Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

思春期青少年でのモデルナ製ワクチンの有効性と安全性

 以前もこのブログで言及しましたが、今年の7月にモデルナ製ワクチンの接種可能年齢が18歳以上から12歳以上へ拡大されました。実は最近、それに関連した論文を見つけたので紹介してみます。今回参考にしたのは、今年8/11にNEJM. orgへ発表された"Evaluation of mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine in Adolescents."(Ali K., Berman G. et al., N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2109522)です。

 

(1) Introduction

 COVID-19で入院した思春期青少年の約1/3はICUへ入室し, 4.9%が人工呼吸器を使用する。小児多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children; MIC-C)は稀だが重篤なCOVID-19に関連した合併症であり、発熱, 皮疹, 結膜充血, 消化管症状を呈する。

 モデルナ製のmRNA-1273ワクチンは、SARS-CoV-2糖蛋白をencodeしているmRNAを含む液状ナノ粒子分散液である。18歳以上の成人を対象にした第3相観察者盲検化プラセボコントロール臨床試験である"COVE"ではモデルナ製ワクチンの安全性と, COVID-19予防に関して極めて有効であることが示されている。

 

(2) Method

① Trial Design

 "Teen COVE trial"は観察者盲検化プラセボコントロールの第2・3相臨床試験である。参加者はmRNA-1273ワクチン, ないし プラセボ の2回接種いずれかに2:1の比率でランダムに割り振られた。

② PICO

 1. Participants

 12~17歳の男性及び女性で、健康状態が良好とされた思春期青少年が参加登録した。

  • Screening28日前に米国へ帰国した
  • 妊娠中ないし授乳中
  • Screening時ないしその24時間前に急性疾患に罹患 or 発熱した
  • 臨床試験中のコロナワクチン接種を受けた
  • COVID-19を予防する臨床試験中の薬剤で治療中

の人は除外された。

 2. Intervention:  それぞれ100 μgのワクチンを28日間間隔を空けて2回接種した人(ワクチン群

 3. Comparison:  生食(プラセボ)を28日間間隔を空けて2回接種した人(プラセボ

 4. Outcome:  安全性と有効性を以下のような指標で評価した。

1) 安全性の評価

  • 1回目・2回目接種後7日目までに電子日記へ記入された任意でない局所性, 並びに 全身性の有害反応
  • 1回目・2回目接種1日目〜28日目までの任意の有害事象
  • 臨床試験終了までに収集した、医療を必要とする有害事象, 接種を中止するに至った有害事象, 重篤な有害事象, MIC-Cに関する情報

2) 有効性の評価

  • 2回目ワクチン接種から28日後の思春期青少年の中和抗体力価・血清学的反応と, ワクチンを接種された若年成人の中和抗体力価・血清学的反応の幾何平均力価の比
  • 2回目接種から14日後に発生したSARS-CoV-2感染, 無症候性感染, COVID-19

ワクチンの有効性は、1-(ワクチン群の1,000人年ごとの症例発生率とプラセボ群の1,000人年ごとの症例発生率の比)で算出した。

 ワクチン2回目接種2週間後から始まったper-protcol populationにおける有効性の評価は、成人における第3相臨床試験と同じものだった。ワクチン1回目接種2週間後から始まり, 間違った薬剤を接種された参加者を除外したmodified intention-to-treat-1 population(mITT1 population)における有効性の評価は、思春期青少年におけるCOVID-19の人口統計学・病態生理学上の特徴に揃えられており, 症例発生を観察する期間を延長させることを可能にした。

 

(3) Result

 2020年12/9〜2021年2/28の間に3,732名が2:1の比で割り振られ、2,489名がワクチン群に, 1,243名がプラセボへ参加した。参加者の98%超が2回目接種を受けた。

 Baselineの特徴はワクチン群とプラセボ群間で概ね均衡であった。

  • 平均年齢:  14.3歳
  • 性別:  女性が51%
  • 人種:  白人; 84%, 非Hispanic or Latinx; 88%
  • BMI<30:  93%

ランダム化〜データ収集までの間のフォローアップ期間の中央値は83日, 2回目接種〜データベースロックまでの期間の中央値は53日だった。

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Fig. 2

 任意でない局所性反応は、プラセボ群よりもワクチン群で多かった

  • 1回目接種後:  ワクチン群; 94.2% vs プラセボ群; 36.8%
  • 2回目接種後:  ワクチン群; 93.4% vs プラセボ群; 32.6%

ワクチン群で最も多かった任意でない局所性反応は注射部位の疼痛だった(1回目; 93.1%, 2回目; 92.4%。なおプラセボ群の注射部位疼痛は1回目で34.8%, 2回目で30.3%だった(Fig. 2)

 ワクチン群において、全身性有害事象は1回目接種後68.5%で, 2回目接種後86.1%で報告された。最も多い全身性反応は疲労感, 頭痛, 筋肉痛, 悪寒だった。

  • 頭痛:  ワクチン群;  1回目 44.6%, 2回目 70.2% vs プラセボ群; 1回目 38.5%, 2回目 30.2%
  • 疲労感:  ワクチン群; 1回目 47.9%, 2回目 67.8% vs プラセボ群; 1回目 36.6%, 2回目 28.9%

 任意の全身性・局所性反応は平均約4日間持続した。7日を超えて持続した局所性反応の発生率は、数字上プラセボ群よりもワクチン群で高く, ワクチン群では2回目接種後(1.6%)よりも1回目接種後(6.4%)で多かった; これらの知見は主に腋窩の疼痛・腫脹によるものだった。7日を超えて持続した全身性反応はワクチン群(3.1%)プラセボ群(2.6%)で類似していた。

 全体的に、任意の有害反応の発生率は12~15歳の参加者と16~17歳の参加者の間で類似していた。

 1回目・2回目接種28日後までの任意でない有害事象は、プラセボ群(15.9%)よりもワクチン群(20.5%)で多かった; ワクチン群で最も多い事象は注射部位リンパ節腫脹(4.3%)頭痛(2.4%)だった。28日以内において、薬剤接種と関連していると考えられた有害事象はワクチン群で12.6%, プラセボ群で5.8%だった。死亡, MIC-C, 特に注意すべき有害事象は発生しなかった。この報告の時点では、心筋炎・心膜炎の症例は報告されなかった。

 思春期青少年の中和抗体に対する若年成人の中和抗体の幾何平均力価の比は1.08(95%CI 0.94~1.24)だった。それに加えて、思春期青少年における血清学的反応は98.8%, 若年成人における血清学的反応は98.6%であり, 思春期青少年-若年成人間の絶対的な差異は0.2 percentage point(95%CI -1.8~2.4)だった。思春期青少年の若年成人に対する非劣性の基準に合致する結果となった。

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Fig. 3

 この臨床試験の参加者におけるCOVID-19発症率が少ないので、2回目接種14日後におけるmRNA-1273ワクチンの有効性の正確な評価は困難であった(Fig. 3)2回目接種14日後に発症した厳格でない定義に則ったCOVID-19に対するmRNA-1273ワクチンの有効性は、

  • Per-protocol populationにて93.3%(95%CI 47.9~99.9)
  • mITT1 populationにおける1回目接種14日目以後に発生した症例に対する有効性:  92.7%(95%CI 67.8~99.2)

という結果だった(Fig. 3)。他にも、

  • Per-protocol populationにおける、2回目接種14日以後に発生したSARS-CoV-2感染予防に関するワクチン有効性の推計:  55.7%(95%CI 16.8~76.4)
  • m1TT1 populationにおける、1回目接種14日以後に発生したSARS-CoV-2感染予防に関するワクチン有効性の推計:  69.8%(95%CI 49.9~82.1)
  • Per-protocol populationにおける、2回目接種14日以降に発生した無症候性感染へのワクチン有効性:  39.2%(95%CI -24.7~69.7)
  • mITT1 populationにおける、1回目接種14日以降に発症した無症候性感染へのワクチン有効性:  59.5%(95%CI 28.4~77.3)

であった。

 

(4) Discussion

 思春期青少年が参加するこの臨床試験の結果は、成人で以前報告されていたmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性のevidenceを拡張するものである。思春期青少年における安全性・免疫原性は、COVE trial第3相において18~64歳で観察されたものに類似していた。それに加えて、思春期青少年における、厳格でない症例定義に則ったCOVID-19に対するワクチン有効性は93%だった。

 小児・思春期青少年のSARS-CoV-2感染を検証した複数の研究は一般的に、この年齢層における感染の大半は、学校での暴露というよりも家庭内でに暴露によるものだと結論づけている。成人への感染における思春期青少年の果たす役割の詳細は不明であるものの、この若い年齢層へのワクチン接種拡大が地域内感染を更に減少させる可能性や, 集団免疫に寄与する可能性は合理的に見える。

 心筋炎・心膜炎症例は報告されなかった若年者におけるmRNAコロナワクチンに関連した心筋炎・心膜炎の件数は、百万回接種中13例と推定されている。