こんばんは。現役救急医です。コロナワクチンの3回目(ブースター)接種を実施する方針が日本でも固まっていますが、それに関する他国からの報告も増えているようです。今回は、2021年10/29にLancetへ発表された論文(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02249-2 )を紹介してみます。
(1) Introduction
イスラエルは、国民の55%超がBNT162b2 mRNA コロナワクチン2回接種を終えているにも関わらず、感染拡大第5波を経験した。被接種者での感染・入院が増加する原因は、ワクチンによる免疫の減少や, 変異株に対するワクチン有効性低下の複合であると考えられる。
ワクチン免疫減少を克服する標準的approachは、追加ワクチンの接種である。イスラエル保健省はBNT162b2 mRNAワクチン3回目接種キャンペーン実施を通知した。2021年7/13から免疫不全患者へ, 7/30から60歳以上へ, 8/12から50歳以上, 8/19から40歳以上, 8/24から30歳以上, 8/30から12歳以上へ3回目接種を開始した。3回目接種は、2回目接種を少なくとも5ヶ月前に受けた人のみに行われた。3回目接種は急速に拡大し、最初の2週間で60歳以上の半分以上に達した。
今回、COVID-19重症化予防に関するBNT162b2ワクチンの有効性を評価する為にイスラエル最大規模のデータベースを使用した。
(2) Method
① Study Design
Clalit Health Serviceは、病院グループ(?)4社の中で最大規模であり、イスラエルの人口の半分超の保険をカバーしている。Clalit Health Serviceの情報システムは完全デジタル化されている。この研究は2020年7/30~2021年9/23の期間を対象にしている。
以下の条件を満たした人が今回の研究に登録された。
- (3回目接種への)採用期日から少なくとも5ヶ月前に2回目接種済
- イスラエル保健省のガイドラインの規定で3回目接種の適応となる
- 12ヶ月以上Clalit Health Serviceの契約者である
- SARS-CoV-2感染既往なし
- 採用期日前3日間に医療機関受診なし
なお、以下に該当する人は除外された。
- 2021年7/30より前に3回目接種を受けた免疫不全患者
- 医療従事者, 長期療養施設居住者, または 医学的な理由で自宅にこもっている人
- BMIないし居住地が不明な人
この研究では、採用期日に3回目接種を受けた人(ブースター群)と, フォローアップ期間中に3回目接種を受けなかった人(対照群)を比較した。研究対象期間中の1日1日において、その日に3回目接種を受けた人は, 2回目接種済だが3回目未接種の対照群の人とmatchされた。こうした対照群の人が将来、3回目接種を受けてブースター群に入る可能性もあった。
ブースター群と対照群の人は、年齢(2年区切りで分類), 性別, 居住地域, COVID-19重症化危険因子である慢性疾患の数, 2回目接種を受けた期日, "index date"(=SARS-CoV-2感染と診断された日?)前の9ヶ月間に受けたSARS-CoV-2 PCR検査の回数という交絡因子が一致するように組み合わされた。
② Outcome
次のような項目によって評価した。
1. Primary outcome
- COVID-19による入院
- 重症COVID-19
- COVID-19関連死
2. Secondary outcome
フォローアップ開始から、1) 上記outcome発生, 2) 研究対象期間終了(2021年9/26), 3) 死亡 のいずれかが先に発生するまで各ブースター - 対照ペア(以下、『ペア』と呼ぶ)を追跡し、上記outcome発生の有無を観察した。他にも、ペアの片方(=対照群の人)が3回目接種を終えた時もフォローアップを終了した。
③ 統計学的解析
累積発症曲線の作成と各outcomeの危険度を推計するために、Kaplan-Meierという方法を用いた。危険度は比と差によって比較した。各outcomeの危険度比の推計には、ブースター群に入った人が3回目を接種された7日後でも双方がriskに曝されていたペアのみを用いた。3回目接種の有効性は「1-危険度比」という式により計算した。
(3) Results
2020年7/30~2021年9/23の間に、1,158,269名が3回目接種可能であった。Matching後、ブースター群と対照群それぞれに728,321名が含まれた(平均年齢: 52歳, 女性: 51%)。3回目接種可能な集団と, 今回の研究に含まれたmatch後の集団の間のbaselineの人口統計は類似していた。
2回目接種のみと比較した3回目接種の有効性の推計値は、
- 入院に対する有効性: 93% (95%CI 88~97); 対照群 231件 vs ブースター群 29件
- 重症COVID-19に対する有効性: 92% (95%CI 82~97); 対照群 157件 vs ブースター群 17件
- COVID-19関連死: 81% (95%CI 59~97); 対照群 44件 vs ブースター群 7件
だった。COVID-19関連入院の累積発生曲線は、3回目接種6日後から分岐し始めた; 重症COVID-19及びCOVID-19関連死の累積発生曲線は接種8~9日後から分岐が見られた(Figure 1)。男女間, 及び 40~69歳の集団と70歳位以上の集団の間で、入院・重症COVID-19に対する3回目接種有効性の推計値は類似していた(Table 3)。
Secondary outcomeに関しては、
- SARS-CoV-2感染症に対する有効性: 88% (95%CI 87~90); 対照群 6,131件 vs ブースター群 1,135件
- 症候性感染: 91% (95%CI 89~92); 対照群 3,345件 vs ブースター群 514件
という結果だった。3回目接種を受けていない人と比べると、3回目接種を受けた人ではフォローアップ期間中にSARS-CoV-2の検査を受ける頻度が多かった。
まだ3回目接種を受けていない年齢群と比較すると、3回目接種キャンペーン開始直後に、3回目接種を受けた各年齢群で発生件数は減少し始めた(Figure 2)。
(4) Discussion
この大規模観察研究で、BNT162b2 mRNAワクチン3回目接種はCOVID-19重症化予防に関して有効であると推計された。5ヶ月以上前に接種された2回目接種と比較すると、3回目接種後7日以上経過した時点にて3回目接種はCOVID-19関連入院予防効果は93%, 重症化予防効果は92%, COVID-19関連死予防効果は81%であると推計された。
入院・重症化に対する3回目接種の有効性は男女間, 及び 40~69歳の集団と70歳以上の集団の間で類似していると推計された。16~39歳の集団において、3回目接種の有効性を十分推計するには重症outcomeの危険度比が小さすぎた。併存疾患数で分類した集団間でも有効性は類似していた。
3回目接種後にSARS-CoV-2関連outcomeに対する予防効果が最大となる時期は不明である。今回の研究では、3回目接種後7日目より有効性が発揮されると推定した。この期日は、3回目接種後7日目の人で抗体濃度が高かったという知見により支持される。しかし、それより早期に一定の予防効果が発生する可能性もある。mRNAコロナワクチンでは2回目接種3~5日後に抗体産生増加が起こりうるものの、他種のワクチン(e.g. インフルエンザ)ではブースター接種後の早くとも2日後に抗体と抗体産生細胞が検出された。加えて、仮に3回目接種直後にウイルスに曝露されていたとしても、免疫系の急速な反応が感染を予防できる可能性がある。こうした予防効果は"post-exposure effect"と呼ばれ、水痘, 麻疹, A型肝炎といった他の病原体へのワクチンで証明されている。