Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

米国での2021年3月〜7月におけるmRNAワクチン有効性評価

 みなさんこんにちは。今日はネットサーフィン中に、米国CDCが公表している論文を見つけたのでそれを紹介してみます。この論文は今年8/18に、'Morbidity amd Mortality Weekly Report' (MMWR; 罹患率・死亡率週報)のウェブサイトへ、'MMWR Early Release'として掲載されたモノです。

 

 現実的なワクチンの予防効果持続は一般的に、検査により診断されたCOVID-19患者におけるワクチン接種のoddsと, 検査陰性であった対照患者のそれを比較することで計測する。

 2021年3/11~7/14の間米国の18州にある21箇所の病院へ入院した成人(18歳以上)がワクチン予防効果持続の解析へ含められた。発症後10日以内にSARS-CoV-2検査を受け, 発症後14日以内に入院した患者が登録可能であった。ここでのCOVID-19症例患者の定義は、①COVID-19様症状あり, 及び ②抗原検査ないしreverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)検査で陽性である。他方、対照患者①COVID-19様症状があったが検査でSARS-CoV-2陰性, 及び ②COVID-19様症状がなく検査も陰性 と定義されている。最終的な感染有無の確認は、臨床検査の結果と, 中枢のラボで行われる上気道検体へのRT-PCR検査により行われた。Cycle threshold値<32のSARS-CoV-2陽性検体は、全ゲノム配列解析と系統解析の為にミシガン大学へ送られた。

 医療記録・州のワクチン接種登録・ワクチン接種記録カード・薬局等の記録でワクチン接種期日と製品名が確認できた場合, もしくは 患者本人・代理人がワクチン接種期日と場所を明確に報告できた場合はワクチン接種済とみなされた。mRNAワクチン2回接種を受け, 2回目接種の期日が発症から14日以上前だった人を完全接種済("fully vaccinated")とみなした1回しかmRNAワクチンを接種していない人, ワクチン2回目接種期日が発症の14日未満である人, mRNAワクチンでないコロナワクチンを接種された人, ないし 異なるmRNAワクチン製品を接種された(i.e. 1回目と2回目で別製品を接種)人除外された。

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Table 1

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Figure 1

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Figure 2

 最終解析には3,089名が含まれ、その内訳はCOVID-19症例患者; 1,194名, 対照患者; 1,895名だった(Table 1)。患者年齢中央値は59歳で、女性は48.7%, 免疫不全状態にある患者は21.1%だった。COVID-19症例患者のうちワクチン完全接種済は141名(11.8%)である一方、対照患者におけるワクチン完全接種済の人は988名(52.1%)だった。

 SARS-CoV-2の系統を特定できた454検体のうち、242(53.3%)はアルファ株, 74(16.3%)はデルタ株だった(Figure 1)。6月中旬には米国でデルタ株が優勢となった。COVID-19による入院に対する合計のワクチン有効性は86%(95%CI 82~88%)であり、免疫不全状態患者を除いた有効性は90%(95%CI 87~92%), 免疫不全状態患者に限定した有効性は63%(95%CI 44~76%)だった。発症時期が3~5月の患者における有効性は87%(95%CI 83~90%), 発症時期が6~7月の患者における有効性は84%(95%CI 79~89%)だった。2回目接種後2~12週間におけるワクチンの有効性は86%(95%CI 82~90%)であり, 2回目接種後13~24週間における有効性は84%(95%CI 77~90%)だった; この2期間の間にワクチン有効性の有意差は無かった(p=0.854)Subgroup内でも、24週間にワクチン有効性に有意な変化は見られなかった(Figure 2)

 

 2021年3~7月に入院した成人を登録した複数州のネットワークにおいて、mRNワクチン2回接種のCOVID-19関連入院に対する効果は24週間にわたって維持されていた。これらの知見は、COVID-19転帰不良のriskが最も高いsubgroupにおいても有効性が維持されていた。免疫抑制状態にある患者のワクチン有効性の合計はそうでない患者と比べて低いものの、双方で時間が経っていても有効性が維持されていた。

 配列解析を行われたウイルスにおいてアルファ株は優勢だったものの, 6月中旬にはデルタ株が優勢となっており、これは全国規模の監視データと一致する。配列解析を行われたウイルスが少ない為、デルタ株に特異的なワクチン有効性は評価されなかった。アルファ株が優勢だった3~5月のワクチン有効性と, 米国でデルタ株の蔓延が増加した6~7月のワクチン有効性は類似していた。