Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

コロナワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種

 こんばんは。現役救急医です。今日はお題にあるように、コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種の安全性等を評価した臨床試験の論文を見つけたので、紹介してみます(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02329-1 )。

 

(1) Introduction

 現在国際的なガイドラインでは、コロナワクチン接種とインフルエンザワクチン接種の期日は14日間隔を空けるよう推奨されている。コロナワクチン・インフルワクチン同時接種が安全かどうか, そして 同時接種が反応性率("reactogenicity rate")を上昇させるかどうか検証する必要がある。

 そこで、コロナワクチンと不活化インフルワクチンの同時接種の安全性と免疫反応性を評価することにした。

 

(2) Method

① Study Design

 この臨床試験は'ComFluCOV'と命名され、多施設参加型のランダム化コントロールの第4相臨床試験である。英国内の12施設で実施された。ComFluCOVは、コロナワクチン(アストラゼネカ社製とファイザー製。詳細は後述)の2回目接種と, インフルワクチン(3個の製品。詳細は後述)の同時接種を評価するように設計されている。被験者は6つのコホートのうちどれか1つへ割り振られる形となった。

 臨床試験開始後、protcolに2度の修正が加えられた。まず、被験者の登録開始後にインフルワクチンが1種類追加された。サンプルサイズは504から756へ拡大され, コホートの個数は4個から6個に増加した。また2021年4/9には、アストラゼネカ製ワクチンを接種された30歳以上の被験者の登録が中止された(同年4/14に再開)。ComFluCOV参加除外基準に、血栓症リスクのある参加者が加えられた。

 0日目において被験者は、コロナワクチン2回目接種と同時にインフルワクチンを接種される群と, プラセボを接種される群へ1:1の比でランダムに割り振られた。

 被験者・有害事象の危険性を評価する医療従事者・実験室のスタッフは治療の割り振りを知らなかった。

② PICO

1. Participant(参加者)について

 被験者はSNS等を通じて、ボランティアを募集する形で採用した。

  • 18歳以上
  • その前の56~90日にアストラゼネカ製コロナワクチン1回目, もしくは その前の28~90日にファイザー製ワクチン1回目を接種されている

という基準を満たすボランティアが参加登録可能であった。一方、以下のいずれかに該当したボランティアは除外された。

  • ComFluCOV参加30日前に、別種のワクチンを接種された
  • その前の3ヶ月間に免疫グロブリン製剤or血液製剤を投与された
  • ComFluCOVで用いるワクチンの成分へのアレルギー・過敏症の既往あり
  • 凝固障害or抗凝固薬使用中
  • アルコール依存症(疑い例含む)
  • 進行性の神経障害

2. Intervention:  コロナワクチン2回目接種とインフルワクチンを接種される集団(以下、『介入群』と呼ぶ)

 介入群ではまず0日目にコロナワクチン2回目接種とインフルワクチンを同時に接種された。それから21日後に介入群はプラセボを接種された。

 なおインフルワクチンは年齢により異なる製品が使用された。

  • 65歳以上:  'FluAd'と呼ばれる3価の表面抗原不活化ワクチン。MF59Cというアジュバントも含む。
  • 65歳未満:  4価ワクチンの'Flucelvax'(細胞培養により製造された表面抗原不活化ワクチン), ないし 'Flublok'(組換え型)のいずれか。

インフルワクチンはWHOの北半球に対する推奨に則って、2020~21年シーズン由来で, A系統(H1N1とH3N2)及びB系統(YamagataとVictoria)を含んでいた。

 ちなみに英国で使用されているコロナワクチンは以下の2種だった。

3. Comparison:  コロナワクチン2回目接種時にプラセボを接種される群(以下、『対照群』と呼ぶ)

 対照群はまず0日目にコロナワクチン2回目とプラセボを同時に接種されたそして21日後にインフルワクチンを接種された。

4. Outcome:  Primaryとsecondaryの2つに分けて転帰を評価した。

 1) Primary outcome:  0日目から7日後の間に発生し, 報告が求められている("solicited")全身性反応。具体的には、BT>38℃の発熱, 寒気, 関節痛, 頭痛, 倦怠感, 吐き気, 嘔吐, 下痢などの症状。

 2) Secondary outcome:  以下のような項目を評価した。

  • 0日目から7日後と21日後に発生し, 報告が求められている局所性反応。疼痛, 腫脹, 掻痒感などの症状。
  • 21日目の接種から7日後に発生した, 報告が求められている全身性反応。
  • 全期間における任意の有害事象
  • 0日目及び21日目に採取した血清中の抗SARS-CoV-2免疫グロブリン濃度
  • 0日目及び21日目, 42日目に採取した血清における、インフルワクチンに使用したウイルス4系統に対するhaemagglutinin抗体抑制

統計学的解析

 サンプルサイズは1コホート当たり126名に設定され, これによってコロナワクチンのみ接種に対するコロナワクチン・インフルワクチン同時接種の非劣性の評価の為に80%の力が与えられ, primary outcomeの頻度は50%・非劣勢の境界は25%と仮定された。

 

(3) Result

 2021年4/1~6/26の間に679名が参加登録・ランダム化された(Figure 1)

  • 介入群(0日目にインフルワクチン・コロナワクチンを接種, 21日目にプラセボ接種):  340名
  • 対照群(0日目にコロナワクチン・プラセボを接種, 21日目にインフルワクチン接種):  339名

ファイザー製コロナワクチンFluAdの組み合わせ, ファイザーFlublockの組み合わせの2コホートでは、計画よりも被験者が少なかった(集まらなかった)

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Figure 1: 患者のランダム化

 各コホートでランダムに割り振られた2群の間で、baselineの特徴は等しかった。58%(397/679名)の被験者が女性であり, 92%(627/679名)が英国白人だった。

 679名の被験者中、651名(96%)の被験者でprimary outcomeが判明した。0日目〜7日後に発生した全身性反応は、

  • 介入群:  330名中254名(77%)
  • 対照群:  321名中239名(75%)

であり、疲労感が最も多く報告された。以下の4コホートにおける0日目から7日後までの全身性有害反応を考慮すると、コロナワクチンのみ接種に対してコロナワクチン・インフルワクチン同時接種は非劣性であることが明らかとなった。

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFlucelvax:  インフルワクチン−プラセボのリスク差: -1.29%, 95%CI -14.7~12.1
  • ファイザー製コロナワクチンFlucelvax:  リスク差: 6.17%, 95%CI: -6.27~18.6
  • ファイザー製コロナワクチンFluAd:  リスク差: -12.9%, 95%CI: -34.2~8.37
  • アストラゼネカ製コロナワクチンFlublck:  リスク差: 2.53%, 95%CI: -13.3~18.3

他の2コホート(下記)では95%CIの上限が非劣性境界である0.25を超えていた(Figure 2)

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFluAd:  リスク差: 10.3%, 95%CI: -5.44~26.0
  • ファイザー製コロナワクチンFlublock:  リスク差: 6.75%, 95%CI: -11.8~25.3

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Figure 2: 7日目において全身性反応を報告した参加者

コホートにおいて、全身性反応は多くの場合軽症ないし中等症だった。重症("severe")有害反応を1個以上報告したのは、

  • 介入群:  全身性反応を1個以上報告した被験者254名中14名(5%)
  • 対照群:  全身性反応を1個以上報告した被験者239名中6名(3%)

だった。重症の全身性反応の発生は、

  • アストラゼネカ製コロナワクチンFluAdコホート0日目にFluAdを接種された(=介入群)2名で発症した4件(熱感・悪寒・発汗, 寒気, 頭痛, 倦怠感)
  • ファイザー製コロナワクチンFlublockコホート0日目にプラセボを接種された(=対照群)2名疲労感と倦怠感), 0日目にFlublockを接種された(=介入群)1名(倦怠感)で発症した3件

であった。

 0日目のワクチン接種後に局所性有害反応を1個以上報告したのは665名中555名(83%)だった。

  • 介入群:  331名中282名(85%)
  • 対照群:  334名中273名(82%)

コホート全体で最も多く報告された局所性有害反応は注射部位の疼痛だった。大半の反応は軽度ないし中等症だった。21日目にプラセボを接種された被験者(介入群)と比較すると、21日目にインフルワクチンを接種された被験者(対照群)で局所性有害反応を報告した人の割合が有意に高かったものの、重症の局所性反応は報告がなかった。

 0日目以降の任意の有害事象は、

  • 介入群:  173件(112名)
  • 対照群:  155件(99名)

だった。21日目以後で報告された任意の有害事象は、

  • 介入群:  66件(49名)
  • 対照群:  84件(57名)

であった。0日目以後と21日目以後では、医療を必要とした有害事象の発症率は両群間で同等であった。

 重篤な("serious")有害事象は7名が報告しており、うち1名ではワクチンが関係していると判断された。その患者には偏頭痛の診断が下されている。

 

 2種のコロナワクチンいずれかを接種後21日目に計測した抗スパイク免疫グロブリン幾何平均単位は、全てのコホートにおいて, 介入群と対照群の間で同等だった(Figure 3)

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Figure 3: 抗スパイク免疫グロブリン幾何平均力価の比

 FlucelvaxFluAdコホート, 或いは アストラゼネカ製コロナワクチンFlublockを接種されたコホートにおいて、インフルワクチンのみ接種後21日後と比較すると、インフルワクチン・コロナワクチン接種後21日後のhaemagglutinin抗体抑制幾何平均比は有意差を認めなかった(どのインフルエンザウイルス系統に対してもそうであった)(Figure 4)ファイザー製コロナワクチンFlublockコホートでは、Flublockのみ接種した時と比較すると、Flublockファイザー製ワクチン同時接種ではH1N1(A系統)・B系統への幾何平均力価が高値だったものの、H3N2(A系統)の幾何平均力価は同等だった。

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Figure 4: インフルエンザに対するhaemagglutination抑制の幾何平均比

 

(4) Discussion

 今回の知見は、コロナワクチンとインフルワクチンの異なる組み合わせの同時接種が安全面で懸念が無いこと, 反応性も許容範囲内であること, 結合抗体反応も維持されていることを証明している。2つのコホートで全身性イベント発症率が25%を超えたものの、全身性反応のprofileは許容範囲内であると考えられる。アストラゼネカ製コロナワクチンFluAdコホートでは95%CIの上限が25%をわずかに超えており, 多くの反応は軽症ないし中等症だった。ファイザー製コロナワクチンFlublockコホートは計画よりも少人数だった; その為、結論は導けない。

 ファイザー製・アストラゼネカ製コロナワクチンの抗スパイク免疫グロブリン反応は、インフルワクチン全3種との組み合わせにて維持されていた。ワクチンの組み合わせ6組において、幾何平均比は0.8~1.13だった。WHOが新規のワクチンに関して「従来のものに非劣勢である」と承認する基準値は0.67であり、これら6コホートの幾何平均比はこの値を上回っているファイザー製コロナワクチン・Flublockコホートを除くと、全てのインフルワクチンへの液性免疫反応は各コホートにおいて同等であった。

 ComFluCOVは、アデノウイルスベクターないしmRNAコロナワクチンと, 別種のワクチンの同時接種を検証した初のデータである。NVX-CoV2373ワクチン(蛋白質サブユニットコロナワクチン)の第3相臨床試験のsubstudyでは、18~64歳の被験者に対してNVXワクチン1回目接種とインフルワクチンの同時接種が行われた。NVXワクチンのみの集団とNVXワクチン・インフルワクチン同時接種集団の間では、反応性に有意差が見られなかった。対照的に、両群間でELISA法の単位の幾何平均では両群間で有意差が見られた(幾何平均比0.57[95%CI 0.47~0.70]でWHOの基準を下回る)。重要なことに、同時接種の有効性に関しては差が見られなかった。この知見とComFluCOVの違いは、インフルワクチンがコロナワクチン接種1回目と同時だったことである。こうした知見は、同時接種が最初の免疫反応に作用すると思われるものの、その後の免疫反応には作用しないことを示唆しており, インフルワクチンはコロナワクチン2回目ないしそれ以降の接種で一緒に投与することが妥当である可能性を示している。