Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

医師修学資金制度・地域枠の実効性の検証を

 こんばんは。現役救急医です。昨日は、政府の「感染症内科・救急科を志望する受験生/医学生向けの特別枠を医学部医学科に設ける」という政策について批判する記事や動画をuploadしました。

youtu.be

 動画内でも言っておりますが、地域枠や医師修学資金制度も正直、問題がある制度だと思います。これらの制度は2000年代初頭くらいに、転院搬送先が見つからず亡くなったり, 救急車の収容先が見つからず亡くなった患者がいたことをきっかけに報道が加熱し、それをきっかけに国や各大学・各自治体が開始したものです。しかしそれ以降、日本の医療は改善したとは言い難い状態です。特にCOVID-19パンデミックが本格化して以降は、感染者が増えるたびに重症患者・中等症患者で病床が埋まり, COVID-19以外の急性疾患や外傷の急患の診療に支障を来たすのみならず、遂にCOVID-19中等症患者の入院先すら見つからない状態となりました。

 これは私の無知かもしれませんが、これまで上記のような地域枠・医師修学資金制度の効果が検証されたことがあったのでしょうか?確かにこの制度で、指定された地域・医療機関で働き続ける医師数は増えたかもしれません。しかし極端な話、地域枠対象者や修学資金利用者が全員眼科や皮膚科に行ってしまい, 救急科や脳神経外科・循環器内科といった重症患者を見る機会が多く体力的にもキツい診療科に行かなければ、その地域の診療態勢の底上げにはならないでしょう。

 また日本の急性期病院は多くの場合、1つの地域内に複数存在しており, 各病院には決して多くない数の医療スタッフが配置されています。一般外来に加えて, 手術や入院患者の診療・重症患者の管理・急患の診療を少人数で切り盛りしているので、容易にキャパが飽和してしまうことは目に見えています。そのような状況ですから、定年退職に加えて, 精神的・肉体的疲労がきっかけで離職していく人が一定数出るのは自明の理です。そうやって限界点に達している地方の医療機関に、地域枠とか医師修学資金の対象者である若手医師を投入して『後始末』をやらせる訳ですが、そんな忙しい環境では精神的・肉体的に疲労するのは言うまでもないですし, 上級医から綿密なフォローや指導/教育を受けられるとは思えません。

 ここまでの主張は私の経験談や, 見聞きした事例から導き出した考察・分析なのですが、これをデータにより裏付ける(or 検証する)必要があると思います。国は今一度、地域枠や医師修学資金制度対象者に対して、

① 卒後の進路・診療実績; どの診療科を選び, どの施設で働き, どれほどの患者を診療し, 学位取得や学会発表・論文発表はどうだったのか。

② 本人への聞き取り調査; キャリア及びプライベートの両側面で、地域枠・医師修学資金の規約を守ったことにより不利益, ないし 利益を受けたのかについて聴取する。

③ 卒後の労働環境; 労働時間や給与, 当直やオンコールの回数, 過労に伴う休職・離職の有無, 有給取得状況, その他手当の受給状況, 産休や育休の取得状況等についてデータを収集する。

④ 勤務態度; 同僚・上司から本人の勤務態度について聴取し、倫理的に問題のある言動の有無や, 過労による意欲低下・心身不調の経緯の有無等を調査する。

の4項目を調査し、その結果を国民に公開した上で、地域枠や医師修学資金制度が果たして有効であったのか, これ以上継続する意義はあるのか, について議論を行うべきです。