こんにちは。現役救急医です。今日は、2021年12/15にNew England Journalに掲載されたコロナワクチンに関する論文"Efficacy and Safety of NVX-CoV2373 in Adults in the United States and Mexico"(Dunckle L.M., Kotloff K.L. et al.; DOI: 10.1056/NEJMoa2116185)を紹介してみます。
(1) Introduction
NVX-CoV2373(Novavax製)は、完全長・安定化・prefusionの組換えスパイクタンパク(Wuhan-Hu-1配列から作成)の三重体を, saponin-based adjuvant(Matrix-M)と共配合させたナノ粒子の組み合わせからなるコロナワクチンである。ワクチンは2~8℃の温度で安定している(≒保存可能である)。
NVX-CoV2373(以下"NVXワクチン")は、成人において安全かつ免疫原性があることが分かっており, また、南アフリカで行われた第2b相臨床試験ではベータ株による重症COVID-19に対して高い有効性を示し, 英国で行われた第3相臨床試験ではアルファ株によるCOVID-19に対して高い有効性を示した。PREVENT-19(Perfusion Protein Subunit Vaccine Efficacy Novavax Trial-COVID-19)とは、米国とメキシコで, 18歳以上の成人を対象にしたNVX-CoV2373の第3相臨床試験である。
(2) Method
① Trial Design
第3相ランダム化・観察者盲検化・プラセボコントロール臨床試験を、米国113箇所とメキシコ6箇所で実施した。
参加者は2020年12/27~2021年4/19の間に最初の注射を受け、2021年4/19までフォローされた。この期間中、米国・メキシコではSARS-CoV-2のアルファ・ベータ・ガンマ・イプシロン・イオタ変異株が優勢だった。
参加者は参加登録前に同意書を提出し, 年齢に従って階層化され(18~64歳ないし65歳以上), NVXワクチンまたは生理食塩水(=プラセボ)接種のいずれかへ2:1の比でランダムに割り振られた。
② PICO
1. Participant
18歳以上で、1) 健康な成人, もしくは 2) 慢性疾患(慢性肺・腎・心疾患, 2型糖尿病 or コントロール良好なHIV感染症)の状態が安定している成人が参加登録可能だった。主要な参加除外基準は、1) SARS-CoV-2感染既往あり, または 2) 既知の免疫不全あり, だった。
2. Intervention(NVXワクチン群): NVXワクチン(組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク 5 μgとMatrix-M 50 μg)を21日間隔で2回接種
3. Comparison(プラセボ群): 生理食塩水を21日間隔で2回接種
4. Outcome
1) ワクチン有効性の評価
Primary end pointは、初発の軽症, 中等症 or 重症COVID-19(2回目接種から少なくとも7日後に発症したもの)の予防に関するNVXワクチンの有効性を推定することだった。Primary end pointの評価は、i. ランダム化後、割り振られた通りに2回接種を受けた人, ii. baselineで抗SARS-CoV-2 nucleoprotein抗体陰性・SARS-CoV-2 RNA RT-PCR陰性だった人, 及び iii. 2回目接種7日後より前に除外されるようなeventが無かった人, が含まれるper-protcol efficacy analysis populationで行われた。
主要なsecondary objectiveは、variant of concern(VOC: 懸念すべき変異株)・variant of interest(VOI: 注意を要する変異株)のいずれでもないSARS-CoV-2によるCOVID-19への予防効果を決定することである。
またsecondary end pointとして、中等症・重症COVID-19に対するワクチン有効性を推定した。ここで中等症COVID-19とは、高熱と, 下気道感染症の客観的な証拠があることと定義される。重症COVID-19とは、
- 臨床的に顕著な頻呼吸, 頻脈 or 低酸素血症があること
- 呼吸補助を受けていること
- 1個以上の臓器障害があること
- ICU入室
- 死亡
のいずれかを満たすことと定義される。
2) ワクチン安全性の評価
請求された("solicited")局所性, 及び 全身性の有害事象に関するデータは、1回目接種及び2回目接種後の7日間において、電子日記により収集した。任意の("unsolicited")有害事象に関するデータは、1回目接種時から2回目接種の28日後までの間に収集された。重症有害事象, 特に注意を要する有害事象, 医療を必要とした有害事象に関するデータは、1回目接種からdata cutoffまでの間に収集された。
③ 統計学的解析
ワクチン有効性の評価は、ランダム化後に少なくとも1回はワクチンないしプラセボの接種を受けた参加者全員を含むfull analysis populationと, per-protcol efficacy analysis populationで行われた。Full analysis populationの観察期間は、1) 1回目接種から始まるものと, 2) 2回目接種7日後から始まるもの の2つが用いられた。Per-protcol efficacy populationの観察期間が始まるのは、2回目接種7日後からだった。
ワクチンの有効性は「(1-RR)x100」で計算した。RRとは、プラセボ群におけるend point発生数と比較したNVXワクチン群のend point発生数に基づく、end pointのrerative risk(相対的危険度)である。Relative riskとtwo-sided 95% confidence interval(CI; 信頼区間)は、Poisson回帰という方法で求めた。Primary efficacy analysisにおける成功の基準は、1) ワクチン有効性の95%CIの下限が30%を超えること, 及び 2) ワクチン有効性の点推定が50%以上であること、と予め設定された。
この臨床研究は、primary end pointに関する有意性を達成するのに必要と予想されるevent数に基づく有効性を評価する為に設計されており、元々primary end pointの定義に合うには144症例が必要だと推計された。しかし、臨床試験の実行可能性を維持する為, そして 緊急使用承認によって全国的にワクチンが入手可能となった状況下で、参加者を留めるために、"blinded crossover"(最初プラセボ群に割り振られた参加者がNVXワクチンを接種される, 及び その逆も然り)が実施された。
(3) Result
Screenを受けた31,588名のうち、29,949名が2020年12/27~2021年2/18の間にランダム化された(Fig. 1)。Full analysis populationに含まれた29,582名(NVXワクチンを少なくとも1回接種された: 19,714名, プラセボを少なくとも1回接種された: 9,868名)のうち、per-protcol efficacy analysis populationに含まれたのは25,452名(NVXワクチン被接種者: 17,312名, プラセボ被接種者: 8,140名)だった。
Per-protcol efficacy analysis population内の参加者の人口統計学的特性は、両群間で均衡が取れていた;
- 女性: 48.2%
- 白人: 75.9%
- 黒人 or アフリカ系アメリカ人: 11.0%
- Native Amarican or アラスカ先住民: 6.2%
- Hispanic or Latino: 21.5%
併存疾患を1個以上持っているのは、参加者の47.3%だった。
観察期間を1回目接種後から開始とした場合、full analysis populationにおけるCOVID-19発生数は、
- NVXワクチン群: 21.2/1,000人年(95%CI 16.2~27.7)
- プラセボ群: 51.9/1,000人年(95%CI 40.9~66.0)
だった。累積発症曲線は、14日目から21日目の間に分離し始めた(Fig. 2A)。
2021年4/19までフォローされたper-protcol efficacy analysis populationに属する25,452名において、COVID-19は77例発生した:
- NVXワクチン群: 14例(発生数: 3.3例/1,000人年[95%CI 1.6~6.9])
- プラセボ群: 63例(発生数: 34.0例/1,000人年[95%CI 20.7~55.9])
これらの結果から、ワクチンの有効性は90.4%(95%CI 82.9~94.6; P<0.001)と算出した(Fig. 2B)。NVXワクチン被接種者における新規COVID-19症例の発生率は、他の時期よりも、フォローアップ期間の最初の42日間において高率だった。その結果、ワクチン被接種者内での新規症例発生数は減少し、プラセボ被接種者内の新規症例発生数は増加した(Fig. 2B)。
Full analysis populationにおいて、2回目接種後7日目に観察期間を開始した場合にも、同様の結果が得られた: COVID-19症例は全体で85例だった。
- NVX被接種者: 16名; 発生率: 3.7例/1,000人年(95%CI 1.8~7.4)
- プラセボ被接種者: 68名; 発生率: 34.6/1,000人年(95%CI 22.3~53.6)
これらの結果から、ワクチン有効性は89.3%(95%CI 81.6~93.8)であると算出された(Fig. 2C)。
COVID-19症例の重症度は、
- NVXワクチン群: 全例が軽症
- プラセボ群: 中等症: 10名, 重症: 4名
であり、中等症・重症COVID-19に対するワクチン有効性は100%(95%CI 87.0~100)となった。重症COVID-19のみに対するワクチン有効性は100%(95%CI 34.6~100)だった。COVID-19罹患or合併症riskが高い参加者において、primary end pointの定義に合うCOVID-19確定診断例に対するワクチン有効性は91.0%(95%CI 83.6~95.0)だった (Fig. 3)。事前に設定した複数の人口統計学的subgroupにおけるワクチン有効性も、多くの場合、同様に高値だった。
- 黒人におけるワクチン有効性: 100%(95%CI 67.9~100) (Fig. 3)
- Hispanic or Latinoにおけるワクチン有効性: 67.3%(95%CI 18.7~86.7)←唯一、他のsubgroupよりもワクチン有効性が低かった(Fig. 3)
RT-PCRでCOVID-19と診断された参加者77名のうち、61名(79%)は全ゲノム配列解析により配列が判明した。この61検体のうち、48個でVOC or VOIの配列が検出され, 13個は他の変異株が検出された。他の変異株に対するワクチン有効性は100%(95%CI 85.8~100)だった(Fig. 2D)。アルファ株は、VOCと特定された検体の大半(89%: 35検体中31個)を占めていた;
- アルファ株に対するワクチン有効性: 93.6%(95%CI 81.7~97.8)
- あらゆるVOC or VOIに対する有効性: 92.6%(95%CI 83.6~96.7) (Fig. 2E)
請求された局所性, 及び 全身性有害事象は、大半が軽症〜中等症で, 一過性だった。これらの事象は、プラセボ被接種者よりもNVX被接種者においてより多かった。
- あらゆる局所性有害事象: 1回目接種後: NVXワクチン群 58.0%, プラセボ群 21.1% 2回目接種後: NVXワクチン群 78.9%, プラセボ群 21.7%
- あらゆる全身性有害事象: 1回目接種後: NVXワクチン群 47.%, プラセボ群 40.0% 2回目接種後: NVXワクチン群 69.5%, プラセボ群: 35.9%
1回目及び2回目接種後、最も多く報告された局所性有害事象は圧痛と注射部位疼痛だった。これらの症状の持続期間の中央値は2日以下だった。重度の局所性反応は全体として少なかったものの、特に2回目接種後にプラセボ被接種者よりもNVX被接種者で多かった。
請求された全身性有害事象で最も多かったのは頭痛, 筋肉痛, 疲労, 倦怠感であり、NVX被接種者と2回目接種後に多かった。症状持続期間中央値は1日以下だった。重症な全身性反応はNVX被接種者で多く, 特に2回目接種後に多かった。
(4) Discussion
この臨床試験では、blinded crossover後の予防効果の持続期間と, 全体的な安全性profileの評価を継続した。この臨床試験には人口統計学的に多様な集団が含まれ、COVID-19の予防と, 中等症・重症COVID-19に対するNVXワクチンの短期的な有効性が高度であることを示す強いevidenceを示した。
中央値で2ヶ月間のフォローアップの間において、NVXワクチンは安全であり, また反応性は軽症〜中等度で, 一過性だった。NVXワクチン群とプラセボ群の間で有害事象を報告した参加者の割合が同等であることが示すように、ワクチンに関連した安全性に関する懸念は認めなかった。長期的な安全性のmonitoringは、最初のワクチン接種から24ヶ月後まで継続する予定である。
米国とメキシコでCOVID-19症例が増加した期間に流行していた変異株(大半がアルファ株だった)に対するNVXワクチンの有効性は90%を超えていた。英国で行われた早期の第3相でも、この変異株に対して同等の予防効果が示されていた(有効性: 86.3%)。更に、この2件の臨床試験におけるアルファ株に対する有効性は、VOC or VOIでなく, 祖先であるWuhan-Hu-1スパイク配列により近いと思われる変異株13種に対する有効性と同等だった; これはワクチンが広範囲の変異株に対して免疫を誘導する可能性を示唆している。
この臨床試験の長所は、人口統計学的に多様な集団を含んでいることである。米国のHispanic or Latinoでは、他の集団と比較してワクチン有効性が低かった; これは単なる偶然か, 或いは まだ判明していないウイルス側ないし宿主側の因子に関連している可能性がある。
この臨床試験には幾つか欠点がある。