回目接種後の 1) 7~30日後, 及び 2) 14~30日後 に評価された。

 

統計学的解析

 累積発症曲線が作成された。各フォローアップ期間において、フォローアップ期間が始まるまでに構成員が除外されていないペアのみが対象となった。ここで『リスク』とは、「フォローアップ期間中にoutcomeを発症する可能性」を指す各治療群におけるリスク推計では、リスク比とリスク差の双方を比較した。ワクチン有効性は、「1-リスク比」という公式で推計した。

 他に、こうした推計の堅牢性("robustness")を検証するために、"sensitivity analysis"2個を行った。

  • 対照群が4回目接種を受けても、ペアからのデータ除去を7日間延期。
  • 異なる時間変動性の曝露を取り込んだモデル3個1. 4回目接種無し, 4回目接種後1~4日, 接種後5~6日, 接種後7日以降; 2. 4回目接種無し, 接種後1~4日, 5~6日, 7~13日, 14日以降; 3. 4回目接種無し, フォローアップ期間の毎日を使用。参加者は医療機関受診歴に関係なく、4回目群, 及び 対照群のそれぞれへ動的にフォローアップデータに寄与することができた。ワクチン有効性は「1-罹患率比」の公式で表した。

 

 

(3) 結果

① 4回目群及び対照群について

 研究期間中に4回目接種を受けた340,402名のうち(Fig. 1)、258,994名が参加登録基準に合致し, さらにそのうち182,122名が対照群とmatchされた

Fig.1: 4回目群及び対照群に入る人の選択

 Matchされたペアの年齢中央値は72歳で、女性は53%だった。2群のmatchin因子の分布は同等であり, また、COVID-19重症化リスク因子となる基礎疾患の分布も同等であった。フォローアップ期間は最長で4回目接種後30日であり、フォローアップ期間中央値は26日間であった

 

② 有効性

 7~30日の期間において、3回目接種と比較したファイザー製ワクチン4回目接種の相対的有効性の推計値は、

  • SARS-CoV-2感染症に対し:  45%(95%信頼区間[CI; confidence interval]: 44~47)
  • 症候性COVID-19に対し:  55%(95%CI: 53~58)
  • 入院に対し:  68%(95%CI: 59~74)
  • 重症COVID-19に対し:  62%(95%CI: 50~74)
  • 死亡に対し:  74%(95%CI: 50~90)

であった。同じ期間中、

  • 入院リスク:  4回群で86.6 events/100,000名, 対照群で266.7 events/100,000名, リスク差は180.1 events/100,000名(95%CI: 142.8~211.9)
  • 重症COVID-19リスク:  4回目群で42.1 events/100,000名, 対照群で110.8 events/100,000名, リスク差は68.8症例/100,000名(95%CI: 48.5~91.9)

だった。14~30日の期間における4回目接種の相対的有効性推計値は、

  • SARS-CoV-2感染症に対し:  52%(95%CI: 49~54)
  • 症候性COVID-19に対し:  61%(95%CI: 58~64)
  • 入院に対し:  72%(95%CI: 63~79)
  • 重症COVID-19に対し:  64%(95%CI: 48~77)
  • 死亡に対し:  76%(95%CI: 48~91)

だった。

 研究対象期間の初期においてCOVID-19 PCR検査数は対照群よりも4回目群で一時的ながら少なかったしかしながら7日以降において、こうした差は見られなくなった。

Fig. 2: 累積発症曲線。Aが感染, Bが症候性COVID-19, Cが入院, Dが重症COVID-19, Eが志望の累積発症曲線。

 上記5個のoutcomeの累積発症曲線をFigure 2に示す。これらの曲線は、4回目接種約7日後から分岐した。4回目群で感染リスクが低い初期を過ぎた後、5~6日後までには両群間でごく小さな差が見られるようになっていた(Fig. 3A)7日目以降に相対的有効性は徐々に増加し、14日目までには約50%に至って安定した。

 Sensitivity analysisの結果は、主要な解析と概ね同等であった異なる時間変動性モデルに基づいたSARS-CoV-2感染に対する日別の相対的ワクチン有効性の推計値も、主要な解析と酷似した軌跡を辿った(Fig. 3B)

Fig. 3: 4回目接種後のワクチン有効性の推移

 

(4) 考察

 この研究の結果により、ファイザー製ワクチン3回接種(4ヶ月以上前に接種済)と比較して、4回目接種はSARS-CoV-2感染症・症候性COVID-19・入院・死亡に対して早期の予防効果があることを示唆している。

 フォローアップ期間の初期(4回目接種直後)において、4回目接種群ではSARS-CoV-2感染症のリスクが低下したように見えた。こうした早期のリスク低下は過去の研究で観察されており、これは感染歴があり, そのためワクチン接種を選択する可能性が低い人が対照群に含まれた結果であるかもしれない。ワクチン接種後まもなくの期間において、ワクチン接種済の人の中でCOVID-19検査を受けた頻度が比較的少なかったが、おそらくこれはワクチン接種済の人々が自身の症状をワクチンの副作用と関連付けたからであろうしかしながら、2群において5~6日目までにほぼ同等のリスクが示されことが示すように、こうしたバイアスは一時的な現象であった。この期間を過ぎた後(約7日以降)、ワクチンの影響が出始め, 次第に増加し, 14日目辺りには安定化した。5~6日目の間において2群間での差が極めて小さかったため、こうした差の多くは4回目接種の有効性に帰することができる。

 

 

 イスラエルですら4回目接種が始まって現段階で4ヶ月弱ですし、この研究の対象期間は今年1月初旬から2月中旬まででした。雑な言い方ですが、始まって日が浅いのです。それでもなお、少なくとも60歳以上において4回目接種の効果が示された点は注目されて然るべきではないでしょうか。その上で、半年とか, 1年とか, それ以上の期間の長期的なデータがどうなるか今後も注視したいところです。

 なお日本における目下の課題は、3回目接種をもっと拡充させることでしょう。もう既に高齢者, 基礎疾患のある人, 医療従事者への3回目接種は十分行き渡ったと思われますが、それ以外の集団(非医療系の職業に従事する現役世代や子供たち)のワクチン接種率が上がらねば感染の勢いを抑えられないし, 病院等におけるクラスターは今後も繰り返し続けるでしょう。