Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

英国でのブースター接種の効果

 こんばんは。現役救急医です。COVID-19の患者数増大が止まりませんね。そんなご時世だからこそ、コロナワクチン接種 − 特にブースター接種に関するデータを紹介してみようと思います。今回参考にしたのはNature Medicineに今年1/14に発表されたもの(Andrews, Y. et al. Effectiveness of COVID-19 booster vaccines against covid-19 related symptoms, hospitalizasion and death in England. Nature Medicine https://doi.org/10.1038/s41591-022-01699-1 (2022))です。

 

 

(1) 背景

 英国では2021年9/14にブースター接種が導入された。英国当局は、6ヶ月以上前にコロナワクチン2回接種を済ませている人に対し, BNT162b2ファイザー製)ないしmRNA-1273(モデルナ製)のいずれかの接種を推奨している。初期段階では1) 50歳超の成人全員と16~49歳の基礎疾患がある成人, 2) 免疫抑制状態にある人の同居人(16歳以上)及び成人の介護者, 3) 医療従事者 が対象となった。

 この研究では、イングランドの成人における, ブースター接種の症候性COVID-19・入院・死亡に対する有効性の推計を目標とした。

 

 

(2) 方法

① Study Design

 PCRにより診断された症候性COVID-19と入院に対するファイザー製ワクチンブースター接種の有効性を推計する為に、検査陰性・症例-対照デザインを使用した。PCRSARS-CoV-2感染が診断された18歳以上の症状あり成人のワクチン接種状況と, 症状はあるがPCRで陰性だった人の接種状況を比較した。モデルナ製ワクチンの2回接種は導入が遅かった為、モデルナ製ワクチン接種を受けた人へのブースター接種時期はまだ先であった

 

② データの収集

 National Immunisation Management System(NIMS)にはイングランド住民の人口統計学的情報が登録されており, コロナワクチン接種を全て登録するのにも用いられている2021年12/14にデータへアクセスした。

 2020年12/8~2021年12/5の間に陽性及び陰性となった検査結果のうち、18歳以上の人に関する初期データが抽出された。症状があること・発症した期日を申告した人のデータのみに限定, また、発症から10日以内に検査を受けた人(この期日を過ぎるとPCR検査の感度が低下するので)のみが対象になった。なお以下に該当する検査結果は除外された。

  • 前回陰性となった検査から7日以内に行われた検査で陰性, もしくは 前回陰性となった検査から10日以内に症状が出た人
  • 陽性となった検査から21日以内に行った(前回の)検査で陰性
  • 前回陽性となった検査から90日以内に陽性・陰性となった検査

検査データは2021年12/14にNIMSとリンクさせた。

 入院に対するワクチンの有効性を評価する為、2021年12/15にEmergency Care Dataset(ECDS)から抽出したデータと検査データをリンクさせた。検査陽性から14日以内に救急受診し(外傷以外の原因で), 入院した症候性の症例が対象となった。2021年11/26までに検査を受けた症例のデータは2021年12/15に抽出した。

 

統計学的解析

 ワクチン有効性は、1-(症例群でのワクチン接種/対照群でのワクチン接種のodds)という式で定義された。

 1回目・2回目接種は何を用いたか(ChAdOx1-S[アストラゼネカ製] または ファイザー製)によって分類して解析が行われた1回目と2回目で別のものを使用した人は除外された。

 症候性COVID-19に対するワクチン有効性は、1・2回目接種に使用されたワクチンの種類別に, ブースター接種後の時間経過により評価した。具体的には、ブースター接種後0~1日・2~6日の期間ではファイザー製・モデルナ製ワクチンを一緒に評価した。7~13日・14~34日・35~69日・70日以降ではファイザー製・モデルナ製を別個に評価した。モデルナ製ワクチンに関しては、35~70日以降のデータが不足していた。

 入院・死亡に対するワクチン有効性は、1) ブースター接種後0~1日・2~6日においてはファイザー製・モデルナ製ワクチンを一緒に評価し, 2) 7~13日・14~34日・35~69日においてはファイザー製ワクチンのみを評価した。

 Primary analysisでは、ブースター接種を受けた人と, 発症から少なくとも175日前に2回目接種を受けたがブースターがまだの人 を比較したSecondary analysisでは、ブースター接種を受けた人と、1) 完全に未接種な人, 及び 2) ブースター接種後2~6日の期間 を比較した。

 

 

(3) Result

 2021年9/13~12/5の間に、893,845件の18歳以上の成人の検査結果が基準に該当した。そのうち、

  • 未接種は278,096件(31.1%)
  • アストラゼネカ製ワクチン2回目接種から175日経過:  223,198件
  • ファイザー製ワクチン2回目接種から175日経過:  171,079件

だった。ブースター接種を受けた人のうち、1・2回目接種がアストラゼネカ製だったのは89,019名, 1・2回目接種がファイザー製だったのは132,453名だった。解析対象となった343,955名の陽性症例中、4,377名(1.27%)が発症14日以内に入院した。

 

 症例と対照例の割合に対する全体的な効果はブースター接種後7日目あたりから見られ、11日目には安定した。1・2回目接種がアストラゼネカ製ワクチンだった18~49歳の成人では、症候性COVID-19に対するブースター接種の有効性(2回接種のみと比較)はブースト後14~35日目にピークに達し, 

  • ファイザー製ワクチンブースト:  89.6% (95% confidence interval[CI; 信頼区間]: 88.6~90.4)
  • モデルナ製ワクチンブースト:  95.3% (95%CI 91.8~97.3)

という結果だった。1・2回目接種がファイザー製ワクチンだった18~49歳におけるブースト後14~34日目の有効性は、

  • ファイザー製ワクチンでブースト:  82.8% (95%CI: 81.8~83.7)
  • モデルナ製ワクチンブースト:  90.9% (95%CI: 84.5~94.7)

だった。35~69日・70日以上の期間にて、ファイザー製ワクチンブースター接種の相対的有効性はわずかに低下していた50歳以上に対する同様の解析でも同等な結果が得られた。

 ブースター接種後2~6日目の期間をbaselineに用いたsecondary analysisは、primary analysisと同等の結果を示した未接種者をbaselineに用いた解析では、1・2回目接種がアストラゼネカ製もしくはファイザー製ワクチンだった50歳以上の人においてファイザー製ワクチンによるブースト14~34日後の有効性は94.4%(95%CI: 94.1~94.7)だった。モデルナ製ワクチンによるブースター接種の絶対的有効性は、

だった。

 

 2つの年齢集団において、入院に対する高い予防効果が見られた。50歳以上において、未接種者と比較したファイザー製ワクチンによるブースト後14~34日後における有効性は、

だった。

 より若い年齢集団でも同様に高い予防効果が見られており、

という結果であった。ブースター接種後69日目まで入院に対するワクチン有効性低下の証拠は乏しかった

 50歳以上におけるファイザー製ワクチンによるブースト14~34日後における死亡に対する有効性(未接種者と比較したもの)は、

だった。

 

 

(4) Discussion

 この研究は、英国でデルタ株が流行している時期において、ファイザー製ないしモデルナ製ワクチンによるブースター接種後に、症候性COVID-19への予防効果が有意に増加する証拠を示した。ファイザー製ワクチンブースター接種により、入院or死亡に対しては極めて高い予防効果が見られた。

 これらの知見は、ブースター接種が中等度〜重症COVID-19に対して極めて高い予防効果を持っていることを示している。ブースター接種後10週間から症候性COVID-19に対するわずかな予防効果の低下が見られたものの、ブースター接種後10週間までは重症COVID-19への効果低下の明確な証拠は無かった。1・2回目接種がアストラゼネカ製ワクチンだった人と比較して、1・2回目がファイザー製ワクチンだった人ではブースター接種の有効性がわずかに低下していたが、これはアストラゼネカ製2回接種よりもファイザー製2回接種の効果が高いことが原因である。未接種者を対照に用いた場合、1・2回目に用いたワクチンいずれに関してもブースター接種の有効性にほとんど差は見られなかった。

 

 当初ブースター接種に関するデータはイスラエルのものばかりだったような気がしていたのですが、徐々にそれ以外の欧米先進国のデータが出てくることにより、その有効性がより確実に示されているように感じます。COVID-19パンデミックの1日でも早い収束を達成するには、まだ2回接種普及すらままならない国への供給と, 3回目接種を喫緊に必要としている国への供給の双方を両立するための国際的な枠組みも必要だと思います。