Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

コロナワクチン同一種2回接種と1回目-2回目が別種ワクチンの臨床試験

 今日はたまたま興味深いコロナワクチン臨床試験の論文を見つけたので、紹介してみます。今回のネタは"Safety and immunogenicity of heterogous versus homologous prime-boost schedules with an adenoviral vectored and mRNA COVID-19 vaccine(Com-CoV): a single-blind, randomised, non-inferiority trial." (Liu X, Shaw RH. et al., Lancet; 2021年8/6発表, https://doi.org/10.1016//S0140-6736(21)01694-9 )です。

 なお今回読んだ論文は長文で、私にも難解な部分が多かったので所々省略したり, 意訳(≒テキトーな和訳)をしていますのでご了承下さい。

 

(1) Introduction

 1回目接種と2回目摂取で別種のワクチンを用いるスケジュールは、供給面の問題を緩和できる可能性がある。こうしたスケジュールは特に低所得・中所得国や, 'Vaxzervia'(ChAdOx1 nCoV-19ワクチンアストラゼネカ以下ChAdと呼ぶ)の接種可能年齢を制限している国で有用である可能性がある。

 別種ワクチン接種についてはこれまで次のような知見が存在する。

  • Ad26ベクターワクチンを接種後にAd5ベクターワクチンを接種するSputnik Vワクチンプログラムでは、症候性感染症(COVID-19)への有効性が91.6%であることが示されているが、別種を用いるスケジュールの有効性を示すデータは現在ない。
  • 別種のワクチンを用いるアプローチはpreclinicalの研究により支持されており、 スペインにおけるランダム化臨床試験では、ChAdワクチン接種後に'Cominarty'(BNT162b2ワクチンファイザー・ビオンテック製以下BNTと呼ぶ)を2回目として接種することで、結合抗体と結合能力が増加したことが示唆された。
  • ドイツの観察研究では、1回目BNT・2回目BNT接種(3週間の間隔)のコホートの液性免疫と, 1回目ChAd2回目BNT接種(10週間の間隔)のコホートのそれが類似しており, 1回目ChAd2回目BNT接種コホートにおける細胞性免疫がより高かった。
  • ChAdBNTを組み合わせるスケジュールは、同種2回接種スケジュールよりも反応性が高かった。

 (2) Method

① Study Design

 Com-COVは、別種のコロナワクチンを接種するスケジュールの安全性, 反応性, 免疫原性を検証する参加者盲検化・ランダム化・第2相他施設参加型非劣性試験であり、英国で実施された。

 異なる接種間隔(1回目〜2回目の間隔が28日, 並びに 84日), 及び BNTとChAdの2種のワクチンを用いるスケジュールの順列4つを比較した。大半の参加者は、接種間隔が28日ないし84日のいずれかに予定されている4つのスケジュールへランダムに割り振られる"general cohort"に登録された。100名のsubsetは28日間隔のスケジュールのみを適用し, 免疫反応を検査する為の血液検査を追加で行う"immunology cohort"登録された。今回は、接種間隔が28日間のスケジュールにランダムに割り振られた全参加者のデータについて報告する。

② PICO

 1. Participants:  50歳以上で、軽症〜中等症の併存疾患が無い or 安定している人が参加登録した。

 主な参加登録除外基準は、

  • SARS-CoV-2感染既往歴あり
  • アナフィラキシー既往あり
  • ワクチン成分へのアレルギー歴あり
  • 妊婦, 授乳中, または 妊娠計画あり
  • 抗凝固薬内服中  

である。

 2. Intervention & Comparison:  参加者は、

  • Immunology cohort内では1:1:1:1の比(4個のブロック)で、1回目/2回目接種がChAd/ChAd, ChAd/BNT, BNT/BNT, BNT/ChAdスケジュールへ割り振られた(接種間隔28日間)。
  • General cohort参加者はChAd/ChAd, ChAd/BNT, BNT/BNT, BNT/ChAdへ, 接種間隔が28日間と84日間の両方へ、1:1:1:1:1:1:1:1の比で(8個のブロックで)割り振られた。

 3. Outcome:  次のような項目で免疫原性や安全性を評価した。

1) Primary outcome; baselineでSARS-CoV-2感染が血清学的に陰性, かつ 接種間隔が28日間の参加者における、2回目接種後28日目の血清中のSARS-CoV-2スパイクIgG濃度

2) Secondary outcome; 以下の項目で評価した。

  • 反応性: 接種後7日間における非任意の全身性及び局所性事象
  • 安全性: 接種後28日間における任意の有害事象, 接種後3ヶ月間における医療が必要だった有害事象, 臨床試験期間中に収集された注意を要する有害事象及び重篤な有害事象

3) Immunological secondary outcome; 0日・28日・56日目における

  • SARS-CoV-2スパイク結合性IgG濃度
  • 末梢血中の細胞性免疫(IFNγ  ELISpotで測定)
  • 疑似ウイルス中和力価

 血清サンプルはELISA法でSARS-CoV-2スパイクIgG濃度を計測し、SARS-CoV-2疑似型ウイルス中和アッセイ(pseudotype virus neutralisation assay; PNA)で50%中和抗体力価(50% neutralising antibody titre; NT50)を計測した。第0日目の血清は、電子化学蛍光免疫アッセイで抗SARS-CoV-2 nucleocapsid IgGを測定した。また1回目接種がChAdだった集団のみで、第0日目及び56日目の検体に対して、microneutralisation assay(MNA)で生SARS-CoV-2の正常化NT50測定を行なった。静脈採血から32時間以内に、修正型T-SPOT-Discovery testを用いて、スパイクタンパク質epitope全体に対して特異的なT細胞のIFN-γ screeningを検出した。T細胞の頻度はspot forming cells(SFC) (25万個の末梢血中単核球[peripheral blood mononuclear cell; PBMC]中1個が検出下限。T細胞頻度の結果は「100万個中X個」で現す)にて報告された

 

(3) Results

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Figure 1

 2021年2/11~2/26の間にイングランド各地の参加施設8箇所で975名の参加者がscreeningを受け、830名が参加登録されてランダム化された。28日間隔で2回接種を受けた4グループへランダムに割り振られた463名(うち100名はimmunology cohortへ参加登録)を今回報告する。ちなみに平均年齢は57.8歳, 性別は女性212名(46%)であったGeneral cohortとimmunology cohortの4グループ間でbaselineの特徴は均衡だった。432名がmodified intention-to-treat解析, 426名がper-protcol解析に含まれた(Figure 1)

 1回目接種がChAdだった参加者では、

  • 2回目接種28日後の抗SARS-CoV-2スパイクIgGの幾何平均濃度:  1回目も2回目もChAd; 1,392 ELISA laboratory units[ELU]/mL(95%CI 1,188~1,630) vs 1回目ChAd2回目BNT; 12,906 ELU/mL(95%CI 11,404~14,604)
  • 1回目・2回目接種が同じグループと1回目・2回目が違うグループの幾何平均比(geometric mean ratio; GMR) :  9.2(one-sided 97.5%CI 7.5~∞) (per-protcol解析)

GMRの97.5%CIの下限値が0.63より大きかったので、1回目・2回目ともにChAdと比較した1回目ChAd2回目BNTの非劣性が示された。Modified intention-to-treat解析でも似たようなSARS-CoV-2抗原IgG濃度が見られ、GMRは9.3(2-sided 95%CI 7.7~11.4)だった。同じくmodified intention-to-treat解析で、

  • 1回目・2回目ともにChAdのグループと, 1回目ChAd2回目BNTのグループ間のMNA NT50のGMRは6.4(2-sided 95%CI 5.2~7.8)
  • 1回目・2回目ともにChAdのグループと, 1回目ChAd2回目BNTのグループ間のPNA NT50のGMRは8.5(2-sided 95%CI 6.5~11.0)

だった。T細胞 ELISpotで検査した細胞性免疫は、1回目・2回目ともにChAdよりも1回目ChAd2回目BNTで大きく、GMRは3.9だった(2-sided 95%CI 2.9~5.3)。これらの結果は、1回目・2回目ともにChAdよりも1回目ChAd2回目BNT統計学的に優位であることを示している。

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Figure 2

 1回目接種がBNTだった参加者において、

  • 2回目接種後28日目の抗SARS-CoV-2スパイクIgG幾何平均濃度:  1回目・2回目ともにBNT; 14,080 ELU/mL(95%CI 12,491~15,871) vs 1回目BNT2回目ChAd; 7,133 ELU/mL(95%CI 6,415~7,932)
  • Per-protcol解析におけるGMR:  0.51(one-sided 97.5%CI 0.43~∞)

1回目・2回目ともにBNTと比較して、1回目BNT2回目ChAdは非劣性を示せなかった。これに加え、modified intention-to-treat解析では1回目・2回目BNTと比べると、1回目BNT2回目ChAdSARS-CoV-2スパイクIgG(GMR 0.51, 95%CI 0.44~0.60)PNA NT50(GMR 0.67, 95%CI 0.51~0.88)統計学的に劣性だった。T細胞ELSpotで計測したSFCの幾何平均は、1回目・2回目ともにBNTよりも1回目BNT2回目ChAdで高値だったが、この差は統計学的有意ではなかった(GMR 1.2, 2-sided 95%CI 0.87~1.7)。

  SARS-CoV-2スパイクIgGPNA NT50は、

  • 1回目・2回目ともにChAdを接種したグループよりも1回目ChAd2回目BNTを接種したグループで高値
  • 1回目BNT2回目ChAdを接種したグループよりも1回目・2回目ともにBNTを接種したグループで高値

であり、あらゆるsubgroup解析で類似したGMRのパターンが見られた(Figure 2) 

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Figure 4

 Immunonogy cohortの全4スケジュールで、1回目接種後7日目には反応が乏しかったにもかかわらず、28〜35日目(2回目接種後7日目)に抗SARS-CoV-2スパイクIgG増加が見られたことから、2回接種(1回目と2回目が同種・1回目と2回目が別種のいずれも)が免疫を誘導したことが示唆された。(Figure 4)2回目接種28日後には抗SARS-CoV-2スパイクIgG上昇が見られなくなっており、2回目接種後の反応のピークは28日目より早期に起こる可能性が示唆された。1回目・2回目ともにChAdを除く全てのスケジュールで、T細胞反応のピークは2回目接種14日後に見られた。

 1回目接種後14日目における抗SARS-CoV-2スパイクIgG幾何平均濃度は、

  • 1回目接種がChAdだった参加者で129 ELU/mL(95%CI 83~200)
  • 1回目接種がBNTだった参加者で843 ELU/mL(95%CI 658~1,081)
  • p<0.0001

であり, 1回目接種後28日目における抗SARS-CoV-2スパイクIgG幾何平均濃度は、

  • 1回目接種がChAdだった参加者で555 ELU/mL(95%CI 469~657)
  • 1回目接種がBNTだった参加者で1,597 ELU/mL(95%CI 1,407~1,812)
  • p<0.0001

だった。

 これとは対照的に、BNT1回目接種後と比較して、ChAd1回目接種後14日目(p<0.0001)と28日目(p<0.0001)には有意に高い細胞性免疫が誘導されていた。

  • 1回目接種14日後のT細胞頻度の幾何平均:  1回目ChAd; 159 SFC/PBMC100万個(95%CI 119~211) vs 1回目BNT; 32 SFC/PBMC100万個(95%CI 22~47)
  • 1回目接種28日後の     〃    :  1回目ChAd; 53 SFC/PBMC100万個(95%CI 44~63) vs 1回目BNT; 15 SFC/PBMC100万個(95%CI 13~18)

 1回目と2回目が同種ワクチンだったスケジュールと比較すると、1回目・2回目が別種のワクチンだったスケジュールでは2回目接種後の全身性反応が増加した接種間隔が28日間のグループへランダムに割り振られた参加者において、2回目接種28日後までに178名で316件の有害事象が認められた。接種スケジュール間で、1個以上の有害事象を来した参加者の割合に有意差はなかった

 2021年6/6までに、全参加者において7件の注意を要する有害事象が認められ、うち4件はCOVID-19だった。COVID-19以外の注意を要する有害事象の中でワクチンに関連していると思われるものは無かったデータロックまでに、全グループ内で4件の重篤な有害事象があったが、どれもワクチンに関連しているとは考えられなかった

 

(4) Discussion

 4つのワクチン接種スケジュールは、ChAdワクチン2回接種スケジュールと同等以上の抗SARS-CoV-2スパイクIgG濃度を誘導した。BNTワクチンを含む接種スケジュールは、1回目・2回目ともにChAdワクチンのスケジュールよりも免疫原性が高く, 1回目・2回目がBNTワクチンのスケジュールよりも高度な結合性抗体 or 疑似型ウイルス中和抗体を発生させた異種ワクチン接種スケジュールは無かった。BNTワクチンを含む接種スケジュールにおける細胞性免疫は全て同様に、1回目・2回目がChAdワクチンのスケジュール以上であった(1回目BNT・2回目ChAdワクチンで最も多くのワクチン抗原に反応性を有するT細胞が、2回目接種28日後の末梢血中で認められた)。

 ChAdワクチンを4週間間隔で接種することで、症候性COVID-19には76%の有効性・重症COVID-19には100%の有効性があることが第3相ランダム化臨床試験で判明している。この接種間隔を8~12週間開けることで、免疫原性が上がることが知られている。液性免疫とワクチン有効性の関連性は確立されているので、今回の知見は、この臨床試験における別の2種類のワクチン接種スケジュールも極めて有効であることを示しており, 特定の状況では国家レベルのワクチンプログラムも考慮可能である。

 T細胞ELISpotの数値がワクチン接種スケジュール間で類似しているという知見も合わせて考えると、今回の免疫学的データは1回目ChAd・2回目BNT及び1回目BNT・2回目ChAdが受容可能なスケジュールの選択肢であることを保証するものである。