Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

アストラゼネカ製ワクチン第3相臨床試験の結果

 こんばんは!専門医試験から解放されてうひゃっほーいうへへへへ〜いな現役救急医です!!今日も論文紹介しちゃうぞ!今日は今年9/29にNEJMに発表された、アストラゼネカ製のコロナワクチン'ChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)'の第3相臨床試験の結果(DOI: 10.1056/NEJMoa2105290)を紹介しちゃうんだぞ〜〜〜!?!?

 

(1) Introduction

 過去の知見にて、ADZ1222ワクチンはCOVID-19発症予防効果, 及び 安全性が示されている。現在、ADZ1222は100カ国以上へ配分されている。

 ここでは、AZD1222の4週間間隔を空けた2回接種の有効性, 免疫原性, 安全性を評価する第3相・二重盲検化・プラセボコントロール臨床試験の解析結果を報告する。この臨床試験は、SARS-CoV-2暴露リスクが高い多様な集団と, COVID-19による合併症riskが高い集団を含めるように設計されている。

 

(2) Method

① Trial Design

 この臨床試験は現在進行中の第3相・二重盲検化・プラセボコントロール試験であり、米国, チリ, ペルーの88ヶ所で実施された。

 この臨床試験の目的は、健康状態が安定しており, 尚且つSARS-CoV-2感染リスクが高い18歳以上の参加者において、プラセボと比較したAZD1222の症候性COVID-19に対する有効性, 免疫原性, 安全性を評価することである。

 参加者はAZD1222接種もしくはプラセボ接種へ2:1の比率で割り振られた。ランダム化は更に年齢別に階層化された(18歳以上〜64歳 及び 65歳以上の2群に分類)。プラセボ 又は AZDワクチンを1回以上接種された全参加者を'safety analysis population(安全性解析集団)'と定義し, この集団では参加者を実際に接種された薬剤によって組み分けした。SARS-CoV-2が血清学的検査で陰性で, ワクチンないしプラセボを2回接種され, 2回目接種後15日以上臨床試験に残り, 尚且つ PCRで診断されたSARS-CoV-2感染の既往がない参加者は'fully vaccinated population(完全接種済集団)'に含まれた。

 参加者は毎週、COVID-19の症状の有無を調べるように通知された。COVID-19の症状が1つ以上ある参加者は診察と検査を受けた。全ての参加者は、症状の有無や重症度に関係なく、ワクチン有効性評価を目的とする抗SARS-CoV-2抗体検査の為の血清の採取を予定された。全ての参加者が、安全性に関するフォローアップと, 免疫反応の持続性を評価する為に、1回目接種後2年間この臨床試験に残る予定とされた。

 AZD1222の反応性・免疫原性を更に評価するsubstudyには、米国で各年齢層においてランダム化を受けた最初の参加者が含まれた。

② PICO

 1. Patients Selection:  上記のように、健康状態が安定し, 症候性・重症COVID-19高リスクを含めたSARS-CoV-2感染リスクが高い, 18歳以上の参加者が参加した。

 2. Intervention(AZDワクチン群):  AZD1222を4週間間隔で、1日目及び29日目の2回接種した。

 3. Comparison(プラセボ群):  プラセボである生理食塩水を、同上の間隔で2回接種した。

 4. Outcome

 安全性・反応性の評価には以下の指標を用いた。

  • 任意の(unsolicited)有害事象: ワクチンorプラセボの1回目ないし2回目接種から28日間に記録されたもの。
  • 重症有害事象: 同意書取得から730日間記録される予定である。
  • 医療が必要だった有害事象と, 注意を要する有害事象: 1回目接種の1日後から730日目まで記録される予定である。
  • 任意でない(solicited)局所性・全身性有害事象: 上記のsubstudy集団にて、ワクチンorプラセボの1回目ないし2回目接種から7日間の発症率を評価した。

 有効性の評価には、以下の指標を用いた。

  • Primary efficacy end point: baselineで血清学的にCOVID-19陰性だった参加者において、ワクチンorプラセボ2回目接種15日目以降に初めて発症した、症候性COVID-19
  • 主要なsecondary end point: 1) 2回目接種15日目以降の症候性COVID-19の発症baselineにおけるSARS-CoV-2感染既往の証拠の有無は問わない), 2) 重症ないし致死的なCOVID-19, 3) COVID-19による救急外来受診, 4) CDCの定義に則った症候性COVID-19, 5)治療後の血清学的反応(抗SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体検査)で評価したSARS-CoV-2感染症状の有無, ないし重症度は問わない

統計学的解析

 1次解析の締め切り日(cutoff date)は2021年3/5だった。治療割り付けが非盲検化された参加者, もしくは 緊急使用承認(emergency use authorization; EUA)へ登録されたコロナワクチンを接種された参加者 からのデータは、割り付けの非盲検化が成された期日, もしくは EUAへワクチンが登録された期日 のいずれかにおいて削除された(were censored)。他の参加者のデータについては、最後の連絡日に削除された。COVID-19と関連ありと判断された死亡例全例はprimary efficacy end-pointの事象に含まれた。COVID-19と関連なしと判断された死亡は併発した事象として扱われ, その為、死亡日において削除された。

 プラセボ群と比較したADZワクチン群の症候性感染の発症の相対的riskの推計には、Poisson回帰モデルという手法を道いた。ワクチン有効性は、1-相対的riskという公式により算出した。Primary efficacy end pointの成功基準は、ワクチン有効性50%以上を伴う統計学的有意性であった。

 

(3) Results

① 参加者について

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Figure 1

 2020年8/28~2021年1/15の間に、32,451名が参加登録基準に合致し, ランダム化を受けた(AZDワクチン群: 21,635名, プラセボ群: 10,816名(Fig. 1)。参加者のbaselineにおける人口学的・臨床的特徴は以下の通りであった。

  • 性別:  男性が55.6%と多数
  • 併存疾患が1個以上:  59.2%
  • 平均年齢(±標準偏差):  50.2±15.9歳
  • 人種:  白人: 79.0%, 黒人: 8.3%, アジア系: 4.4%, 米国・アラスカ先住民: 4.0%など

ワクチン群とプラセボ群間で、baselineの特徴は均衡だった。

② 安全性について

 合計11,972名(37.0%; AZDワクチン群では8,771名[40.6%], プラセボ群では3,201名[29.7%])が23,538件の有害事象を報告した。ワクチン群・プラセボ群いずれかで1回目ないし2回目接種後28日以内に発生した有害事象で最も多かった(5%≦)のは、

  • 疼痛全般ワクチン群: 8.2%, プラセボ群: 2.3%
  • 頭痛ワクチン群: 6.2%, プラセボ群: 4.6%
  • 注射部位の疼痛ワクチン群: 6.8%, プラセボ群: 2.0%
  • 倦怠感ワクチン: 5.1%, プラセボ群: 3.5%

 両群で発生した重症有害事象(1回目ないし2回目接種後28日以内に発生したもの)の割合は両群で類似していたAZDワクチン群では119件(101名[0.5%]で発症), プラセボ群では59件(53名[0.5%]で発症)だった。全研究期間で、死亡に繋がった有害事象はワクチン群で合計7件(7名で), プラセボ群で合計9件(7名で)発生した。COVID-19に関連した死亡はワクチン群で0であった一方、プラセボ群では2名だった。

 医療が必要だった有害事象と, 注意を要する有害事象(接種後28日以内に発生したもの)も、両群で同じ割合で発生した免疫が介在した可能性がある症状の発症率は両群間で一致(ワクチン群: 1.8% vs プラセボ群: 3.4%)し, 注意を要する有害事象についても同様だった:

  • 神経系の有害事象ワクチン群: 0.5%, プラセボ群: 0.4%
  • 血管系の有害事象ワクチン群: 0.1%, プラセボ群: <0.1%
  • 血液系の有害事象:  両群で<0.1%

特に、

の発症率は低く, 両群で類似していた。両群で血小板減少性血栓症, 脳静脈洞血栓症, もしくは 非典型的な静脈血栓症の症例は認められなかった。

③ 反応性について

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Figure 2

 AZDワクチンによる反応性を調べるsubstudy集団において、プラセボ群よりもAZDワクチン群で、任意でない局所性有害事象(ワクチン群: 74.1% vs プラセボ群: 24.4%), 及び 任意でない全身性有害事象(ワクチン群: 71.6% vs プラセボ群: 53.0%)が多かった(Fig. 2)。両群で、大半の任意でない有害事象が軽症ないし中等症であった(92.6%)。2つの年齢層集団において、1回目接種後よりも2回目接種後で有害事象の発生率が少なく, そしてこの差は18~64歳の参加者で顕著であった。

④ 有効性について

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Figure 3

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Figure 4

 症候性COVID-19は203件がprimary end pointの定義に合致し、完全接種済集団の1次解析に含まれた(AZDワクチン群: 17,662名, プラセボ群: 8,550名) (Fig. 1)。2回目接種からデータ締め切り期日までのフォローアップ期間中央値は、両群において61.0日だった。合計して、AZDワクチン群でprimary end pointの事象が73件(0.4%), プラセボ群で130件(1.5%)発生した(Fig. 3)Primary efficacy end pointに関して、全体的なワクチン有効性の推計値は74.0%(95%CI 65.3~80.5; P<0.001)であった。AZDワクチン2回目接種後の初回の症候性COVID-19(PCRSARS-CoV-2陽性となったもの)の累積発症率を考慮した結果(Fig. 4)は、AZDワクチンの2回目接種直後から効果が発現することを示している。

 2020年9/9、別のAZDワクチン臨床試験で横断性脊髄炎の発症が報告された為に、この臨床試験も中断された。データ検証後、食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA。米国の政府機関)は2020年10/23に中断を撤回し, 同年10/28にはこの臨床試験が再開された。安全性解析集団では合計775名(2.4%)がこの中断の影響を受け, 2回目接種を本来の28日間隔よりも遅れて接種された。2回目接種が遅れて接種された参加者のsubgroupにおけるワクチン有効性(78.1%; 95%CI 49.2~90.6)は、全体のそれと一致していた。

 一部のsubgroupにおいて症例数が不十分(ICUへ入った参加者由来のデータや, チリ・ペルーの参加者由来のデータ)な為に信頼性が低下したが、Figure 3はsubgroup別のワクチン有効性の推計を示している。症候性COVID-19に対するワクチン有効性の推計値は、18~64歳の参加者(72.8%; 95%CI 63.4~79.9)と65歳以上の参加者(83.5%; 95%CI 54.2~94.1)で高値であり, 人種・併存疾患・baselineの抗SARS-CoV-2抗体の有無・性別が異なる参加者の中で一致していた。SARS-CoV-2感染既往の有無を問わない症候性COVID-19に対する有効性の推計値は73.2%(95%CI 65.1~80.1; P<0.001)だった

 ワクチンは、他の主要なkey secondary efficacy end pointに対して有意に有効だった(Fig. 3)。完全接種済集団における重症・致死的COVID-19の症例数は、

  • AZDワクチン群: 17,662名中0名
  • プラセボ群: 8,550名中8名(<0.1%)

だった。CDCの基準に則ったCOVID-19予防に関するAZDワクチンの有効性(69.7%; 95%CI 60.7~76.6; P<0.001), 及び COVID-19による救急外来受診に対する有効性(94.8%; 95%CI 59.0~99.3; P=0.005)は高かったなお救急外来受診は、

  • AZDワクチン群: 1名(<0.1%)
  • プラセボ群: 9名(0.1%)

だった。COVID-19関連入院に対するワクチン有効性の推計値は94.2%(95%CI 53.3~99.3) (Fig. 3)

 2回目接種後15日以降にヌクレオカプシド抗体で評価したSARS-CoV-2感染(症状 or 重症度に関係なく、抗SARS-CoV-3ヌクレオカプシド抗体陽性となった参加者全員が対象)の予防に関しても、AZD1222は有効だった(64.3%; 95%CI 56.1~71.0; P<0.001)

 

(4) Discussion

 AZD1222ワクチンは、症候性COVID-19予防に関して有効性を示し, 安全であった。AZD2回接種(間隔は4週間)は、2回目接種15日以降において、症候性COVID-19の予防に関して74%の有効性を示した。

 CDCの定義に則ったCOVID-19(軽症例を含む)に対する有効性は70%だった。これに加えて、発症率が低かったものの、AZD1222ワクチンを接種された参加者では重症or致死的COVID-19の症例は無く, またプラセボと比べると、COVID-19による救急外来受診・入院・ICU入室は有意に少なかった。

 ワクチンの安全性に関する新たな警告は検出されなかった。また、任意でない有害事象は多くが軽症〜中等症であり, 1回目接種後よりも2回目接種後で発生件数が少なかった今回の知見で、神経系有害事象のriskの合計が増加したという証拠は示されなかった。

 今回の研究では、AZD1222を接種された参加者において、血栓症, ないし 血栓性血小板減少症の合計riskが増加したという証拠は示されなかったものの、血栓性血小板減少症は稀だった。規制当局は独自の安全性の評価を行い、AZD1222ワクチンは加齢に伴うCOVID-19に対する予防効果上昇や, SARS-CoV-2感染率に対する予防効果といったワクチン接種による利益が、ワクチンが与えうるriskを上回ると結論づけている。